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第三章 07

「よ、そこのお二人さん。出来立てのホットドッグはどうだい?」


 先ほど足早に通り過ぎた道をゆっくりと屋台を眺めながら歩いて戻っていると途中、パン屋の出している屋台から声がかかった。

 看板を見れば『パンサム亭』とある、城下町で人気のパン屋だ。

 今日は屋台としてホットドッグを売っているらしい。


「お、おまえ!」

「よう、アレン」


 声をかけてきた青年を見てアレンの表情が歪む。

 だがそんな事は気にしないとばかりに青年はアレンの肩に腕を回すと親しげに話しかけた。


「久しぶりだな、元気にしてたか?」

「離せ、なぜお前がここにいる」

「行きつけのパン屋がバザーで屋台を出すって言うからさ、手伝いに来たってわけ」

「手伝いならしっかり店に協力しろ、こっちに構わないでくれ」

「なんだよつれないな。それよりさ、一緒にいるこの子が噂の幼馴染だろ?紹介してくれよ」

「誰がお前に……」


 元気の良い青年だなとアレンとのやりとりをぼんやり眺めているとふとその青年と目が合った、そして数秒見つめ合うとハッと思い出した。


「「あの時の!」」


 青年と声が重なった。

 向こうも同じタイミングで思い出したらしい。


 そう、あの怪しい男にぶつかられた時に出会った青年だ。


「あんたがルディア嬢か?アレンの幼馴染の」

「え、ええ。ルディア・アスターフォードです。さっきはどうもありがとう」

「こちらこそ俺の忠告をちゃんと聞いてくれたみたいでありがとな。出店者に伝令が回ってきたぜ。俺はオズワルド・ロペス、よろしく。あの後どこか痛くなったりしなかったか?」

「大丈夫よ、心配ありがとう」

「ちょ、ちょっと待って、二人は知り合い?ルディはいつオズと知り合ったの?」

「アレン、落ち着いて」


 オズワルド様に背を向ける形で間に割り込んできたアレンが勢い良く問いかけて来たので先程のいきさつを伝えるとどうやら荷物の出し入れなどで行ったり来たりしていたからかアレンに話は伝わっていなかったらしい。

