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空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第六章 先住民の生き残り
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第三十五話 島の呪術の二つの解釈

 ビデオ会議を終了した。BBの推測が正しいなら、この島の住人たちは、悪霊である巨大虫に殺される。もちろん島にいる自分も例外ではない。

 レオナルドは、会議の内容を伝えるために、マリーアと母屋に向かう。フランシスコの部屋に行くと先客がいた。ギレルモが今日のことを報告していた。


「あとの方がいいですか?」


「いや、レオくんとマリーアも一緒にいなさい。ギレルモに聞いたよ。大学の仲間たちと議論をしたそうだね。その話を、きみの口から直接聞きたいと思っていたところだ」


 レオナルドは、ディエゴがかけた呪術の解釈について語った。


「うむ」


 フランシスコは、真面目な顔でうなずく。


「その件で、ギレルモときみの意見は対立しているようだ」


「対立?」


「ああ。ギレルモ、きみの口から説明した方がよいだろう」


「はい」


 ギレルモは、レオナルドに顔を向ける。


「数字の解釈、先住民が化石の虫を神聖視していたという推測、そうしたものは合っていると思う。

 だが、悪霊が島民に災いをもたらすという内容は飛躍しすぎている。もっと現実を見るべきではないのか?」


 ギレルモは、蔑む視線を送ってくる。


 マリーアが、レオナルドの横で不満そうに頬を膨らませた。彼女は悪霊を目撃している。その事実を否定されたも同然だった。


「じゃあ、あんたはどういった解釈をしているんだ?」


 レオナルドは、挑むようにギレルモに問う。


「虫の力をイバーラさまが得て、経済的に成功した。そのことは否定しない。イバーラさま自身が信じておられることだからだ。

 そして、呪術が四十九年目に大きな災いに繋がる。それも否定しない。だが、実態については別のとらえ方をしている」


「悪霊ではないということか?」


「そうだ」


「じゃあ、あんたは、どんな災いが発生すると考えているんだ」


 ギレルモは鼻で笑う。


「島民による反乱だよ。イバーラさまの描く未来に反対して、暴力でもって金を奪い取ろうとする愚かな島民たち。

 四十九年かけてイバーラさまが富を得た結果、島内に血で血を洗う殺戮が起きる。これこそが現実的な解釈ではないのか?」


 レオナルドは押し黙る。確かにギレルモの言うとおりだ。

 先住民の呪術により、悪霊が現れて島の生き物を食べ尽くす。そんなオカルトめいた話よりも、余程筋の通った内容だ。実際に島では暴動が発生している。そして今にも爆発しそうになっている。


