俺の妹に花嫁は早すぎる!!
不定期になるので、取り敢えず短編で様子見です。
オロチ編とシンクロしており、此方は『斎藤正哉』視点で進んでおります。
7年前の夏……
俺……『斎藤 正哉』は、幼馴染で相棒の『瑞樹 千尋』を1度━━━━失った。
ウチの親からは、交通事故と聞かされて……面会謝絶だと言うので、見舞いにも行けず……
仕方なく、何時もの秘密基地へ出掛けたのだが━━━━その日は妹の『紗香』が着いてきた。
妹が居るときは、俺が先行し蛇が居ないかと足元を見て進み、後ろに千尋が居て、妹の紗香を引っ張ってくれる━━━━
そんなフォーメーションで進むのだが……千尋が居ない事を失念していた俺は、先行し過ぎてしまい。
気が付いたときには、妹が山の中で迷子になってしまった。
その後、大人たちと一緒に捜し回り、妹を見付けた時には、日付が変わるちょっと前で……
結局、秘密基地に居たのだが━━━━
今でも、あの孤独と不安で泣きじゃくった、妹の顔を思い浮かべると……もう二度と独りにしちゃ行けないと、何度も心に刻んだ。
今思うと……あれからだな……妹に対して過保護になったのは━━━━
懐かしの思い出を、感慨深く脳裏に浮かべながら、大きく成った妹の姿に喜びを感じる今日この頃。
暑さも極まり、セミの声が五月蝿く鳴き響く、8月某日……学園は、絶賛夏休みの真っ只中。
そんな酷暑の北関東で。つい、半年前まで通った、中学校の体育館の裏手にて━━━━━━
俺は、職務質問を受けていた。
「えーと……学生証によると……斎藤 正哉君で良いのかな?」
「ふっ……それは、ちょっと違うな。補足しよう。俺は、『妹ラブ』の斎藤 正哉16歳! 今日体育館でバレーボールの試合をする、斎藤 紗香の兄で、趣味は……『妹』だ!!」
…………
警察官は、肩に掛けた無線のスイッチを入れると
「…………本部、不審者を1名拘束します」
「何でだあああ!」
こんな処で、捕まってたまるか! まだ、紗香の勇姿を撮って無いのに
「あ、待ちなさい!!」
逃げ出した俺を、追って来る警官だが
こんな日の為、毎日5キロ走り込んでる俺に、追い付けると思うなよ。
しかし、問題がある。
捕まらずに逃げるのは簡単だが、その間のバレーボールの試合が観れないのだ。
俺は、スマホを取り出すと、数ヶ月前、龍神の力で女の子になった親友に電話を掛ける。
『はいはーい、正哉って、あれ? 今日は紗香ちゃんの試合じゃなかったっけ?』
「それなんだが、千尋。追われている俺の代わりに、体育館で紗香の試合を撮って欲しいんだ」
『はぁ? 追われてるって、鴻上さんか?』
「ちげぇ! そっちは、今朝まいた。今追われてるのは警察だ」
『……なーに、やらかしたんだよ』
「知らねーよ! 体育館裏側の、逆光にならないベストポジションで、三脚立ててたら職質されたんだ!」
『職質って……お前なぁ、試合している選手の親族って言えば、問題ないだろ』
「まったく分からん。兄だって言ったんだが、追われたんだよ」
『だいたい、親族は中で観戦出来るだろ? 何で外なんだ?』
「いや、まぁ……去年、在学中に色々やらかしてるから、体育館に入れて貰えなかった」
『…………そうだったな……半年前のバレンタインの時なんか……放送室乗っ取って、今年のバレンタインは中止です! なんて遣るから、カップルの非難浴びるし、放送無断使用で呼び出されるし、散々だったんだから』
「バレンタイン? そう言えば、そんな事もあったな」
『そんな事って、お前なぁ……放送室の前で、見張ってただけの僕まで、共犯で怒られたんだぞ』
「あれは悪かったよ。まさか、あんなに早く、捕まると思わなかったし」
『他にも、夏のプール開きの時に、プールの中にキンキャン放り込んだ時も……』
「キンキャン? ああ、メンソール系の塗り薬な。あれも凄かった」
『お陰で、プールの授業処じゃなくて、代わりに校庭走らされるわ、放課後罰としてプール掃除させられるわ……』
「まったく、生徒を何だと思ってるって話だよな。酷暑でマラソンとか虐待だぜ」
『正哉お前……自分のせいって自覚無いだろ』
千尋は電話の向こうで、大きくため息をつくと
仕方ない、僕が行って試合を撮るよ。と言って、再度ため息をついた。
「恩に着る。今、試合前のウォームアップしてたから、5分以内で頼む」
『そんなに早く行けねーよ! まぁ、出来るだけ急いで行くわ』
頼む! と言って電話を切ると、校門脇に止めておいた自転車に跨がり、疾走するが、相手はパトカーだ。
どう足掻いても、部が悪すぎる。
ましてや、狭い路地が要り組んだ都会ではなく、遮蔽物の無い、直線の農道が続く田舎道なのだ。
『前を走る自転車、大人しく止まりなさーい』
パトカーは、サイレンを鳴らしながらマイクで停車を呼び掛けてくる。
く、逃げ切れないか……
「こうなったら、奥の手だ」
俺はポケットから、丸い花火を取り出すと、火を着けて前方へ投げた。
(※良い子は真似しないように)
何故前方へ投げたかって?
