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鉄血の軍人の異世界譚  作者: ILLVELG
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mission1-5


 

 あたしは目を覚ました。

 だいぶ眠っていたようだった。

 今は………夜だろうか。

 

 あたしは体を起こし、周りをみる。

 明かりがついておらず、とても暗かった。

 

「………。」

 

 あたしは毛布を取り、ベッドから降りる。 片足と片手だけではうまく立てず、歩くどころか立つのさえ危うい。

 幻肢痛が強く現れる。 額に汗が伝う。

「うぅ………いっ………。」

 動悸が速くなり、汗がにじみ出る。

 息が苦しくなる。 静かにしているときはなにもなかったのに、今起き上がろうとしたら肺がズキズキ痛みだした。

 尋常じゃない。 あたしはたまらず倒れる。

どかっ!

 何の素材なのかわからない床の上に倒れ………思いの外大きく響いた。

「ぐぅ………げほっごほっ………!」

 激痛で咳き込んでしまうが、それが肺を大きく動かし、余計に大きな痛みを生み出す。 あまりにも苦しすぎて涙がにじむ。

 なんだ、これは。

 痛みを押さえるべく胸に手を当てて抑え、息を止める。

 そうして痛みと戦っていると、誰かが駆け込んできた。

ドタドタドタ………ばんっ!

「………!!」

 女の子だ。 ごわっとした布に身を包んでいる………頭から三角の突起を二つ生やしたとても可愛らしい女の子だ。

 十歳かそこらだろう、まだまだ幼い女の子はなにかをあたしにむけてしゃべっている。 ごめん、なにもわからない。

「あぁ…だいじょうぶだから………っげふっ!」

 ものすごい心配そうに見られている。 なんだかその事がすごく恥ずかしいし、嫌だ。

 だけど痛みはひどい。 とてもじゃないけど、立てない。

 女の子はあたしをじろじろ見回している。 なにかを探すように。

 何してるの………?

 痛みがどんどんひどくなり、涙が止まらない。

 すると、女の子がいきなりあたしを仰向けに倒した。

「うぐっ………なにをっ………げふっげふっ………!」

 必死に胸を抑えようとしたあたしの手をぐいっとどけ、床に押さえつけた。 なにこの子………ものすごいパワー。 びくともしない。

「…、………! …………。 ………!」

 なにかしゃべって、今度はあたしの服をひんむき始めた。

「やっ………なにをっ………!」

 人が苦しんでるときに………何をする!

 片手で器用に胸のボタンをポチポチ開けて、あたしのない胸をご開帳させた。 やめろっ………やめろっ!

 痛みと恥ずかしさとがない交ぜになって興奮状態になり、余計に胸が痛みだす。

「やめてっ………おねがいっ………げふっうぐふっ………!」

 片手片足しかないあたしはなにもできず、されるがまま。

「………、………! …、…。 ………!」

 女の子はなにかをわあわあ言って、あたしの胸に手をのせる。

 そして、眼を閉じてなにかを呟く。

 すると、女の子の腕が輝きだした。

 なにか腕輪の形をとって紋様が浮かびだし、それが女の子の腕を包むようにして回り始める。

 え………なにこれ?

 何をされるの?

 あたしは恐怖心にさいなまれ、身を固める。

 ………次第に、あたしの胸の痛みがやわらいでいく。

 激痛を生み出していたなにかのしこりのようなものがなくなるのを感じる。

「………え………?」

 息が楽になり、痛みも落ち着いてくる。

「………、――?」

 女の子は心配そうにこちらを見つめている。

 具合はどうなのかと聞かれてるんだろう。

「あ、ありがとう………楽になったよ。」

 あたしは服をちゃんと着直す。 あたしがそういうと、伝わったのかどうか、女の子はにっこり笑った。

「マシになったようだな。」

 男の声が聞こえた。

 はっとして入り口のほうを見ると、赤髪の男がそこにたっていた。

 

「まだ自己紹介していなかったな………俺の名前はグラップ。 こいつはベニヒメだ。」

 

 男―――グラップはベニヒメという名の少女の頭に手をのせ撫でる。 ベニヒメは気持ち良さそうに眼を細める。 もっとほめてほめて―――言外にそう見える。

 ………名前を伝えるのに、奇妙な抵抗感が生まれた。

 そのあたしの表情から読み取ったのか、男は、

「―――もし名乗りたくないのならそのままでいい。」

 とそう言ってきた。

「………なんで?」

 男は事も無げに伝える。

「お前のような複雑な事情を抱えているやつにはよくあることだ。」

 

 ………それだけ、異世界人と多く会ってきたってことなのかな。

 

「お前のからだの中に、非常に多くの傷が残されていた。 ………からだの中で鉄の花でも咲いたのか?」

 男がそう言ってきた。

 ………鉄の花………ホローポイント弾のことか。よくそんなうまい表現ができるなあ。

「主要な内蔵のほとんどがズタズタだ。 ………正直それで生きていることが不思議だ。」

 だから息苦しかったし、変な動悸が起きたのかな。

「どれくらい損傷を受けてるの?」

 最後の記憶をたどる限り、おそらく………。

「右肺、胃、すい臓の一部、左の腎臓、大腸………あと………言いにくいが………」

 男の視線があたしのお腹に向いた。

 ………あぁ。

「そっか………。」

 なんだか、ひどい喪失感がうまれる。

 おそらく、長くないだろう。 このからだだと一ヶ月持つのか………いや一週間が関の山なのかもしれない。

「内蔵の大部分が損傷を多く残している。このままいけば衰弱死だ。 」

「………。」

 別にいいかな、死ぬことは。

 たぶんだけど、すでに一回死んでいるし。

 グラップとベニヒメは床に汗だくで座り込んでいるあたしを見ている。

 もう止まった上に気分はマシになったけど、べたべたしてるし冷たいし気持ち悪い汗が今だ残っている。 それにさっき乱暴に胸をご開帳させられて服も乱れている。 端から見たらたぶん………盛りのついたビッチに見えていることだろう。

