エンチャントマスターは俺の友人?
とりあえず読んでくれるとありがたいです。
苦難の旅の末,俺は一軒の家にたどり着いた。
そこは立地だけはいいが,広くもなく,手入れがされていないことが一目でわかる。
ノックもせずに家に入ると,床が見えないくらいに色々なものが置かれた廊下がある。
その廊下を通り,廊下以上に荷物であふれかえった部屋へと入る。
そこには目的の人物が机に向かって何やら作業していた。
俺はその背中に向かって怒鳴り声をあげた。
「おい,今回はえらく遠くに飛ばしてくれたなっ!
帰ってくるのに6ヶ月もかかったぞっ!」
結構な大声だったはずだが,黙々と作業を続ける男。
こいつこそ俺の親友・・・というのも嫌な気がするが・・・のシゲである。
いつものようにこちらの声には目もくれない。
「お~い,はるばる帰ってきた親友が話していますよ~。
返事くらいしてくれてもいいんじゃないかい?」
ちょっと寂しくなって弱気に声をかけてみた。
それでも返事はない・・・仕方ないので後日出直そうと扉を開けると,やっと声が聞こえた。
「シンか,帰ってたのか。
今手が離せないから,そこで少し待っててくれ」
いやいやいや・・・
お前のせいで大変な目にあった親友が帰ってきたのに,その態度はないんじゃないのかい?
まあ,言っても仕方ないので,素直にベッドの上で待つことにする。
当然ベッドの上も荷物だらけなので,適当にベッドから落として座る。
疲れたので,少し横になる。
暇なので,そこらへんのものを適当に分解してみる。
・・・まだか・・・さっき『少し』って言っていた気がするが,聞き間違いだろうか・・・
ベッドの周りのものをあらかた分解し終わった頃にやっとシゲの作業が終わったようだ。
「よおし出来たぞ。完璧っ!」
何やら不吉なことを言ってこちらに振り向くシゲ。
シゲの顔には満面の笑みがこぼれ,より不気味になっていた。
「おいおい,元からいかつい顔なんだからそれ以上崩すんじゃない。
不気味にもほどがあるぞ。」
「何言いやがる。歴史的な大発明の完成の場に立ち会えたんだから,感謝してほしいね」
言いながら何故か俺を殴るシゲ。
痛いんですけど・・・この馬鹿力め・・・
「まあいい,ちょっとこの鏡を覗いてみな」
シゲの持つ手鏡を覗き込んだ時に,俺の意識は闇に沈んでいった。
またこのパターンか。薄れゆく意識の中でそう思った。
この前も,シゲの作った道具を使ったら遠くに飛ばされたんだっけ・・・
エンチャントだか円チャートだか知らないが,勘弁してほしいよ。
今回は何が起きるのか,たいしたことでなければ良いんだけどなぁ・・・
~~~~~~~~~~
部屋の外では何やら喧騒が聞こえる。
叫び声や暴れているような音がする。
朝からうるさいなぁ・・・
ゆっくり眠れやしない・・・
そう思っていたところ,大きな音が聞こえた。
走る足音がこちらに近づき,俺のところまで来る。
なんだか知らないけど,迷惑なことだ。
俺は無視して眠りにつこうと思う。だって眠いんだもの。
それなのに,可愛らしい声で声を掛けられた。
「エンチャントマスターの盟友にして英雄よ。
今こそ永き眠りから覚め,我に力をお貸しくださいっ!」
おいおいおい,やたら芝居かかったセリフだな。
そんなんじゃ吹き出しこそすれ,起きる気は湧かないぞ。
などと思って聞いていたら,外の喧騒が一段と大きくなってきた。
ただ事ではなさそうだなぁ。
どこか他人事のように思っていると,さらにしつこく声を掛けてくる。
「お願い,起きて,もうあなたしか頼れる人はいないのよっ!
っていうかこの非常時に起きずにいつ起きるのよっ!早く起きろこのバカっ!」
いきなり怒られた・・・眠いんだから仕方ないじゃないか。
でもまあ大変そうだし,声は可愛いし,とりあえず起きてみるか。
そう思った途端にいきなり落下する感覚が・・・
ぬわっ!どんっ!いてててて・・・
なんだなんだ。布団はぐなんてひどいじゃないか。てか眩しいっ!
