第五章 07
「来ると思ってたわアレン。遅かったじゃない?」
「アレン調査の進みはどうだい?」
ニコニコと微笑む両親の問いかけにアレンはじろりと父親を睨んだ。
「母上はともかく……父上はどうしてここにいるんでしょうか」
静かな怒りをたたえた見習い薬術師は父に氷のような冷ややかな目を向けていた。
どうやら本日のピクニックを知らされてなかったらしい。
「そうですか、僕だけ仲間外れですか」
「おや、今日は休みだからと言ってなかったかな」
「……父上、聞いていませんけど」
「あら、作業のキリの良いところで丘の上で休憩したらと言ったと思ったけど」
「……母上、それは誘いではなく日常会話ですよね」
「ははっ」
「ふふっ」
笑って誤魔化すご両親はきっとアレンをからかって面白がっているのだろう。
それがわかるからかアレンも諦め半分にため息をついて苦笑していた。
すっかり大人しくなったアディリシアはぐしゃぐしゃだった顏をエマ様に綺麗に拭いて貰い、乱れた髪をマリおば様に丁寧に結い直して貰うと少しだけ気分回復したようだった。
ついでに私の髪も結い直して貰い、その時にお父さまはアディリシアと私のリボンがお揃いの事に気付いたらしい。
ライルに「遅い」と突っ込まれていた。
どんなに小さくても女の子は女の子なのだ、やはり男親に女の子の機微は難しいのかもしれない……。
それからみんなで手分けして昼食の支度を再開し、少し遅くなったもののなんとか落ち着くことが出来た。
敷布の上に簡易低めのテーブルが置かれ様々な料理と飲み物が並ぶ。
「サンドイッチは私とナターシャで作ったのよ」
マリおば様が指さす先には定番の三角サンドイッチから始まりバターロールや丸パン、ベーグルなどの様々なパンで色んな具材の挟まったサンドイッチに子供たちのテンションがわっと上がった。
それぞれ好きなものを取り皿へと選び取る。
「カイト行儀が悪い」
「兄さまコレ食べてみて!マリおば様このチキンのサンドイッチすっごく美味しいです!」
「そうでしょうそうでしょう、たんとお食べなさい」
「はーいっ……んぐっ」
両手に一つずつサンドイッチを持って頬ばるカイトが勢い余ってむせこむとライルが落ち着けと飲み物を手渡した。
それを必死にゴクゴクと飲み干して「ふぅ」と息を吐く。
「ぷっ」
「ははっ」
「あはは」
誰ともなく笑いがこぼれ、みんなで笑い合うとカイトは恥ずかしそうに肩をすくめていた。
またその姿も愛らしく場の空気が和む。
「お姉さま僕が取ってあげる」
「ありがとう、ベル」
敷布の端にアディリシアを膝に抱えたまま座る私を気遣ってベルグラントが幾つかサンドイッチを取って来てくれた。
少し眠そうなアディリシアにも大好きなたまごのサンドイッチを手渡してあげる。
「アディ、たまごだよ。食べれる?」
「たべゆ」
食欲はあるらしくアディリシアはもそもそと小さな口を動かしていた。
一つ食べきるといよいよ眠くなったのかアディリシアがぐりぐりと頭を押しつけてくるので背中を叩きながらゆらゆらと揺らしているしばらくして小さな寝息が聞こえて来た。
そっと腿に頭を乗せる形で横に寝かせるとエマ様がブランケットを持って来てくださりアディリシアを包み込むように掛けてくれた。
さすが気の利く方である。
ふと周りを眺めれば料理の第一線は子供たちが陣取っており、そのすぐそばにマリおば様とナターシャ様にアレン。
父親方は少し離れた場所で集まってまたワインを傾けていた。
お父さまはセドリックおじ様とアレンの手により止血と薬を塗布され今は若干の唇の腫れはあるものの、なんとか飲食は出来るようだった。
気を使ったアートおじ様が隣に座ってお父さまを慰めているようだ、笑いながら。
耳をすませば少しだけ会話が聞こえてくる。
「なんだい、まだ落ち込んでるのかい」
「放っておいてくれ」
アートおじ様がボトルを差し出しながら声をかけるけれどお父さまの返事は投げやりな感じだ。
だがそんな事は気にしないとアートおじ様は言葉を続ける。
「だいたいお前はぎこちなさすぎるんだよ。昔は子供たちを猫可愛がりしていたじゃないか。なぁセド」
「そうだね、鉄仮面と呼ばれるマクシミリアン・アスターフォードが遂に仮面を割ったとまで言われていたのに…また鉄仮面に戻ってしまうとはね」
セドリックおじ様が残念そうに言った。
お父さまは無表情な方だと思ってはいたけれど…職場で鉄仮面と呼ばれているなんて。
でもお母さまが亡くなってからのお父さまは確かに冷たく張り詰めた表情で鉄仮面のようだった。
「レティシアの余命がわかったのが一年前、女神の元へ旅立ってから半年以上か…」
ポツリとセドリックおじ様が呟くとアートおじ様が持っていた杯をグイっと飲み干してお父さまに言った。
「お前がレティシアの為に必死だったのはわかるが、ないがしろにされてきた子供たちにそれを理解しろと言うのは無理な話だ」
「相変わらずアートは容赦ないな。……わかっているよ」
「でも、戻りたいと思ってるんだろう」
「……ああ」
「まぁ、一度無くしたものは取り戻すのが大変だからな、ルディアとライルはともかくチビ達の心を取り戻すのは苦労するだろうな。マリが散々忠告してたっていうのに」
「あの時は聞く耳を持たなくて悪かったと思っている」
「不器用なお前の事だから時間はかかるかもしれないが大丈夫だろう、とにかくめげない事さ」
「そうだな。アート、お前が言うと大丈夫な気がしてくるよ」
「そうだろう」
「お気楽なところがアートの取り柄だからね」
「セド、それは誉め言葉かな」
「そういう事にしておいてくれ」
「……2人共、ありがとう」
「おう」
「うん」
お父さまは二人にポンポンと肩を叩かれて、鉄仮面と言われていた表情を少しだけ崩した。




