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空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第八章 古より蘇りし呪術的世界
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第四十七話 悪霊たちの顕現

 レオナルドたちは広い庭を抜けていく。暗がりに無数の気配を感じた。

 黒々とした虫たちが、群れを成して地面を覆っている。そうした妄想が、レオナルドの頭をとらえて放さなかった。

 往路のときと同じように、足元でなにかが潰れた。その頻度は、徐々に増している。

 固い殻を踏み潰した感触が、靴を通して伝わってきた。背筋に緊張が走る。靴の裏を確かめようとしてやめる。巨大な虫の殻と体液がついているかもしれないと思ったからだ。


「ねえ、マリーア。悪霊の存在は感じる?」


 レオナルドはマリーアの様子を窺う。


「石像から離れた悪霊は、生きた虫になっているみたい。おじいさまの足と同じで、そうしたものは悪霊と認識できないみたい」


 しばらく移動したあと、マリーアが闇の一点を指差した。


「悪霊なら、あそこにいるわ」


 レオナルドは、マリーアが指し示す場所に視線を向ける。近くの森の入り口に。ずんぐりとした石像がある。表面には虫を表現した紋様が彫られている。その細い溝の隙間がわずかに開き、黒い粒が溢れ出しているように見えた。

 石像の下には、虫の群れがある。悪霊が現実の虫になっている。これまで信じていた世界の常識が、大きく揺らいでいることを、レオナルドは実感した。


 二人は、母屋の明かりを目指して走る。闇の中、長大な壁の近くでいくつかの光が閃いた。

 乾いた銃声が疎らにする。櫓から外に向けて撃っているのだ。その事実にレオナルドは戦慄する。既に屋敷の周辺は、戦場のようになっているのかもしれない。


「おい、誰かいるぞ!」


 声のした方に顔を向ける。視界の先に三人の男がいた。彼らは、レオナルドたちの行く手に立ち塞がる。


「てめえら、イバーラの屋敷の者だな!」


 暗がりの中、男の一人が言った。彼は鉄パイプを持っている。よく見ると、他の男たちも鉈や包丁を構えている。男たちの目は、興奮と陶酔でぎらついている。


「女もいるぞ!」


 鉈を握った男が手を伸ばしてきた。


「きゃあ!」


 腕をつかまれたマリーアが悲鳴を上げる。


「やめろ!」


 声を出した瞬間、レオナルドは顔面にパンチを食らった。目がくらみ、草の茂った地面に背中から倒れる。


 ギチギチギチギチ。耳元でなにかの音が聞こえた。


「つっ」


 耳を噛まれた。反射的に手を当てると血の温かさを感じた。指が虫の体に触れ、急いで振り払う。叢には五センチメートルを超える大きさの虫が這い回っていた。レオナルドは慌てて立ち上がる。


「こいつをやっちまって、女で遊ぼうぜ!」


 包丁を持った男が言う。


 なにか武器になるものはないか。レオナルドは、フランシスコからもらった銃があることに気づく。用途は違うが、ためらっている暇はない。ホルスターから取り出して、空に向けて一発撃った。


「こいつ、銃を持っているぜ」


「ひっ、逃げろ」


 男たちは、一目散に森へと逃げ出す。


「マリーア、こっちに!」


 叫ぶと、マリーアは駆けてきた。男たちに銃口を向けたまま、マリーアが背後に来るのを待つ。

 男たちが森に消えた。もう大丈夫だ。母屋に行こうとしたとき、森から悲鳴が聞こえた。声はしばらく続いたあと途絶えた。


 レオナルドは自分の耳に手を触れる。痛みが走る。ぱっくりと割れていた。そこには温かいぬめりがあった。


 男たちは虫に襲われたのかもしれない。先住民の呪いが形を成してきている。時間の螺旋が変容し、異なる時の流れと重なり始めている。徐々に現実と非現実の境が曖昧になっている。


 暖かい空気を感じた。これまでの島とは違う、熱帯をさらに超えた熱風が辺りを覆っている。

 レオナルドは、アルベルトの説明を思い出す。化石の虫たちが生きていた頃、島は今よりも高温だった。リベーラ島の環境は、その時代に近づきつつある。


「急ごう」


 レオナルドは告げる。レオナルドとマリーアは、屋敷を目指した。

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