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第一章 02

 

 その後、日程を組んでお母さまはマリおば様とどこかへお出かけし魔術師に診て貰ったらしい。


 帰ってきたお母さまはどこか憔悴してらしたが私たちの子供の前では何でもないように振る舞っていたので弟たちはきっと気付いてないだろう。

 私は声をかけるべきか迷い、結局尋ねることが出来ないまま一日が終わろうとしていた。


 ベッドに入ってからも気になって眠れなかった私はやっぱりお母さまに聞きに行こうと両親の部屋に向かった。


 ドアの前でノックしようと手を上げた瞬間、お父さまとお母さまが話している声が聞こえてしまった。


「本当なのか、場合にはよっては命を落とすことがあるというのは」

「ええ、私かこの子か……最悪の場合は両方の命を、落とす事になるようです」

「ああ……なんてことだ」

「あなた、私どうしたら」


 お母さまの声が涙に震えている。

 今、お母さまはなんと言った?

 まさか、そんな……命を落とす、死んでしまうと言うこと?

 私はドアの前で固まってしまった。


「私この子を産みたいわ、死なせたくない」

「もちろんだ、それに君も死なせない。何か方法があるはずだ。魔術師は他に何か言っていたか?」

「この子の魔力が強すぎるので私もこの子も出産に耐えられないかもしれないと、でも出産時にあなたと私の魔力を通して生む事が出来れば2人共助かる可能性もあるだろうと」

「可能性があるなら私も必ず出産に立ち会おう。一緒にこの子を守り、もちろん君の命も守る」

「あなた、ありがとう。マリが、何か他にも方法がないかを探してくれています。あの子も大変な時期なのに」

「彼女には感謝しないといけないな。私も何か出来る事を探してみよう」

「子供たちにはどうか内緒に、余計な心配をかけたくないの」

「……ああ、そうしよう」


 2人の会話をそこまで聞いて私は静かに部屋に戻った。


 お母さまが死んでしまうなんて嫌だ。

 もちろん赤ちゃんが死んでしまうのも嫌だ。


 ベッドに潜り込んでグルグルする気持ちをなんとかなだめようとするけれど涙が溢れて止まらない。

 どうしたらいいのか、私に何が出来るのか。

 結局その日は朝まで眠ることが出来なかった。




 そうしてお母さまもお父さまも何も語ることなく弟たちは何も知らないまま月日だけが流れていった。

 マリおば様が無事に男児を出産したと聞き、間もなくしてお母さまの出産の日がやって来た。


「モーリス、お父さまはまだなの?」


 待機していた医術師とお母さまが出産の為のお部屋に籠ってから私はお父さまの執事であるモーリスに尋ねた。

 お母さまの陣痛が始まると同時に屋敷の者が王宮で働くお父さまの元へ連絡に向かったはずだ。


 不意にあの夜の会話が頭をよぎる。

 マリおば様が一流の医術師たちを手配してくれたが赤ちゃんとお母さまが無事でいるにはお父さまが必要なのだ。


 お父さま早く来て!届く様にと必死に願った。


「すぐに参られますよ。さぁお嬢様もお坊ちゃまも居間でお待ちしましょう」


 心配する私たち子供4人を居間へ案内し、モーリスは温かい飲み物を勧めてくれた。

 不安そうか弟たち。

 私が落ち着かなくちゃと飲み物をひとくち飲んで息を吐く。


「ねぇモーリス、お母さまはどうしちゃったの?」


 泣きそうになりながらベルグラントが問いかけた。

 モーリスは膝を折ってベルグラントと目線を合わせると穏やかに答えた。


「ベル坊ちゃまの弟君か妹君がお生まれになるのですよ」

「弟か妹?」

「はい、その為の準備に入ったのです」


「……母さま大変そう」

「うぅ……おかぁさま」


 ポツリとカイトが呟くとベルグラントが更に涙目になった。


「ベルおいで」


 そっと大丈夫と抱きしめると小さな手がぎゅっとしがみついてくる。

 落ち着かせるように柔らかな自分と同じ栗色の髪を撫でた。

 モーリスは静かに話し続けた。


「出産というのはとても大変なことなのです。お母上も生まれてくる赤ちゃんも同じです。皆様もその大変さを乗り越えてお生まれになったのですよ」


「……お母さまに感謝しないといけませんね」


 ライルが祈るようにお母さまの居る部屋を向いて言った。

 次の瞬間、居間に魔力の渦が起きたと思ったら不意にお父さまが現れた。


「お、お父さま!?」

「遅れてすまない。モーリス、レティシアはどこだ?」


 まさか転移魔法で戻って来るとは思わなかった。

 というか初めて見ましたお父さま。

 そんな魔力がおありだったんですね、ってこれからお母さまの元に行かれるのに魔力使っちゃっていいんですか!?


「お父さま! これからお母さまに魔力を送るのでしょう、私もお手伝いさせてください」

「ルディア、……知っていたのか」

「以前お父さまとお母さまが話しているのを聞いてしまったのです。お願いです私も少しなら魔力を送る事が出来ます」


 この日の為に自分の魔力が少しでも強くなるようにこっそり鍛えてきたのだ。

 微々たるものでも力になりたいと必死だった。


「ありがとうルディ。でも大丈夫だよ、お父さまに任せなさい」

「でもっ」

「魔術院から沢山の魔力増幅装置を借りて来た。さっきの転移も魔道具のおかけだ。大丈夫、安心して待っていなさい」


 腕に付けられた羅針盤のような魔道具を見せてお父さま微笑んだ。

 頼もしい言葉と共に大きな手が優しく私の頭を撫で、次に弟たちの頭を順に撫でてお父さまはお母さまの元へと向かった。


「姉上、父上を信じましょう。父上は王宮でも指折りの魔力をお持ちです。きっとなんとかしてくださる」

「ライル……そうね、私たちのお父さまだものね」


 今は信じて祈るしか出来なかった。




 それは長い長い時間だった。



 カイトやベルが目を擦り眠そうにし始めたので部屋に戻して寝かそうと思ったが二人共一緒に待つというのでライルが毛布を取りに行ってくれてみんなでくるまることにした。

 ぴったりくっついた温もりのせいか私もうつらつらしはじめた頃、遠くで赤ちゃんの泣き声が聞こえた。

 慌てて三人を起こしているとモーリスが部屋に飛び込んで来た。


「皆さま、妹君がお生まれになりましたよ」

「モーリス、お母さまは?」

「ご無事ですよ、今はお疲れになっていますからお会い出来ませんが」

「お母さまも、赤ちゃんも……大丈夫なのね、良かった」


 知らず涙がこぼれていた。

 良かった、本当に良かった。

 涙は拭っても拭っても止まることがなく、それを見ていたベルグラントやカイトまで泣き出してしまった。


「姉上、どうか泣き止んでください」


 ライルがそっとハンカチを差し出してくれたのでそれを受け取って涙を拭けば思わず笑みがこぼれた。

 出来た弟にこれではどちらが年上かわかならい。


 でも本当に心配だったのだ。

 不安はいつの間にか消え失せて胸に安堵が広がる。

 いつもと同じ、ライルやカイトやベルグラントの時と同じでお母さまも大丈夫なんだわ。




 その後、戻ってきたお父さまが私たちを力いっぱい抱きしめて新しい家族の誕生を改めて教えてくれた。



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