第六章 04
「柔軟で広大な思考を持つ者ほど魔力の扱いに長けている。使うにしても……隠すにしても、だ」
「やっぱり……この子たちの力は隠した方が良いのでしょうか」
貴族であれば魔力を持っていてもおかしくない。
特段隠す必要もない様に思えるけれど、時代にそぐわない大きな魔力を持つと言うことはどこか危うくも考えられる。
それにピクニックの時にアートおじ様が言っていた事も気になっていた。
「ゾーイ様、魔力について偏った考え方される方々がいらっしゃると聞いたのですが」
お父さまに尋ねてみたけれど言葉を濁し、流されてしまった。
「ああ、狂信者たちの事だろう。魔力というものに魅せられて勘違いをしている集団だ。魔力を多く持つのは女神の加護が特別にあるのだと神聖視しまるで女神の化身かのように崇拝している」
狂信者という言葉に嫌な響きを感じる。
この国の女神信仰では博愛の精神に基づいていると言うのに。
「そんな……女神様はすべての人々に平等に加護を与えていらっしゃるわ」
「自分たちは選ばれた者だと勘違いしているのだろう。どうせ分かることだから言うが魔術院の中にもそう勘違いした者たちが何人もいる」
それは、ちょっと問題なのではないだろうか。
だからアートおじ様は忌々しそうにしていたのかもしれない。
「その方々にこの子たちの事が知れたらどうなりますか?」
「すぐに祀り上げあれるだろう。私ですらしつこい勧誘を受けたくらいだからな」
「大丈夫だったのですか?」
「興味がないと応じずにいればいつの間にか収まったが、いかんせん仕事に支障が出たのでな。筆頭魔術師殿にご配慮いただいて部屋を一つ貰って研究の日々を送っているから問題ないが……この子たちはまだ幼い、おかしなことに利用されかねないから気を付けた方がいい」
「わかりました。ベルも力の事は秘密よ」
「はい、お姉さま。アディも魔力はシーだよ」
「シー」
ベルグラントは私の言葉に深く頷くと、アディリシアに向けて口元に人差し指を立てて内緒だと伝えたが……果たして伝わったのかどうか。
仕草が面白かったのかアディリシアは楽しそうにベルグラントの真似をして指を立てて「シー」と繰り返ししている。
ベルグラントもだけれどアディリシアの事は私がしっかり見て守ってあげないと。
「良いか、忘れてはならないのは魔術は万能ではないという事だ。壊れた物と死んだ者は甦らない。何かを破壊することは出来たとしても消す事は出来ない。そして力を使うのはどんな時も術者の心次第だということだ」
「むずしいです」
「だから、私が教えるんだ。これから学んでいけばいい」
「はい、先生」
「まぁ、最初の授業としてはこんなところか」
「「ありがとうございます」」
最初はなんて人だろうと思ったけれど柔軟な思考に切り替えの早さ、この人が優秀なのも頷ける。
それに子供相手でも誤魔化す事無くしっかり伝えようと言葉を選んでくれている、
ベルグラントも話しやすそうだし、アディリシアもどうやら大丈夫そうだ。
参考までに日常的にしておいた方が良い事などを聞いて立ち上がった。
風を動かして服に着いた埃を払う。
さっき聞いたアドバイスを活かしてクルクルと指先を動かしながら風が柔らかい箒の様に体の周りをなぞっていく事をイメージする。
すると、思ったより勢い良く綺麗になった。
「ルディア嬢、君も魔力があるのか」
「ええ、アスターフォード家はみんな魔力持ちなんです。もちろんこの二人ほどではないですけど」
「さすが縁ある血筋という事か」
「差し支えなければ教わった事などを他の弟たちにお伝えしてもよろしいでしょうか」
「構わない、それに都合が合えば連れて来るといい」
「ありがとうございます」
きっとカイトは来たがるだろう、ライルももしかしたら興味があるかもしれない。
ゾーイ様は本がお好きなようだからライルはきっと気が合うだろうな…と思いを馳せていると不意に壊れた東屋が目に入った。
そうだった、忘れていた。
「あの、どうしましょう。さすがにそろそろ警備の方々がいらっしゃいますよね。凄い音がしましたし」
東屋を指差して恐る恐る尋ねれば、ゾーイ様は静かに首を振った。
「この周辺には遮断術を展開しているから音を聞きつけては人が来ないだろう」
「そ、そうなのですか?」
「ああ、予めこの庭園の外側に音を遮断する魔道具を設置し発動しておいた。あなたがたの事は秘密裏にとの依頼だったので話の内容を聞かれない為のつもりだったが……さっきの破壊音もおそらく外には聞こえていないだろう」
「ご配慮くださってありがとうございます。でも魔道具だなんてお高いのでは?」
「自分で作ったものだから問題ない、それに出入りを塞ぐものではなく音だけを遮断する簡易な物だ。だから人は普通に入ってくる」
入り口に視線を向けるゾーイ様につられてそちらを見れば丁度この庭園に足を踏み入れる人たちがいた。
「うわっ、どうしたのこれ」
「おおっ、これはまた派手に」
「お前たち怪我は無いか?」
背後から突然現れたのはゾーイ様へ手紙をしたためた“過”保護者たち。
アレンとセドリックおじ様は東屋の瓦礫を見て驚いている。
お父さまは焦った顔をして駆け寄って来ると私たちの無事を確認した。
「大丈夫ですわ。でもお父さま方どうして?」
「様子を見に参りました」
「エマ様!」
お父さまたちに続いて現れたのは騎士服に身を包んだエマ様。
久しぶりの凛々しいお姿だ、表情もいつにも増して厳しく見える。
「現状報告を、ゾーイ殿」
「見ての通り、東屋が崩壊した」
「経緯をお尋ねしても?」
「私の作った魔道具を披露しようとして暴発した」
「ゾーイ様」
「私の責任だ」
「……っ」
口を挟もうとすればゾーイ様の鋭い目で睨まれて思わず口をつぐむ。
そんな私たちの様子にエマ様は「わかりました」と小さく頷いた。
良いのだろうか、本当の事を言わねばと思うが言おうとすると鋭い視線と威圧感が襲ってくる。
「ルディア様、大丈夫ですよ。あの東屋は随分と古くなっていたので建て替える話も出ていたので問題ありません」
エマ様が察してくれたのか表情を緩めてそう教えてくれた。
さすがです、エマ様。
お会いしてお話した結果、ゾーイ様が指導を引き受けてくれた事を伝えるとみんなが喜んで応援してくれた。
ベルグラントは張り切って毎日でもやりたいと言ったけれどゾーイ様のお仕事の合間にお時間をいただき、あとは自主練習だと伝えるとちょっとだけガッカリしていた。
「カイト兄様とは別の方法でお姉さまやアディを守れるように様になりたいので頑張ります!」
そんな可愛い事を言ってくれるベルグラントをアディリシアと一緒にギュウギュウと抱きしめた。
その間、アレンやおじ様たちに質問を受けていたゾーイ様がおもむろにポケットから懐中時計を取り出すと「時間になったので失礼します」と立ち去ってしまう。
過保護な大人たちの参入によりゾーイ様とあまりお話する事なく解散となってしまったがありがとうとこれからよろしくお願いしますの意味も込めてその後ろ姿に頭を下げた。




