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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****サン・シール陸軍士官学校(Saint-Cyr Military Academy)*****
10/301

【統合参謀本部から来たスカウトとルームメイト③(Scouts and roommates from the Joint Chiefs of Staff)】

 その晩は、夜遅くまで話をした。

 両親が私を生んで直ぐにテロリストの爆破テロにって亡くなったことや、赤ん坊だった私をイラクに住むヤザとハイファが拾って育ててくれたこと。

 優しい家族に包まれていたのに私が5歳の時に、そのハイファが多国籍軍の空爆で死に、その復讐のためヤザが幼い私を連れて、テロ組織であるザリバンに入ったこと。

 私がそこで銃の扱いを覚えたことや、大怪我をした時に赤十字難民キャンプに拾われて、そこに努める医師たちに生まれて初めて“勉強”を教えてもらったこと。

 そして、18歳の時にフランス外人部隊に入ったこと。

 嘘は言わなかったが、ひとつだけ事実を隠した。

 それは私がグリムリーパー(死神)と呼ばれたザリバンの狙撃手だったこと。

 なぜ隠したのか、この時は自分でも分からなかった。

 外人部隊で過ごした2年間についても、一般的に公表されている内容だけは伝えたが、特殊部隊LéMATの隊員であることは一般には公表できないので歩兵とだけ伝えた。

 そして学校には通いたいけれど、戦場で生死を共にして戦ってきた仲間たちと離れたくないことも。

 4年という期間は決して長いとは言えないが、その間にも世界情勢は刻一刻と変わる。

 イザック准将がいう通りEMATで何かが出来るかも知れないが、それはもっともっと先の事で私がイザック准将と同じクラスに出世しないと何もできやしない。

「ゴメンなさい。私たちは戦場に出たことがないから、勝手なことばかり言って」

「いや、いいんだ。それが普通にあるべき姿なのだから」

「でも分かる気がするわ。戦争に行かなくても、軍隊に居る限り“いつか戦場に出る”と思うと、誰だって大切な仲間を守りたいって思うもの」

「私たちみたいに、うんざりするほど学校に通って、早く社会に出たいって思うくらいナトーは学校に通っていないのだから友達を想いながらも揺れ動く気持ち、なんとなくわかる気がする」

「あら、ステラは学校に、うんざりしていたの?」

「いいや、そんななことはないよ。一般的な話」

「じゃあさ、残りの3ヶ月で3年分学生生活を楽しんじゃえば良いじゃない!」

「そんなの無理でしょ。だいいちナトーの勉強に支障が出るわよ」

「それを出ないようにするの」

「どうやって??」

「だいいちナトーが今やっていることは、前にステラが言った通り、この先私たちも覚えなくてはいけないことでしょ。しかもナトーは既にそのテキストを持っている」

「わかった!私たちもついでに習っちゃうのね」

「そう。ナトー一人だと、重複する講義は受けられないけど、私たちは3人いるから、手分けして講義を受ける」

「そして分からない所も調べるのね!」

「その通り!」

「まるで勉強会ね!楽しそう!」

「そして余った時間を作って、遊ぶの」

「やったー!!」

 メリッサの提案にカーラとステラが大喜び。

「ねっ、いいでしょナトー!!!」

「あっ、ああ。でも、それだと君たちの時間は?」

「私たちの時間は何も変わらないわ。だって数年後に習う内容を予習するだけなんだもの」

 そうと決まればメリッサたちの行動は早い。

 早速私の勉強スケジュールと、自分たちのスケジュールを合わせ込み、新たなスケジュールの組み直し作業に入った。

 資料を調べても分からない所は、彼女たちも一緒に考えて知恵を出してくれた。

 予習するからと言って、教授に教えてもらってきたこともあるし、先輩に聞きに行ってくれたり、詳しい先輩が直々に教えに来てくれたりもした。

 おかげで勉強は思いのほかはかどった。

 余った時間を作って、俺も彼女たちと有意義に過ごそうと思った。

 友達だから。

 暇な時間を作って、メリッサに美味しいクッキーの焼き方を教えてもらい、一緒に焼いた。

 カーラに楽器の演奏の仕方を教えてもらい、一緒に演奏もした。

 ステラに絵の描き方を教えてもらい、俺も一緒に絵を描いた。

 休日は朝早く起きて勉強を済ませると、4人で映画を見に行ったり、遊園地に行ったり、美味しいスウィーツの店までドライブしたりして一緒に遊んだ。

 学生。

 そう。

 これこそが学生。

 勉強だけじゃない。

 遊ぶことも立派な社会勉強なのだ。

 今まで、学校に行ったことのなかった俺が知らなかった世界。

 独りで我武者羅に覚えていたことを、誰かと一緒に覚える喜び。

 活気に満ちた日々。

 確かに子供の時にサオリ達赤十字難民キャンプの医師たちに拾われて、勉強を教えてもらったが、子供は私一人だった。

 同年代の女の子と関わったのも、この前のコロンビアの任務の時に会ったマルタが初めてで、どう接したらいいのか正直戸惑っていた。

“普通に接すればいい”

 と言う事は分っていたが、その普通が私には分からなかった。

 無理もない。

 私は生まれて直ぐに両親を亡くし、イラクに住むヤザとハイファの夫婦に拾われて育てられた。

 義母のハイファは優しかったが、そのハイファも戦争で俺が5歳の時に死に、ヤザは復讐のため俺を連れたまま民兵組織に入り、そこからは少年兵として働いていた。

 普通に過ごせなかったから、普通に過ごす事なんて出来ないと勝手に決めていた。

 でも違う。

 ある日あのヴィクトルが謝りに来て、友達になる事にした。

 男の子の友達も出来て、男女4人ずつで合同デートも楽しんだ。

 学校。

 なんて楽しいのだろう。

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