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空想科学オカルト小説 南方呪術島の冒険  作者: 雲居 残月
第三章 島の富豪の呪術的過去
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第十七話 神からの贈り物

 プログラム完成の翌日、レオナルドは母屋の廊下を歩いて、フランシスコの部屋に向かった。

 扉の前でボディチェックを受ける。兵士が中に声をかけ、通すようにと返事があった。

 部屋に入ると窓のそばに、車椅子に乗った老人が見えた。フランシスコは、レオナルドに向き直り、モーターの音とともに近づいてきた。


 この日、朝に執事から伝言があった。プログラムの完成を知ったフランシスコが、レオナルドに会いたがっていると。

 ギレルモも一緒かと尋ねて、一人だけだと言われた。断る理由はなかった。聞きたいことは山ほどあった。


「よく来たな。そしてご苦労だった。今日の午後の探査は、私やマリーアも同行するよ」


 フランシスコは上機嫌だった。既に七十歳だというのに、その姿は活力に満ち、目は若い輝きを保っている。


「どんなプログラムを書いたのだね? きみの口から直接聞きたい」


 レオナルドは簡潔に報告する。フランシスコは時折質問しながら、熱心に耳を傾けた。


「よく分かった。それで成功の見込みはどのぐらいだと思うかね?」


「五分五分といったところだと思います。

 アルベルトさんが調査して事前に想定した問題には、全て対策をしています。また、予定外のことが発生した場合に、対処できる機構も用意しています。

 ただ、想像を遥かに上回るトラブルが起きれば、失敗することもあるでしょう」


「うむ」


 失敗するかもしれないと告げても、フランシスコの態度は変わらなかった。一度や二度の挫折ではくじけない。そうした精神の強靭さが、その態度から感じられた。


「ときに、レオくん」


 フランシスコは、レオナルドの名前を愛称で呼ぶ。


「きみには他人よりも秀でたプログラミングの能力がある。きみは能力というものを、どういう風に考えているかね?」


 フランシスコの口調には、親しげな様子がにじんでいる。レオナルドには、兄たちのような天才的な力はない。それでも、他の人間よりは高い能力を持っている。


「ギフト」


 短い言葉で表した。

 レオナルドがプログラミングについて理解し、短時間で大量のコードを書けるのは、努力とは無関係の要素が大きい。複雑な構造を把握し、その因果関係を洞察できる脳の器質的な特性。それは獲得したものではなく、神から授かったものだ。


 レオナルドの回答を得て、フランシスコは満足そうにうなずいた。レオナルドは、同じ質問をフランシスコにぶつける。


「イバーラさん。あなたは一代で大きな富を築きました。その能力について、どういった感想を持っていますか?」


 車椅子の上で、フランシスコは笑みを漏らす。


「ギフト。ただし、私に力を与えたのは神ではないがね」


 フランシスコの言葉に、レオナルドは疑問を持つ。神でないなら誰だというのだ。


「マリーアが、あなたは地下を覗けると話していました。それはどういった意味なのでしょうか。もしそうした能力があるのなら、アルベルトさんのやっている物理探査は不要ですよね?」


「あの子が、地下が見えると言ったのかね?」


「はい」


「まあ、間違っていない。ただ正確ではないがね。それに、私は地下の様子を詳細に把握できるわけではない。私が認識できるのは、もっと大雑把で偏ったものだ。だから物理探査は必要だよ」


「できれば、詳しい話をお聞かせ願えないでしょうか?」


 レオナルドが尋ねると、フランシスコはうなずいた。


「いいだろう。では、レオくん。きみは、世界の見え方というものについて、どういったイメージを持っているかね?

 目で見る世界、音で聞く世界。動物は同じ空間にいながら、それぞれの感覚器を通して、脳内に異なる世界を描き出している」


 マリーアと似たことを言っている。レオナルドはフランシスコの言葉の意味を考える。

 暗闇の中でバギーラを操作するために、レオナルドは複数のセンサーを利用した仮想空間プログラムを作成した。その空間は、視覚を通して認識する世界とは違う。しかしそれは紛れもなく世界の一つである。

 同じ人間でも、色覚異常により色が欠けた世界を見る者もいる。光のない世界、音のない世界、そうした世界で暮らす人もいる。


「一つ実験をしよう」


 フランシスコは、懐から拳大の金属の塊を出してレオナルドに渡した。


「隣の部屋にこれを隠してみろ。外部から見て、分からないようにするんだ」


 手品でもするのか。訝しがりながら、レオナルドは隣室に移動した。


 本棚や引き出しが壁沿いに並び、中央には机や椅子がある。隠し場所には困らない。

 天井に視線を巡らせ、監視カメラがあるか確認する。見えるところにカメラはない。あったとしても、そうした方法で探し当てたと言いたいわけではないだろう。


 レオナルドは壁際の引き出しの前に立つ。その場所に入れたか分からないように、体で影を作りながら、そっと金属の塊を入れた。

 同じような動作を、複数の引き出しに対しておこなう。さらに、家具の移動で場所を探るつもりかもしれないと思い、いくつかの引き出しをわざと少し開け、家具も動かした。


「隠し終わったか?」


「はい」


 壁の向こうの声に答える。扉が開き、フランシスコが部屋に入ってきた。

 車椅子に乗ったフランシスコは、まっすぐ引き出しに向かい、中から金属の塊を取り出した。


「どういう仕掛けなんですか?」


「仕掛けはないよ。敢えて言うなら、五十年近く前に受けた呪術の影響だな」


 呪術――。フランシスコの口にした言葉を、心の中で反芻する。


「納得していないようだな」


「ええ」


「呪術といっても、絵本や物語に出てくる魔法のようなものではない。恨みによって人を呪い殺すものでもない。その全体像は、調査している私にもまだ分からない。

 しかし私は、自身に起きた現象と複数の根拠から、その実在を確信している」


 想像がつかない。いったい、どういうことなのだろう。


「少し、話をしよう」


 フランシスコは、椅子に座るようレオナルドを促した。席に着いたレオナルドは、老富豪の言葉に耳を傾けた。

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