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空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第六章 先住民の生き残り
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第三十六話 分離する現実世界

 翌日、屋敷には、フランシスコの縁者たちが続々とやって来た。高級車が並ぶ様子を見ながら、レオナルドはギレルモの車に乗って屋敷を出た。


 運転席にギレルモ、助手席にレオナルドが座っている。車のあとには兵士たちが乗ったトラックがついてくる。その物々しさにレオナルドは疑問を持った。


 木々が作る影の下に入り、濃い緑に覆われた道を走っていく。レオナルドは窓の外をながめた。

 密林の中に石像がある。バスケットボールほどの大きさで、スーパーエッグと呼ばれる形をしている。表面には無数の糸を巻きつけたような浮き彫りの虫の模様が刻まれている。


 レオナルドは、石像の周囲にいくつかの動物の白骨死体が転がっているのを目撃した。

 安易に悪霊と結びつけるべきではない。生物の活動が盛んな場所だ。温帯や寒帯では考えられないほど早く、死体の分解は進む。白骨死体など、そこらにいくらでも存在する。


 フロントガラスの先に町が見えた。しばらくすると、十人ほどの集団に遭遇した。彼らは木の棒を手にして、格差をなくせと書いたプラカードを掲げている。

 デモをしている貧困層だ。それは持ち物からだけでなく、薄汚れた服からも察せられた。


 彼らは道を塞いで、車の通行を妨げた。ギレルモは仕方なくブレーキを踏む。車が停まったのを確認して、男たちが周りを囲んだ。


「おいっ、こいつのこと知っているぜ。イバーラの腰巾着だ!」


 男の一人が声を上げてギレルモを指差した。人々の目の色が変わる。ギレルモが苛立たしげに舌打ちした。


「こいつら、フランシスコ・イバーラの手先だ!」


 男たちは激しく窓や扉を叩く。


「みんな! 俺たちを貧困に落としているのは誰だ!」


「フランシスコ・イバーラ!」


「俺たちが倒さなければならない敵は誰だ!」


「フランシスコ・イバーラ!」


「俺たちが殺さなければならない相手は誰だ!」


「フランシスコ・イバーラ!」


 男たちは拳を掲げ、大声を上げる。


「面倒な奴らに出くわした」


 ギレルモが吐き捨てるように言う。


「倒せ、イバーラ! 倒せ、イバーラ! 倒せ、イバーラ!」


 男たちの声が周囲の空気を震わせる。


 ギレルモは窓を開け、拳銃を握った手を出した。囲んでいた男たちが慌てて距離を取る。

 銃口が空に向けられる。耳をつんざく音が響く。男たちが我先にと散らばった。ギレルモは、素早くアクセルを踏んで車を発進させた。


 男たちの姿が遠ざかる。窮地を脱したレオナルドは、ほっと息を吐いた。


「ねえ、ギレルモ。あの人たちは、ペドロの手下なの?」


「あのなあ、俺はおまえより年上だ。もっと敬ったしゃべり方はできないのか?」


「自分をさらった犯罪者に、敬意を払う必要があるの?」


「ちっ」


 ギレルモは不快そうに舌打ちする。


 しばらく車を走らせたあと、ギレルモが声をかけてきた。


「あいつらは不満のはけ口を求めているだけだ。ペドロの主張なんて、どうでもいいのさ」


「不満って、お金がないこと?」


「おまえ、馬鹿か」


「だって、そういうことだろう。それとも他に理由があるの?」


 ギレルモは真面目な顔をする。


「別に金に限ったことじゃねえよ。美醜、能力、権力、様々なものが不満の原因になる。

 人間ってのはな、他人が持っているものを、自分が持っていなければ、劣等感を抱く生き物なんだよ。周囲の人間と自分を比べて、怒り、恨み、悩む動物なんだよ」


 ――他人が持っているものを自分が持っていなければ劣等感を抱く。


 ギレルモの言葉に、レオナルドは胸をえぐられた。


「等しく貧しかった頃には、こうした争いは起きなかった。人間ってのは、他人と比較することで幸福や不幸を感じる。


 俺だって格差がいいなんて思ってねえよ。俺もカルロスも貧しい生まれだからな。底辺の人間の考えなんか百も承知だ。

 格差を解消するには、上にいる人間も、下にいる人間も痛みが伴う。歩み寄りが必要なんだよ。


 格差の上にいる人間は、金や労力を注ぎ込まないといけない。下にいる人間は、生活を変えなければならない。

 格差を縮小するってのは、そういうことだ。一方的に要求するだけでは駄目なんだよ。自分も行動しないといけない。

 だがペドロたちは、変化を拒否して格差を解消しろと叫んでいる。歩み寄りを拒んでいる」


 ギレルモは怒りを吐き出した。努力して上の階層にたどり着いた、彼らしい言葉だと思う。

 しかしギレルモの考えは現実的ではない。努力とは、それが許される環境にいる者ができるものだ。そして才能が要る。誰もが選べる選択肢ではない。


 ギレルモはアクセルを踏む。町の外周を、速度を上げて通過していく。再びデモに囲まれないように、なるべく早く通り過ぎようとしてるのだ。


 しばらく荒い運転が続いたあと町を抜けた。


「祖父母に会いたいから、寄ってくれない?」


「寄り道なんかする暇はない。島全体がぴりぴりしている。昨日の洞窟探査のときもそうだった。車で移動するのは最低限にする必要がある。

 イバーラさま直々の命令だから、仕方なくおまえを運んでいるんだよ。デモの中には、銃を持っている奴もいる。こっちは命がけなんだよ」


 ギレルモは苛立たしげに言った。


 兵士を乗せたトラックを伴っている理由――。


 フランシスコは唾を飲み込む。気軽に調べたいとフランシスコに提案したが、島がそれほどの緊張状態になっているとは知らなかった。

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