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第五章 08

 

「姉さま、アディ寝ちゃった?」


 カイトとベルグラントがデザートを乗せたお皿を持って来てくれたがブランケットにくるまるアディリシアを見て声を潜める。

 二人は側に腰を下ろすと心配そうに妹を眺めた。


「疲れて寝ているだけだから大丈夫よ。二人ともさっきはありがとう、よく頑張ってくれたわね」


 二人がアディリシアの嵐のような風を抑えてくれたおかげで被害はとても少なくすんだ。

 でなければせっかく作ってくれていたおば様たちの料理も吹き飛んでしまっていただろう。


「カイト兄さまが支えてくれたら出来たんです」

「俺は大した事してないし、ベルのおかげだよ」


 照れた二人の物言いがお互いを称えていてなんていい子たちだと思うと同時にまたそこが可愛いらしい。

 二人の頭を順番にぐりぐりと撫でる。

 このまま成長していって欲しいと願うばかりだ。




「それにしても、アディの力はすごいや」


 カイトがアディリシアの頭を撫でて感心したように言う。

 確かに今日の“嵐”は今まで一番凄かったかもしれない、外で力を使う事なんて無かったからだろうか。


「本当に、血筋かしらね」

「魔力が人間から失われていく時代に、まだ2歳でこの力じゃ先祖返りかもしれないね」


 ナターシャ様とセドリックおじ様が言う血筋。

 今は貴族であっても魔力を持たない人も多いらしい。


 すでに魔力は『いずれ失われていく力として』認識されていた。

 そんな中でアスターフォード家は古い一族と言う事もあり、私を含めて力の差はあれども縁の者はみんな魔力を持っている。

 とは言えベルグラントとアディリシアが群を抜いてこれだけの力を持つのはとても稀有な事だ。

 魔力は使うほどに強くなる。

 もちろん人それぞれの伸びしろはあるけれどほぼ毎日魔力で遊んでいる二人を思うとちょっと心配だ。

 そもそもこんな幼少時に遊ぶ程の魔力自体持っている人は少ないのだから。


「お父さまとも話したのですが二人ともどなたかに早めに師事した方が良いのかもしれません」


 力の使い方を知らなければまた今日のアディリシアの様な事が起きてしまうかもしれない

 ベルグラントも安定して魔力を使っているように見えるけれど時々どこか持て余している様な姿があった。

 言わないけれどそんな時はどこか不安そうな顔をしている。

 たとえ将来必要の無い力たったとしても扱う(すべ)は身に付けておいた方が良いはずだ。


「専門は魔術院だろうけど……あそこは陰気な者、多いからなぁ」


 アートおじさまが考えを巡らせながらぼやく。


 魔術院は魔力を研究し、活用する事を考える魔術師たちが勤める場所だ。

 魔力の専門家というなら確かに魔術師が最適なのだろう。


 家系で言えば本当はお父さまが教えられたら良いのだけどお父さまはアディリシアの出産の時にお母さまを守るために力を枯渇する限界まで使い果たしてしまったらしい。

 そのせいで今では私と同じくらいしか力が無いそうで…

 使い過ぎて枯渇する事は滅多にないそうだけれど、それだけ大変な出来事だったのだ。

 それにベルグラントはともかくアディリシアに嫌わ……避けられている今は教えるどころではないだろう。


「二人を大きくなるまで外に出さないでいる事も考えたが、そんな窮屈な思いはさせたくない。かと言って魔道具で魔力を強制的に抑える様な事もしたくない」

「当たり前よ! そんな扱い許さないわ!」

「マリ落ち着いて」


 お父さまの言葉にマリおば様が怒りのこもった声を上げるがアートおじ様の声にハッと我に返る。

 子供たちは少しビックリしていた。

「大きい声を出して悪かったわ。でもそうね、誰かに師事するとしても二人の力をまだ公にしない方がいいと思うわ」

「どうしてですか?」

「こと魔力に関しては偏った考え方を持つ者たちがいるのさ。偏り過ぎて自分たちの利になる事なら子供さえも利用しようとする奴らだ」


