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空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第八章 古より蘇りし呪術的世界
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第五十一話 裏門の強欲なる門番

 レオナルドたちは、兵士たちが使っている迷彩服に着替え、ブーツに履き替えた。レオナルドは、こうした服を着慣れていないために落ち着かなかった。


 ジープに乗り込み出発する。屋敷の敷地の森を走っていく。運転席にはアルベルトが、助手席にはレオナルドが、後部座席にはマリーアが座っている。

 ヘッドライトの光が、暗い森を切り裂く。車は細い道を進んでいく。


 二メートル近くあるトンボが、ドアガラスに勢いよく激突した。その衝撃でガラスが割れて、助手席に降り注ぐ。

 レオナルドは驚いて悲鳴を上げた。肉食のトンボは、窓枠に取りつき、鋭い大顎でレオナルドに襲いかかる。レオナルドは助手席の上で体を反らして、間一髪避ける。すぐさま猟銃を手に持ち、トンボに向けて引き金を引いた。

 トンボの頭部が吹き飛ぶ。しかし、トンボの動きは止まらない。窓枠に取りついたまま暴れている。

 レオナルドは銃床を窓に向け、勢いよくトンボの体に叩きつける。窓枠から離れたトンボの死骸は、闇の中へと消えていった。


「レオくん。虫が入ってきたら応戦してくれ」


「そのつもりです」


 猟銃を抱え、レオナルドは周囲を警戒する。闇の中、ヘッドライトをつけて走っている。虫に集まって来いと言っているようなものだ。

 ラグビーボールほどの甲虫が、何度かフロントガラスに激突した。車の屋根に、なにかが落ちた。割れた窓から、バットほどの太さのムカデが進入してくる。慌てて銃床で叩きつぶした。


「裏門が見えて来たわ」


 しばらくしたところで、マリーアが、前方を指差しながら声を出した。視界の先に、白い壁の一部が見える。どうにか裏門までたどり着けそうだ。

 このまま車で行けるところまで行こう。そして本格的な探険行を開始しよう。


 出口に近づいたところで、アルベルトが急にブレーキを踏んだ。裏門の前に、木製のバリケードが置いてあった。


「やった、引っかかったぜ!」


 森の中から声が聞こえた。暗がりから、猟銃を持った男たちが現れる。


「ほらな。裏門を押さえておけば、そこから逃げる奴が来るって言っただろう」


 男の一人が自慢げに話す。


「出て来やがれ!」


 ドアを蹴る音が響く。どうするか迷っていると、左右から猟銃を突きつけられた。


「銃を捨てろ。手を頭の上にやって、ゆっくりと車から降りろ」


 男は四人いた。猟銃で反撃しても、一人を撃つあいだに、残りの男たちにやられてしまう。

 レオナルドは、アルベルトに目でどうするか尋ねる。従った方がいい。このままでは発砲される。アルベルトは視線でそう答えた。


 厄介なことになった。車から降りたレオナルドたちは、持ち物を全て奪われた。そして見張りを一人つけられ道沿いに立たされた。


「金目のものはあったか?」


 男たちはジープを探っている。


「しょっぱいな。なにもねえ。唯一、金に換えられそうなのは、ダイナマイトぐらいだな。でもこれ、質屋に持っていっても売れるのか?」


「うーん、どうだろうな」


 男たちが不満げに話す。現金でもあればよかったが、ずっと屋敷内で暮らしていたから持ち歩いていない。このままでは腹いせに殺されかねない。


「うん?」


 銃を持った見張りが首を動かした。屋敷の方から車の音が聞こえてきた。レオナルドも顔を向ける。ヘッドライトの明かりが見えた。


「へっ、また鴨が来たぜ」


 見張りの男は仲間を呼んだ。彼らはジープを動かして道を塞いだ。


「おまえらは大人しくしていろ」


 茂みに押し込まれて地面に腹ばいにさせられる。猟銃を突きつけられているから従うしかない。

 虫がいないか周囲に視線を走らせる。とりあえず見当たらないが、どこから飛び出してくるか分からない。


 音が徐々に近づいてくる。光が次第に強くなってきた。腹ばいなので車は見えない。大きなブレーキ音に続き、激しい激突音がした。

 スピードを出していたのだろう。暗闇の中、ジープが停まっているのは想定外だったはずだ。


 レオナルドは顔を上げて様子を探る。車は横に滑り、ジープに激突していた。


「ひゅー、派手にやってくれたな」


「おい、金目のものを出せ」


 銃を持った男たちが車の周りに集まる。フロントガラスも窓ガラスも割れているのが目に入る。


「どうした? 死んじまったのか?」


 男の一人が怪訝そうに言い、車内を覗き込む。その瞬間、自動小銃の連射声が鳴り響いた。

 レオナルドは地面に転がったまま、耳を押さえて目をつぶる。音はすぐにやんで静かになった。


「レオナルド、出て来い!」


 ギレルモの声だ。レオナルドは驚き、顔を上げる。待ち伏せしていた者たちは、全員死体になっていた。

 車から男が降りてきた。フランシスコ・イバーラを崇拝するロボット工学者が、自動小銃を持って立っていた。


 無事だったのか。しかし、どうしてここが分かったんだ。

 おそらく、カルロスから目的地を聞いたのだ。レオナルドたちはカルロスの前で、陥没穴へ行くと話した。正門から出て行けないなら裏道を利用する。マリーアと同じ結論にいたるのは当然だ。


