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鉄血の軍人の異世界譚  作者: ILLVELG
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mission1-3




 

 

 ぱちりと目が覚めた。

 

 ………涙が溢れていた。

「えぁ………?」

 視界がぼやけ、目尻から止めどなく流れていた。

「なに………これ?」

 左手で涙を拭おうとして、違和感が起こる。

 左手がない。

「ぁ………。」

 そのとたんに、思い出した。

 

 

 自分が左腕を無くした………左腕と、右足を無くしたあの最後の戦いを。

 

 

 

 

 

 

 

 第三次世界大戦。

 

 アメリカとアフリカおよびアジアの西側諸国、中東の武装組織とそのスポンサー的なポジションに立つロシアが共闘はせずとも、結果的に敵を同じくする、突然現れたサイボーグ軍とのカオティックな戦争のことを指す。


 始まりは突然現れた謎の天才科学者クラウン・ハイヴァレインのとんでもない実験『魂の創成』によるもの。

 アメリカとロシア、ヨーロッパ、日本などの主要な科学技術先進国の研究者たちが合同で進めた【機械無人化計画】というプロジェクトがあった。


 そのプロジェクトはいわゆる【最高性能のAIの創成】を目指し、重労働のほとんどをその最強のAIを搭載した機械などに任せるという計画。 もともと世界では出生率が低くなっていき、人口減少の問題に危ぶまれていた。

 そこで足りない人手を機械に任せるということで、さまざまな事業の機械化が進められていた。 だけど、人口減少は深刻化し、文明の存亡危機に関わる。

 

 そこで提唱した科学者がいた。 それが、クラウン・ハイヴァレイン。

 

 『魂』を造り出し、それを機械に組み込み、本当の人として造るという、馬鹿げた計画論だった。

 

 AIを越えた、人工知能の極地………それが、ニンゲンを造り出すこと。

 

 だが、そもそも魂という概念を人間の脳のなかで電気信号のやり取りによって産み出される曖昧な存在だとしていた世界ではそれが理解されなかった。

 どうやってつくるんだ。 できるわけがない。

 やってみろ。 人間の脳を由来としない魂の創成を。

 結果、怖いもの見たさなのか、それとも失敗して当然だと考えていたからなのか。

 それが研究されることに至る。

 なにしろ、『魂の創成』だ。

 いままでになかった世紀の大実験。

 

 それは結果として―――成功した。

 

 創成された魂は事前に用意されていた器―――機械で出来たボディにはいりこまず、天才科学者クラウン・ハイヴァレインに憑依した。

 その結果クラウンは変貌を遂げ、化け物に成り果てていく。

 極秘の実験だったがゆえに、秘匿された研究所の人間を皆殺しにし、それからやつは軍用回線や政府の機密回線などをハッキングし、ウイルスを送り込む。

 大混乱がたった十数分の間に起こる。

 そして、ネットの武装防衛システムにつなげられていたアメリカすべての核兵器システムが作動し、それらすべてが人類の住む地球のあらゆるところへ放たれた。

 

 ………各国の主要都市、首脳都市が一瞬にして焼かれ、世界は一日にして灰と成り果てた。

 

そしてその日は―――およそ二十億のひとびとが亡くなった。

 

 

 

 不幸中の幸いなのかは不明だけど、ネットにつなげられていた核兵器システムは核兵器全体で三割から四割割程度であり、つなげられていない完全手動の核兵器についてはそのときは作動しなかった。

 だから、地方都市や潰すことができなかった軍事基地がたくさん残った。

 ダメージは非常に大きかったけど、まだ建て直すことが出来た。

 

そして、アメリカから核攻撃をされた形となる核保有国が報復として核反撃。

 世界は戦争に突入する。

 

 核による被害がもっとも大きかったのはアメリカだった。

 アメリカの主要都市のほとんどが爆撃され、大混乱を招いた。 ホワイトハウスが爆心地となり、頭は一瞬にしてなくなった。

 だからアメリカのほぼすべての州がそれぞれ独立、合併を起こし、またそれぞれがアメリカという国の所属から離れ、ひっそりと生き続ける道を選んだ。 あたしの故郷もその過程で生まれた。

 アメリカの陸軍はほとんどが分割され、アメリカ軍として残っているのはかつての十分の一にも満たない。 ほとんどが州軍となった。

 空軍や海軍も同じように分割されたが、あちらはあちらで少し背景が異なり、大半がアメリカ軍として残ったままだった。

 

 問題だったのは、ロシアなどの東側諸国、中立国にまで核が飛来し、甚大な被害を産み出したこと。 それによりとくにロシアの怒りを買い、凄まじい対立構造ができてしまった。 そして、当時なぜ核による攻撃が始まったのか原因がわからなかったことだった。

 誰が攻撃したのかわからない。

 

 ―――これが、第三次世界大戦に突入するきっかけだった。

 

