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慈見修介 1 ロリコンですか?

初投稿です。小説書くのって難しいですね…

『ロリコン』


ロリータ・コンプレックス とは、幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情のこと。略してロリコンともいう。ロリコンと略す場合は、幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情を持つ者のことも指すことがある。



慈見修介じみしゅうすけが、出掛ける前にこんな言葉を真剣に調べてしまった理由は、現在隣を歩いている少女にある。


「ん?どしたの?」


なんとなく見つめてしまった修介に不思議そうな顔を向ける彼女は、治龍麗亜じりゅうれあ


整った顔立ち、肩甲骨のあたりまで伸ばされた髪は少しだけ明るく染められ、彼女の性格によく似合っている。スタイルも良く、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。


17歳であり、同年代の中でも若干大人びて見られる彼女は間違いなく幼女では無いし、性的嗜好や恋愛感情を持って見たところでなんら不思議ではないだろう。


問題は修介との年齢差にある。彼は29歳なのだ。干支が一回りする年齢差である。


「いや、なんでもないよ」


「ほんとに〜?あたしに見惚れてたんじゃないの?もっと見てくれていいんだよ〜」


ほれほれと言いながら嬉しげに体を寄せる彼女に、修介は苦笑する。


朝から二人で大型ショッピングセンターへ出かけて、ウィンドウショッピングを楽しみ、昼食を食べて恋愛ものの映画を鑑賞し、喫茶店でお喋りして、騒がしい大通りでこんな会話をしながら帰途に着く。


なんとも完璧な仲良しカップルの様であるが、実のところ二人は付き合っているわけではない。


麗亜は修介にべったりだし、修介にしても麗亜を好ましく思ってはいる。しかし、年齢差と立場の違いが、修介自身の内に芽生えた気持ちを認めさせない。


ふと、一瞬修介の体が強ばった。首を傾げ、かすかに眉根を寄せる。それは彼が臨戦態勢に移行するときの癖だ。


「…修介さん?」


体を寄せている麗亜が敏感に察知し、不安げに彼を見上げる。


「すまん。多分大丈夫だ。ただの癖だよ。」


肩をすくめ、苦笑する。例え一瞬の反応でも察してしまう麗亜に、修介の胸が微かに痛んだ。


それは、彼女が荒事の気配に過敏に反応してしまうきっかけとなった事件を思い出したからか。


それとも、微かな変化を察してくれる彼女に少しの喜びを感じてしまった罪悪感故なのか。


「すみません、ちょっとよろしいですか」


人混みの喧騒を掻き分け、言葉とは裏腹に有無を言わせない口調で声をかける男。


修介は至極冷静に、麗亜は不安から修介の腕を強く抱えつつ振り返る。


「ちょおっとお聞きしたいことがありますんで、端に寄ってもらえますかね?」


愛想笑いを貼り付けながら二人に声をかけたのは、若い警察官だった。


二人は大人しく道端に寄り、話に応じる姿勢をとる。


「すみませんね、お時間取らせちゃって。ところで、お二人はどこかお出かけですか?」


二人はそろって動揺した。


これが職務質問、職質ってやつか初めて受けたぞ何の用だこれ。


二人の思考は見事にシンクロした。


何か事情があるのかもしれないし、治安を守る警察官に協力するのはやぶさかでないが、痛くもない腹を探られて愉快な者はいないのだ。


いや、修介は仕事柄色々とあるが、警察の厄介になる必要はないはずだ。


「あーっと、朝から色々出かけてて、今は帰るところだよ」


面倒だからと殴るわけにもいかず、修介が答える。


「随分と親しそうですけど、ご兄妹ですかね?」


「いや、あー…」


訝しげに尋ねる警官に、修介はなんと答えて良いのか悩んだ。


護衛と護衛対象の関係です?いや、余計に面倒になるかもしれない。麗亜が身分を盾にするような真似を良しとするとも思えない。


「兄妹じゃありませんっ」


代わって答えたのは麗亜だった。実に不満気である。


警官は驚いた顔をした後、不信感をあらわにして再度尋ねた。修介に。


「ではどういったご関係なんです?」


修介は焦った。視線を感じて隣を見れば、麗亜まで彼を睨んでいる。


修介は必死になって言葉を探し、


「お隣さんだ」


当たり障りのない事実を答えた。麗亜がついた溜め息は努めて無視する。


「お隣さんって、いやただのお隣さんとは思えませんけどねえ。とりあえず確認しますんで、住所のわかるものを出していただけます?」


「なんだってそんなに絡むんだ。俺たちが何かしたか?」


なんだか居た堪れない状況に嫌気がさした修介は反論を試みるが、当然悪手である。


「怪しいですねー。署まで来てもらってもいいんですよ?」


「だあっ、わかったよ。…これでいいか?」


修介は運転免許証を取り出して警官に示しつつ、目線で麗亜にも何か出すように促した。これ以上道端で押し問答するくらいなら、さっさと身分を明かしたほうがいいだろうという判断だ。


