第三章 03
その後青年は他に用があると言って立ち去り、私とノーラはこの事をシスターやナターシャ様に伝えるべく足早にテントへと戻った。
テントには後半に当番のあるご婦人方とその侍女たちが予定を確認しあっていた。
その中にナターシャ様を見つけ、静かに側へ近寄って声をかける。
「ナターシャ様」
「ルディ、お帰りなさい。遅いから心配していたのよ」
「ナターシャ様、お耳に入れたい事があります。今ノーラがシスター・ナディアを呼びに行っていますので少しお時間をいただけますか」
「何か、あったのね?」
控えた声で話す私に良い話ではない事を察したナターシャ様。
小さく頷き返すとちょうどノーラがシスター・ナディアを連れて急いで戻って来るのが見えた。
4人で少しテントから離れ、先ほどの出来事を簡単に伝える。
話しながらあの青年の名前を聞いておくか逃げた男の特徴をもっと詳しく聞いておけば良かったと後悔した。
突然の事にまったく頭が働いていなかったのだと今更気付く。
一通り話を聞いたシスター・ナディアとナターシャ様は迅速に今日の主要メンバーへ声をかけ子供たちや出店者へと注意を促す事にした。
表向きの理由として今回はいつもより多くの人が集まりそうだからという事で話をし、子供たちには何かあったら直ぐに大人に知らせるようにと念を押す。
シスター・ナディアは念の為に教会の施錠を確認すると言って年若いシスター・アネットを伴って建物へと戻って行き、ノーラは売り子の仕事があるので持ち場へと向かった。
ナターシャ様と二人、小さくため息をつく。
「無事に終われば良いですけれど」
「そうね。でもルディ、注意は必要だけど心配し過ぎも良くないわ。その青年の勘違いかもしれないしね」
「ええ、そうですね」
「一応入り口にいる騎士さんたちには私が伝えに行くわ。怪しい人の出入りがないか気にかけていただきましょう」
昔は細々としたバザーだったものの年々参加者が増えてちょっとしたお祭りみたいになってから一応王宮に開催の届出を出したところ、トラブル防止の為もあり当日は入り口のゲートに騎士を何人か派遣してくださる事になっていた。
何かあった時にはきっと対応してくれるはずだ。
町外れの教会でのバザーで何かが起きるなど考えたくは無いけれど、あの青年の話だと男たちと複数で言っていたのが気にかかる。
「ほらほら、そんな顔しないの。切り替えてバザーを楽しみましょう」
ポンと優しく肩を叩かれて顔を上げればナターシャ様がニッコリと笑った。
ふと肩の力が抜けて私もにこりと微笑みを返す。
「はい、ナターシャ様。せっかくの子供たちのイベントですもんね」
「そうよ。無事に終わって、打ち上げのお茶会が出来るように祈りましょう。その時に貰えるアスターフォード家特製のお菓子を子供たちがとても楽しみにしているしね」
「それを聞いたら料理長のジャンが喜びます」
「ぜひ伝えてあげてちょうだいな。それじゃ私は入り口の騎士さんの所へ行って来るわね」
「はい、私は子供たちのお店の様子を見てきます」
途中まで一緒に行き、入り口が見えたところでそれぞれの行き先へと向かった。
開始時間から少し経過したせいか客足が増えてきた様で少し敷地内が混み合っている。
そう言えばアレンはどこで何の手伝いをしているのだろうか、男手がいるとご婦人方に連れて行かれたけれど……まぁ上手くやっているでしょう。
孤児院の売り場はご婦人方の持ち寄った品を扱う売り場と子供たちの手作りの品などを扱う売り場の二つに分かれている。
ご婦人方の持ち寄った品は高価なものは扱わない決まりとは言え、大人向けのお値段の品が多いのでノーラたち年長者が主に売り子をしており、手作りの品の方は計算しやすい金額の品が主なので年少者たちが売り子をしている。
もちろんサポートで大人のご婦人方がそ双方にれぞれ付き添って見守りながら一緒にやり取りを行うのだけれど。
まず年長組の売場へ行くとノーラが直ぐに気付いて駆け寄って来た。
「ルディ様、あの……」
「さっきの事は大丈夫よ。気にしないで売り場に専念してね」
「はい、でも何かお手伝い出来る事があったら言ってくださいね」
「ありがとう、頼りにしているがわ。お店の方はどう?」
「もういくつか売れたんですよ」
「まぁ本当」
品物が売れたことをノーラは楽しそうに話してくれた。
近くにいた他の子供たちやご婦人方にも声をかけて様子を聞いたり並んでいる品物を見たりするなどして過ごした後、もう一つの売場へと向かった。
通路を挟んで向かい側にある年少組の売り場はどこかほのぼのとしていて年長組の所とはまた雰囲気が違っていた。
「いらっしゃいませ」
「香り袋はいかがですか」
元気の良い明るい声が響く。
小さなテーブルを並べクロスを敷いた上には色とりどり小さな巾着袋が並んでいる。
参加するご婦人のお一人が裁縫を得意としていて分かりやすい型紙を作ってくれたのでご婦人方みんなで同じサイズの巾着袋を各々手作りして提供したのだ。
もちろん不器用ながら私もハンナと一緒にいくつか作っている。
その巾着袋には孤児院の裏庭で子供たちが育てているハーブを入れて匂い袋にしていた。
乾燥させたハーブにナターシャ様提供の精油を少し垂らして袋に詰める作業は子供たちがメインで行ってくれたので販売する子供たちの声にも気合いが感じられた。
「みんな調子はどうかしら?」
「ルディ様! 聞いて、僕もう3個も売ったよ」
元気いっぱいに年少組のわんぱく少年ジョージが声を上げる。
「すごいわジョージ、お金は間違えなかった?」
「うん!僕計算得意だから」
「えらいわね」
えへへと照れ笑いするジョージの頭を撫でてあげると俺も私もと次々に子供たちが今日の報告をしてくるので皆の頭も順次撫でてあげた。
この孤児院の子供たちはみんな素直でいい子たちばかりだ。
先程のノーラの様子といい、やはりバザーは交流の場として子供たちに良い影響を与えている様だった。
しばらくの間、子供たちと並んで販売側に立ち、見に来た人に声をかけたり売り買いのやり取りの様子を見守ったり時々手伝ったりして忙しく過ごすこととなった。