 あたしは右手で乱れた前髪をくしくしと整えながら、言う。

「死んだはずのあたしがここにいるってことに、何か意味があると思う?」

 それを聞いたベニヒメがグラップに何か話しかけた。 こどもらしいかわいい声で。

「………! …??」

「………、………。 …………。」

 グラップはこちらをみて話してくれた。

「ベニヒメは、お前が俺と一緒に『お仕事』すればいいんじゃないか………と言っているが。」

 『お仕事』………?

「もう長くは生きられないだろうし、こんなザマじゃなにもできないよ。」

 からだのなかもボロボロだし、片腕片足。

 何ができる。

 前のように五体満足に戻れるならまだチャンスはあるけども………。

 あたしがなかば諦めたように身をすくめると、グラップはこういってきた。

「エリクサーがあればお前のからだは全快するだろうし、欠損した部位もソウルシリーズの装備で代替が可能だ。 ………お代は高くつくがな。」

 ………??

 えりくさー?

 そうるしりーず………?

「冗談言わないでよ。 全快だなんて内蔵の細胞が増殖するわけないし、義肢も神経系と繋げるのにとてつもなく難易度の高い手術が必要で、しかもだいたいが人間のからだのほうが耐えられない。 頭大丈夫??」

 グラップは少し黙って考え込んだ。

「………たぶんお前の世界の常識とこちらの世界の常識はまるで違うと思う。」

 あたしははっとする。

 ちょっと信じられなくてスルーしかけたけど、さっきのベニヒメがやったやつは、あれいったいなんなの?

「どういうこと?」

「お前の世界では腕を生やすこともできなければ………サイボー?とやらも問題なしに内部の傷も癒せる技術がないかもしれないが、少なくともこちらにある。」

 ………は???

「さきほどベニヒメがお前にやって見せた『回復魔法』もそのひとつだ。 」

 ―――かいふく………まほう??

 あたしの耳がおかしいのか、それとも彼の使う翻訳魔法がバグっているのか。

「いまいち伝わってないようだな………。」

「あぁ、ごめん………そんな夢みたいな技術があるなら、死人なんてでるわけないよねって思ってたけど………。」

 グラップはため息をつく。

「そんな『夢みたいな技術』………か。」

 あたしはあらためて彼に聞く。

「で? 何? その『えりくさ』とか『かいふくまほう』があたしの体を治してくれるってわけ?」

 グラップは首を横にふった。

 ………?

「エリクサーはここにはないし、回復魔法はさきほどお前に施したが、古傷まで治せていない。 ソウルシリーズもここにはない。」

「ないない尽くしじゃない。どうすんの。」

「………!! …、………。 ………!!」

 ベニヒメがなんかわあわあ言っている。 頭の三角形の突起がぴょっこぴょっこ動くのでさわってみたくなった。

「何て言ってるの?」

「ベニヒメは神聖魔法師としては最高級の才能をもっているからな………一時的にお前の寿命を延命することができると言っている。」

 グラップはこちらをみてちんぷんかんぷんなことをいってくる。

 延命………??

「あたしのもともとの余命はどれくらいなの? ―――一週間程度だとあたしは思ってるけど。」

「概ねお前の予想通りだ。 腎臓がやられていることで毒素が溜まり始めているし、なにより体内の損傷の度合いが激しい。 重要な筋肉もいくつか完全に断裂して動かなくなっているし、骨格にいたっては無事なところがあまりない。」

 想像以上だった。 それだけあのホローポイント弾がとてつもない威力を持っていたということか………。

「お前の『最後の戦い』とやらはそこまで激しい戦いだったのか?」

「激しいというか………そういう武器があるの。」

 男は左眉をつり上げる。

「そうか。 ………まあ異世界だ。 想像のつかない武器もあって当たり前だろう。 それより………どうする?」

 グラップが聞いてるのは―――これからのことだろう。

 1週間持つかどうかのこの命を、延命できる。 どれくらいかはまだわからないけど………延命できたとして、なにをやりたいのかだ。

 ………本当になにもやりたいことがない。

 全部失ったんだから、なにもする気がしない。

 心の中の喪失感が、動くエネルギーを奪っている。

 もとよりあの戦いで自分は死ぬはずだった。 そして、死ぬつもりだった。

 正直今死んだってなにもかまわない。

 

 ………ふと思った。

 

 あたしがこうして生きている、ということは。

 

 ―――もしかしたら。

 

「………とりあえず、生きてみる。」

 

 

 

 

 ………この世界も生きる意味はあるのだろうか。

 

 

 


プロローグ終了。

次回からはこの世界のことについてお勉強していきます。

それから彼女がほかの異世界転移してきた人間と同じように与えられた『スキル』もようやく日の目を浴びます!お楽しみに待っていてください!


次回更新の予定は8月に入る前になるとおもいます。

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