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第八章 09

 力が有り余っているカイトとオズワルドが庭の端の方でひたすら体を動かしているのを横目に残りの皆で侍女が整えてくれた敷布の上に座る。

 木陰になっているせいか涼しくて気持ち良いけれど私の視線はそれとなくベルグラントを追っていた。

 膝の上にアディリシアがよじ登って来るのを受け止めつつコッソリと隣に座るライルに声をかけてみる。


「ライル、ベルの様子なんだけど何か気になる事はないかしら」

「そうですか?わかならいですけど、もしかしてアディとケンカしたのを引き摺ってるのでしょうか」

「え?ベルがアディとケンカ?本当に?」


 ライルとは反対の私の隣に座るアレンが同じく小声で話ながら意外だとばかりに目を見張って驚いていた。

 アスターフォード家で一番大人しいと言われているベルグラントが誰かとケンカするなど想像できないだろう。

 私だって相当驚いたし衝撃を受けたのだ。


「姉上がアディリシアばかりに構うのでヤキモチをやいたようですよ」

「あー……それは大変だったね。でも幼い兄弟が居れば通る道だと言うしね、仕方ないよ」

「自分の至らなさに反省したわ。アディリシアも泣かせてしまったし」

「アディリシアの泣き虫は今に始まった事ではないですよ」

「ライル」

「すみません姉上」


 自分の名前が出たことで顔を上げたアディリシアの頭を何でもないよと撫でて微笑みかける。

 アディリシアもニコリと笑って手をパタパタさせた。


 そんな話をしていると、ちょうどベルグラントもその時の凍らせる魔術についてゾーイ様に報告していた。

 他にも課題や読んでいる魔術書の進み具合なども伝えている。

 いつの間にかベルグラントも随分としっかり話せるようになっていた。


「凍らせたものをまた水に戻せたというなら重畳ちょうじょうだな」

「はいっ」

「アディリシアについてはいろいろ問題は多いが、まぁいい」

「アディねーねんねするまえね、おねぇさまにごほんよんでもらってるの」

「……そうか」


 嬉しそうに急に話し出したアディリシア。

 ゾーイ様のなんとも言えない様子にアディリシアのパッと口に手を当てる。

 少し前から考えていたがゾーイ様が子供は苦手だというところはきっとこんな風に奔放に話し出したりするところだと思う。


「じょ、情操教育の報告です。ね、アディ」

「……まぁいい」


 取って付けた私の言葉にゾーイ様はため息をつきつつも話を続けた。


 そしていくつかの魔術の課題をベルグラントとアディリシアに試させて出来栄えを確認するが、水を凍らせるのはアディリシアが嫌がりベルグラントだけで行った。


 まだ記憶に新しいからアディリシアが嫌がっているのかトラウマになっているかわからないのでしばらく様子を見ようと思う。


「魔力を使う方法は概ね理解したようなので次に君たちには魔力をしまい込む方法を伝えたい」

「しまい込む?ですか」


 私もアレンも何だろうと顔を見合わせた。

 魔力をしまい込むというのは聞いたことがなかった。


「他者にわからぬよう隠すと言う意味だ。基本的に魔力があるのは有意義なことから隠す方法をみつけるのは難儀したか魔術書の記述で得た知識を元に私が実践済なので有効だと思われる。幼い君たちが出来るかはやってみなければわからないが今の君たちには必要な方法だろう」


 確かに魔力を多く持っていることを悟られない為にもそういった事が出来るなら必要だ。

 ゾーイ様はお父さまにも訓練の内容を報告されているからお父さまからも許可が出ていると言う事は覚えるべきだと判断されているのだろう。


「難しいのですか?」

「単純と言えば単純な方法だが感覚を掴むまでが難しいだろう。サウジリアス王国の様な魔法大国であればもっと良い方法があるのかもしれないがウィルズエルト王国では魔術の知識は衰退している。バルド老にもお尋ねしたが他に心当たりはないようだ」


