mission2-4
四日目。
買い物を終えた次の日。
あたしは体を起こす。
………確実に昨日よりも痛みがひどくなった。
汗がじんわりにじむ。
「はぁ………はぁ………。」
痛みと倦怠感と気持ち悪さ。 おおよそことばにできる限界の症状が表れる。
鏡をみる。
顔はエネルギーを無意識に使いきっているのか妙にやつれ、痛みによる不眠で目の下のもともとあったクマがさらに濃く大きくなっていた。
目に生気はない。
気になって服を脱ぐ。
一糸まとわぬ体には………大量の弾痕と、毒による大量の内出血が見られた。
とてもお見せできぬからだになっている。
「はぁ………こふっ。」
やばいなぁ。
なんか別の病気にもかかってるし。
これ、グラップが帰ってくるまでに生きているかどうかも怪しくなってきたような気がする。
なんとか生きなければ………あたしは自分の体をよく診ることにする。
まず、顔。 これは不眠症の外見的特徴がごりごり現れている。 まあ戦時中は眠れないことなんてざらにあったので普通に見慣れている。 ………いままでより確実に一番ひどい顔をしているのはたしかだ。
次に胴体。 寸胴体型の体のあちこちに弾痕が刻まれ、その周辺にどす黒いアザが現れている。
このアザの数と範囲から察するに出血量がかなり多い。 貧血状態ってこと。
まずいな。
はやく治療しないと、一週間すらもたない。
だけど、果たして治療できるひとがいるのか。
ダメもとでベニヒメに頼んでみよう。
「ベニヒメ………ベニヒメ。」
声を出すだけでも痛みが生まれる。 ………まずい。
同時に多発的に症候群が現れている。
時間の猶予はなさそうだ。
「ベニヒメ………ベニヒメぇ。」
くそ………痛い………苦しい。
たまらずあたしはベッドに倒れ込む。
横になっても痛い。 まだ何とか我慢できるほどの痛みだけど、銃に撃たれた時のような純然たる痛みと違って内部から焼かれるような苦しい痛み。
このタイプの痛みは耐性がない。
涙がにじむ。
「はぁ………はぁ………。」
どたどたどた………ばたん!!
「おねーちゃん!」
あたしの精一杯出した声に反応してくれたベニヒメが心配そうな顔で部屋に来た。
「だいじょーぶ!? どこがいたいの!?」
どうする。 この痛みの原因を取り除くにはどうする。
さしあたって緊急に対処しなければならないのは、内出血。
貴重な血を失い続けると免疫能力も下がり、脳の活動にも影響を及ぼし、生命維持にかかわる。
まず、止めねば。
どうやって伝える。
ことば………ことば………!
「血………血………なんていえば………!」
「なに!? もういっかい!」
何をすればいいのかわからないベニヒメ。
実は一昨日、ベニヒメの治療魔法とやらにもすこし触れた。
どうも自分が意識して治す、という力が必要で、正確に治癒し回復させるにはその症状にどういう対応をすればいいのかを診なければダメらしい。
たとえば皮膚を切って怪我してしまった。 その場合皮膚の傷跡を閉じて出血を抑えればいい。
だが内出血だ。
ベニヒメはこういう症状に対応したことがないはず。
だって、弾の毒による内出血だから。
未知数の外傷でもあるわけで。
それをどうにかして伝えないとベニヒメの治癒魔法は意味をなさない。
どうする。 どうやって伝える。
からだのなかに血が出てきてしまっていると伝えてもベニヒメは理解できるのか。 そもそもからだのなかには血が流れている………怪我という概念がないようなお勉強をしてるはず。
「どこがいたいの!?」
ベニヒメはおろおろするばかり。
「だいじょうぶ………じかん、ある。」
時間はある。 まだ今日一日は生きられる。
だけど明日生きているかどうか。
まず説明しなければ。
「からだのなか、きずついてる。」
「からだの、なか???」
「うん。 からだのなか。 ナイフ、貸して。」
ベニヒメはおたおたしながらも部屋を出る。 すこしして、果物ナイフを持ってきた。
「これ!?」
「ありがとう。」
あたしは精一杯力を込めてナイフを握り、自分の足に傷をつけた。
ベニヒメがわぁぁぁぁって言って治癒魔法をかける。
「なにしてるの!? なんできずつけるの!?」
あたしはベニヒメにがんばって伝える。
「からだのなか、きずだらけ。 これ、でてる。」
あたしは自分の赤い体液を指ですくい、ベニヒメに見せてから自分の体を示す。
「え………???」
ベニヒメはあたしのメッセージを精一杯理解しようとする。 頭を抱いてうんうんうなり始める。
「からだのなか、きずだらけ!?」
うなずく。
「ちがいっぱい、でてる!?」
血、そうか、そう発音するのか。 うん。
そこで、ベニヒメがやっと理解したらしい。
治癒魔法を発動した。
暖かな光があたしの体を覆う。
つきつきと痛む部分が少しずつ治っていくのが感じられた。
息も楽になってくる。
だがもう限界は近い。
「ありがとう、ベニヒメ。」
ベニヒメは不安そうな顔をしてこちらをうかがう。
「だいじょーぶ………?」
あたしはベニヒメの八の字になった眉の顔をみて、微笑む。
「だいじょうぶ………これくらい、なんでもない。」
限界は近い。 たしかに近いけど。
それでも………簡単にはくたばりゃしないさ。
「1週間、生き延びるって決めたんだ。 それからどうするのか………それを考えなきゃ。」
さしあたってはからだのなかに巣食い続ける特殊ホローポイント弾の毒。 こいつらを何とかしないと我が身に未来はない。
さて、からだのなかを蝕む毒をどう処理するのか……。
ドンドンドン………ドンドンドン………
………?
