プロローグという名のイントロダクション
――キーン、コーン。
えー……と。何から始めようか。
まあ、とりあえず、俺のプロフィールから紹介しよう。
俺、東光才人はライトノベル作家である。小学校五年の時、3つ上の兄から勧められ、小説を書き始めた。
初めうちはネットに公開し、主に兄貴や家族から読んでもらっていた。
特にこれといった趣味もなかった俺は、書き始めるや、自分でも意外なほど、すぐにのめり込んでいった。自分だけの世界を構築するのが楽しかったし、何より、それを読んだ誰かから反応があるのが妙に心地よかった。
そんなこんなで書き始めたわけだけど、正直、当時の俺は小説家になりたいなど思ったことはなかった。なれないと思ってたから。
しかし、俺の初めて書いた作品を読んでくれた兄貴が「お前には才能がある!」って言ってくれたから、それが嬉しくて、目指してみようかなという気持ちになったのだ。
それまではあまり他人の作品を読まなかった俺も、他の作品から吸収するために、それを機に読書にも目覚めた。勿論、自分の小説も毎日書き続けた。
中学に入学してからも、クラスのほぼ全員が何かしらの部活動に所属するなか、俺は学校が終わると真っ先に帰宅し、小説をバカみたいに書きまくり、アホみたいに読みまくった。俺は何かに憑かれたように、小説の世界に夢中になっていたのだ。
初めはブログや小説投稿サイトとかに載せるだけだったが、それだけでは物足りず、出版社が毎年開催している新人賞にも、いくつか作品を応募するようにもなった。
結果が伴わなくても折れることなく、ただ遮二無二、自分の好きなものを書き続けた。その努力が実を結び、中学三年の夏、俺は『まぼろしのファンタジア。』という作品でようやく夢を叶えたのだった。
こうして、俺、東光才人こと藤咲ユキオは、ライトノベル作家としてデビューを果たしたというわけだ。
ちなみに「藤咲ユキオ」というのは俺のペンネームであり、それまでは本名で作品を書いていたが、出版に際してペンネームも考えた方がいいのかな、ということで考案したのだ。余談ではあるが、この名は母親の旧姓と、心から敬愛する作家の名前から拝借したものだ。
つまり、俺しか由来を知らない名であり、誰からも俺だと特定されないであろう名なのだ。
だが、それにもかかわらず当時の俺は、中学の同級生に作家になったという事実を喧伝してしまった。多分、そのくらい嬉しかったからだろう。
しかし、それがそもそもの間違いだったことに、その時の俺は気づくはずもなかった。
だって、あんなことになるなんて普通思わないし。
出版後、俺は高校受験勉強に専念するため、執筆活動を一時休止した。三年の秋頃だった。デビューしたばかりだったけど、行きたい高校があったし、そこは俺にとってわりと高レベルだったから、受験が終わるまで小説関係のことは完全に断とうと決心した。
そして、春。俺は第一志望の公立高校に見事合格し、これまで通り執筆も再開させた。
俺は入学前、高校では自分が小説家であることは周りに隠し、波風立てずに三年を過ごそうと誓った。中学の頃は友人やクラスメイトたちに散々言い触らしていた俺だが、冷静になって考え直した結果、何故あんなことをしたんだろう……と後悔していたからだ。
俺は、バラ色の学校生活を夢見ていた。というのも、中学の頃は小説にばかり時間を費やし、部活にも入っていなかったから、友達と呼べる友達も少なかったのだ。幸い、俺の行く高校には中学時代の知り合いも少なかったし、新しい友達を作れるチャンスだ。例の件についても、おそらくバレることなく卒業できるはず。
そう、思っていたのに。
入学式から数日もしないうちに、俺がプロ小説家であることをクラスのやつらに周知されてしまった。
また、皆から余計な注目を浴びるんじゃないか? せっかくバラ色の高校生活が始まろうとしていたのに、呆気なくその夢は潰えてしまうのではないか?
そんなことを危惧していた俺はしかし、皮肉なことに、それによって衝撃の事実を知ってしまうのだった。
驚くほど、いや、呆れるほどに「ほとんどのやつは」俺に興味を示さなかったのだ。安心するべきか、悲しむべきなのかもわからず、逆に俺が一番戸惑ってしまったかもしれない。
まあ、単純に理由を説明すると、やつらは本を読まないのだ。漫画ばかり読むのだ。
「え? ライトノベルって何?」
「小説家といったら、夏目漱石とか太宰治しか知らない」
「俺、漫画しか読まないから」
というふうな反応しか誰もしない。特に二番目のやつ、国語の授業時間何してたんだよ。
とにかく、本を読まないやつが多すぎるのだ。
しかし、まあ、それはそれで俺にとっては好都合であった。大きく注目を浴びることもなくなったし、それまでライトノベルを知らなかったやつにもこれがきっかけで知ってもらえたら、何も文句はない。むしろ、怪我の功名というやつだ。
これで、俺のバラ色の高校生活は無事にその幕を開ける……はずだったのだが。
そこに、結局というか、新たな事態が起きてしまったのだ。事態というより、俺が作家だということが広まったことによって必然的に起こることを確約された出来事。例えるなら、稲妻のような、突如として発生した、回避不可能の事故だったと言えよう。
突然、俺の前に現れた一人の少年。そいつは、小説家志望だった。その少年によって、俺の高校生活は大きく狂わされていくことになるのであった。
【用語解説】
・東光才人:本作の準主人公でストーリーテラー。主人公以外のキャラを語り手に据えるという手法をとっています。名前はダジャレ。