 いろいろとゾーイ様はベルグラントとアディリシアのために調べてくれていたらしい。

 真面目で責任感の強いこの方に負担をかけてしまっていることを申し訳なく思いながら感謝し、定期的にお菓子の差し入れをしようとこっそり決意する。


「知らない者の前で魔術を使わないのはもちろんだが幼さ故に万が一もあるだろう。抑え込む方法を知っていればきっと役に立つはずだ」

「ゾーイ先生、僕がんばります!」


 ベルグラントもやる気を出して意気込む。

 それにゾーイ様は頷いて返すとその方法について話し出した。


「一言で言ってしまえば魔力を閉じ込め掛け金をかける。これだけだが体内の魔力を一ヶ所に集める必要がある」

「……はい」

「ベルグラント、わからなければそう言って構わない。難しい話をしていると思う」

「先生、本当はよくわからないです」

「素直でよろしい。そう思って今日はこれを持って来た」


 指先程の黒い鉱石がいくつか入った小瓶を取り出した。

 角度によって銀色にも見えるその石は黒銀石、通称黒石と呼ばれるものだそうだ。


「掌をこちらに」


 ベルグラントの手を引き寄せてその掌に黒石を落とすと触れた瞬間に石は淡く光を放つ。


「わわっ」


 光が収まると石は水色に変わっていた。

 ゾーイ様はそれを別の小瓶へと戻す。


「しゅっと体の中から力が抜ける気がしました」


 興奮気味に話すベルグラントにゾーイ様が頷く。


「それが魔力の流れだ、この魔石は魔力を引き寄せる銀鉱石が含まれている」


 黒石はベルグラントの魔力を吸収して色が変わったらしい。

 銀鉱石と言う言葉にいつぞやのデニス様の銀の花が頭をよぎった、デニス様からは何度かお茶会へのお誘いをいただいていたけれど理由を付けて断り続けている。

 行くつもりは無いので早く諦めてくれると良いのだけれど。


「魔力の流れ……」

「ああ、アディリシアは辞めておくか……おそらく泣くだろう」


「では私が」

「僕も後学のために」

「せっかくなので」


 スッと掌を差し出して代わりにと私が訴えるとアレンとライルも便乗して掌を差し出す。


「君たちはやってみたいだけだろう」

「妹のためですよ」

「勉強のためですよ」

「参考までに」


 早くと目をキラキラさせる私たちにゾーイ様は胡乱げな視線を向けつつも黒石を落としてくれた。

 銀の花の時は突然で何がなんだかわからなかったけれど今の吸い上げられる感じはハッキリとわかった。

 ベルグラント程ではないけれど同じ様に私たちの石も光って色が変わる。

 私やライルよりもアレンの方が光が強かったのは魔力の強さで光加減が違うのかもしれない。


「「おおっ!」」


 私とアレンは思わず揃って大きな声が出てしまった、ライルもその表情で驚いているのがわかる。

 私とライルの方は似たような青灰色にアレンは黄緑色に変わった魔石をポンポンポンとゾーイ様がすぐに瓶に戻す。


「凄いです、確かにシュッと魔力が流れました」

「銀鉱石はまだ触らせて貰えないんですけどこんな感じなんですね、面白い」

「……」

「お姉さまもアレンさまも楽しそうですね、ライル兄さまも驚いてます」

「君たちよりベルグラントの方が大人ではないか。アレン、薬術院で今の事は口外しないように」


 興奮気味な私たちに釘をさしてゾーイ様は次に話を進めた。

 邪魔をしてはいけないので大人しくしているアディリシアを見習って口を噤む。


「この流れを意識して魔力を閉じ込めて“掛け金”をかければ抑え込む事が出来る。伝えるのが難しそうなので道具を用意した」


 そう言ってゾーイ様は人型模型を取り出した。

 丸いパーツで組立られた小型の人体模型の様な模型を持つゾーイ様……ちょっとシュールな光景だ。


「これ画家がデッサンとかで使うやつですよね」


 アレンが指摘すると良さそうなのがこれしかなかったとボソリとゾーイ様は言った。

 そしてお腹のあたりに印を付ける。

 魔力は全身を巡っているので集めるならお腹の辺りが分かりやすいらしい。


「まず深呼吸をして一ヶ所に魔力を集めるイメージを作る。集まって来たらそこを小さな部屋とし、扉を閉めて“掛け金”をかけるイメージで抑え込む」


 みんなでイメージをしてみるがこれがなかなか難しい。

 先程の魔石に吸い取られた感覚で魔力が全身を流れるのをイメージしても一ヶ所に集める感覚が掴みにくい。

 ゾーイ様がやってみせると言い、深呼吸してから目を閉じて集中し“掛け金”をかけた後に黒石を掌に乗せた。

 黒石に変化が無いままに掌に乗っている。

 そして一旦黒石を瓶にしまってから“掛け金”を外して再び黒石を掌に乗せると眩しく光ってから赤茶色の石へと変わっていた。


 なんとなく頭でわかっていても実践するのは難しい。

 これは確かにアディリシアにはまだ無理そうだと随分と大人しいアディリシアを見ればいつの間にか私の胸に体を預けてスヤスヤと眠っていた。


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