「え?ええ?えええぇぇぇぇぇ??????!!」
ぶつけたお尻をさすっていると,目の前から大きな声が聞こえた。
「うるさいなぁ。
まだ目が慣れなくてよく状況がつかめないのに・・・」
眩しい光にも目が慣れ,あたりが見渡せるようになってきた。
どうやら知らない場所にいるらしい。
室内で,まるで倉庫のように色々な箱が置かれている。
今までのことを思い出してみる。
確か,シゲの持っていた鏡をのぞき込んだら,意識がなくなったんだっけ。
またどっかに飛ばされたんだな。
しかし,なんで俺は寝ていたんだ?
飛んだ拍子に気絶でもしていたのかな?
遠い場所じゃなければいいけど・・・
前回飛ばされた時は,意識がしっかりあったけどなぁ・・・
あの時は怖かった・・・
飛んでいく感覚と,俺の中をいろいろなものが高速で通り抜けていくように見えたからなぁ・・・
あれは生きた心地しなかった・・・
周りを見渡すと,目の前には跪いた女の子がこちらを見ている。
口が開いているので非常に間抜けな表情だ。
この子が俺を起こしたのかな。
「ここはどこだ?俺はムサシの国に帰りたいんだけど・・・」
声をかけたが,まったく反応しない。
全く動かないけど,よく出来た人形か?
うわ~人形に話しかけちゃったのか,恥ずかしい・・・
まあいい,とりあえず現状を把握しなければ。
立ち上がって周りを見渡せば,やはり倉庫なのか,色々な箱が置かれている。
前回と違い,まったく見覚えのない場所だ。
そして部屋の外がやたらと騒がしい。戦闘でもしているのだろうか。
武器や防具もなしでは俺の身も危なさそうだ。
今の俺は武器も防具も身につけていない。
なにか武器になりそうなものを探す。
足元に都合よく武器や防具がいくつか落ちている。
俺は刀と鎖かたびらを手に取った。
俺が慣れ親しんだ鉄の剣に形状が似ていて使いやすそうだ。
試しに軽く素振りをしみると,非常に手に馴染む。
重さもほとんど感じないし,かなり良いものであるようだ。
鎖かたびらもサイズがぴったりだった。
やったね。とりあえずこれで身を守ることはできそうである。
部屋の外の様子を窓から見てみると,どうやらとなりの建物で戦闘が行われているようだ。
ここまで戦火は来てはいないようなので,今のうちに逃げた方が良さそうである。
そう思って,先程から動かない女の子?いや人形だろうな・・・に挨拶して立ち去ることとする。
「起こしてくれて?ありがとうな。
危うく丸腰で戦いに巻き込まれるところだったよ。
じゃ,またね。」
頭をポンと叩いて部屋から出・・・ステンッ!
部屋を出ようとした時,突然足を引っ張られ,盛大に転んでしまった。
痛い,たまたま手をついたのでケガはなかったが,手のすぐ横に釘やらナイフやらが散乱している。
アブねぇ・・・あと少し手をつくところがズレていたら,結構痛そうだった。
ここの住人は床にナイフや釘を放置するのが趣味なのか?
シゲの部屋みたいで危ない家だなぁ・・・
足元をみると,どうやら先程の人形に引っかかってしまったようだ。
人形も俺の足に飛びついたような格好になってしまっている。
人形の手から足を引き抜こうとすると突然人形の手に力がこもった。
と同時にガバッと起き上がり,俺の足を這い上がってくる。
よく見ると顔や手などにいくつかの傷がある。
そんな人形が足を掴んで這い上がってきてごらんなさい。
完全にホラーである。
「フギャーッ!!」
「ギャーーッ!!」
2つの悲鳴が響いた・・・
ん?2つ?
よく見ると人形だと思ったものは,れっきとした人間だったようである。
あまりに動かないので,人形かと思ったがちゃんと生きていた。
道理で人形にしてはへんな表情だと思った。
未だ叫び続ける女の子の肩を抑える。
まずは落ち着いてもらわなきゃな。
「大声だしちゃやばいんじゃないか?
