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第二章 06

 アレンが弟2人の相手をしてくれているのでジャンとバザーで孤児院の子供たちに配るお菓子の話を打ち合わせた。

 恒例の行事の為ジャンも勝手がわかっているので話が早い。

 だいたい話もまとまったところで一息つくと、厨房の扉が勢い良く開いた。


「ルディアお嬢様いらっしゃいますか」


「レナ?ここよ」

「お嬢様!いらっしゃって良かったです」


 侍女のレナの声に立ち上がって入り口の方へ姿を現すとアディリシアを抱えたレナが焦ったように駆け寄って来た。

 心なしかぐったりしている様子のアディリシアに私も駆け寄る。


「どうしたの?」

「アディリシアお嬢様のお加減がよろしくないようなのですがルディアお嬢様をずっとお呼びになっていらしてベッドに入ってくださらないのです」

「おねぇさま」


 アディリシアがレナの腕の中から私の方へと手を伸ばして来たのでそのまま抱き上げると弟2人とアレンも心配そうに側へと近寄って来た。

 腕の中の小さな体はいつもより温かいかもしれない、その瞳は今にも雫がこぼれそうなほど潤んでいた。

 アレンはそっとアディリシアの額に手を当ててから首元にも指を添える。


「少し熱があるね、アディお口を開けてごらん」


 アレンの言葉にアディリシアはいやいやと首を振って私の胸に顔を押しつけてきた。


「アディ、ちょっとだけお口あーんってアレンに見せてあげて?」

「やー」


 完全にグズグズモードに入っている。


「アディ。ぼく出来るよ、あーんって。アディもできるよねホラあーん」


 背伸びしてベルグラントがアディの前に口を開けて見せると渋っていたアディリシアも小さく口を開けた。


「うーん、ちょっと赤いね。喉痛いんじゃないかな。可哀想に」


 アレンが覗き込んで言った後、もういいよとアディリシアの頭を優しく撫でた。

 そしてジャンへと向かって声を掛ける。


「リンゴはあるかな。すりおろして蜂蜜混ぜたものを食べさせると良いと思う」

「お、おう。野郎どもリンゴと蜂蜜準備しろ!ちび嬢ちゃんの為に急げ」


 ジャンの掛け声に料理人たちから“おおっ!”と声が上がった。

 ムキムキの料理人が多い厨房は独特の空気を持っている。


「ルディはアディを寝かせてあげて、カイトはハンナを探してアディの部屋まで連れてきてくれるかな」

「わかった!」


 役目を担ったカイトは答えると同時に厨房を飛び出して行った。

 残ったベルグラントがアレンの袖を控えめに引く。


「ぼ、ぼくは?」

「ベルはルディについていてあげて。アディを抱えているから手伝ってあげるんだよ」


「うん!お姉さま行きましょう」

「え、ええ。アレンあなたは…」

「もう荷物も馬車へ運び終わっているだろうし、これで失礼するよ。帰りに医術師をすぐにこちらへ向かうよう手配しておくから安心して」


 アレンに促され厨房を後にすると廊下の途中でそれじゃとアレンは玄関へと向かった。

 お礼を言うのを忘れていた事に気付き、慌ててその背に向かって声をかける。


「アレン、ありがとう!」


 アレンは少しだけ振り返り片手をあげると足早に歩いて行った。







 アディリシアの熱は風邪の引き始めと医術師に言われ、夜に熱が上がったりしたけれど早めに治療出来たのもあって翌日には微熱にまで下がっていた。

 食欲は無いようだけれどアレンの教えてくれたすりおろしリンゴ蜂蜜はなんとか食べられるらしく今もライルがスプーンでせっせと口に運んであげている。


「よく食べたね、これで最後だよ」


 ぱくりとスプーンを口に入れてもぐもぐと飲み込むとアディリシアは息をついた。

 ぐったりとしているが少しずつ顔色が良くなっている。


「おにいさま、だっこ」

「アディは甘えん坊だな」


 ライルはベッドに上がるとアディリシアを抱き上げた。

 その背にクッションを挟んで寄り掛かれるようにしてあげる。

 昨日からアディリシアは私かライルが側にいないと落ち着かないらしい。

 カイトに様子を見て貰っている間にアディリシアが泣き出し、私が行くまで泣き止まなかったことにカイトがショックを受けていた。

 幼くとも兄の矜持というやつだろうか。


「アディ、お薬飲みましょうね」


 ライルが抱えている時がチャンスだ。

 飲みやすい温度に下げた薬湯を持って私が近寄るとアディリシアがその味を思い出したのか顔を背けた。

 確かに苦いのは分かる、でも今日は秘策がある。


 王宮で薬術師見習いをしているアレンは日々知識を詰め込みながら様々研究もしているらしい。

 その一つが飲みやすい薬湯の研究だ。

 アレンから今朝方手紙と共に届いた謎の角砂糖の様な塊の入った瓶。

 ひとかけら薬湯に落とすと一瞬で溶けて消えるそれは薬湯の成分はそのままに苦みを緩和し、病人に必要な睡眠の効果があるそうだ。

 まだ研究段階なものの指導薬術師に許可を得て送ってくれたらしい。

 植物成分で体に悪いものは入ってないと延々と手紙に説明があり、疑う訳ではないけども幼い妹にあげる前に試しに飲んでみることにした。


 ふわりと花の香りがしてあの苦い薬湯がとても飲みやすくて驚いた。

 これならアディリシアも飲めるだろう。


「アディ、姉上を困らせるな」


 ライルの堅い声にアディが怯えた様に顔を上げる。

 ああ、泣きそうになっているじゃない。


「ライル、そんな言い方しないの。不器用さんなんだから」

「うっ……」


 そんなところはお父さまにそっくりだ。

 ライルはバツが悪そうに口をつぐんだ。


「ね、アディこれは飲みやすいから大丈夫よ。ほら、お花の香りがするでしょう」


 薬湯をアディリシアに近付けると香りが伝わったのかためらいながら手を伸ばしてくる。

 小さな手に自分の手を重ねてゆっくりとアディリシアが薬湯を飲むのを手伝ってあげた。

 ぷはっと最後まで飲みきってカップを手放す。

 良く出来ましたと頭を撫でてあげるとトロンと眠そうに目が落ちている、お腹も一杯で体が温まって眠くなったのかもしれない。

 ライルがポンポンと背中を叩いているといつの間にかアディリシアは眠りに落ちていた。

 そっとベッドに寝かせてライルが静かに立ち上がり、布団をかけ直してあげる。


「姉上、父上には……」

「モーリスを通じて連絡したわ。でもお見えになれないようね……」

「アディも父上が来ればもっと安心するでしょうに」


 そういうライルもどこか寂しそうにしていた。

 カイトもベルグラントもきっとお父さまに会いたいとそう思っているだろう。


 もう一度、お父さまにかけあってみよう。


 私は改めてそう決意した。



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