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第二章 02

 

 春めいてきたある日、幼馴染のアレン・ブローセンから手紙が届いた。

 寄宿学校を卒業し戻って来たので挨拶に来たいということだった。


 彼は優秀な成績で卒業し王宮の薬術院で薬術師見習いとして働く事になったのだそうだ。

 会うのはお母さまの葬儀以来だろうか。


 来訪についてお父さまに伝えると『任せる』との事だった。

 最近のお父さまの口癖は『任せる』と『好きにして良い』の二言だ。

 相変わらずお仕事が忙しいらしい。



「姉上、図書館へ行っても構いませんか」

「姉さまゴメン、花瓶割っちゃった」

「お姉さま、ご本読んでください」

「おねえさま、だっこ」


 マリおば様以外の来客は久しぶりで弟妹たちはいつもより少しそわそわしている。

 でもどうして同時に話しかけてくるのかしら。


「ライル今日はお客様がお見えになるから出かけないように伝えたわよね。カイト物を壊すのは良くないことよ、お父さまに報告しますからね。ベル、本はお客様が帰られた後で読んであげるから。アディ抱っこは少し我慢してね。ベル、アディと遊んであげて」


 間もなくアレンが到着する時間だ。

 今日に限ってモーリスはお父さまのお仕事に付いて行ってしまうし、ハンナは今お客様を迎える準備を取り仕切ってくれている。

 他の侍従たちは弟妹たちに遠慮があるし私が目を離さないようにしないと。

 今日はドタバタは無しにしたい。


 平和に、平穏に。



「お姉さま見てみて!アディと遊んでたら出来た!凄いでしょ」


 ほら!と誇らしげにベルグラントが見せてくれたのは空中で踊るアディのぬいぐるみ。

 おそらく空気を魔力で操っているのだろう、ウサギのぬいぐるみが楽しそうに踊っている。

 アディは嬉しそうにキャッキャッとはしゃいでいた。


 その光景を見て呆然と固まる私たち年上3人。


「姉上、アレ出来ますか?」

「出来るわけないでしょう、あんな器用なこと」


 貴族は魔力持ちが多いと言ってもその力は些細なことが多い。

 特性を活かして専門の仕事をする人も居るが大体は持っているけれどそんな使うことは無い、そんな程度の魔力の人が殆どのはずだ。

 なのでベルグラントの魔力とセンスは異例と言える。


「いーなー俺にももっと魔力があったらなぁ」

「カイト、お前にこんな魔力があったらきっと家がめちゃくちゃになる」


 羨ましそうにため息をつくカイトの頭をポンと撫でてライルが言った。

 こればっかりは持って生まれたものであるので仕方ない。

 魔力は鍛える事が出来ると言われているが元々のベースが違いすぎる。


「あー俺もグワーッと力をかましてみたいぜ」

「ぐわー?」


 カイトが両手を勢い良く上げた仕草を見てアディリシアが面白そうに真似をする。

 あ、嫌な予感。


「そうそう、アディもやりたいよな。グワーッて」

「待てカイト」


 私と同じ様に察したライルがカイトの口を慌てて塞ぐが


「ぐわー!」


 間に合わなかった。


 アディリシアの掛け声と仕草と共に部屋中に強い風が巻き起こる。

 控えていた侍女たちから悲鳴が上がった。


「アディ、ダメ! ベル止めて」

「は、はい!」


 私はとっさにアディリシアを抱き寄せてベルグラントへ叫ぶ。

 何かが割れるや倒れる音がして、しばらくすると風がやんだ。


 アディリシアは強い魔力を持つがその力はとても不安定で普段は鳴りを潜めているがこういったひょんなタイミングで発揮されてしまったりする。


 そろそろ本格的な対策をマリおば様に相談しようと心に誓った。


 なにせ部屋を見回せば酷い惨状である。

 それに私たち姉弟はボサボサ頭でとても人前に出れる状態ではないと言うのに…


「やぁ、なんか大変な時に来ちゃったかな」


 来客がタイミングよく来たりするのだから。



「まぁぁ!お嬢様お坊ちゃまどうなされたんですか!お怪我は!?」

「…ええ、大丈夫よハンナ。ちょっとしたハプニングがあっただけだわ。それよりお客様を隣りの客間へご案内してあげて。アレン様、申し訳ありませんが先にお部屋へ行っていていただけますでしょうか、私たちも直ぐに向かいますから」


 慌てるハンナにニッコリと笑顔で答え、お客様ことアレン様にも丁寧にお辞儀をする。

 ボサボサ頭で様になったかどうかは微妙なところだけれど。

 ハンナは深いため息をつくとアレン様を連れて隣りの客間へと向かった。



「俺じゃなくてもめちゃくちゃになったね」

「笑えないわカイト」

「同感」


 疲れ切ったベルグラントを支えるライルがペシリとカイトの頭を軽く叩く。

 張本人のアディリシアは楽しそうに笑っていた。






「先ほどは失礼致しました。お久しぶりですアレン様」


 大惨事の部屋は申し訳ないけれど侍従たちに任せて急いで私たちは身なりを整えた。

 何事もなかったような顔で仕切り直してみたけれどアレン様は面白そうに笑っていた。


「気にしていないよ。それより昔のようにアレンと呼んで欲しいな」

「では私の事も昔のように」

「うん。ルディ、久しぶりだね。レティシア様の事は本当に残念だったね、力になれなくてごめん」

「いいえ、その節はお世話になりました。母君のナターシャ様にも気にかけていただきまして、どうぞ宜しくお伝えくださいませね」

「ああ、母上もルディたちに会いたがっていたので今度は是非ウチに遊びに来てくれ」

「勿体ないお言葉です」


「……それで、そろそろ砕けた会話をしても構わないかな?」

「……私もそう思っていたところよ」

「気が合ったね、そうしよう」


 弟妹たちの手前、見本となるように丁寧に接してみたけれど幼馴染ではどうも勝手が違う。

 まともに会うのは2年ぶりだけれどアレンの持つ親しみやすい空気は昔と変わらなかった。

 彼のこの気安さが私は気に入っている。



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