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鉄血の軍人の異世界譚  作者: ILLVELG
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mission1-4


 

 指揮官は保護施設がこれからサイボーグの軍団に襲撃されるということを伝えた。

 少なく見積もっても約二時間ほどでこっちに攻撃ができる距離にやつらがくる。 防衛にあたれる隊員が非常に少ない。 あちらがおよそ二百に対してこちらは戦えるひとが五十人にも満たない。

 ここを脱出することはできない。 回りにはなにもなく、ましてや吹雪のなか非常に多い民間人をつれて行軍することは不可能だ。 食料などもここしかない。 防衛に勝利することしかここに未来はない。

 そう伝えてきた。

 指揮官はあたしの目をじっと見据え、答えを待った。

 

 ―――あたしは防衛隊員になった。

 そして、父から得たやつらサイボーグの軍団の知識を共有する。

 

 サイボーグの軍団は、音、赤外線および熱感知で自分達を捉える。

 場所が割れて攻められているならそれを逆手に取る。

 ラジオとスピーカーを繋げて大音量で流して音に頼れる状況を作らなくする。

 こちらから逆に強い赤外線を当て赤外線カメラの視界を真っ白に染める。

 雪で熱源のカモフラージュをする。

 

 

 爆撃は不可能。 航空機の類いは強い吹雪で飛べない。 さらに雪が赤外線などを乱反射させるため、強い赤外線光線を多く配置できれば、赤外線による判別は不可能。 もともと赤外線は自然界において微弱な反応しか得られないため、感度を高めつつサイボーグが赤外線を発してその反射で判別しているため、逆にこちらから強い赤外線を浴びせかけると混乱することがわかっていた。

 また、金属に反応する地雷がたくさんあったため、それを利用した。

 それらを掻い潜ってやってくるサイボーグを。

 スナイパーで狙撃。

 

 第一次防衛ラインを突破されたらつぎは第二次防衛ラインへ移動する。 施設内にこもる。

 入れる場所を減らし、少人数で防衛できるようにする。

 ここからは民間人の力を借りる。

 見えにくい鋼鉄の紐をもって壁の窪みに隠れてもらい、突入してきたサイボーグを転ばせる。 それだけ。

 だがそれだけで、絶大な効果を発揮した。

 サイボーグの大半は寒さでうまく動けず銃を手放してしまい、なおかつ大きな隙が生まれる。 そこを集中砲火で潰される。

 小規模な戦闘もあった上で被害は軽微だった。

 二百人いたサイボーグは十数体にまで減ってから撤退。

 こちらは数人が重傷、十数人が中軽傷で済んだ。 死者はゼロ。

 

 その戦果をみて、指揮官はあたしを自分の小隊に引き入れた。

 

 それから………第三次世界大戦のなかを生きることになる。

 

 

 

 本当に多くの戦いを生き延びた。

 連戦連勝。 もはや敵無し。

 

 

 最強の小隊、ゲイル小隊。

 どんなミッションでも達成するアメリカ最高の部隊。

 そんなお話がアメリカ軍のなかで広まった。

 

 それだけ実績と名前を持ったゲイル小隊なら当然あのミッションを任されることになる。

 それはすなわち………クラウン・ハイヴァレインの討伐。


 それがゲイル小隊の最後の戦い。

 クラウン・ハイヴァレインの討伐は多くの犠牲者を生んだ。

 その戦いで人類はおそらく勝利した。

 あたしたちの犠牲の上で―――

 

 

「ぅっ………ぁあ………」

 声が漏れる。 涙が止まらない。

 最後の戦いが脳裏にフラッシュバックする。

 

 ヒレン。

 歴戦のヒレンは敵を多く倒した。

 だけど、傷も多く負い続け、最終的にあたしを突き飛ばして回避させてから―――速射砲の餌食になった。

 からだは………原型をとどめずぐちゃぐちゃになった。

 