 ライルがマリおば様に尋ねると代わりにアートおじ様が答えた。

 どこかあらぬ方を見て紡ぐ言葉はどこか忌々し気にも感じる。

 詳しく聞きたいけれど、子供たちがいる場では控えた方がいいかもしれない。。

 あとでお父さまに聞いてみよう。


「マリおば様はどうしたら良いと思いますか……」

「そうねぇ」


 マリおば様は少し考えてから1人の人物の名前を口にした。


「師事するとしたらゾーイはどうかしら」

「ゾーイか、彼なら適任かもしれませんね。魔力に通じていて口も堅く信用における」


 セドリックおじ様はよく知る人物なのかマリおば様に同意して頷いた。

 私は聞き慣れない名前に首をかしげるがアレンは心当たりがあったらしい。


「ゾーイ・ルーグ子爵ですか?」

「ああ、年も近いしアレンは合流があったかな」

「ハイ、確か2つ上だったかと」

「ゾーイ様、どんな方ですか」


 弟妹たちの先生になるかもしれない方だ。

 おばさまやおじさまが推薦なさるなら確かだろうけれど、どんな方か気になり尋ねるとアートおじさまが答えてくださった。


「ゾーイ・ルーグは魔術院に入ってまだ浅いがその優秀さは群を抜くと評判だよ」

「でも父君である先代のルーグ卿が体を壊されたということで先日若くして子爵を継がれたばかりですよね。手が空く時間があれば良いのですが」


 アレンは心配そうに言うが大人たちは何とかなるだろうと話を進めている。

 私は慌てて割って入った。


「でも、無理にお願いは出来ませんし。ご本人にもご相談しませんと」


 若くして当主となられたなら日々お忙しい事だろう。

 もしダメだったとしてもそれは仕方ないので役目を強制するような事は避けたかった。


「ね、お父さま」

「ゾーイとは話したことがあるが確かに聡明な青年だった。実力も問題ないが……愛想が無いのが心配だ」


「「お前が言うか!」」


 ひどく真面目な顔で言うお父さまに対し、見事にアートおじ様とセドリックおじ様の声が重なった。

 私とライルもチラリと視線を交わす、思っている事はきっと一緒だ。


 愛想が無かったとしてもお父さまで既に免疫があるから大丈夫ですよ、と。


 そんな中、袖を引かれて隣を見ればカイトが私を見上げていた。


「姉さま、俺も修行したい」

「あら、カイトは何をしたいの?」

「…剣とか武術を習いたい、姉さまたちを守れるように。悔しかったんだ前に守れなかったこと」

「カイト…そんな事を思っていたの?」


 バザーの日からもう随分と経ったというのにずっと、ずっと思っていたのだろうか。

 まだ守られる立場で良いと言うのに。


「ジャンに教えてって言ったけど。姉さまや父さまの許可が無いとダメって…でも言い出せなくて」


 料理長のジャンは筋肉隆々の大男だ。

 その昔、傭兵をしていたというけれど…カイトとそんな話をしていたなんて。


「お父さま……」

「……将来、騎士になるつもりか?」


 妙に凄みを効かせたお父さまの問いかけにカイトは一瞬怯むも力強くその目を見返した。

 膝の上でグッと拳を握りしめる。


「将来の事は、今はわからないけど……早く家族を守れるようになりたい!」

「自らやりたいと言うのなら中途半端な気持ちで人から教わるものではないぞ」

「わかっています、お願いします。」


 カイトはお父さまに向かって頭を下げた。

 本当に強くなりたいと思っているのが伝わり、握りしめた拳にそっと手を添えた。


「お父さま、構いませんよね」

「……ジャンには私からも言っておこう」


 それは了承の答え。

 カイトは満面の笑みで顔を上げた。


「ありがとうございます! お父さま」

「良かったわね、カイト」

「はい!」


 喜ぶ姿は無邪気なままだけれど、だんだんと自分で考えて大人になっていくのだと感慨深い気持ちになる。

 まだ許されるうちはと弟の肩を抱きしめた。


 

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