【我々は罠にかかった③(We caught in a trap)】
「どうします?ナトー中尉」
来た道を急いで引き返している時にニールに聞かれた。
「先に返っていてくれ、私は少し寄り道をして帰る」
ニールたちと別れビルの階段を登り屋上を目指すと、屋上の手前の踊り場に銃を持った2人組が煙草を吸いながら窓の外を見ていた。
私の姿を発見すると、2人とも慌てて自動小銃を構えようとした。
1人は旧ドイツ空軍のラインメタル FG-42 TYPE1。
もう1人は、グリップと引き金より後方に弾倉や機関部を配置するプルバック式のロシア製アサルトライフルKBP A-91。
私は相手が構え終わる前に、迷わずラインメタル KBP A-91の射手に向けて銃弾を放った。
“パスッ”
“パスッ”
サプレッサーを付けたワルサーP22の発射音の後に続き、もう1人の相手が持つラインメタル FG-42からも発射音が聞こえ、放たれた弾が私の胸に当たる。
「うっ……」
唸り声の後、銃を床に落とす音と倒れる音が踊り場に響く。
「残念ながら、僕の勝ちだね」
ラインメタル FG-42を持った男が、得意そうに撃たれた私を見て言う。
「さあ、ビリー。彼をホワイトベースにお連れしてあげて」
私に撃たれて倒れた仲間に声を掛けるが、ビリーと呼ばれたその男は返事を返さない。
「ビリー?どうしたの??」
「彼は気絶している」
「どうして?」
「こういう事だ」
私が彼の着ている防弾ベストを引っ張ると、ベストの中心に減り込んだ22LR弾が床に零れ落ちた。
「実弾!??」
「そう。彼の持っている銃もエアガンではなく、本物だ」
落ちているKBP A-91を拾い上げ、弾倉を外しチャンバー(薬室)内に入った5.56x45mm NATO弾を抜く。
「彼の銃も本物!??でも何故?」
「彼は一般人のビリーじゃなく、リトル・グリーンメン。君たちは彼らの作戦に利用されている」
「利用って、何のために?」
「私たちとの戦いで、君たちを撃たせるためだ」
「つまり僕たちは、エサか囮と言う訳ですか?」
「そう。君たちの着ている服は統一されているのか?」
「いいえ。迷彩服の者もいれば警官の服を着ている者もいます」
「君の名は?」
「リュボです」
「屋上には誰が居る?」
「ムィロが居ます」
「リュボ、協力してくれるか?」
「はい」
気絶しているビリーの装備をすべて外し、逃げられない様に屋上の貯水タンクの柱に腕を通して手錠を掛けた。
リュボとムィロをコミュニティー センター屋上に連れて上がり、装備を借りる事にした。
本来なら2人を安全な場所に避難させればいいのだが、何らかの手段を使って仲間に通報されては困る。
当然彼らとしては仲間を想っての行為なのだが、囮に使うはずの一般人が利用されていることに気付いたと分かると、敵が危害を加えないとも限らないから目の届く所に置いた。
「どうします?」
「こりゃあ厄介なことになりましたな……」
カービ軍曹のあと、コヴァレンコ警部が腕組みをしながら顎を触り、いかにも困った表情を浮かべた。
もう直ぐ、一般のサバイバルゲームの一員に混じったリトル・グリーンメンが攻めて来る。
戦闘服を着た者も警官の服を着た者も居るのでは、警官による抑止力も期待できない。
しかしリュボとリュボとムィロに出合えた事は大きい。
なにしろリュボはスラブ語で“愛”、ムィロは“平和”を意味する。