外で争いが起きてるようだし,逃げないと危ないぞ。」
俺の言葉に我に返ったのか,こちらを見つめて話してくる。
「お願いがあります。どうぞ,私たちを助けてください。
賢者シゲ様の盟友にして英雄のシン様に頼るしかもう助かる見込みがないのです。」
ん?賢者?盟友?英雄?なんのことを言っているんだこの子は???
ってか何故俺の名前を知っているんだ?
「とりあえず落ちついて状況を教えてくれ。状況がわからないと判断のしようがないよ。」
なんとか話を聞いたところ,数人の賊に襲われているようだ。
やはりここは倉庫であり,ここにあるものは,かなり価値があるらしい。
そして,となりの建物では,ここを守るために賊と戦っているのだが,劣勢であるようだ。
そこで伝説の手鏡に助けを求めたところ,俺が出てきたとのこと。
そしてこの女の子の名前はキョウコというらしい。年は18歳,彼氏なし。
ここは大事だよね?
ツッコミどころ満載だが,とりあえず状況は理解した。
落ち着いて見れば可愛い子である。
可愛い子に悪人はいないっ!
ということで,この子の味方をすることにして,恩を売ってみよう。
もしかしたら惚れてくれるかもしれないし・・・
倉庫を見渡して,使えそうなアイテムをいくつか見繕う。
床に散らばっているものにも便利なアイテムがいっぱいあるようだ。
なんだかよく分からないものもあるけれど,相手の動きを止めるためのものを中心にいくつかカバンに入れておく。
相手の数や実力が全く分からないから,飛び道具を中心に集めた。
でも,殺生はなるべくしない方向で行こう。
いくつかキョウコにもアイテムを渡して連携の合図を決めておく。
今回のミッション,
①賊を捕らえる,もしくは撤退させる。
②こちら側の死傷者をなるべく出さない。
③この倉庫には賊を近寄らせない。
って感じかな。
ってなワケでミッションスタート!
音のする方に俺とキョウコの二人で近寄る。
二人の男が斬り合っている。キョウコに確認すると,黒い服を着たやつが賊らしい。
じゃあ,青い服の男が味方だな。
二人ともこちらには気がついていない様子。
今のうちに動きを止めてしまおう。
取り出したアイテムは「クモの糸」
ボール状のアイテムで,ぶつけた相手と周りの人やものをくっつけることで,動きを止めるアイテムだ。
相手の隙を見計らって投げつける。
うまく相手の足元に当たった。
そこから四方に糸が伸び,壁や床とくっついていく。
うまく相手の刀や腕にも糸が絡まり,戦闘力は奪った様子。
まあ,味方の刀も一緒に絡まっているように見えるが,気にしない。
「キョウコか,助かったありがとう。もしかしてそのお方が?」
「そうよ,このお方がシン様です・・・よね?」
「そうです,私がシン様です。
まぁ,様なんて呼ばれる覚えはないけどね。」
それはいいが,キョウコのセリフの最後が疑問形になっているぞ。
今頃かい?
