第十一章 04
「ええと、誰がでしょう」
「あのチビ、アディリシアに決まっているだろう」
「そんな!無理です」
「それが最善な方法だ。無理でもやるしかない」
「ルディ、落ち着きなさい。まずはレン殿の話を聞こう」
「……はい、お父さま。レン兄さまごめんなさい、続けてください」
お父さまに窘められ、落ち着こうと気を静める。
今この場で知識があるのはレン兄さまだけだ、そしてレン兄さまはアディリシアの為に来て下さったのだ。
「成長時に伴う魔力の変動が要因というのが見解だがこの症状の詳しいことは分かっていない……熱ですんでいるのはまだいい方だろう。発熱が出始めて時間が経っているようだがここで魔力が収まるとは思えない。このままだと最悪の場合は血を吐いて死ぬ」
「そんなっ」
険しい表情でレン兄さまが放つ言葉に皆が息を呑む。
収まらなければ時間が経つ程に症状が重くなるなどあの小さなアディリシアに耐えられるはずがない。
もしアディリシアが女神様の元へ旅立つ事になんてなったら……。
「従魔契約を結べば継続的に魔力を従魔に与える形で放出する事が出来るはずだ」
「叔父上、その従魔契約と言うのはどういうものですか。儀式を行って魔ものを呼び出して契約するというものでしょうか」
アレンが問いかけた魔法陣を描いてそこに魔ものを呼び出すというのは物語の中でも定番の方法だ。
私も同じ様なものを思い浮かべていた。
「召喚契約か?3歳児に出来ると思うのか」
「思わないですけど、ではどうするのですか」
「呼べないなら行くしかないだろう。チビでも結べそうな相手を探して生息地へ赴く。相対して契約する事は難しくない」
「レン殿、私たちが捉えて来てアディリシアが契約を結ぶと言うのは可能ですか」
お父さまの問いにレン兄さまは首を振った。
「それは難しいですねアスターフォード卿、従魔契約は熟練の魔術師なら力でねじ伏せて従える事も出来るでしょうが契約するのはアディリシアです。それにその様なやり方で結んだ契約はいずれ綻びが出るだろうし両者の同意があって結ぶのが最適です」
一応目上の人には気を使うのかレン兄さまにしては丁寧に言葉を紡ぐ。
従魔契約というのもいろいろとルールがあるようだ。
「レン兄さま、アディに結べる相手とはどのような魔ものですか」
「……これから考える。このウィルズエルト王国内に生息している種類を調べないと。ちなみにこの国に従魔を連れた魔術師は?」
「あいにく……」
お父さまとアートおじ様、セドリックおじ様が顔を見合わせるも三人とも首を振った。
そもそもこの国には魔術師の数も少ない。
「直ぐに関連する資料を用意しましょう。レン殿が滞在される間、図書館の利用も出来るようにしておきます」
「それはありがたい」
マリおば様の提案にレン兄さまは微笑む。
そこでふとレン兄さまの連れていた白い鳥を思い出した。
「シロはもしかしてレン兄さまの従魔なのですか」
「ああそうだ」
あの綺麗な白い鳥も魔ものなのか。
でもシロの様な従魔ならアディリシアも安心かもしれない。
「シロの種族は希少だから相対するのは難しいぞ。俺はたまたま縁があっただけだからな。ウィルズエルトにいるかも定かではない」
レン兄さまが私の考えを察して釘を刺した。
確かに普通の鳥ではないと思ったけれど希少種だったとは。
出来ればおとなしい魔ものが良い。
お屋敷に戻れば図鑑などがあるかもしれないけれど……。
「そういえばミクムの丘にモフモフした可愛い生き物が居た気がします」
「ルディが言っているのはモグラウサギの事かな」
「そう、モグラウサギはどうですか」
私の言いたい魔ものの名を当ててくれたアレンがなんだか微妙な表情で私を見ている。
なぜか他の皆も苦笑いを浮かべていた。
「あれ?ダメですか」
「確かに魔ものの一種だけど……あのねルディ」
「低級も低級。あのチビの魔力を受けて消滅するのがオチだ。継続的に従魔とするには中級以上の魔ものでないと」
「さ、先にそう言ってくださいよ」
