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空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第五章 電脳世界の遠隔会議
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第三十一話 原始呪術のロジック

「基本的に呪術ってのは、人間の認知にのっとった世界把握が基本になっている。

 後代の儀式化したり宗教化したりした呪術は脇に置いておく。原始的な呪術を大きく分けると、イコールと、ノットイコールの世界になる」


 BBは、ビデオ会議ソフトのチャット機能で、文字を送ってくる。


  =  イコール

  ≠  ノットイコール


「仮にこれを『同一視』と『区別』という言葉で表そう。同一視は、AとBが同じと見なすこと。区別は、AとBが違うと見なすことだ」


 再び入力を送信する。


  A=B  同一視

  A≠B  区別


「同一視の呪術の一例を挙げよう。雨乞いをするときに、雨を真似て水を撒き、雷を真似て太鼓を叩く。そうすることで、雨が降るはずだと期待する。


 これは人間の認知の仕方から派生した思考様式だ。

 AとBを同一視した場合、AとBは共通の動作をしたり、特徴を持っていたりするはずだと解釈する。だから人間は、雨乞いのような呪術が成立すると信じる」


「区別は?」


 レオナルドは尋ねる。


「この逆だ。AとBを違うものと見なす。その結果、AとBは違う特徴を持ち、異なった働きをすると考える。


 有名なところでは、聖と俗の領域を分ける結界がそうだ。

 空間に境界を作り、そこに認知上、区別可能な特徴を設ける。そして、Aで起きていることがBにおよばないと定義する。

 脳内でそう処理されるから、現実もそうなるはずだと断定する。呪術は基本的に、この二つの概念が基本になっている」


「それで、今回の話については?」


「ディエゴ・ロドリゲスがかけた、島民を全滅させる呪術だな。副作用として、フランシスコ・イバーラが特殊な能力を獲得したという。

 これは一見理解を超えた出来事に見える。しかし、人間が計画を立て実行したのならば、それは人間の認知システムにのっとったものになるはずだ。

 話を聞いた限りでは、この呪術は、同一視の理論によって成り立っているように思える」


「理由は?」


「キーワードは虫だ。虫の能力を得たフランシスコ・イバーラ。先住民の聖地から発掘した虫の化石。マリーアお嬢ちゃんが見ている虫の姿をした悪霊。リベーラ島の祭りで、死と再生の象徴として扱われるセミ。時の神として崇められていたクモ。


 厳密に言うとクモは虫ではない。しかし先住民は区別していなかっただろう。広義の意味での虫。そう考えると全てに虫が現れる。そこになんらかの関係があると思うのが、普通の人間の思考だ。

 俺がもし呪術師ならば、この共通点を利用する。そして虫の世界を模倣する呪術を考案する。


 複数のものを同一視して重ね合わせるのは、呪術の典型的な手法だ。たとえば虫なら、エジプトのスカラベのお守りが好例だ。


 古代エジプト人は、スカラベ、つまりフンコロガシを、太陽神ケプリと似たものと考えた。丸めた糞を転がすことを、太陽を移動させることと同じと見なしたからだ。

 そしてスカラベを太陽神と重ね合わせた。さらに再生や復活の象徴である聖なる虫として崇めた。そうした概念を下敷きにして、フンコロガシを象った石のお守りを作ったんだ。


 お守りはただの石だ。だがそこに、フンコロガシを重ね、太陽神ケプリをだぶらせ、太陽そのものを融合させる。そうすることで、ただの石に呪力を持たせる。こうした世界観の構築が、呪術の手法になる。

 そこには観察と類推がある。よく似た事象であるほど、呪術は人間にとって認知しやすく効果を上げる。


 フランシスコ・イバーラに起きた副作用についても、同様の推測がおこなえる。

 彼が磁気を見る能力を得たのは、呪術が強くかかったせいだけではない。それに加え、事前に虫と磁気の関係を知っていたことが、認知を歪ませたのだろう。その結果、元々の呪術に副作用が生じて、特殊な力が発現したわけだ」


「虫のイメージや知識。本当にそうしたものの重ね合わせで、不可解な現象が起きるの?」


「ああ。起きるんだよ、この世界ではな。信じる力や狂気によって、現実というものが、ねじ曲げられるんだよ」


「しかし、これまでの僕の人生で、そんなことは一度もなかったよ」


「そうかもしれない。だがな、人間は自分がどの世界に属しているか、把握してなんかいない。

 端的な話、ネットを通して話している俺とおまえが、同じ世界に属しているかも怪しい。おまえがいる島が、俺がいる場所から見て実在しているかも保証されていない。

 この世界は、いともたやすく断絶する。


 たとえば、紙の本で小説を読むとき、連続した物語だと思っていても、実際はページ単位で細切れになっている。それと同じで、時間や空間というものは、人間が考えているほど連続していない。

 無数の可能性の波の上を渡り歩いている。そして今、おまえは過去に呪術が使われていた土地にいて、呪術的仕掛けに直面している」


「その呪術の鍵になるのが、二二二二一一一の時間を表す数字」


「そうだろうな。リベーラ文明の本質という、日記の記述が正しいなら、この数字の意味を理解する必要があるだろう」


 BBはしゃべり終えたあと、スナック菓子の袋を、口の上で一気に傾けた。

 話が一段落ついたと判断したのだろう。クレイグが、レオナルドに語りかけてきた。


「レオ。アン・スーに、数字が書かれた日記のページを見せて欲しい。そこには、口頭以上の情報があると思うんだ。

 きみが不要と考えていても、アン・スーには手掛かりになる情報が隠されているかもしれない」


 レオナルドはうなずいて、日記を手に取った。

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