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第七章 03

 

 デザートが並ぶテーブルは細長く続いており様々なケーキや菓子が並んでいた。

 どれもこれも一級品とばかりに輝いている。


「まぁすごい」

「本当」


 ちょうど同じ様にデザートを取りに来た令嬢たちがその種類の多さに驚いている。

 程よい距離にいたので思い切って声をかけてみた。


「どれも美味しそうですわね」

「ええ本当、にっ」


 こちらを向いた令嬢は私の顔を見ると驚いて隣りの令嬢の腕を掴んだ。


「ごめんなさい急にお声をかけて、驚かせてしまったかしら」

「い、いえ。どんでもないです。あ、ねぇあちらも見に行きませんこと」

「ええ行きましょう!ご、ごきげんよう」

「……ごきげんよう」


 こんなやり取りが数回続く……

 せっかく声をかけてみても令嬢たちに苦笑いを返されて離れて行ってしまう。

 なぜかしら。

 にこやかにしているつもりなのにもしかして顔が強ばってるのだろうか。

 手を頬にあてて考えてみるけどわからない。


「どれかお取りしましょうか?」


 不意にテーブルを挟んだ向こう側から声がかかり顔を上げると人好きする笑みを浮かべた赤毛の侍女が皿を手にしていた。

 テーブルにはシェフや侍女が付いており、取り分けてくれるようになっていた。


「え、ええ適当に幾つか取っていただけるかしら」

「畏まりました」


 侍女は周辺デザートの中から選んで更に乗せて行く。

 一口サイズのデザートはどれも凝っていて目を楽しませてくれた。


「気になさること無いですよ、あまりにお嬢様が美しくて気が引けてしまっただけでしょうから」

「え?」


「お嬢様こちらでいかがですか?」

「あ、ありがとうございます」


 5つのデザートとフォークを乗せて差し出された皿。

 またニッコリと微笑んで私の手にそれを乗せてくれる。


「どうぞ素敵な時間をお過ごしくださいませ」


 先程の呟くようなセリフが気になるもののどうも聞き返せそうもない。

 ぺこりと小さく頭を下げてくるりとその場を後にした。


 きっと励ましてくれたのだろう。


 途中で少し振り返るとそれに気付いた先程の侍女が小さく手を振ってくれた。

 じんと胸が暖かくなる。

 どうやら私は少し落ち込んでいたらしい。


「あ、私の好きなものばかり……」


 お皿に並ぶデザートは木の実や柑橘系の物が多く並び自分好みのものばかりだ。

 何故分かったのだろう、無意識に視線が好みの菓子を追っていたのだろうか。

 とても印象的な侍女だった。



 さて、どこに行こうかしら。

 チラリと先程の場所を見ればアレンはまだリアラ様たちとお話をしているようだったので場所を移そうと人気の無い方を選んで進んで行く。


 そしてデザートを載せた皿とグラスを手にたどり着いたのは祭壇となった噴水の側だった。

 奥まった場所もあり、飾られた花々は賑やかだがひっそりとした空気を醸し出していた。


「一応、お祈りはしておくべきよね」


 噴水の縁にグラスと皿を置いて手を組み、そっと目を閉じる。


「女神様の祝福と恵みに感謝します。新緑の季節が柔らかに生命を育んでくれますように」


 中央の小さな女神像に祈りを捧げると優しい風がふわりと吹き抜けていった。

 若葉の澄んだ香りが一瞬濃くなり心を癒す。


「これはこれは……」


 思いの外すぐ近くから男性の声にハッと顔を上げた。

 人が来ていたことに全く気付かなかった。


「敬虔なるご令嬢がいらっしゃると思ったら……なんと美しい方でしょう」


 噴水の影から現れたのは若干派手な身なりの青年だった。

 長めの前髪をかき上げてその青年は更に距離を縮めてくる。

 いくつか年上と思われるその人は目の前までくると恭しく礼をとった。


「失礼、貴女のあまりに美しい姿に思わずお声をかけてしまいました。私はデニス・ニコロディと申します。麗しきご令嬢のお名前をお聞きしても?」


 ぞわり、小さく鳥肌が立った。

 顔に出そうになるのを必死に抑えて笑顔を貼り付けて礼を返す。


「先客がいらっしゃったとは気付かずに失礼しましたわ。私はルディア・アスターフォードと申します」

「なんと! 美しいお姿だけでなく、とても愛らしいお名前でいらっしゃるのですね」

「まぁお上手ですこと」


 ぞわり、ぞわりと鳥肌が強くなった。

 ニコロディ様はどうやら気取った話し方をする人のようだ。


「あなたの信心深い仕草に胸を打たれました、初めは女神が現れたかと思った程です」


 先ほどの小さな祈り姿で何故?と思うもやっと気付く。

 これは社交界特有の口説き文句というものかもしれない。

