mission2-5
5月30日
エイリ。
きょうはお前の誕生日だ。
おまえはおれの娘だ。
あんなやつの娘だが、おれの娘でもある。
おまえは………おれの愛するかわいいかわいい、娘だ。
おれのもとにおまえのような天使がくるだなんて、おれはなんて幸せ者だろう。
いい女には恵まれず、良い家庭にも恵まれず、金にも恵まれなかったが。
おれはもはや何もいらない。 おまえさえ生きていれば、おれは頑張れる。
ごめんなぁ。
周りの子みたいにおしゃれな服を作ってやれなくて。 うまいもんを食わせてやれなくて。 いつも古いゲームすらやれなくて。 ひろいリビングのあるでけえ家じゃなくて、狭くて寒い家で。
おれはおまえといれて、いれるだけで幸せだけど。
おまえは違うよな。
やっぱりお母さんと会いたいよな。
ゲームしたいよな。 うまいもんたべたいよな。 かわいい服を着て自慢したいよな。
本当にごめん。
おまえにとっておれと一緒にいるのは………幸せじゃないんだよな。
エイリ………おれは決めたよ。
おれは、軍人になる。
おれの父さんは軍人でな。
そりゃあかっこいいもんだったよ。 真っ黒な服を着て最新鋭の銃を持って、危険な任務を遂行するんだ。
父さんの………おまえのじいさんだがな。
父さんの任務はいつも人助けなんだ。
テロリストに人質と共に占領されたビルを突破して、助けちまう。
本物のヒーローなんだぜ。
コミックの嘘みたいに強いヒーローなんかより、俺にとってはずっとヒーローだったんだ。
………だがな。 死んじまっちゃなんにもならねえよな。
父さんが死んじまって、おれはショックだったんだ。
おれにとってのヒーローが消えて………もうおれに笑いかけて「ハンバーガー食べるか?」なんて聞いてくれないんだ。
蝋人形みたいに白い顔で眠って、大きな箱のなかに入ってるんだよ。
どんどん土がかけられて、見えなくなったんだ。
おれはおそろしくてしかたがなかった。
それからはな………いろいろあってな。
親戚中をたらい回されて………しまいには施設に入れられたんだ。
皆優しかったが、おれの心はしんどかった。 ここにいて良いって認められてない気がして。
大人になって、好きになった女と結婚して、慎ましく静かに暮らしていくのかとおれは思っていたが………あいつはそう考えてなかったようだ。
わからんよな。
おまえはまだ子供だ。
わからんままでいいことも、いっぱいある。
だが、約束する。
愛するおれのかわいい娘よ。
おれは、おまえのヒーローになるよ。
親愛なるおれの娘、エイリへ。
この手紙を読んでいる、ということは、どうやらおれは死んでいるようだ。
ごめんな。
がんばってここまで生きてこれたが、おまえもきっと察しているだろうが、おれの病気が進行してきた。
これを書いている今だって咳をするたびに喉が痛むし、胸も痛む。
長くはないだろう。
どうかな?
おまえはいま、どうしている?
こんなダメダメなパパを忘れて、楽しく生きてるか?
そうだ。 戦争は終わったのか?
もしそうなら。
それは喜ばしいことなんだろう。
なんとなくだが、おれは思うんだ。
父さんに憧れたおれが軍人になったようにおまえもまた軍人になったんじゃないかなって。
できることなら、おまえと一緒にタンクに乗ってみたかったもんだが。
この文章を読まれてるんだったら、それは叶わなかったってことだ。
どうしても聞きたかったことがある。
愛するおれの娘、エイリよ。
おれは、お前のヒーローになれたかな?
もし、なれたと言うのなら。
これ以上の喜びを、おれは未来永劫知ることはないだろう。
ありがとう。 エイリ。
もっと長く、お前を見守っていたかった。
空の上から、いつまでも愛している。
お前の父 ラルゴより。