 話を聞き終わるとアレンは顔を青くして上から下まで私の姿を眺め始めた。


「そんな危ない目にあっていたなんて、本当に怪我は無い?ルディ、黙っているなんてひどいじゃないか。なんですぐに言ってくれなかったんだ」

「ごめんなさい。本当に大丈夫よ、わざわざ言う事もないし耳に入っていると思ってたから」


 出店者への伝達やナターシャ様から聞いているとばかり思っていたけれど、確かに心配症の彼が話を聞いて何も言わない訳がなかったのだ。


「聞きしに勝る過保護っぷりだな」

「うるさいよオズ。店番に戻りなよ。僕らも手伝いに戻らないといけないからじゃぁな」

「ああ、待て待て」


 オズワルド様が呆れたように言うとアレンはムッとしてその体を屋台へと押しやり立ち去ろうとするがその腕をガシッと掴まれてしまう。

 オズワルド様は首だけ屋台に向けると中の店員に声をかけた。


「サム!少しの外に出てて構わないか?」

「おうオズ、友達か?今日はもう充分手伝って貰ったし、こっちはいいぞ。楽しんで来い」

「サンキュー!あとでまた来るから」


 サムと呼ばれた中年の男性はおそらく店長だろうニッコリと笑ってオズワルド様を送り出した。

 じとりとアレンがオズワルド様を睨む。


「……付いてくる気か?」

「せっかく会ったんだし、何か手伝うぜ?」

「良かったじゃないアレン。男手は助かるわ、宜しくお願いしますねオズワルド様」

「オズで良いよ、あんたも気にしないならルディと呼んでも良いか?口調も畏まったのは苦手なんだ」

「おい!調子に乗るなよ」

「構わないわ」

「ルディ!」


 珍しくアレンが焦っているようでなんだか面白い。

 以前オズの事を悪友とアレンは言っていたけれどなんだかんだ良いコンビなのかもしれない。


「オズワルド、お前のその強引なところ本当変わらないな」

「アレンこそ口うるさいところか変わらないじゃん」

「誰のせいだ」

「人のせいにしないでくれよ?子供じゃないんだから」

「な・ん・だ・と!」


 前言撤回、やはり犬猿の仲かもしれない。

 ギャーギャーと喚く2人から離れたい。


 ああ、なんだか頭が痛いわ。


「はいはい、そこまで」


 パンパンと手を叩いて2人の口論を止める。

 そして戻るべき方向を指差して低めの声で言った。


「二人とも急いで戻りましょう」


「「はい」」


 道すがらアレンと2人でオズにバザーの運営の手伝いと孤児院の出店の手伝いをしていることなどを伝えテントへと戻った。

 ナターシャ様はオズとは面識があるようで一緒にいる事に驚きもせず「会えたのね」とニッコリと微笑んだ。


「母上はオズワルドがこのバザーに来ているのを知ってたんですか」

「もちろん、お店の準備の前にパン屋さんの店長さんと一緒にご挨拶に来てくれたのよ。それにあなたにも言ったじゃない“お友達も手伝いに来てるわよ”って」


 そう言えば確かにナターシャ様に会った時そう言っていたなと記憶を辿る。

 アレンにしてみれば来ることも聞いていない悪友がいるなんて夢にも思わなかった事だろう。


「だいたい母の言葉をちゃんと聞かないあなたが悪いのよ」

「……すみませんでした」


 ナターシャ様に絞られたアレンが若干ぐったりとしつつもオズワルドを伴って年長組のお店の様子を見に向かった。

 去り際になんだか寂しそうにこちらに手を振っていたので可哀想になり小さく振り返してあげたのは優しさだ。





「ナターシャ様、そろそろ回収のお時間です」


 テント内へノーラが手に袋を二つ持って駆け寄って来た。

 ナターシャ様はポケットから懐中時計を出して時間を確認する。


「本当ね、もうそんな時間だったわ」


 バザーの開始から半分くらいの時間が過ぎた頃、一度孤児院のお店の売上金の一部を回収して教会の金庫へと納める予定の時間だった。

 孤児院の出している2つのお店内に鍵のかかる金庫が無いので大人が付いているとはいえ念の為に余分なお金は回収しておく事になっている。


「お手伝いしますわ」

「ありがとう助かるわ。では私とノーラは年長組のお店に行くので年少組のお店をお願い出来るかしら」

「はい」


 3人でテントを出て孤児院のお店へと向かう。

 賑わう人々に盛況でなによりだとナターシャ様とノーラが会話するのを聞いていると見慣れた姿が目の前に現れた。


「お姉さま」

「おねーさま」


 どこかしょんぼりしたカイトとアディリシアだ。


「ナターシャ様、少し失礼します。…カイト、アディ!」


 何かあったのかと2人の駆け寄るとどうやらライルが古本売り場で足を止めて動かなくなってしまったらしい。

 読み終わるのを待ちきれず私のところに行くと言って2人で来たようだ。

 変なトラブルとかで無くて良かったと胸をなで下ろす。


「もう、ライルったら普段はしっかりしているのに本に夢中になると本当ダメね。この道を真っ直ぐ行ったらテントがあるからそこで待てる?今お仕事の途中なのよ」

「ねぇ、お姉さまと一緒に居ても良い?邪魔しないから」

「おねーさまといっしょがいい」

「二人ともダメよ」


「あら、良いじゃない」


 弟と妹に片手ずつ掴まれて困ったおねだりに首を振っているとナターシャ様がポンと私の肩を優しく叩いた。


「すぐに終わる作業ですもの可愛い付き添いが2人増えても問題ないわ、ね?」


 ナターシャ様の言葉にカイトとアディリシアは目をキラキラとさせている。


「ちゃんとご挨拶出来たらよ」


 私の言葉にカイトがナターシャ様を見て緊張し、それがアディリシアにも伝わったようだ。

 2人の体に力が入っている。


「初めましてカイト・アスターフォードです。よろしくお願いいたします」

「あ、アディリシアです。よろしくおねがいします」


 カイトは習った通り丁寧にお辞儀をして挨拶を述べ、アディリシアは相変わらずの私にくっついたままだけど一生懸命挨拶をした。

 あまり他の人と交流のない我が家だからカイトとアディリシアは人見知りをしないまでもかなり緊張するらしい。

 ナターシャ様とノーラが顔を綻ばせて笑っているのでホッとして私の表情も緩んだ。


「初めまして、ナターシャ・ブローセンです。あなたたちのお母様とお友達だったのよ」

「ノーラです、この孤児院の1人です。よろしくお願いします。」


 カイトとアディリシアはナターシャ様がアレンのお母様だと聞くと親近感を持ったのか緊張が解れたようだ。

 ノーラも子供の扱いに慣れているので上手く対応してくれている。


「ナターシャ様、ありがとうございます」

「気にしないで、2人に会えて嬉しいわ。後でもう一人の弟さんも紹介してちょうだいね」

「ええ、もちろんです」


 きっとまだ古本売り場で本を読んでいるだろう長男を思い浮かべ、帰ったら思い切りお説教だと心に決めた。



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