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空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第七章 パズルのピースと呪術の謎解き
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第四十三話 血と薬物と拷問の果て

 工房に着いた。人の気配はない。マリーアの策略が功を奏したようだ。ギレルモとカルロスは正門にいるのだろう。


 レオナルドたちは建物に入り、奥の倉庫に向かった。ロボットの部品が無数に転がっている先に、扉が複数ある。

 アルベルトが、先住民たちが監禁されている場所と、チマリが連れて行かれた場所を教えてくれた。マリーアがポケットから鍵を出して、チマリのいる扉を開ける。倉庫内は、洞窟の中のように暗かった。


「明かりをつけよう」


 アルベルトがスイッチを押した。


 工作機械が雑然と置かれ、壁際の棚には部品の入ったプラスチックの箱が並んでいる。箱の合間には、紙の資料や古いパソコン、電源ケーブルもある。部屋の中央には木製の椅子があり、ぼろをまとった老人が座っていた。

 彼は、手足を椅子に縛りつけられて、うな垂れている。太腿や腕には無数の針金が突き刺さり、ハリネズミのようになっていた。


「ひどいな」


 一歩入ると血のにおいがした。

 チマリがまとった布は赤く染まっている。右腕の包帯は真っ赤に染まっている。床には血の染みが広がっていた。老人はゆっくりと肩を上下させていた。


 明かりに気づいたのかチマリが顔を上げた。

 表情が弛緩している。薬物を与えられたのだろう。目の焦点は定まっていなかった。口の周りには血がついていた。胸元には、肉のついた歯が付着している。


「ギレルモがやったのか」


 戸惑いながらレオナルドは近寄る。


「チマリさん」


 レオナルドが呼ぶと、ぶつぶつと小声でつぶやいた。


 チマリの声は曖昧で聞き取りにくい。口の中を切っている。歯も抜けている。上手く話せないために、苦労して声を出している様子だった。


 針金を抜いたり、縄を解いたりしてよいのか迷う。下手に動かすと、出血がひどくなる。どうすべきか考えていると、チマリの言葉が次第に分かるようになってきた。


「――クモを殺せばいい――」


 不明瞭な言葉のあいだに、そのフレーズが聞こえた。ギレルモは、呪術を解くにはどうすればよいのか尋ねたのかもしれない。これが答えなのか。


「チマリさん。教えて欲しいことがあります」


 レオナルドの言葉にチマリは反応する。


「クモというのは、時の螺旋を司るクモのことですか?」


 チマリは首を縦に振る。


「そのクモは、どこにいるんですか? どうすれば殺せるんですか?」


「クモを殺せばいい」


 駄目だ。チマリの意識は朦朧としている。もっと簡単な質問にしないといけない。イエスかノーで答えられるものにするべきだ。


「それは、二二二二一一一の数字に関係がありますか?」


 反応はない。


「悪霊に関係がありますか?」


 チマリは動かない。


「聖地に関係ありますか?」


 無反応だ。


「化石ですか?」


 沈黙したままだ。


「石像ですか?」


 うなずく。森に無数にある石像が、ヒントになると分かった。


「もしかして、クモの石像があるんですか?」


 レオナルドはこれまでに目撃した石像を思い出す。様々な虫の紋様が描かれていたが、クモに見えるものはなかった。あるいはクモの石像があるのではと推測する。

 じっと待つと、チマリは首を縦に動かした。


「それを見つければいいんですか?」


 チマリはぼんやりしたままだ。


「クモの石像を壊すんですか?」


 ゆっくりと頭を上下に動かす。レオナルドは拳を握る。

 クモの石像を探して破壊すればいい。先住民の伝承では、時の螺旋を支配するのはクモだ。そいつを殺せば呪術が解ける。次は石像の場所だ。


「クモの石像はどこにあるんですか?」


 返事はない。具体的な答えを求めるのは難しいか。レオナルドはもどかしさを感じながら必死に考える。


「アルベルトさん。クモの石像がどこにあるか分かりますか?」


 チマリでなくてもいい。クモの石像を見た人がいれば、案内してもらえばよい。


「見たことはないね」


「マリーアは?」


「私もないわ」


 レオナルドは再びチマリに顔を向ける。


「クモの石像の場所は知っていますか?」