 クロッソ。

 敵軍の激しい追撃を強固な装甲と盾で防ぎ続け、あたしを司令部まで護衛し続けた。 最後まであたしを守り続けてくれた。

 最後は敵の大口径対物スナイパーライフルで死角から頭を吹き飛ばされた。

 

 

 指揮官ゼルフ。

 通信で常に行くべき方向を伝え続けて、あたしを最初から最後まで励まし続けてくれた。

俺が後ろにいる。 諦めるな。 その言葉が救いになった。


 ヒレンもクロッソも倒れ、司令部に突入した直後に、指揮官のいる司令部にも敵軍が入り込んだ。

激しい銃撃音や爆発音が通信マイクロホンから聞こえ続けた。

私は大丈夫だ。 こちらのことはなにも心配するな。

そう伝え、あたしは泣きそうになった。 そんなこと言われて戦えるわけがない。 もう仲間がいない。 みんな死んだ。 あたしは喪失感と巨大な悲しみ、怒りでいっぱいいっぱいだった。


 おねがい、しきかん。 はやくにげて。 おねがい。 かみさま、おねがい。 あなただけは、どうか、どうか。


 諦めるな。 ここまで戦ってきたのは何のためなんだ。

 いけ。 お前だけが希望だ。

 戦え。 任務を達成しろ。 お前の帰りを待っている。

 

 ………それが………指揮官の最期の言葉になった。

 

 ………通信は明瞭なまま、指揮官の声がしなくなった。

 銃声はいまだ響く。 まだ爆発音もする。

 まだ、まだ生きている。 だいじょうぶ。

 そう思い込みたかった。

 

『………まだ戦闘を続けているのは第204小隊と第605小隊だけだ。 ―――お前らの司令部はたった今全滅した。 投降せよ。』

 

 うそだ。

 うそだ。

 

 あたしは信じたくなかった。

 

 司令部に突入できたのはあたしだけ。

 いまも外ではここを守る敵軍とあたしたちアメリカ軍が戦い続けている。 ………司令部が潰されたのなら………ほかは………。

 ここにも敵軍が戻る。

 信じたくはなかった。

 指揮官だけはきっとまだ生きているはず。

 もしそうなら、なおさら戻らなければならない。

 敵を倒して、目標を討伐して、帰らなきゃいけない。

 第204小隊の詰所に。

 指揮官が待ち続けている。

 

 あたしはゲイルを握り、立ち上がる。

 そして、たった一人で司令部の中枢へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅぅ………っく………」

 

 思い出したくないものが、脳裏にくっきり甦る。

 ぐちゃぐちゃになった………仲間だったもの。

 リフレインの連続で鳴る………断末魔の叫び声。

 仲間の言葉が頭の中でごちゃ混ぜになって混乱させる。

 もうやめて。

 やめてください。

 どうか、どうか。

 

 あたしから、大切な人を奪わないで―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………会ったばかりの俺にはなにもわからないが。」

 後ろからそう声をかけられた。 はっとして振り向くと、そこには赤い髪の男がいた。

 手には湯気をゆらゆらとだすカップがあった。

「これでも飲んでおけ。」

 そういってそれを渡してきた。

 中には赤くて透明なお湯が入っていた。 香ばしい香りだ。

「………ありがとう。」

 それをゆっくり飲む。 温かく優しい味がする。

 ………いくらか精神は落ち着いてきた。

 

「これからどうするつもりだ。」

 男はこの赤い飲み物―――レッドティーというらしい―――を飲みながら質問してきた。

 それについてはあたしはなにも考えていない。

「………さぁ。」

 もはや生きる目的などどこにもない。 だからどうすると言われても………困る。

「何かしたいことなんてもうないし………」

 なにより………

 

「あたしは、もう、なんにもないよ。」

 

 

 あたしはそう伝えて、横になる。

 布を強く握り顔まで覆う。

 男はなにも言わず、しばらくしてその部屋を出た。

 あたしはすでにない右腕を動かすようにして………虚空をかくだけだった。

 あるのは………指揮官から授けられた、ゲイルだけ。

 

 

 あたしの心はもう、からっぽ。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

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