ラプンツェル
こういう話だったらいいな
「いいかい、ラプンツェル。外には『王子』という怪物がいる。見たら目をくり抜かれ、口をきいたら舌を抜かれてしまうからね。」
とある森の中。空を刺すように、魔女が建てた塔がそびえ立っていました。
階段も梯子も無く、あるのは一つの四角い窓。そんなところに1人の少女が住んでいました。
名はラプンツェル。明るく好奇心旺盛な子供でした。
「いいかい。今から出掛けてくるけど、もしー」
「もし王子様が話しかけても返事をしない、何が起こっても下は見ない、でしょう?」
しわがれた老婆の声を遮るようにラプンツェルは言った。『聞き飽きた』というジェスチャーをしながら、口を尖らせる。
「もう、お母様ったらいつも同じことを言うんだから。王子様なんて興味無いわ。」
「あたしゃ心配してるんだよ。あんたはいつも、突発的なー」
「あー、はいはいはい。わかった、わかったから!気をつけます!」
ラプンツェルは再び声を遮り、丸まった背中を両手で押した。
「行ってらっしゃませ!」
やれやれとため息をつきながら、母親は窓から垂れ下がっている美しく長い髪を使い、塔を降りていった。
「本当にお母様ったら、心配性なんだから・・・・・」
ラプンツェルは文句を言いながら、乱雑に置かれている本のひとつを取り、読み出した。
例のごとく下から王子から話しかけられようと、楽しそうな音楽が聞こえようとラプンツェルは母親の言いつけを守った。
しかし、先程放った言葉とは裏腹に好奇心旺盛な少女にはそれが苦痛だった。
そんなある日のことでした。白鳩が塔に飛んで入ってきたのです。脚に何かを付けて。
「手紙…?」
鳩へ1度手を伸ばし、直ぐに引っ込める。
怯えて逃げるのでは、と思ったが白鳩はジッと少女を見つめるだけで、そのような素振りは無い。
そっと括り付けられていた手紙をありがとう、と言ってから取る。
読むかどうか躊躇ったが、
「読むくらいなら、ね」
と自分に言い聞かせるように呟き、手紙を読む。
自分の息を呑む音が聞こえた。
それはそれは美しい詩でした。外の出来事が手に取ってわかるような詩。
ラプンツェルは読み終えた後、部屋に散らばっていた紙を1枚取り、『美しい詩をありがとう』そう書いて白鳩の脚に括りつけて外に飛ばしました。
これをきっかけにラプンツェルは何度も、母親に内緒で文通をし続けた。そして10通目、そこには衝撃的なことが書いてあった。
『貴女の母親は嘘をついている。何よりも、あいつは魔女だ。僕が化物なんて貴女を閉じ込めるだけの口実だ。母親を信じている限り、その狭い塔から一生出られない。そんなこと僕がさせない。一緒に逃げよう。』
「そんな…」
あの時の詩を読んだ時から、うすうすは母親が嘘をついていることは勘づいていた。
それでも今の自分のためで、いつかは塔から出してもらえる。そう信じていた、のに。
少女の悲しみを感じ取ったのか、王子が塔に声を投げかける。
「泣かないでおくれ、可愛いラプンツェル。大丈夫、僕と逃げよう。」
嗚咽をあげるラプンツェルの耳に届いた優しい言葉。
「王子様…」
初めてちゃんと聞いた、日向のように柔らかい王子の声。
ラプンツェルは決意をする。
涙を手で拭い、窓から下を見る。
「ええ、一緒に逃げまー」
生まれて初めて見た、下の景色。
塔を見上げていたのは、首がない異形な形をした無数の『王子様』。
愚かなラプンツェルの選択は、長年魔女が守り続けていたものを全て壊しました。娘のために張っていた結界は壊れ、美しく見せていた外の風景は本来の姿に、綺麗な鳥の声は聞いたこともないような不響和音となり塔を飲み込みました。
今まで少女を守っていたものは消え、何人もの『王子様』が『お姫様』を求めて塔を登る。
「ラプ、ンツェル。ボクノラプンツェル、ラプンツェルラプンツェルゥゥゥ!」
塔が揺れ、不快な金属音のような声がだんだんと近づいてくる。
「い、いや…」
ラプンツェルは恐怖のあまり、後ずさることしかできない。
1人目の『王子様』が窓に辿り着き、ラプンツェルを触れようとしたその時ー
バチッ
「だからあれほど言ったのに、困った子だねぇ」
暖かい声が聞こえた。
瞑っていた目を開ける。
眼前には白髪をなびかせ魔女が立っていた。
背をぴんと張った魔女は、早口で何かを唱える。
手中の杖先が赤く光った。
それと同時になだれ込むように塔に入ってきた『王子様』。
杖から発せられる光が強くなる。
「来な。私の子には指一本触れさせないよ」
そう言い、気高き魔女は笑った。
はいどうも、さっき独り言で呟いた「うどんを啜っただけなのに」が「スマホを落としただけなのに」に似ていることに気付いて喜んでたスメイスです。
本作を読んでいただきありがとうございます。魔女がこんなだったらカッコイイなぁ、と思い書かせてもらいました。他にも赤ずきんや白雪姫もあるのですがその気になったら書きます。
じゃノシ