エピローグという名の「おわりに」
二人で目標を新たにしたあの日から、ちょうど八年くらいが経った。春の足音がすぐそこまで迫ってきているような、心地いい気候が続いていた。
俺は大学卒業後、適当な会社に就職し、二足のわらじで小説家の仕事も請け負いつつ、着々と毎日を充実させていった。
そんな俺は、最近デビューが決まった新人作家の小説の校正を依頼されていた。今日はその作家がうちへ打ち合わせに来る予定となっていた。
自分の部屋の机に向かい、校正作業に励んでいると、ドアがノックされ、母が顔を出した。
「ねえ、才ちゃん。お父さんね、三月には帰ってこれるって」
母は嬉しそうに、子供のような笑顔を見せる。
「そろそろその呼び方やめろ」
俺はげんなりと肩をすくめながら、椅子ごと母の方を振り返った。
父が単身赴任で滞在していたカナダから、実に五年ぶりに帰国してくるのだ。それは我が家にとっては、それなりの一大事である。
ただ、俺はもう大人なので、昔みたいにあけすけに喜んだりはしない。嬉しさをひた隠しにし、素っ気なさを装い、淡然たる口調で答えた。
「そっか、よかったな」
「また、三人で過ごせるね。秀ちゃんも入れれば、四人だけど」
「兄貴を忘れるな」
それでもやはり、嬉しさは隠しきれない。無意識に笑みがこぼれていたのか、母に「あんたも嬉しそうね」と見透かされてしまった。
そこへ、不意に家のチャイムが鳴らされた。その瞬間、俺は来客が誰であるかを即座に把握し、母の脇をすり抜けて部屋を飛び出した。
玄関まで走っていき、扉を開く。
俺は目の前に立っていた人物を確認すると、そいつにこう声をかけた。
「久しぶりだな。上がれよ」
『才人。たとえ自分にどんな運命が用意されていたとしても、決してそれを憎んじゃいけないぞ。憎しみからは、何も生まれてきやしないのだから。 東光 秀人』
【用語解説】
・八年くらいが経った:実はこれ、八年前という設定でした。それを思わせる台詞や文章を所々に散りばめたつもりなんですけど、気づいた人いるかなあ? おらんやろなあ。
【参考文献】
西谷史・榎本秋『すごいライトノベルが書ける本 ~これで万全! 創作テクニック~』総合科学出版(2011年)
榎本秋・榎本事務所『ライトノベルのための正しい日本語』秀和システム(2016年)
榎本秋『ライトノベル新人賞の獲り方』総合科学出版(2017年)