 ギレルモが歩いてきて、茂みの手前で止まった。ギレルモは銃口をレオナルドたちに向けている。


「そこから出ろ」


 声は怒りに覆われている、左目は血走り、右目に巻いた包帯は赤く染まっている。今にも引き金を引きかねない様子に、レオナルドは戦慄する。


「僕は先を急がなければならない。呪術を止めるためだ」


「おまえは、イバーラさまを殺した!」


 ギレルモの叫びにレオナルドは全身を硬直させる。ギレルモはフランシスコを神と崇めている。その神の命を絶った相手を憎むのは当然だ。


「聞いてくれ、ギレルモ。イバーラさんは望んで撃たれたんだ」


「黙れ!」


 叩き伏せるようにギレルモは怒鳴る。


「イバーラさまが銃を出したとき、俺は即座に断った。おまえは銃を受け取った。おまえは初めからイバーラさまを殺害する気だったんだ!」


 レオナルドは押し黙る。なにを言っても無駄だ。ギレルモは激情に駆られている。


「おまえを殺してやる。イバーラさまの仇討ちのために、おまえを蜂の巣にしてやる」


「やめなさいギレルモ!」


 制するアルベルトを無視して、マリーアが立ち上がって怒鳴った。


「おじいさまは既に死にかけていた。おじいさまを殺したのは、レオじゃなくてセミよ! それに、おじいさまが命じたことよ。あなたに、とやかく言われる筋合いはないわ!」


 激しい銃声が森に響いた。


 ギレルモが空に向けて自動小銃の引き金を引いた。マリーアが、蒼白な顔でへたり込む。アルベルトが慌ててマリーアの体を支えた。


「イバーラさまと血の繋がっていない小娘は黙っていてもらおうか。だが、イバーラさまの遺志を尊重しろという意見はもっともだ。レオナルド。おまえに、一度だけチャンスを与えてやる」


「チャンス?」


 レオナルドは訝しがる。このまま逃がしてくれるのか。しかし、そんな甘いことは言いそうもない。いったい、どうするつもりなんだ。レオナルドは緊張してギレルモの言葉を待つ。


 ギレルモは腰から一丁の拳銃を抜いた。そして弾を一つだけ残して全部抜き、マガジンを戻した。ギレルモは自動小銃を構えて、レオナルドに拳銃を放る。暗闇の中、取り落としそうになったレオナルドは、慌てて銃をつかんだ。


「その銃には一発だけ弾が入っている。今から五分やる。そのあいだに森の中に隠れろ。五分後に俺はおまえを追う。決闘をしてやる。もし俺を倒せば、おまえは自由になる。倒せなければ、俺に殺されて森に屍をさらすことになる」


 レオナルドはギレルモを見上げながら考える。こちらはたった一発の弾丸。相手は自動小銃だ。話にならない。蜂の巣にされてしまう。

 これは狩りだ。相手をなぶり殺すために、わざとわずかな希望を与えているのだ。


「さあ、行け」


 ギレルモは銃を構えて促した。ギレルモは体を動かし、地面に転がっている猟銃や拳銃を拾い集めて脇に抱える。アルベルトの助けを借りることはできない。自分一人で戦うしかない。


「アルベルトさん。僕がもし死んだらあとを頼みます」


「レオくん!」


 アルベルトは険しい顔をする。レオナルドは、無理矢理笑みを作った。


「じゃあ、行ってきます」


 レオナルドは森に向かって足を踏み入れる。


「五分だ!」


 ギレルモの怒鳴り声が響く。


 レオナルドは森を進み始める。自分は生きて帰れるのか。いや、生きて帰らなければならない。そうしなければ島は終わる。レオナルドはそのことに気づく。


 陥没穴への移動は、途中から徒歩になる。アルベルトとマリーアだけで、荷物を運んで縦穴まで行くことは困難だ。人数が要る。レオナルドが死んだあと、ギレルモが協力してくれるとは到底思えない。


 自分の仕事を全うしなければならない。島を救うために、フランシスコとの約束を守るために、ギレルモを倒す。

 レオナルドは覚悟を決め、緊張しながら森の奥へと入っていった。

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