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第二章 03

 

「みんな久しぶり、ライルもカイトも背が伸びて見違えたね」


 蜂蜜色の金の髪をさらりと揺らして人好きする笑みで弟たちへ声をかけるアレン。

 爽やかな笑顔はキラキラして眩しいくらいだ。


「ご無沙汰しております、アレン様」

「確かライルは今度寄宿学校へ入る予定だろう。知りたい事があったら気軽に何でも聞いてくれて構わないからね」

「ありがとうございます、ぜひお話を聞かせてください」

「俺もお話聞きたいです」

「うん、カイトも一緒に後でゆっくり話をしよう。ベルグラント、君は僕の事を覚えているかな」

「覚えています、お姉さまと仲良しだったから」

「また仲良くさせて貰うつもりだからよろしくね」

「は、はい」


 久しぶりに見たアレンと弟たちの交流に懐かしくて思わず笑みが浮かんだ。

 以前もアレンが来ると弟たちは嬉しそうに側に駆け寄って兄の様に慕っていたんだった。

 ベルグラントの頭を撫でていたアレンとふと目が合ったかと思うとその視線は私のすぐ下へと移った。


 そしてこちらに来るとスマートに片膝を付いてニッコリと笑った。


「君は初めまして、かな。赤ちゃんの頃はあった事があるけどね。僕はアレン・ブローセン、君のお姉さまの友人だよ」


 ぎゅっと私のスカートにしがみついて様子をうかがっていたアディリシアはびっくりしたようにアレンを見て、恥ずかしそうにその顔をスカートに埋めた。

 隠れているつもりらしい。


「アディ、ご挨拶出来る?」


 ポンポンと背を撫でて促すとスカートの陰から恐る恐る顔を出しアディリシアは小さく頷いた。

 三人の兄たちも頑張れと見守っている。


「アディリシア、です。よろしくおねがいします」

「可愛い名前だね。アディと呼んでもいいかい?」

「はい。アレンさま」


 小さな声だけれどきちんと挨拶出来たアディリシア。

 どうだった?とばかりに私を見上げて来るのでにっこり微笑んで良く出来ましたと頭を撫でてあげるとアディリシアは嬉しそうに笑った。


「可愛いなぁ、昔のルディにそっくりだね」

「あら、こんな小さい頃の事を覚えているの?」

「もちろんだよ。君と初めて会ったのはアディくらいの年の頃だったよね」

「そうだったかしら、あんまり詳しく覚えてないけれど」


 気付いたらお茶会などで良く会うようになって、いつの間にかアレンが家に遊びに来ることが増えてなんだかんだ気が合ったので仲良くしていた幼馴染。

 アレンはちょっとがっかりしながらも「まぁ僕が覚えているからいいんだ」とかなんとかボソボソ言っていたけれどいいならいいかな。


 それからしばらくお茶をしながら歓談していたけれど次第にアディリシアが眠くなったのかグズグズし始めたので男性陣で話もあるでしょうしとアディリシアを寝かしつけてくると言って少し席を離れる事にした。

 今にも寝そうなアディリシアを抱き上げて部屋へと向かう。


「アディ、寝ちゃっても良いわよ」

「んぅ……おねえさま、アディごあいさつちゃんとできた?」

「ええ、ちゃんと出来てたわ。偉かったわね」

「よかったぁ」


 眠そうなままニコッと笑った顔は天使みたいに可愛かった。


 思わず頬を摺り寄せてしまう。

 可愛い可愛いアディリシア。

 このまま健やかに育って欲しい。




 アディリシアを寝かしつけたまま側に付いているとハンナが代わると申し出てくれたが、今戻るのも早すぎて男同士の会話に水を差しそうな気がしてもうしばらく付いている事にした。

 アレンと私は手紙のやりとりを続けていたけれど弟たちは久しぶりの再会だし、もう少ししてから戻ることにしよう。


 すやすやと眠るアディリシアの寝顔に癒されるなと頬杖をついた……のがまずかった。


 気が付けば寝てしまっていたらしい。

 ハッとして身を起こすとさらりと肩から何かが落ちる。

 いつの間にかストールがかけられていた。


「おはよう、かな」


 突然かけられた声にびくりと肩を揺らして首を捻る。

 少し離れた椅子に座って優雅に足を組んだアレンが面白そうにこちらを見ていた。


「え?な?あ、アレン?」

「ああ、安心して。もちろん何もしてないよ。ハンナにも声をかけてあるしドアも少しだけど開けたままにしてあるから」


「いや、それは心配してないけど」

「…………」


「それよりごめんなさい。せっかく来てくれたのに私ったら」

「きっと疲れてるんだよ。ハンナも君のことを随分心配していたよ」

「全然平気よ、アディの寝顔には魔力があって見ていると眠くなっちゃうの」

「確かにそんな魔力がありそうな可愛い寝顔だね」

「……あげないわよ」

「どうしてそうなる」


「…………」

「…………」


 2人して真顔で見合ったあと、どちらからともなくフッと笑みがこぼれた。


 ああ、確かに今は肩の力が抜けている。


 やっぱり少し疲れていたのかもしれない。


「私、どのくらい寝ていたかしら」

「まだ夕食前の時間だ、そんなに経っていないよ」

「そう、良かった。夕飯を食べ損ねたかとおもったわ」

「ねぇルディ、何か手伝える事があったら遠慮なく言ってくれ、君の力になりたい」


 急に真面目な顔でアレンが言うから、一瞬返事に窮してしまった。

 こんな、顔もするんだと幼馴染の成長に驚く。


「ありがとう、その時が来たらお願いするわ。……夕食はこちらで召し上がっていかれる?」

「いや、そろそろ失礼するよ。帰る前に君の目が覚めてくれてよかった」

「もう、だったら起こしてくださいな」

「そんなの、勿体なくて出来ないさ」

「?」

「いや、こっちの話。また近いうちに来るよ、今度は君とゆっくり話がしたいな」

「ええ、美味しいお茶を準備しておくわ」


 アレンは立ち上がると見送りはいいと言ってドアノブに手をかける。

 その立ち姿がひどく大人っぽくて少しドキリとした。

 せめてドアまでと駆け寄って感謝の意を示す。


「……アレン、本当に今日はありがとう。会えて嬉しかったわ」

「僕も君の笑顔が見れて良かった」


 アレンはそう言うと私の髪をひと房掬い取り、軽く口付けから部屋を出て行った。






「……誰?今の」


 私は思わず硬直してしまった。


 あんな大人の男の人がやるような仕草をするような人だっただろうか。

 見慣れぬ行動に心臓が遅れてバクバクと音を奏で始める。

 久しぶりに会った幼馴染は少し昔とは違う面を見せていた。


「寄宿学校で悪い影響でも受けたんだわ、きっと」


 また近いうちに来るとアレンは言っていた。

 会いたいようななんだか気恥ずかしいような。


「やめよう、考えない考えない」


 ひとつ深呼吸をするとまだ眠ったままのアディリシアの顔を見て先ほどの光景を頭から追い払う事にした。




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