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第六章 03

 

「……お姉さまどうしよう」

「ふぇっ」 

「だ……大丈夫よベル、アディも泣かないの」


 腕の中で戸惑う二人を落ち着かせるようにしゃがみ込んで背を叩くが私は頭の中で盛大に焦っていた。


 散らかる葉っぱ。

 瓦礫となった東屋。

 呆然とするゾーイ殿。


 やり過ぎてしまった。

 さすがに破壊はまずい。


 この二人はすごいのだと見せたかったけれども、これでは逆効果かもしれない。

 それより王宮の設備を壊したのは一体どうしたら良いの。

 事故で済むのかしら

 お父さまに迷惑がかかってしまったらどうしよう。

 色んな不安が目まぐるしく頭の中を駆け巡る。


「なるほど、これは確かに」

「あの……これは」

「秘密裏にと言うのも合点がいった」

「えっと、ゾーイ様?」


 ブツブツと独りごちるゾーイ様。

 そして何か納得したのかこちらに顔を向け、パチリと目が合う。


「確かにこれは教える者が必要だな」

「え?」

「すまない、私の安易な思い込みのせいで無茶をさせてしまった。もっときちんと話を聞くべきだったと反省している。許して欲しい」


 ゾーイ様は申し訳なさそうに頭を下げた。

 予想外の反応に今度はこっちが呆然としてしまう。


「そんな、頭を上げてください」

「アディリシアと言ったか、怖い思いをさせてすまなかった。泣かないで欲しい」


 座り込む私たちに合わせてゾーイ様が片膝を折り、アディリシアの顔を覗き込んだ。

 グズグズしていたアディリシアが瞳を潤ませながらゾーイ様を見返す。

 ふと視線を下げればゾーイ様のローブの裾が地面に広がっているのに気付いて、慌てて立ち上がる様に促した。


「ゾーイ様お衣装が汚れます。お立ちになってください」

「汚れなど払えば良い、今は私の真摯な気持ちをあなた方に伝えるのが先決だ」


 なんて真面目な人だ。


 淡々としているのではなくてきっと何事にもドがつく真面目なのだこの人は。


「お気持ちはわかりましたから」

「許してくれるのか」

「私がいけないのです、二人に思い切りやるように言ってしまったので」

「それは私が力量をみたいなどと挑発するような事を言ってしまったからだろう」

「それはそうですけれど……ではお互い様ということにしましょう」

「あなたがそれで構わないならば」

「構いませんから、早くお立ちになって」

「私よりあなたのドレスの方こそ良いのか、スカートが汚れてしまっているが」


 私を中心に広がる長いスカートは先程の強風で舞った木の葉と土埃で汚れてしまっている。

 更にしゃがみこんでいるせいもありアディリシアはスカートの上を踏んで抱きついていた。


「いつもの事ですから、お気になさらずに。子供たちといるとどうしても汚れてしまうのです」

「令嬢というものは美しい身なりを気にするものとばかり思っていたが」

「普通はそうかもそうかもしれませんけれど、でも汚れを気にしてこの子たちと触れあえないのは嫌ですから、ね」


 ジッと私たちのやり取りを見ていたアディリシアに微笑みかけるとアディリシアは手を伸ばしてギュッと私にしがみついた。

 そのまま抱っこをねだるので膝に抱え上げると小さな靴が触れた場所に足跡が残るが汚れなど数えてもキリがない。


「変わっているな」

「いいんです、綺麗なドレスや宝石よりもこの子たちの方が大事ですもの」

「お姉さま」


 空いている方の腕でベルグラントも抱き寄せればコテンと体を預けて来た。

 まだ不安そうな顔をしているが、大丈夫と繰り返し微笑んだ。


「……ふっ」

「あ、ゾーイ様呆れていますね?」

「いや、体裁ばかりの令嬢よりもその姿の方がずっと好ましいと思う」

「それって誉めています?」


 土埃にまみれた姿を好ましいと言われた私って一体。

 そう思っているとゾーイ様はいよいよ地面に座り込んだ。


「ゾーイ様!?」

「微力ながら2人の魔力のあり方についてこれから助力させて貰おう。改めて宜しく頼む」

「引き受けて下さるという事ですか?」

「ああ」

「ありがとうございます。良かったわねベル、アディ」


 最初の印象では断られると思っていたの引き受けて貰い、フッと肩の荷が下りた気がした。

 お父さまは愛想が無いと仰っていたけれど、この人も不器用なだけかもしれない。


「早速だが今の出来事について話すとしよう」


 ベルグラントも私に並んで腰を下ろして話を聞く姿勢を取る、アディリシアは私の膝の上だ。

 一応ゾーイ様の方に向くようにして抱え直す。


「では、まず君だ」

「ベルグラントです先生」

「先生?」


 急な呼び名にゾーイ様が顔をしかめる。

 ベルグラントは臆せずに答えた。