軽口を叩きつつ青い服の男(アツシという名前らしい)にもアイテムを渡しておく。
クモの糸の使い方のコツを教えてから手分けして賊を捕らえに回ることにする。
キョウコは俺と一緒。だって誰か敵かも分からないからね。
決して女の子と一緒にいたいからとかじゃないよ。
当たり前だよね。こんな時に・・・そういうことにしておこう。
次の音のする方へ進んでいく。
こちらでは1対2で戦っているようだ。
キョウコに聞くと,1人の方が賊のよう。さっきと同じく黒い服を着ている。
賊なんてみんな黒か紺の服なのかもしれないけど,分かりやすくて良いね。
味方は背の低い男と,背の高い女の組み合わせ。
男の方が刀で相手の攻撃を防ぎ,女が棒で相手の動きを牽制している。
さて,さっきと同じようにクモの糸を使って相手の動きを止めることとする。
おっと,相手がこちらに気がついてしまったようだ。
だけれども,1対4,負けるわけがない。なんせ,1対2でもなんとか足止めできていたんだから。
「助けに来たよ」
「キョウコか?助かる」
キョウコの声に反応した男が相手の刀を受け損ねて腕にケガを負った。
あらら,声をかけたのが裏目に出ちゃったね。
急いでクモの糸を投げつける。
黒服は刀で叩き斬るが,そんなことしてもムダだ。
刀ごと動きを止めるだけである。
まあ,ケガした背の小さい男も,クモの糸に絡まれて動けなくなっているけどね。
死ぬようなケガじゃないだろうし,気にしないこととする。
「僕はいいから先に行け」
ほら,そういうことだし,お言葉に甘えておこう。
女の人はユウというらしい。
ユウにクモの糸をいくつか渡し,男の人の手当てを頼んだ。
そんな感じで後3人ほど動きを止めたところで周りの音が聞こえなくなった。
うまく賊を捕らえられたのだろう。
クモの糸を使えば,そうそうやられることはない。
悪くてもお互いに動けなくなる程度ですむはずだ。
キョウコと一緒に家中を確認したところ,アツシとほかに5人まとめてクモの糸に絡まっているのを発見した。
うーむ,アツシも動けなくなっているではないか。
相手に近づきすぎたうえに,複数個同時に投げたな。ヘタッピめ。
まあ,ケガはないようなので良しとする。
このクモの糸は熱したナイフで切らないとそうそう切ることはできない。
家中を確認し,敵がもういないことを確認してから,味方の糸を切って自由にしていく。
もちろん,賊はまだそのままだ。
キョウコの仲間は全部で11人。
多少のけが人はいるが,全員無事のようだ。
全員に俺を紹介してもらい,賊への尋問を行う。
ちょっと気になることがあるので,賊への尋問を参加させてもらった。
ただし,ことは済んだので,殺生はしないようにお願いしておいた。
なんだか疲れたな。
寝起きにすることじゃないや。
「シン様,本当にありがとうございました。おかげで助かりました。」
キョウコがさっきから俺にお礼を言い続けている。
「困った時はお互い様。今度こちらが困ったら助けてね~」
「ところで,それらのアイテムはすごいですね。
見せてもらってもよろしいですか。」
「ああ,後でね。」
「ちぇっ,もったいぶるんじゃないっていうの。」
「ん?なんか言った?」
「いえ,空耳じゃないですかね。本当に今回は助かりました。」
キョウコに話を聞くと,ここは人里から離れた場所にあるらしい。
なんでも,エンチャンターの修行の場のようで,色々なマジックアイテムを保管,管理,研究をしているらしい。
その一つのに「シンの手鏡」があり,それに念じたら俺が飛び出てきたとのことだ。
手鏡かぁ・・・あいつの持っていた鏡も手鏡のサイズだったなぁ。
外見をよく見ていなかったから,確かではないが・・・
前回飛ばされた時のことを思い出す。
シゲはマジックアイテムを作ることに情熱を注いでいた。
魔法をあまり使えない俺らは魔法以外の戦う方法を探っていた。
俺は剣を,シゲはマジックアイテムに夢中になっていた。
自己流なため,俺も強くはないし,シゲのマジックアイテムなんて安定した効果を発揮できずにいた。
それでも,マジックアイテムはまだ発展途上の学問だ。
確か,その学問を「エンチャント」なんていい,エンチャントを研究する人や,マジックアイテムを作成する人を「エンチャンター」というらしい。
エンチャントとかかっこいい名前だが,せいぜいがさっき使った「クモの糸」のように動きを止めるとか,松明の火力を増すとか,その程度のアイテムぐらいである。
その中でも,シゲは安定しないが,変な効果を発揮するマジックアイテムを作ることに成功していた。
前も,鳥の羽のようなアイテムを渡されて言われた通りに念を込めて振った途端に空を飛ぶ感覚があったんだったなぁ
その後気がついた時には,倉庫の中に倒れていたんだよね。
倉庫は壊れるわ,中はぐちゃぐちゃになるわ,大騒ぎになった。
シゲのおじさんの家だったし,知った仲だったけど,すごく怒られた・・・
倉庫の片付けや,修理を手伝わされ,2ヶ月ほどこき使われたもんなぁ・・・
