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休憩時間② モチベーションの上げ方(颯夏編)

「ねえ、師匠。小説を書く気が起きない時、どうしてる?」


「あ、うーん……書店とか、ちょっとブラブラしてるかな……」


 これまた脈絡のない質問だったが、いくら好きだから書いてると言っても、行き詰まったりしてモチベーションが低下することが、俺にも時たまある。そういう時は、決まって本屋に足を運ぶのだ。それが、俺にとってはいい気分転換になる。他人の作品を読むことによって、インスピレーションが湧くことだってあるしな。

 だが、どうやら颯夏のモチベーションを上げる方法は、それとは違うようだった。


「師匠、これ読んで」


 颯夏は数枚の紙を、テーブル越しに、俺に差し出してきた。

 目を落とすと、そこにはお話の一部らしき文章が紡がれてあった。


「俺の中学の時に書いた小説」


 颯夏はニコニコえびす顔で言うが、俺が「小説」ではなく「お話」と表現した時点で、大体のことを察していただきたい。


 次に載せるのが、颯夏いわく「中学の時に書いた小説」らしい。



『きのみの島』(一部)

著:中学生の新米颯夏


「平和だなあ」

とクマが言うとウサギは、

「そうね」

と言うとクマは、

「いい天気だね」

と言うとウサギが無視するので、

「どうしたの?」

とクマが聞くとウサギは、

「黙れ、ワレ。しゃべんな」

と言ってクマを投げ飛ばしました。



 ……何だ、これ。


 小説にもなっていない。中学生でもこんなのなかなか書かないと思うんだが……というか、口悪いな、ウサギ。しかもクマを投げ飛ばすって、どんな怪力の持ち主なんだ?

 それに、「と言うと」が何度も続いてて、読みにくいったらありゃしない。


「あの……これ、ほんとにお前が書いたの?」


 おずおずと質問してみると、颯夏は笑顔を絶やさず、何故か自信たっぷりに大きく頷いた。

 マジかよ。それにしてもひどい、ひどすぎる。


「……で、なんで俺にこれを見せたんだ? しかもこのウサギ、なんでこんなに口悪いし乱暴なの?」


「ウサギはこの話のヒロインだよ」


「女かよ!」


 マジで颯夏の意図が読めない。こいつは何故、この小説にもなってない小説を俺に見せようと思ったんだ?


 俺の疑念が迷走を始めんとした時、颯夏がこう言い出した。


「やる気が出ないのは、自分の文章が下手に見えて自信がなくなるからだと思うんだ。これ、中1の時に初めて書いた小説なんだけど、昨日ふと思い出して読んでたらさ、こんなひどい話書いてたな〜って思って、そしたら、俄然やる気が湧いてきたの」


 そこまで聞くと、俺もようやく気がついた。なるほど、つまり、こういうことか。


『昔と比べて今の文章はかなりマシになっている』


 こう考えると、少しは合点がいく。

 確かに、今の颯夏の文章は売ってるライトノベルの文章と比較しても、あまり遜色がないと言っても過言じゃない。この三年間で、かなり勉強したんだな。


「だからね、今の自分の文章もプロに比べればまだまだだけど、昔書いたやつを読んで、『この頃に比べたら断然上手くなってるやーん!』って思うことで、モチベを上げられることがわかったんだ!」


 貴重な研究資料を発見した考古学者のごとく、目を輝かせながら颯夏は語った。


 ……まあ、わからなくもない。俺もたまに昔の過去作を読み返してるけど、見るに堪えないひどさのものもあるし。

 それにしても、こんな幼稚園児みたいな文章からよく今みたいなちゃんとした小説が書けるようになったものだ。本を読んで勉強したのだろうか?


 つまり、モチベーションを維持するためには自分の過去作を読むといいらしい。あくまでも颯夏の場合は、だけど。

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