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空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第三章 島の富豪の呪術的過去
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第十九話 英雄アスカトルと教師ディエゴ

 フランシスコが自身の体験をわざわざ話すのは、バギーラの開発を通してレオナルドの能力を認めたからだ。同じチームの一員として問題解決に当たらせるために、フランシスコは必要な情報をレオナルドに与えようとしている。


「切っ掛けは二年前のことだ。私は二冊の日記を手に入れた。先住民の生き残りが所有していたものだ。書き手は、虫の呪術を私にかけた相手だよ」


 驚いてフランシスコの顔を見る。フランシスコはうなずいて話を続ける。


「五年前、私は銃で撃たれて、歩き回る自由を失った。そして死を意識するようになった。そこで自分に呪術をかけた人物のことを調べようと思い立った。この先、子孫に、私が獲得した能力が必要になるかもしれないと考えたからだ。


 何人かの人を雇い、それぞれに足跡をたどらせた。

 ただ、先住民から話を聞くのは難しかった。先住民は今でも入植者を憎んでいる。当然だ。自分の家族が無残に殺されたのだからな。そのため、集めた情報は、入植者たちからのものが中心になった。


 調査の過程で、元警察官の男が呪術師の日記を入手した。真贋を疑ったが、内容から本物だと判断した。

 ページには数学的知識を元にした書き込みが多かった。彼には、そうした記述ができる学問的な素養はなかった。


 彼は日記を届けたあと失踪した。日記は先住民たちの集落にあったのかもしれない。もしそうなら、そこから盗み、先住民たちから報復を受けた可能性もある。私の依頼で命を落としたのならば、痛ましいことだ」


 フランシスコは、沈痛な面持ちをする。


「日記を書いた呪術師の名は、ディエゴ・ロドリゲス。スペイン系白人で、裕福な家庭に生まれた。彼は大学で数学を学び、教師になった。

 ディエゴは貧しい地域の人々に教育を与えることを望み、リベーラ島にやって来た。その時期、島は先住民と入植者のあいだで対立が起きていた。ディエゴは、最も貧しい者たちが自分の生徒であると信じ、先住民の集落に入り、小さな学校を建てた。


 そこでディエゴは一人の若者に出会った。アスカトルという褐色の肌の青年だ。

 アスカトルは先住民の王の末裔で、入植者に先住民の権利を主張して歩いた。彼は抵抗運動の若き指導者として、島の入植者たちと小競り合いを繰り返していた。ディエゴは彼に感化された。


 アスカトルの周囲には、いつも島の呪術師や賢者たちがいて助言をしていた。

 ディエゴはアスカトルの信頼を得て、集団に加わるようになった。二人のあいだには友情が芽生えた。アスカトルの傍らには、いつもディエゴの姿があった。


 英雄アスカトルの活動は、島中に広がった。島は、絶えずどこかで乱闘の音が聞こえた。

 アスカトルたち先住民と入植者は、決定的な対立にいたった。入植者は銃を持ち、先住民の集落を襲った。女も子供もなく射殺された。老人も赤子も死体になった。

 無差別の大虐殺だよ。その事件で、指導者のアスカトルも殺された」


「その後、ディエゴさんは?」


「しばらくは目撃がなかった。そして、島民に『幸運を授けよう』と声をかけ始めた」


「イバーラさんにかけたという呪術は、アスカトルと行動をともにしていた頃に?」


「おそらく先住民から学んだのだろう。機会は豊富にあった。島の伝承や神話、そして呪術。そうした知識を吸収するだけの高い知性も持っていた。


 彼の日記を読むことで、なにをしていたのか断片的にだが判明した。日記には、こう書いてあった。

 島の住人を滅ぼすために呪術をかけた。呪術のかかり具合は、人により大きく異なる。だが彼らは虫の贄となる。四十九年後に、島の住人は死に絶える。


 幸運を授けると触れ回っていた呪術が、島の住人を滅ぼすためのものだった。そしてそれは四十九年かかる遅効性のものだった。

 元々即効性のある呪術はなかったのかもしれない。あれば先住民たちが、虐殺の前に使っていただろうからな。


 おそらくディエゴは、先住民たちの集落で呪術を体験した。そしてそれは先住民ではない彼も使えるものだった。そうした背景がなければ、ディエゴは行動におよばなかったはずだ。

 日記を読む限り、先住民の呪術は、彼の知性を満足させるものだったようだ。


 ディエゴは既に亡くなっていた。だから、その内容を問い質すことはできなかった。しかし私には、呪術が真実だと判断する根拠があった。私は呪術の影響で、他人が持たない力を得た。これは現代科学では解明できない超自然の現象だ。


 災いが起きると予感させる出来事もあった。マリーアの見る世界の変化だ。

 彼女とその母親は、かつて島に住む存在を精霊、スピリットと呼んでいた。だが、徐々にマリーアは呼び方を変えていった。

 忌むべき存在、嫌悪すべき敵。今では明確に、悪霊――エビル・スピリット――と、島に住む存在を呼んでいる。そして悪霊は、餌を切望していると言っている。


 島民の全滅が本当に起きるのかは分からない。だが、なんらかの大きな災いが近づいている可能性がある。私は島の未来に責任を持つ人間として、そのことを憂慮した」


「もし、島を滅ぼす呪術が本当にかけられていたとして、ディエゴさんは、なぜそんなことをしたんですか? 虐殺に関与していない、無関係な人も多くいたでしょうに」


「初めての土地。先住民との接触。英雄的指導者。劇的な対立。大虐殺。その場に身を投じていれば、正常な判断を失ってもおかしくない。復讐のために、島の住人全てを滅ぼそうとしても、なんら不思議はないよ」


 大きなため息をフランシスコは吐いた。


「それ以外に分かっている情報はあるんですか?」


 フランシスコは呪術師について調べた。この富豪の性格だ。そこで手を止めることはないはずだ。

 先があり調査結果が洞窟探査に繋がっている。レオナルドは全てを知ろうとする。フランシスコはうなずき、続きを語りだした。

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