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鉄血の軍人の異世界譚  作者: ILLVELG
7/16

mission2-1


 この世界で暮らすにさしあたって、一番最初の壁は言語だった。

 当然だよね、国どころか世界が違うんだから。

 いま意思疏通ができるのは翻訳魔法というチートじみた目に見えない技術を使ってくれるグラップがいるからだ。

 グラップが翻訳してくれないと誰が何を言っているのかすらわからなくなる。 そのグラップもいつまでもあたしと一緒にいてくれるわけがないだろうし。

 言語の習得は急を要する課題だ。

 

「あたしに言葉を教えてくれ。」

 

「忙しい。」

 

 はい。 断られました。

 革のブーツを履いて紐を結びながらグラップはにべもなくそう言った。 この男は情報が正しければ世界をまたにかける暗殺者。 考えてみたらこんなとこにいてたまたまあたしを見つけるということ事態がすでに奇跡に等しかったんだ。

 当然、彼は忙しい。

「幸い家にベニヒメがいる。 そいつに言葉を教えてもらえばいい。」

「いやいやいや!!! その言葉がわからないのにどうやって教えてもらうんだよ!」

「過去の先人も言葉もわからない状態でゼロからコミュニケーションをとって貿易を行っていたぞ。」

 うっ。

 確かに考えてみればそうだ。

 外国へ先んじて行き、試行錯誤でゼロからその言葉を学んだひとがいるからこそ、【辞書】や【外国講座】というものがある。 とても昔のことでいまや当たり前のことなんだろうけど、先人の時代ではそれがなかった。

 今あたしはその先人とおなじような状態だろう。

 ………まあがんばればできる。

 あたしはやればできる子。

 大丈夫。 ひらがなやカタカナ、漢字などという世界でトップクラス文字数を誇り、それに比例して難解な文法をたくさん持つ日本語のような言語じゃなければ希望はある。 英語みたいにシンプルであればまだいける………はずだ。

 それにしても日本語はどうしてこんなに心をへし折りに来るような難解な言語になったのだろう。 日本人化け物すぎない?

「………わかった。 頑張ってみる。」

「1週間ここを空ける。 それまでベニヒメと一緒に生活していてくれ。 そのあとどうするか………任せるよ。」

 1週間………か。

 えりくさーとやらを集めにいくらしい。

「………期待しないで待ってるね。」

「行ってくる。」

 グラップはそういって、ドアに手をかける。

「帰ってきたらお前の名前を聞かせてほしい。」

「―――考えとく。」

 グラップはドアをくぐって家を出た。

 

 ―――さて。

 これからどうしようか。

 大きな茶色の棒で体を支えながら歩く。

 ベニヒメのおかげか、昨日のような痛みはほとんどない。 かいふくまほうさまさまだ。

 大きなテーブルのある部屋に入り、あたしは椅子に座る。棒を脇に置く。

 テーブルの上にはたくさんの本がある。

 こっちの世界にも本はあるんだな。

 ―――戦争で大半が焼け、ほとんどが電子書籍へ姿を変えたけども。

 分厚い板で本を保護しているようでカバー………?の部分がとても固くざらざらしている。 それを開く。

 そこには文字の羅列があった。

 この世界の言語は丸と線を組み合わせたような文字。 アルファベットやアジア圏の文字とはまた違った雰囲気。 ギリシャ数字ととてもよく似ている。

 ………だけど、ヒントもなく読んだだけではわからない。

 音声情報も読み取れない。

 さて困った。

 あたしがため息をつくと、とことこと足音が響く。

 その方向を見ると、ベニヒメがえっちらおっちらとお茶を運んでいた。

「………!」

 ………お茶だよ! といっているのだろうか。 ベニヒメはにこーっと笑ってあたしの目の前に飲み物をくれた。 あの赤い透明の液体、レッドティー。

「ありがとう。」

「アリ………だほう?」

 聞いた言葉をそのまま反復し、首をかしげる。 そのときに頭の突起も揺れる。 細かい毛………?のようなものが生えている。

「ごめん、ちょっと触ってもいい………?」

 あたしがそういうとベニヒメは頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。

 あたしがその頭の上に手を伸ばすと、ベニヒメはなにかを察したらしくエクストラメーションマークを飛ばす。 そしてぐいーっとその頭をあたしの手にこすりつけた。

 うわっ………何この子。

 さらさらの茶色の髪の毛があたしのざらざらした手にふれ、その感触をダイレクトに伝える。

 細く柔らかい髪の下から感じる、暖かさ。

 皮膚の柔らかさとその下にある頭蓋骨の芯のある固さ。

 いつだか忘れてしまった、その感触。

 心のなかがふっと少しだけ、紙一枚分、軽くなった気がする。

「………あったかいな。」

 小さな女の子は口をきれいな逆三角形に変え、汚れを全く知らない笑顔を見せる。

 ふと気づいた。

 あれ………この子。

 耳がない。

 側頭部にあるはずの耳がない。

 念のため耳があるはずの部分をぺたぺた触るけどつるつるもちもちした肌の感触が返ってくるだけで、独特の形や軟骨の柔らかさが伝わってこない。

 ………???

 えっ?

 この子音声には反応してるのよね?

「わっ。」

 気になって試しにいきなり大きな声をあげてみた。

 頭の上の突起がぴくっと動いた。

 ………!?

「…?」

 なあに? とでもいうかのように首をかしげたベニヒメ。

 まさか………。

 この頭の上にある突起は。

 ………………耳?

「これ、耳?」

 突起とあたしの耳を左手でそれぞれ示して聞いてみた。

 ベニヒメは最初しばらく………?と首をかしげたが、とても賢いようであたしの言いたいことがわかったらしい。 こくこくとうなずいた。

「ヘリャ! ヘリャ!」

「えり…へり………えりあ?」

 なんだ、なんだ。

 おそらく耳を示す単語だとは思うけど、発音が難解だ。 『え』なのか『へ』なんなのかわからない。

 まて。

 よくよく考えたらこの子まだかなり幼い方に見える。 言動や見た目から察するにまだジュニアスクールに入りたての頃のように見える。

 発音はまだ上手くない、と考えた方がいいのかな。

 とりあえず耳は『エリャ』ね。

 どう発音すればいいのかはわからないけど、耳で聞いたその『カタチ』ならわかる。

 意外と早い段階で単語を初めて覚えた。 ………間違ってるかもだけど。

「エリャ?」

「ヘリャ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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