「教えてくださる方は先生と呼ばないと」

「……まぁいい。ではベルグラント、先ほど魔力を使った時は何を考えていた?」

「強く風が吹けば良いと思って……あと葉っぱを踊らせるのは良くやるから」   

「なるほど、漠然としたイメージの割には形になっていた。アディリシアの方は何も考えていないだろう。だから制御出来ずにこうなったわけだ」


 こうなったと言って指を指した先には壊れた東屋。

 そうだった、どうしようと不安が蘇る。


「ルディア嬢、あれは気にしなくて良い。確かに想定外だったが、私が魔道具の実験で壊したことにしておく」

「いえ、そんな訳には」

「先ほど、何があっても私が責任を取るという事にすると言っていただろう」

「いやそれは売り言葉に買い言葉みたいなもので…」

「問題ない、どうせこの庭園を利用する者など皆無だろう」

「そういう問題ではない気がしますが」


 どうもゾーイ様と話すと会話が押し問答みたいになってしまう。

 何故だろうか。


「気にするな」


 ゾーイ様は会話を切り上げるように短く答えた。


「そうですか……ではお言葉に甘えて」


 と、言ったものの甘えて良いのだろうか。

 そもそも魔道具の実験で壊れたと言うのは果たして通用するのか。

 もうなるようになれと少し投げやりな気分で壊れた東屋を眺めた。





「話を戻すが、魔力の使い方の基本は意志を心で思い描く事だ」

「意志、ですか」

「そうだ。『意志』つまり、なしたいと思う事を魔力によって具現化する事を魔術と言う」


 アディリシアにはまだ難しそうな話だったので代わりにしっかりと聞いておかねばと生徒になったつもりでゾーイ様の言葉に耳を傾けた。

 確かにアディリシアの力がいつも暴走気味なのは衝動的であったり、漠然としているからかもしれない。


「魔力の強さによって出来る範囲が異なるが、大きな魔力を持つならばより強い意志によってその力をコントロール出来るようにならなければならない」

「先生、コントロールするにはどうすれば良いですか」


 律儀に「ハイ」と手を上げて本題について質問するベルグラント。

 兎にも角にも私たちはコントロールを学びたいのだ。


「コントロールするには魔術の精度を上げること、それには具体的にイメージが出来るようにならなければならない」

「イメージですか?」

「例えばこの木の葉を浮かせてみせるとしよう」


 ゾーイ様が落ちていた葉を1枚拾い上げた。

 手のひらに横に乗せたかと思うと葉っぱは縦に起き上がり僅かに空中にふわふわと浮き上がる。


「ベルグラントもやってごらん、浮かべと唱えて」

「はい」


 ベルグラントも真似をして手のひらに落ち葉を乗せる。

 そして「浮かべ」と小さな掛け声をかけると葉っぱは勢い良く空に舞い上がった。


 ……そしてどこかへ行って見えなくなる。


「あれ?」

「今、ただ言葉通り『浮かべ』と思っただろう?」

「はい」

「漠然と『浮かべ』と思ったらその言葉のままに浮かび上がってしまう。今度は私のように手のひらの上でとどまる様にイメージをして、そうだな……『手のひらに浮かべ』と願ってごらん」


 ベルグラントはゴクリと喉を鳴らしてもう一度葉っぱを手のひらに乗せた。

 そしてゾーイ様の手元の葉っぱを良く見ながら集中して「手のひらに浮かべ」と呟いた。

 すると葉っぱはゆっくりと起き上がり、不安定ながら手のひらの上でクルクルと回った。


「先生! 出来ました!」

「上出来だ、ベルグラントは勘が良いようだな。すぐにコツを掴むだろう」


 喜んで声を上げたベルグラントをゾーイ様が褒めてくれる。

 お父さまに教わっていた魔力の使い方とは違い、感心するように私は2人の光景を眺めていたがふと気付いた事があってさっきのベルグラントの様に「ハイ」と手を上げた。


「質問です、先生!」

「ルディア嬢まで、なんだ」

「さっきゾーイ様は浮かべと唱えていなかったのにベルには唱えさせたのは何故ですか」

「良い質問だ、イメージは言葉にすることでより具体的になる。慣れるまでは意志を言葉にする方がコントロールしやすい。慣れれば思い描くだけでも意志は具現化する」


 確かに頭に描いたイメージを言葉に結び付ける事でより意志は具体的になる。

 さっきもただ「浮かべ」と漠然としていたのが「手のひらに浮かべ」とイメージを言葉にしたら成功した。


「つまり魔力を使うのも抑えるのも意志の力が必要だ。その為に必要な事が何かわかるか」

「「わかりません」」


 ベルグラントと私の声が重なった。

 もう二人ともゾーイ様を先生と仰いでいる。


「想像力を養うことだ」


 ゾーイ様は短くそう答えた。



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