「普通に考えて想像つくだろうが、そもそもあんな穴掘るしかない魔ものを従魔にしたら庭中が穴だらけになるぞ」
小馬鹿にするレン兄さまにムッとして言い返せば更に追い打ちを受けた。
想像つかなかったのだから仕方ないと思いつつも他の皆の緩い笑顔に急に恥ずかしくなってきて思わず下を向いた。
「ルディ気にしないで。確かに可愛いよねモグラウサギ」
「モフモフって可愛ければ良いってわけじゃないんだぞ」
「うう……」
アレンが優しく慰めてくれようとしたけれどレン兄さまは明らかに面白がっている。
恥ずかしいのと悔しいので目が潤んできた。
「レン」
「ハイ、すみません姉上」
ナターシャ様にきつく睨まれるとレン兄さまは居住まいを正して表情を引き締めた。
今度からレン兄さまに困ったらナターシャ様に泣きつくことにしよう。
「コホン。さて、見つかったとしてアディリシアの具合からみて赴く事が可能かどうかだが。病状が悪化する前に行動するなら急がねばならないだろう」
アートおじ様が咳払いをして話を戻す。
そうだ、そもそも肝心のアディリシアが動けるようにならなければ。
「従魔契約に至るまでは魔力を抑える魔道具を用いるつもりだ」
「それは……」
マリおば様が言いかけた言葉をグッと堪えた。
「お父さま、魔力を抑える魔道具と言うのはどういうものですか」
「……」
「主に貴族の罪人の首に付ける魔道具の事を言う。魔力を使おうとすると負荷がかかり苦しい思いをする」
「アート」
「お前は言いにくいだろうから代わりに言ってあげたんだ、感謝しろ」
「……すまない」
「だがこの国ではそうだと言うだけだ」
アートおじ様はそう言ってマリおば様の背を優しく撫でた。
以前もマリおば様は魔道具で魔力を抑える事を強く反対していた。
それは、罪を犯した貴族に課せられるものだからだったからなのだろう。
でも昼間見たレン兄さまの持っていたものが魔道具だと言うのなら……。
「レン兄さまは魔法石のついた腕輪の様な物をお持ちでしたよね」
「ああ。まぁ魔力持ちが少ない国ならそう用途もないか。サウジリアスでも罪人用の同じ様な物もある。だが女神の口付けに関わらず魔力をコントロール出来ない子供につかう制御の魔道具が沢山ある。もちろん体に害が及ばないものだ」
「その魔道具をつければアディの状態は安定するのですね」
「おそらく、ただ俺が持って来たものを改良する必要がある。魔道具で魔力を強制的に抑えようとしたが反発が強い、それだけ魔力が高いという事だが」
「ねぇレン、何も危険をおかして従魔契約しなくともその魔道具を使い続ける事は出来ないのかしら」
「姉上、残念ですが魔道具で抑えられるのは一時的なものだと思います。これから成長する事を考えても従魔契約をした方が良いでしょう」
「そう、わかったわ」
やらなければならない事なのだと、改めて認識する。
アディリシアの未来の為にも。
「何か私たちに手伝える事はあるかい」
セドリックおじ様が協力を申し出た。
私も出来る事があれば協力したい。
「精度の良い魔法石が有れば欲しい。それと使えそうな魔術師がいれば、口煩くなくて魔道具について多少でも知識のある者が良い」
「それならゾーイ・ルーグ子爵が良いのではないかな」
「ええ、私もそう思うわ」
「そうね、お願いしてみましょう」
セドリックおじ様にとナターシャ様が頷き合い、マリおば様たちも賛同した。
確かに寡黙で筆頭魔術師のお墨付きのゾーイ様が適任かもしれない。
魔道具の研究もなさっていると言っていたし。
次々と我が家の都合に巻き込んでしまって申し訳ないけれど……。
「姉上の推薦する方なら期待出来ますね。それとアレンにも手伝って貰おう」
「お手柔らかにお願いします、叔父上」
「私もお手伝いします」
「ルディには専用の役目があるだろう」
「はい?」
「ちょうどチビが目を覚ましたらしい。ん?シロがなんだか泣きそうだと……」
「アディリシアが泣きそう……って大変」
思わず私は立ち上がった。