 

 

 

 あまり被害のなかったロシアが世界の中心となり、それにともなって戦争の様相も変化する。 戦いは極東と欧州の南とアメリカ西海岸と東海岸、カザフスタン以南の国々、中国の北西および南西方面で展開した。 ロシアは直接的に攻めこむことはしなかったが、核兵器を最も多く持ち核抑止力としてのパワーは強大だった。 一方で特に被害を大きく被ったイラン、イラクなどの中東部では、戦いは激化した。

 アメリカもかつての強国だった面影はもはや失われ、安定性をなくしている。 南米からの移民を粛清、弾圧した背景により、南米諸国との関係性が悪化して一部戦争状態に突入した。

 それが、第三次世界大戦の初期状態。

 ここまでならまだ混乱による戦争状態と言える。 だが戦争は次の段階へ進む。

 なんと、かの天才科学者クラウン・ハイヴァレインが、軍を創建した。

 安定した住生活を与えよう。

 代償は君たちの世界。

 それが謳い文句だった。

 最初はだれも参加しなかった。

 次第に、1日を生きるのにも困る人たちが軍に入った。

 

 ………困窮していた世界では歯止めがかからなかった。

 

 クラウン・ハイヴァレインが発足した軍にひとがどんどん入り、最終的には十万人以上が参加した。

 そして、全員サイボーグとなった。

 それから第三次世界大戦は激化した。

 世界全土が戦禍に巻き込まれることになった。

 

 あたしはそんな激しい戦争の最中生まれた。

 あたしたちの住む町がサイボーグの軍団の襲撃にあった。

 州軍が出動したときにはもう、手遅れの状態だった。

 母親はすでに別居していたし、襲われた当時男と防衛地区へ逃げた。 だから母に関する記憶がない。

 覚えているのは父の背中だ。

 軍基地の一隊員だった父は、州軍解散後常に大きなアサルトライフルを構え、片時としてあたしを手離さないようにしていた。

 父は体格に恵まれず、病弱でもあった。 訓練しており、多少の動きはできていたけれど、もって生まれた体質だけはどうにもならなかった。

 ………すでに世界は、クラウンが人類の目を潰すために焚いた赤い煙と戦火により生まれた汚染物質によって包まれている。

 太陽が見えなくなって十年近い闇に包まれることになる。

 昼か夜か、それだけしか判別はできない。

 温度も当然下がり、夜にはマイナス30度、昼でも氷点下には変わらない。 雲がたまって汚染された黒い雪を降らす。

 ただ火山活動が活発なところだけが暖かい、そんな極寒の世界になった。

 空は常に赤黒く、植物はほとんどが滅亡し、そんな極寒と汚染物質の世界に耐えられた植物と動物だけが残った。

 そんな世界で、もともと病弱気質であった父は耐えられるはずがなかった。

 襲撃された町から吹雪のなかを追い出されるようにして脱出し、母と同じく防衛地区へ向かう。 母は男の車で足はやく脱出したが、車の熱と音で感知され、あえなく砲弾の餌食になった。

………こっぱみじん、だったそうだ。

 父はサイボーグの軍団の特徴をいち早く掴み、隠れながら防衛地区へ向かった。

 服を何枚も重ね着し、汚染物質から守るゴーグルもつけ、雪に紛れながら、およそ一ヶ月間歩き続けた。

 配給を食べるときや水を飲むときだけマスクをオフにする。 その一瞬が命取りだったのかもしれない。

 父は肺炎にかかった。 おそらく肺炎だけであるまい。 持病も悪化し、想像を絶する苦しみにあったはず。

 

 ―――父はそれでも倒れなかった。

 

 すべては、あたしをアメリカ軍保護施設に送り届けるために。

 

 

 ………当時の施設長でもあり、大尉階級にあったゼルフ指揮官があたしの父を受け入れた。

 指揮官がいうには、父はあたしを抱きながら膝をついて………死んでいたそうだった。 極寒の吹雪から娘を守るように………まるで、蜘蛛が冬の間卵を抱いて死ぬかのように見えたのだという。

 施設入り口前で、監視役が見つけたときにはおそらく事切れていた。

 戦争が起きてから急遽保護施設として作り替えられた大きな病院には他にもひとが多くいた。

 あたしはすでに意識不明の重体だった。 低温症だった。かなり重い症状であり、ほんの少しでも遅れたら死んでいただろうと。

 

 ………父はなにも言葉を残さず、あちらの世界へ逝ってしまった。

 父を愛していたあたしは、その事だけがどうしてもつらく。

 死期が近かったことはもうわかっていた。 そしてどうにもならないことも。

 なにも力がないあたしはただただ父を励ますことしかできなかった。

 

 ………しばらく泣いた。 しばらく、ひとりでいた。

 それから少しして、指揮官があたしに呼び掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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