 虎の巻にもその様な事が書いてあった。

 些細な事を持ち上げて話題として声をかける手口なのだろう。

 確かに女性が好きそうだし好かれそうな方だ。

 そう思うとスッと落ち着きを取り戻すことが出来た。

 きっとこんな所に一人でいる変わった令嬢に声をかけてみたかっただけなのだろう。


「ここで出会ったのも何かのご縁、ルディア嬢とお呼びしても構わないでしょうか」

「え、ええ」

「私の事もどうぞデニスと」

「か、畏まりましたわデニス様」


 同じ様なやり取りを先ほどリアラ様としたはずなのにモチベーションは低くなる一方だ。

 アレンはきっとこんな時もそつなくこなしているんだろうなと一瞬幼馴染が頭をよぎった。


「お近づきの印にどうぞこの花を受け取っていただけないでしょうか」


 いったいどこから取り出したのか銀色に輝く一輪の蕾の花を目の前に差し出された。

 変わった色の蕾だ、花とデニス様を交互に見る。

 ……これは受け取らないといけないのだろうか。


「さぁどうぞ」


 こんな時のあしらい方はどうだったかと悩む間も無く蕾の花を手渡されてしまった。


 ポフンッ


「わっ」

「おおっ」


 蕾の花は受け取った瞬間、蕾を弾けさせて花開く。

 キラキラと煌めく粒子を撒いて咲いた花は淡い水色の花弁をいくつも重ねた不思議な花だった。

 驚いたように花を見つめるデニス様はそっと私の手ごと花を掴んでマジマジと見つめた。


「この色はともかくこの花弁の数、さすがアスターフォード家のご令嬢ということか」


 呟く様に言われた言葉が上手く聞き取れない。


「今何と……」


「ルディア嬢!」


 鋭さを含んだ声に名を呼ばれビクリと身をすくめる。

 長い腕が私を庇うように肩を包みデニス様と距離を取らせた。

 軽く息を切らせて割って入ったのはここ最近聞き慣れた声の主。


「ゾーイ様」

「ルディア嬢、一人にしてすまなかった」

「え?」

「まさかゾーイ、ルディア嬢は君の連れなのかい?」

「そうだ、すまないが彼女の手を離してもらおう」

「それは失礼した」


 ゾーイ様の言葉にデニス様は自分の手が私の手を掴んでいることに気付き、パッと離した。

 その時、無粋だと思ったのか差し出した花を抜き取って行く。


「まさか君に女性の知り合いがいるとは思わなかったよ。どこで知り合ったんだい?」

「あなたに関係の無いことだ」

「……相変わらずだね、まぁいいさ。ルディア嬢、今度ゆっくりお茶でもしましょう」

「え、ええ」

「では失礼」


 少し気取った礼を取ってデニス様は遠ざかって行った。

 変わった方だ。



「ゾーイ様ありがとうございます。困っていると思って助けて下さったのですね。嘘までつかせてしまって申し訳ありません」

「いや、ああ言った方が話が早いと思っただけだ」


 ゾーイ様もいつもの魔術師の紺色のローブとは違う正装姿で普段はゆるく結っているだけの銀の髪を一つに纏めて縛っていて雰囲気が違う。


「どうした?」

「いえ、ゾーイ様が殿方に見えたもので」

「何を言っているんだ君は」


 つい思いのまま言葉にしてしまいゾーイ様は呆れた顔をしていた。

 いけない、いけない。


「ええと、デニス様とはお知り合いでしたの?」

「ああ、彼は魔術院の者だ。……そして例の信者の一人だとの疑いがある」

「例の信者……」


 狂信者と呼ばれる人たち、確か魔術院の中にもいると以前ゾーイ様は言っていた。

 デニス様がそうなのだろうか、そんな風には見えなかったけれど。


「なにかされたりしなかったか?」

「なにも、ご挨拶しただけですので。……そう言えば不思議な花を貰いましたわ、結局あの方が持って行ってしまいましたけれど」

「不思議な花?そう言えば何か持っていたな」

「そんなに心配なさらなくても……もう持っていませんし」


 何かを警戒しているかのようなゾーイ様の様子に不思議と首を傾げてみる。

 だが、ゾーイ様はやはり気になるようだった。


「どんな花だった」

「初めは銀色の蕾の一輪の花でしたけれど、私が手にしたら色が変わって咲きましたわ」

「……気になるな。花の事なら彼が専門だろう、来ているのかアレン・ブローセンは」

「いらしてますわ、先程までご一緒していましたので……」

「探そう」


 ゾーイ様は颯爽と人々が集まるパーティーの中心部へと足を向けた。

 置いていけないとばかりにデザートの皿とグラスを掴んで後を追いかけていく。


「何を持っているんだ君は」

「食べ物を粗末には出来ませんもの」


 またしても若干呆れられながらもアレンを探すために立ち止まった一瞬でデザートを口に放り込んだ。


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