「?」
ベニヒメとあたしは下から響く音に耳をすます。
どうやら入り口のドアを叩く音らしい。
だけど叩く音がなんとなく物騒だ。
………嫌な予感がする。
「………なに………?」
ベニヒメが様子を見るべくおそるおそる部屋の外を窺う。
ドンドンドン………………
あたしは音の特徴を捉え、これが襲撃の前触れだと察知した。
くる。
バガァンッ!
衝撃音が響く。
まずい。
「ベニヒメ!」
隠れろ、という頃にはもう遅かった。
バガァンッ!
ドアが蹴破られ、そこから数人の男が入ってきた。
どかどかと踏み荒らし、こちらを取り囲んだ。
くそっ。
「おまえら! ガキと女一人だけだ! やれ!」
あたしはすぐに応戦しようとするが、片手片足でできることはなにもなかった。
頬に衝撃が走る。
殴られた。
「よぉ! 昨日の挨拶返しに来てやったぜ!」
「この国の人間はずいぶん粗っぽいんだな………うっ!」
「やっぱり外国人か! どこの国か知らんが、よそ者はこの国に入ることはできねぇんだぞ! よかったなぁ、おれたちが初めてでよ………!」
何を言ってるんだ? もう少しゆっくりしゃべってくれ。
くそっ。 腹が立つ。
仕返しに殴り返そうとするが、不安定な体勢から繰り出した拳は届くはずもなく………
「何してやがる! とっとと意識を落とせ!」
今度はめためたに殴ってきた。
「うっ………!」
顔を重点的に殴られ、鈍い痛みと焼けるような痛み、血の味がする。
てめぇ………!
「おら!おら!」
「やめてぇ!! もうなぐらないで!!」
どこか遠くでベニヒメの悲鳴が聞こえた。
手と足をおさえつけられて何回も殴られ、あたしは意識を手放すまいと歯を食い縛る。
絶対悲鳴なんかあげやしない。
「こいつ………なかなか落ちねぇぞ!」
その程度か。
ヒレンの方がまだ殴り方をわかってるぞ。
「しょうがねぇ。 毒を飲ませろ!」
あたしに乗り掛かった男が突然懐からなにかを取り出した。くすんだ緑色の液体が入った小瓶。
何をする気だ………?
「死ね!」
「むぐっ!?」
いきなり口を開けられ、そこに液体を流し込まれた。
どろっとした磯臭くてアルカリの苦味のある感触が口の中めいっぱいに暴れ始め、吐こうとして口を開けようとするが。
「おっとそうはさせねぇぞ!」
口と鼻をふさがれ、息ができなくなる。
やめろ!
ぶっ殺すぞ………!
毒物であろう、その液体を、あたしは飲み込んでしまった。
喉が焼けつくように痛み始めた。
胃に到達し、極度の嘔吐感と神経のしびれが起きる。
「~~~!!!」
がりっ!
「いってぇ!!!!」
男の手を噛みちぎり、無理やり離させた。
手の肉を食いちぎられた男はたまらずあたしを数回殴り付け、離れた。
一方あたしは意識が混濁し始めていた。
くそっ………!
それから殴られることはなかった。
たぶん、逃げたのだろう。
くそ………本当にめためたに殴ってくれやがって。
顔が変形してるんじゃないだろうか。
「絶対………ぶち殺す!」
あたしの感情を怒りが塗りつぶし、毒の痛みと苦しみを塗りつぶす。
むくりとあたしは起き上がる。
左手にベッドの脇に置いておいた「ゲイル」を握る。
ベニヒメ!
待ってな………今すぐそいつらをぶっ殺してここに連れて帰るよ!
野郎共………!なめやがって!
*異次元スキル解放。
*スキル≪一騎当千≫が解放されました。
*スキル≪鉄血の闘志≫が解放されました。
*スキル≪魂の道筋≫が解放されました。
*異次元クラス解放。
【機神】へグレードアップしました。
一騎当千:大群に囲まれて発動するパッシブスキル。 相対する敵の数に応じてすべての能力が上がる。
鉄血の闘志:精神干渉系のスキルに対し発動するパッシブスキル。 精神干渉系のスキルの一切を100%防ぐ。
魂の道筋:アクティブスキル。 自分の定めたターゲットを常に把握。 任意で登録・解除可能。 距離・場所問わずどこでも察知可能。 スキルを発動しターゲットを意識することで登録する。 数に限界はなし。
機神:特定の条件を満たすことでクラスチェンジ可能。 最上級のクラスのひとつ。 材質を問わずあらゆるからくり道具を作成及び使用可能。 知識にないものは作成不可。 代償として体の一部が機械化する。 機械の状態は任意で変更可能。




