mission3-3
男を不能にして、したっぱどもへの聞き込みを終えて、得られた情報はざっとこんな感じだ。 まだ言語を勉強している途中だから聞き間違えている、もしくは不明な情報も含まれている。
ひとつ。 ベニヒメをさらえと命令したのはバンバドというこの町の副長。
その理由として、以前から治癒魔術を使える【びーすとり】なるものがこの街に住み着いているという情報がどこからか漏れ―――その副長が出世のためにびーすとりを取り込もうとしたことがあげられた。
いまのこのご時世………どうやらびーすとりとやらは昔で言う【超能力者】【異端者】に分類されるタイプの人種らしい。
さて。 このなんとも言えない発音の【びーすとり】―――
それは一体何なのか?
男どもの聞き込みじゃそれがわからなかったので、とりあえず用済みになったやつから順番に殺していき。
あたしはベニヒメを背負い家まで向かう。
まだショックか何かが残っているみたいで、家についても目が覚める気配はない。 都合がいい。
これからあたしはこの街の副長のところへカチコミにいくつもりだ。
そして………そのあと、この街をおさらばしようと思う。
男たちの聞き込みからとれた情報のなかには………あたしのこの世界で生きる方針が固まるきっかけとなるものがあった。
その男はこう言った。
ここから南に、この世界の中心であるヘカ・クイスラムという国家があるという。 具体的な数字はわからなかったけど………男の口ぶりから察するに歩いて行ける距離ではなさそうだ。
バンバドとやらはヘカ・クイスラムに常駐する【平和維持軍】の、ここの支部長?らしき地位を持っているらしい。
ヘカ・クイスラムとは何なのか?
平和維持軍とは何なのか?
すべてを限界まで問い詰める。
ヘカ・クイスラムにはありとあらゆる富が存在する。
ヘカ・クイスラムにある【真実の柱】にはありとあらゆる富があるという。
つまりお宝ってやつなのかな。
………お宝には興味ない。
あたしは意味のない情報としてそれを切り捨てようとした。
殺されたくなかったらしい男は必死にさらにいろいろ情報をくれた。
―――ランドロイドというお宝は凄まじいパワーを持っている。
曰く、それに願い事をするだけでなんでも願いが叶う。
いや、なんでも願いが叶うとか眉唾物にもほどがあるだろう。
古今東西そういった「なんでも願いを叶える」物語がいくつも生まれてきた。
でも結局本当の意味で願いをかなえた「ハッピーエンド」は存在しない。
そういうことだ。
………だが。
元の世界に戻れる可能性がそこにあるとしたら?
殺された仲間たちが生き返ってくれる可能性があるとしたら?
「………くそが。」
こういう思考になってしまう。
この四日間そうだった。 夢にまでみるほど、あたしは………かつての安らぎを欲している。
戻ってくれることなどあり得ない。
あたしが、しっかりと自分の目でみたからだ。
殺し殺される世界で生きてきたからこそ。
そんなことなど絶対にありえないと思いながら。
………渇望している。
………。
あたしはこのカチコミが終われば、ヘカ・クイスラムへ赴くべくこの街を出る。
可能性があるなら、やってみる価値はあるだろう。
望みが叶う可能性があるのなら行動しない理由にはならない。
「ベニヒメ………。」
この世界に来てから四日が経った。
とてつもなく短い間だけど。
もっと短く感じた。
最初に覚えたのが、あんたの耳。
にこにこ笑顔で、最初からあんたは笑って迎えてくれた。
その純真無垢な笑顔を向けられる度に、あたしは苦しくなる。
人殺しのあたしにそんな資格はないのに。
あんたはなにも知らずに看病してくれた。
もっと恩を返したかった。
もっと言葉を学びたかった、けど。
「あたしは、行くよ。」
自分でもすごく不愉快で吐き気がするほど嫌いなんだけど………。
あたしにとって。
この四日間で得たあなたとの絆より、
何年も寄り添ってきた仲間との失った絆のほうが重い。
―――
『アリ………だほう?』
『ヘリャ!』
『おねーちゃん! きょーはなにする!?』
『おいちゃはね! おいちゃなの!』
………いままでありがとうね。
もう延命してもらわなくてもいいよ。
………目的は見つけたから。
「ごめんね。ベニヒメ。」
「愛してる。」
「さようなら。」
今更再びいうのもなんだけど、あたしは軍人だ。
決して殺人が趣味とかではない。 生きるために軍人にならざるを得なかった背景ももちろんある。
だけど。
軍人になった最大の理由は………あたしのパパだ。
パパはアメコミのヒーローに憧れていた。 体の弱かった子供の頃からアメコミを買って読んだり、映画になったものも製作会社が違おうが全部観に行った。
そんなパパは病弱な自分の体にコンプレックスを持っていた。
病弱なせいでまともな職がなくお見合い結婚だったパパは簡単に浮気され、それでも変わらず浮気したママの一人娘であったあたしに対するそれは、いつもやさしいものだった。
どうして優しくしてくれるんだろうって子ども心に思ってた。
だってママがあんなやつならパパだってそういうやつだと思うじゃない。
でもパパはいつも学校でいじめられて帰ってくるあたしにハグして出迎えてくれる。
そんなパパは軍人だった。 病弱だったのにそれを厳しい訓練の末に克服し軍人になった。 体に何かしらの障害を抱えている人間はそれだけでも道は閉ざされるというのに。
当時の陸軍のなかでもパパはとくに多くの功績を残した。 第三次世界大戦の緒戦で殿を努める隊に参加しあたしたちの祖国を守り続けた。
そんなパパに憧れて、あたしはいつしか軍人になりたいと思うようになった。
………親の職業になりたがるのは自然なことなのだろうか。
誰かのヒーローとやらになりたくてなったけど。
現実は………。
脳裏に仲間たちの笑顔とその死に様がフラッシュバックする。
ずきずきと痛む胸。
あたしは、どうすればよかったのだろう。
あの戦闘ではこうなる結果しかなかったのだと、自分に言い聞かせても。
どこかで考えてしまう。
もっと誰も死ななくて済む、そんな戦いかたがあったんじゃないかって。
戦争なんだから死ぬのは当たり前のことだ。
………いや………そうじゃ、ないんだ。
あたしは、ただ。
………あのひとたちとともに生きる日常があればそれでよかった。
なんにせよ。
いま自分はこうしてここにいる。
第三次世界大戦の張本人を倒し、アメリカを救ったであろうエース小隊のリーダー。
あたしの名前は。
エイリ。
エイリ・モルガン。
あらゆる火器を操りサイボーグどもを灰塵に帰させる鉄血の戦闘狂と恐れられた、その又の名を―――
メタル・ザ・ブラッド。
そして、アメリカの希望を背負った≪聖剣≫。
目的のためなら手段は厭わぬ。
それがあたしだ。