出された食事が美味しかったのが救いだけどね。
そこから家に帰るのに,またすごく時間がかかったんだよね。
ってか,家には帰れていないや。
町に着いたら,家に帰る前にシゲに文句を言おうとシゲの家に行ったら,また手鏡で飛ばされたんだからね。
まったく実験に俺を使うのは勘弁してほしいもんだ。
ある時,そのことをシゲに言ったら,
「何言ってんだ。お前で実験しないで誰で実験するんだよ。お前は便利なモルモットだろ?一家に1人,いると便利。」
などとほざきやがった。
なんであんな奴の友達やっているのか不思議である。
でも,なんか馬が合うんだよね。
要は憎めない奴なのである。
外見は強面の兄ちゃんってか,おっさんだけどね。
なんせ12歳の時だったか,同い年の俺らが歩いていると親子に見間違われるし,シゲの顔を知らない自警団員には必ず尋問をされるし,だったからなぁ・・・
お陰で自警団には有名だったよ。
そんなシゲだが,エンチャントには才能があるようで,少なくても,マジックアイテムで長距離を移動するものなんて聞いたことがない。
まぁ,俺の知識が足りないだけかもしれないが,少なくても訪れたアイテムショップにそんなものはないし,店員も知らなかった。
安定して目的の場所に移動できるようになればスゴイ発明なんだと思う。
頑張れシゲっ!手伝ったお礼に,発明の使用料の半分を俺にくれれば許そう。
そうすれば,労せず安定した生活が送れるぞ~
研究のためにいろいろ借金をしてるようだし,期待しないで待ってるぞ~
~~~~~~~~~~
そんなことを考えていると,アツシたちが戻ってきた。
11人いるとの話だけど,ここにはキョウコを含め5人が集まっている。
3人はケガをしているので,1人がその治療に当たっている。2人が捕らえた賊の見張りをしているとのこと。
なんでも,賊は全員身動き取れないように縛り付けて,一室に閉じ込めているらしい。
「改めてお礼を言わせていただきたい。ありがとうございました。」
リーダーなのか,アツシがお礼を言ってくる。
「倉庫にあったアイテムを使ったし,そのアイテムのお陰で解決したのだから,気にする必要はないよ。
みんな無事なようでよかったね。」
「それなんですが,あのマジックアイテムは素晴らしいですね。見たことない威力を持ったクモの糸ですね。あれも賢者シゲの作なのですか?」
「ん?あれくらい普通のクモの糸じゃないのってか,賢者ってなんだよ?
シゲはそんなもんじゃないだろ?」
「いえいえ,普通のクモの糸ではせいぜい子犬くらいしか動きを止められません。人間に使っても大人の力ならすぐに切れてしまうので,少し動きを止める程度でしかないんですよ。」
「それに,シゲ様は私たちエンチャンターで知らない人がいないくらいの有名人なんですよ。エンチャントマスターにしてエンチャントを広めた方として一般の人でも名前くらいは聞いたことあると思いますよ。」
「え?そんな有名なの?あいつが?」
まだ大した発明はしていないはずだけどなぁ・・・
まあ,安定しないけど,移動用のアイテム作成に成功しているわけだし,有名になってもおかしくはないのかな?
「まあいいや。とりあえず家に帰りたいから馬を貸してくれるかい?
ここからムサシの国にはどれくらいかかるかな?」
「馬などいくらでも使って頂いて結構なのですが,その前にお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
「ん?いいよ?急ぐものでもないし。」
「まず改めまして,私はエンチャンターのアツシと言います。この研究所にてエンチャントの研究のリーダーをさせて頂いています。」
「へーアツシがリーダーだったんだね。ほかのみんなは研究員かい?」
「はい,私の研究を手伝ってもらっています。それで,お聞きしたいのですが,あなた様は賢者シゲ様の盟友であるシン様でよろしいでしょうか?」
「なんか大げさな言い方するなぁ・・・
そんな大それた奴ではないだろうに・・・
ってか,シゲ違いじゃないか?たまたま同じ名前のやつがいるとか?」
「ムサシの国に生まれ,あらゆるマジックアイテムを作り,既存のものはことごとく性能をアップさせ,マジックアイテムを生活に欠かせないものまで昇華させた立役者のシゲ様です。」
「なら違うよ。あいつは大した影響力はないし,性能アップぐらいはしていたけど,それくらいだものな。」
なんだびっくりした,やっぱり人違いか。あいつがいつの間にすごくなったのかと思ったよ。
「いえ,キョウカの研究が正しければ,シン様が眠っておられた手鏡は『シンの手鏡』と呼ばれ,賢者シゲ様の作品です。賢者シゲ様の盟友であるシン様を封印してあり,いつかシン様が復活するときに,エンチャントはさらなる発展を遂げると言われている代物です。」
「は?封印?俺が?」
「はい,そしてその謂れ通りシン様が復活なさいました。大量のマジックアイテムとともに。」
キョウコが後に続けて言う。
俺って飛ばされたんじゃないの?
