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「僕=君」の公式  作者: 蓮ノ葉
高校一年生~玉梓の友との相談~編
13/14

第十三話「戦前の準備」

――某都大会当日。


会場となる体育館内、人口密度は今までの練習試合なんかの比にはならない程で、緊張と相まって息苦しい。


会場内で試合を行う多くの学校の選手達は防寒具を着込んでいるが、その内はユニフォーム姿で心も身体も熱を帯びている。


僕らのユニフォームの色は黒を基調とした白のライン入り。番号は二年生四人がそれぞれ四番から八番を。一年生七人がその後の番号を分配されており、僕は十二番だ。


「集合!」


キャプテンである東堂景(トウドウ・ケイ)先輩が僕らを呼びかけ、僕らは並んでキャプテンに視線を合わせる。


「先生、お願いします」


顧問である高橋先生は全員を見回し、一呼吸。


「よし、みんな昨日はちゃんと寝たか? 東堂は早く起きすぎてひとっ走りしたらしいが」


緊張の面持ちの部員たちの表情が解れる。特に二年生はキャプテンを変わらないな、という表情で見ていて信頼関係が伺える。


「今日の相手は新庄高校。実績としてはうちの方が上だが、油断はならない。だが、その上でスターティングメンバーを発表する」


うちの高校は試合当日にスタメンを発表される。いつでも万全の準備ができるよう、前日発表などはしないらしい。


「三年生が引退し、チームのメンバーは少なくなった。練習試合でも色々な組み合わせを見る時間は少なかった。だからこそ、可能性を信じよう」


全員の顔を先生が見回す。二年生四人。一年生七人。マネージャー一人。それぞれがそれぞれの気持ちを胸に、先生に熱い眼差しを向ける。


「まず東堂。スモールフォワード(SF)のポジションだな。相手次第だが、六番について貰うだろう。外から崩していけ」


「はいっす!」


キャプテンの東堂先輩が力強く頷く。表情から読み取るに、走りの疲れはなさそうで絶好調だ。


「次は篠宮。パワーフォワード(PF)だな。相手は四番だろう。リバウンド、負けるなよ」


「はい」


背番号五番をつける篠宮陽介(シノミヤ・ヨウスケ)先輩が返事する。

事前情報では相手のキャプテンは身長が高く、篠宮先輩より大きいのだが、篠宮先輩はメラメラと闘志を燃やした目をしている。


「黒尾。センター(C)だ。5番の相手になる。身長差はない分、好きに動け。冷静さがお前の武器なのだから、お前の最善と思う選択をしろ」


「はい!」


期待の一年生、大智が喜んで声を上げる。

一年生の中でもトップで試合経験があり、慣れているとは思うが、呼ばれる時の表情の煌めきは初めてのようにさえ見える。


さて、次は、


「三科。シューテングガード(SG)だ。相手は一年生。データは少ないが、狙えるならどんどん狙っていけ。お前のシュートモーションと身長なら相手も反応が遅れるだろう」


「……はい!」


先輩とのポジション争い、ひとまず第一回目は健斗が勝利したようで、先輩と小突き合いをしている。

だが、健斗がスタメンになることを良く思わないようではなく、改めていい先輩だなと思う。


次は黛先輩か。試合的にも、まず不利にはならないだろう。新体制のチームでどこまで実力が出るか。しっかり応援しようと思う。


「最後、八代。ポイントガード(PG)だ。ゲームメイクはお前がやれ。相手はディフェンスが得意なようだから、状況を的確に判断しろ」


「……え、あ、はい!」


なんて、先輩と健斗を微笑ましく見たり、士気を高めようとしていたところで、僕はワンテンポ遅れて返事をする。


周りも予想外のようで、特に一年生からの視線を感じる。


「今回のスタメンはこの五人だ。先制点を取られると揺れるだろう。まずは速攻で決めてこい」


鼓舞と最初の方針を決め、キャプテンに続きを促す。


「色々みんな思うところはあるかもしれないけど、全員の思いは一緒だ。勝つぞ!」


使い古されたが、一番欲しい言葉を選びとり、キャプテンが心に響かせる。


全員が応じ、僕らの気持ちは勝つことに向かった。




「なーんて顔してんだタコスケェ」


「……タコじゃないっすよ」


「じゃあイカでもいいや。何辛気臭い顔してんだよ」


黛先輩とどう接すればいいかわからず、僕は逃げて愛想笑いを浮かべる。

黛先輩はどうやらそれが気に入らなかったらしく、少しだけ片眉を上げたかと思えば、僕の背中を思い切り叩いてきた。


「痛っ」


「スタメンに出れたからってずっと出れると思ってんじゃねぇよ」


「――」


「んな顔で同情してる暇あったらさっさと結果出しやがれ。じゃねぇと二年も俺がずっと出っぱなしになっちまうぞ」


ユニフォームの番号を指さし、黛先輩はあっけらかんと笑ってみせる。

本当なら嫌味の一つくらい言ってもいいのに、僕に激を入れてくれる黛先輩を見て、僕は喉を鳴らした。


「す、すみません……」


「違ぇだろ?」


手に持つボールが目に入る範囲、少しだけ下を向く僕の顔を強引に上げ、


「そんなこと言うために頑張ってんじゃないし、俺もそんなこと聞きたいんじゃないからな。こういうのはありがとうでいいんだよ」


「――はい、ありがとうございます」


「ん、いい返事。頑張れよー」


ボールをコンコンッとノックし、一つ笑みを浮かべ黛先輩は離れていった。

先輩の言葉をじっくり咀嚼し、飲み込んで覚悟を決めた僕は、スリーポイントシュート(3P)を放つ。


放たれたボールの指のかかり具合、フォーム、気持ち、調子。

指先からボールが離れて確信する。


――今日は最高だ。


リングに触れることなく、弧を描くボールは静かに音を切った。

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