 頭を左右に振る。そうか、知らなかったのか。それならば答えられるはずがない。

 レオナルドは落胆したあと自身を叱咤する。違う角度から質問してみよう。望む答えを得るために知恵を絞るんだ。


「島にある石像は、呪術と関係がありますか?」


 首が縦に動く。


「石像を手当たり次第に壊せば、呪術は止まりますか?」


 今度は横に動く。クモの石像を見つけなければ駄目だということか。


「きゃああ」


 マリーアが声を上げた。レオナルドは驚いて振り返る。マリーアは、チマリの足元を指差している。なんだろうと思って目を向けると、チマリの足を覆う布が蠢いていた。


 布の下から、万年筆ほどもある虫の足が何本も覗いている。その足は青白く、わずかに透けていた。それらは、ゆっくりと色づき始める。


 レオナルドはフランシスコの足を思い出す。皮膚の下に、拳大の虫の幼虫のような盛り上がりがあった。

 フランシスコと先住民は、同じ呪術の対象になっている。フランシスコの足は、五年前の銃撃によって動かなくなっていた。

 チマリの足も、拷問でひどく傷ついている。肉体の中で、死に近いところから変化が起きるのではないか。


「見て!」


 マリーアが指差す。チマリの手の甲が膨らんだ。レオナルドは観察する。

 皮膚が薄くなって破れ、その下から巨大な幼虫が這い出てきた。人間の体を苗床にして、虫が羽化しているようだった。


「卵、幼虫、成虫と変態する不完全変態だ。代表的な例は、セミ、カマキリ、トンボ、バッタ、ゴキブリになる」


 アルベルトが、学者の顔つきで説明する。これはセミだろう。四十九年を経た呪術が、現実世界に影響をおよぼし始めている。


 背後で物音がした。


 入り口に目を移すと、怒りを露わにしたギレルモが立っていた。


「おまえたち、そこでなにをやっている!」


 ギレルモは顔を紅潮させて拳を握っている。彼は肩から自動小銃を提げていた。レオナルドは戦慄する。自分たちを撃ち殺す気なのか。


「なにって、チマリさんに、呪術の解き方を聞いていたんだよ」


 レオナルドは緊張しながら質問に答える。ギレルモは、全身に力をみなぎらせて扉の前に立っている。彼は、虫に侵されたチマリの肉体を一瞥して口を開いた。


「いいか、呪術など存在しない! 全てはまやかしだ!」


 ギレルモは、吐き捨てるように言う。


 その言葉にレオナルドは驚く。フランシスコの足が変化していることも、チマリの肉体が変わりつつあることも、全て無視しようとしている。

 ギレルモは狂ったのか。それとも、自分たちが幻覚を見ていて、ギレルモ一人だけが正しい世界を認識しているのか。


「呪術は存在する。そして、それを解除する方法もある。クモの石像があるそうだ。そいつを破壊すればいいんだ。僕はその場所を探す」


「はっ!」


 ギレルモは、レオナルドを嘲笑う。


「そんなのは、そいつの出任せだ!」


 チマリの息は徐々に浅くなっている。顔の皮膚が薄くなり、無数の虫の胴体が浮かび上がる。


「こいつに呪術の力が現れるはずがない! 特別な力を持つのは、俺のイバーラさまだけだ。イバーラさまだけが、神に選ばれた人間なのだ!」


 ギレルモは叫び声を上げる。


 レオナルドは、ギレルモの考えていることが分かった。ギレルモはフランシスコのことを神格化している。だから特別な能力を持っていても、超自然的な現象が起きても許容できる。

 しかし、それ以外は認めることはできない。それを認めると、フランシスコは神ではなくなってしまう。そうなれば、ギレルモの中で整合性が崩れてしまう。


 銃声が連続して響いた。


 ギレルモは、肩から提げていた自動小銃で、チマリの体を粉々にする。

 レオナルドは、身を縮めて耳を塞ぐ。激しい音がやんだあと、ギレルモは顔を蒼白にして汗を流していた。椅子の上には、人と虫の肉が混ざった残骸が残された。


「おまえたちは、全てが終わるまでここに入っていろ!」


 憤怒の形相で、ギレルモは怒声を放つ。


 倉庫の外に出たギレルモが鍵をかけた。レオナルドは慌てて扉に駆け寄る。扉は内側から開けられない。蹴ったり叩いたりしてみたが、びくともしない。


 隣の倉庫の入り口が開く音がした。嫌な予感がする。老人たちが泡を食っているのが声で分かる。

 自動小銃の音と悲鳴が響いた。レオナルドは耳を塞いで体を縮こまらせる。ギレルモが大声で笑う。しばらくその声が続いたあと、ギレルモの足音が遠ざかっていった。

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