「反論があれば聞こうじゃないか」


 ギレルモが勝ち誇った顔で言う。この島に来る前の、そして屋敷で過ごす前のレオナルドなら、ギレルモの言葉に全面的に賛成しただろう。


「いいかレオナルド。今俺たちがしなければならないのは、悪霊とやらに対処することではない。

 イバーラさまの縁者を屋敷に集め、警備を強化して、攻め入ろうとする島民を撃退することだ。たとえ大量の血を流すことになったとしてもだ」


 ギレルモは目を血走らせる。


 レオナルドは背筋が寒くなった。それは大虐殺に繋がるのではないのか。

 島では五十年前にそうした事件が起きた。レオナルドは、自分が非常に危うい土地に来ていることを実感する。


「ギレルモの言うことはもっともだ。私の息子や孫たちを呼び、兵士たちに護衛させよう。個別に襲われれば対処のしようがない」


 フランシスコは電話を取り、指示を出す。そのあと彼は、レオナルドとギレルモの顔を正面から見た。


「さて、ディエゴの呪術の解釈についてだが、私はレオくんの意見に賛成している。そう考える根拠がある」


 フランシスコの言葉に、レオナルドとギレルモは驚く。


「周囲の人間にも隠していたのだが、そろそろ明かすべき時期だろう」


 膝の上にかけていた毛布をフランシスコは取った。そして、身を屈めてズボンの裾を上げる。

 フランシスコの動かない足は変形していた。皮膚の下に、拳大の盛り上がりがいくつもある。それは微かに蠢いていた。そして虫の幼虫を埋め込んだような形をしていた。

 フランシスコは裾を戻し、膝の上に毛布をかける。


「おじいさま……」


 マリーアは声を漏らす。


「呪術による変化は、物理的な現象のようだ。マリーアに分からなかったということは、霊的なものではないのだろう。

 私は、他の者たちよりも呪術のかかり具合が強かった。私以外の者にも、時間差で同じ変化が起きると推測される。


 今は四十九年目の夏だ。素数の周期のセミが現れる時期だ。呪術はいつ発動してもおかしくない。

 残された時間は少ない。私はこの島に起きる災いを防ぎたい。ギレルモ、レオくん。島の危機を救うために尽力して欲しい」


「はい」


「分かりました」


 レオナルドとギレルモは同時に返事をした。


「それともう一つ頼みがある」


 車椅子を動かして、フランシスコはテーブルまで移動する。引き出しを開けたフランシスコは、拳銃を取り出した。


「もし私が、呪術の影響で周囲に災いを振りまく存在になったら、殺して欲しい。私は人々に不幸をもたらす原因になりたくない。

 自分の命を投げ打ってでも人々を救う。それが貴族の務めだと思っている。その考えに反することはしたくないからな」


 フランシスコの目は真剣だった。彼はギレルモに拳銃を差し出した。


「それはできません!」


 ギレルモは拳を握り、下を向いた。ギレルモはフランシスコに心酔している。その相手を自ら葬ることは避けたいはずだ。


「そうか」


 フランシスコは拳銃を持つ手を下げる。


「それでは、レオくん、きみにお願いしよう」


 レオナルドは目を見開く。ギレルモが驚きの顔で、フランシスコとレオナルドを見比べた。レオナルドは緊張で身を硬くする。

 拳銃ならアメリカで持っていたし、撃ったこともある。しかし、この拳銃を受け取る意味は、それらとはまるで違う。


「きみは、呪術について調べ、どうしたいんだね?」


「できれば、祖父や祖母の住む、この島を救いたいと思います」


「島の人間を救うということは、島の人間に害を成す相手を、排除するということだ。きみに、その覚悟があるのかね?」


 レオナルドは押し黙る。


「なにかをするためには、相応の責任を負わなければならない。知的遊戯に興じたいだけならば、アメリカに戻った方がよい。

 私は差し迫った問題に対して、現実的な手を打ちたいのだ。それが私自身を滅ぼすことなら、そうすることもやむなしと考えている。

 今一度問う。きみには覚悟があるのかね?」


 フランシスコが、なぜ尋ねているのか分かる。島で生まれ、島に血族が多く住むギレルモと違い、レオナルドはよそ者だ。遊び半分で関わっているのならば、首を突っ込むなと言っているのだ。


「必要なときにはきっと」


 レオナルドは拳銃を受け取った。


 横にいるギレルモが、火を噴くような目でレオナルドをにらむ。レオナルドは硬い体のまま、その視線を受け止めた。


「今後は、どうする予定だね?」


 フランシスコは、二人に尋ねる。


「もう少し、情報を調べてみたいと思います」


 レオナルドは、島について詳しくない。まだ見落としていることがあるかもしれない。根本的なところでミスを犯している可能性もある。

 そもそもレオナルドが得た情報のほとんどは、伝聞や資料を通してのものだ。自分の目で見て、耳で聞いて、体験したものではない。


「まずは、ディエゴさんについて情報を集めます。彼のことを知っている先住民が、まだ生きていると思います。彼らが暮らしている場所に行きます」


 フランシスコは、ギレルモに顔を向ける。


「ギレルモ。明日の朝一番で、レオくんを先住民の集落に連れて行ってやれ」


「――はい」


 ギレルモは不服そうに答える。


「レオくん」


「なんでしょうか」


「きみが改めてディエゴについて調べることは、意味があると思う。きみの目で、新たな事実を発見できるかもしれない。吉報を待っているよ」


 フランシスコは、レオナルドたちの姿を見て言った。


 レオナルドとギレルモは、フランシスコの部屋を出た。マリーアはそのまま残ってフランシスコと話をするそうだ。


 廊下に出たあと、ギレルモが鋭い目をレオナルドに向けた。


「拳銃の話を振られたとき、なぜ断らなかった!」


「イバーラさんが望んだから」


「おまえは、それが、どういうことなのか分かっているのか?」


「分かっているつもりだ。僕にその役が回ってくれば、しなければならないだろう」


 ギレルモは、憎悪の目でレオナルドを見る。


「拳銃をよこせ」


「これは、イバーラさんが渡したものだ」


 ギレルモは、怒りで全身を震わせる。フランシスコの命令を絶対と考えるギレルモは、レオナルドの手から拳銃を奪うことができない。

 拳を強く握ったあと、ギレルモは再び工房へと消えていった。


 レオナルドは、これでよかったのかと自問する。そして、これからどうするか考える。

 全身に疲労が溜まっていた。明日は先住民の住む場所に行く予定だ。今日は早めに寝た方がいい。

 レオナルドは兵士にホルスターを手配してもらったあと、寝室に向かった。

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