【我々は罠にかかった①(We caught in a trap)】
敵はリトル・グリーンメン。
そのほかの者たちは、あのドラグノフ狙撃銃のモデルガンを持った青年同様に、私たちを罠に陥れるために利用されているに過ぎない。
問題は、そのすみ分け。
利用されている者だと思って手加減して向かった相手が、実は利用している側のリトル・グリーンメンであれば私たちは簡単にやられてしまう。
逆にリトル・グリーンメンだと思って本気で戦った相手が、利用されている一般市民の場合は過剰な攻撃をすることになる。
いくら再編成中の3班と言えど、LéMATと言う特殊部隊に抜擢された兵士。
一般人が、まともに戦って敵う相手ではないし、そうなった場合大きな怪我を負わせることになりかねない。
コヴァレンコ警部が部下たちを連れてやって来たので、作戦を伝える。
作戦本部はこの屋上に置き、ここからドローンの発信源を現場に伝える。
現場の部隊は5つの班に分かれ、我々の隊員2名に対して、確保した犯人を保護するために警官が4名同行する。
作戦本部にはドローン発信源探査としてトーニ兵長と、対狙撃兵対応にカール上等兵ともう1人見張りに付けて、コヴァレンコ警部たちと連携を取るために残した。
私はニール1等兵と警官4人を連れて、発信源つぶしに向かった。
ビルの傍まで来ると、さっそくドローンのお出迎えだ。
距離は約30ⅿ。
攻撃型か偵察型か、それとも事件とは無関係の物なのかは、この距離では判別できない。
私は直ぐにベルトに装着していたニール考案の対ドローン対策用新兵器を取り出す。
新兵器と言っても、新しく作ったものではなく汎用品の釣り道具。
竿を伸ばしてサイドハンドスローでワイヤーの先に着いたルアーを飛ばすと上手い具合にルアーがドローンのプロペラの支柱に引っ掛かり、リールを巻き上げてワイヤーのたるみを取り、竿を一気に横に振るとドローンは竿に動きに引っ張られるようにバランスを崩して地面に落ちた。
「凄い!一発KOですね」
「練習していたからな」
釣りなんてしたことがなかったから、こういった道具すら知らなかった。
だからネットを見て、実際に使ってみて、練習を繰り返していたので上手く絡めて堕とせたことが嬉しかったが顔には出さない。
屹度、エマやユリアをはじめとする女の子だったら、素直に感情を表に出して喜んだのだろう。
それが出来ないのが、ほんの少し悔しく思った。
堕とされたドローンは4つのプロペラのうち2つが壊れて地面をバタバタともがいていて、まるで羽を怪我した蝶か蛾のようで、機械だとは分かっているが妙に可哀そうに思えた。
しかし、双眼鏡でよく見ると、その腹にはドス黒い手りゅう弾を抱いている。
腰に付けたワルサーP-22にサプレッサーを装着して、中心部を撃つと回転していた2枚のプロペラの動きが止まった。
ドローンは軽くすることとバランスを取りやすくする様に設計されていて、中心部にパワーユニットやマイクロコンピューター、テレメトリモジュールと言った基幹部が集中しているから簡単に制御不能にすることが出来る。
いくらジャマ―を身に着けていて近付くと制御不能にできるとは言え、それで安全という訳ではない。
誤動作やジャマ―自体が有効でない場合も想定しておかなければならない。
だから、撃ち落したドローンに止めを刺した。
動きのとまったドローンに、1人で近づいて行く。
「他の物は建物の陰に隠れていろ」
「た、隊長、危険です」
「街中に、手りゅう弾の付いた玩具を放置しておくわけにはいかないだろう」
幸い手りゅう弾はプラスチック爆弾などの様に電極で爆発する物ではなく、ピンを抜くことにより信管に点火したあと3~5秒ほどの延期時間を経て爆発する。
今現在、手りゅう弾からピンは抜けてはいない。
もし近付いている最中に、何らかの拍子でピンが抜けたとしても、逃げる時間は充分ある。
ただ万が一の時のために防護用のゴーグルは付けておいた。