封印って一体何年経っているの???
えぇ?!!
結局1週間も研究所にお世話になってしまった。
本当はもっと早くムサシの国に行きたかったのだが,アツシたちが引き留めるので長居してしまった。
決して,可愛い子が多いからではないと思う。うん,そうに違いない。
だって俺は紳士だからね。
問題は,ムサシの国に帰ったところで,家がない可能性が高いことがある。
なんと、俺が封印されている間に100年以上の月日がたっているそうだ。
もちろんシゲも死んでおり、俺の怒りのぶつけ所はなくなってしまった。
あんにゃろう、勝手に封印しておいて勝手に死ぬなんて、なんていい加減なやつなんだろう。
せめて謝罪してから死んどけ。
まあ、シゲの謝罪なんて聞いたことないけど・・・
あとは,この大量のアイテムをどう運ぶかだ。
荷物に関してはキョウコの研究が役に立った。
俺の封印されていた手鏡は,収納の機能があるらしい。
出すときに出したいものだけ念じれば,それだけを取り出すことができるというのだ。
すげえな,これをシゲが作ったのか?
ただ,収納の際に暗号をイメージした場合,荷物を出すときにそのイメージを持ちながら出さないと出てこないらしい。
『シンの手鏡』がありながら今まで出すことができなかったのは,この暗号のイメージがわからなかったからだそうだ。
「じゃあ,なんで今回は出てきたんだ?」
「おそらく,私がイメージしたものと,シン様が封印された時のイメージがたまたま一致したためでしょう。」
そんな偶然で俺は出られたのか。
シゲはなんで俺を100年以上もの間,封印しくれたのか。
帰ったらとっちめてやるっ!
・・・って死んでるか・・・くそっ!
現在の技術でも,同じようなものはあるようだが,これほどの量が入るなど,ましてや人が入るものなど作ることはできないらしい。
シゲは他者へ技術を広めることをほとんどしなかったらしい。
お陰でシゲの技術の劣化版のアイテムしか出回らないとのこと。
しかも,シゲの作ったアイテムのほとんどは所在不明なんだそうだ。
さて,荷物の問題は解決したので,名残惜しいが,ムサシの国へ旅立つことにする。
「シン様,よろしいでしょうか。」
キョウコが声をかけてきた。
「私たちもシン様について行ってよろしいでしょうか。」
おっもしかしてこれは愛の告白?
って思ったら,後ろにさらに2人いた。
アツシとユウである。
「まぁ俺としては問題ないけど,研究はいいのか?
特にアツシはリーダーだろ?」
「リーダーはケンスケに任せます。人付き合いは苦手ですが,彼が優秀なのは皆が認めるところですから。」
「4人いるので,馬車を用意しました。御者は我々が交代でできます。4人の方が道中も安全だと思います。」
「シン様なら1人で問題ないかとは思うのですが,万が一ということもありますし,何より,我々も賢者シゲ様の育った環境を見てみたいのです。」
・・・最後のが本音だな・・・
シゲやマジックアイテムに興味津々ということか。
でも,旅は道連れ世は情けともいうしな。
可愛い女の子が2人もきてくれるなら願ったり叶ったりだ。
むしろ男はいらない・・・なんて思ってしまった。もちろんそんなことは口に出せないが・・・
そんなこんなでムサシの国に向けて出発である。
さてさて、俺の家は残っているのかな?
ってか、この後どうしようかなぁ・・・