それは、煙玉の花火から煙が上がるまで、タイムラグがあるからさ
やがて……煙玉から煙がモクモクと上がり、煙幕を張る。
「見たか! これぞ煙遁の術!」
『キサマー道交法違反だー』
パトカーのスピーカーから怒号が飛び
『新井巡査部長落ち着いて……』
隣の警官が宥めて居るのまで、スピーカーから流れてしまっていた。
これで、追って来れまい。
俺は躊躇なく、煙幕へ飛び込む━━━━
━━━━が
その煙幕の中で、軽トラックが視界に入った。
「危ねー。おっちゃん轢く気か!?」
「いや~、急に煙で前が見えなくなってな……済まん済まん」
「済まんで済んだら、警察要らねぇーちゅうの!」
そこで、誰かに肩を掴まれる。
「そうだな……済まんで済まないから、逮捕する」
「げっ! 新井」
「新井じゃねえ。新井さんだろ! ほら、手を出せ手錠を掛けるぞ」
カチャリと刑事ドラマのように手錠がされる。
「ふ、バカめ! それは大根だ」
「なんだと!? お前は忍者か!」
俺は咄嗟に、軽トラの荷台の大根を、身代わりにしたのだ。
煙幕の中で、良く見えて無いから出来た芸当なので、皆は真似するな!
自転車に再度跨がり、煙幕を抜ける。
「おのれ~逃がすな! 追え!」
「駄目です。軽トラックが邪魔で……」
パトカーの運転手が残念そうに肩を竦めて言い放った。
ふっふっふ。逃げ切ったぞ。
「また会おう。新井巡査」
俺は自転車をこいで、中学へ向かうのだった。
背中へ向かって、「新井巡査部長だー」と騒いで居たが、正直どっちでも良い。
しかし、良いことは続かない。
途中で自転車がパンクしたため、俺は自転車を抱えて走ったのだが
中学校へ着いたときには、試合は終わっていた。
中学校の敷地から出てくる、巫女服の千尋とジャージの紗香の姿が眼にはいる。
「紗香! 試合は!? 試合はどうなった?」
パンクした自転車を放り投げ、俺は紗香の元へ駆け寄った。
「………………」
長い沈黙の後、隣の千尋が口を開く。
「紗香ちゃん。頑張ったんだけどね……」
千尋のその言葉に、俺はすべて悟り
「ちょっと監督に抗議してくる」
そう言って、憤ってるのを、千尋に止められた。
「正哉、今更無理だって……もう閉会式しちゃったし」
「そうか……まぁ、ほら。来年もあるさ」
「無いよ! 来年は受験だもの」
妹は悔しそうにジャージのズボンをクシャクシャに握った。
「じゃあ、高等部でバレーを遣れば良い」
「……遣らない」
「どうして?」
「私ね、中学へ入ってから、身長5ミリしか伸びてないんだよ。入って直ぐは167.5センチで大きかったのに、周りにどんどん抜かれて……」
「でもほら、此れから伸びるかもしれないし━━━━」
その俺の言葉を、否定するように首を振ると
「ずいぶん前から技術的にも、皆の足を引っ張ってたの……分かってたんだ」
私……運動神経悪くて、鈍臭いからと━━━━悲しく微笑んだ。
そして……深呼吸をし、意を決したように宣言をし出す。
「紗香は此れから、恋と勉強にせいを出しまーす」
「そうかそうか……おい! 勉強は良いが恋はダメだ!」
「えー、私がお嫁に行き損ねたら、どうするのよ」
「その時は、お兄ちゃんが貰って遣るから安心しろ」
むう……と頬を膨らませる妹……超可愛い!
頬づりしようとしたら、逃げるので追いかけ回す━━━━と
「ほら、二人共。今日はウチで残念会を遣るから、おいでよ」
そう、千尋が言ってくれる。
でも、もっと悔しくて泣いてるかと思ったけど、強くなったモノだ。
俺は成長した、妹をふざけて追い回す。
紗香の笑顔の為なら、道化師でも何でも成ってやるさ。
夕暮れ時の田舎道を、妹の長い影を追い掛けて、瑞樹神社へ向かうのだった。
あ! イケネ。自転車忘れたわ……