麗亜に対する立ち位置を自分でも決めかねていることを突き付けられ、居心地の悪さに耐えられなかったわけではない…はずだ。


少々機嫌の悪い彼女は、無言で学生証を取り出す。


「はー、セント・クレア学園のお嬢さんでしたか。じりゅうれあさん。…治龍⁉というと、あの治龍さん⁉︎」


ブワッと汗が噴き出した警官に応じず、そっぽを向いて唇を尖らせる麗亜に代わり、修介が頷いて肯定してやる。


「し、失礼致しましたぁ!」


警官は真っ赤な顔で敬礼した。


「いや、いいよ。で、何か事件でもあったのか?」


若い警官をいじめる気などないし、麗亜の父親に告げ口する気もない修介としては、自分たちが呼び止められた理由を確認してさっさとこの場を離れたい。


「いえ、そのぅ、なんと言いますか。我々は治安維持に真剣に取り組んでおりまして、この中央区におきましては風紀の乱れにも目を配っておりましてですね、しかし一定以上の需要があればどうしても供給する者も現れる次第でして。こうしてこまめに声をかけることが抑止になるという次第でして、ええ」


もはや滝のような汗を流しながら、よくわからない手振りも交えて必死に話す警官だが、どうにも要領を得ない。


「いや職務に熱心な感じは伝わったから、ちょっと落ち着けよ、な? 結局なんなんだ?」


観念した警官が放った言葉は、修介の心に酷いダメージを与えるのだった。







「すみませんでしたぁ‼」と見事に腰を90度曲げた警官が立ち去った後も、二人はしばし呆然と立ち尽くしていた。


「…帰ろうか」


「…うん」


と再び帰途についたが、警官に声を掛けられるまでの楽しい雰囲気などどこかに吹き飛び、モノレールに乗ってベッドタウンである東区に移動するまで、会話もほとんど無かった。


そうか。俺が女子高生と仲良く歩くと、援助交際を疑われてしまうのか…。


修介の脳裏に再びロリコンという言葉がよぎる。


遠い目をして歩く修介は、夕暮れ時の住宅街に実に似合っていた。本人は微塵も嬉しくないだろうが。


180センチほどの身長、鋭い目つき、がっしりした体格できっちりしたシャツを着た精悍なアラサーの男が、制服ではないとはいえ高校生くらいの年齢だと分かる明るい女の子と歩いている様子を見て、素直にカップルだと思う者は少ないかもしれないということは、修介自身納得できる。


しかし、援助交際はあんまりだと思うのだ。


おそらく先程の警官は、年齢的に不釣り合いな二人を見て、修介の精悍さをガラの悪さと、麗亜の明るさを軽薄さと誤認したのだろう。そんな失礼な誤解をしてしまったからこそ、大袈裟なまでに取り乱したのだと推測出来る。


誤解は解けたと思われるが、あの警官は冷静になった時、二人の関係をどう解釈するのだろうか。


麗亜の素性を知り、護衛と護衛対象だとは思ってもらえるかもしれない。しかし、警官の言っていた通り、二人の様子は親しげに過ぎただろう。麗亜はともかく、修介はどうにもお嬢様を誑かしたロリコン野郎だと認識されることは避けられないように思えてならないのだった。


思わず溜め息を漏らした修介の隣では、麗亜がひたすらに不満の声を漏らしている。余りに心外過ぎる誤解のショックから回復し、今度は腹が立ってきたようだ。無意識のうちに足早になっており、憤懣やるかたないといった様子である。


「援助交際って何さ。あたし達はれっきとしたカップルだよ。ラブラブだよ。めちゃくちゃ純愛に決まってるじゃんか。お金なんて使わなくても一緒に居るだけでちょーハッピーだよ。ねぇ、修介さん?」


そもそもカップルじゃねぇ。純愛なんて言われてもこっちはロリコンかどうかで悩んでるよ。現代日本でハッピーになるにはそれなりの金が不可欠だ。


そんな言葉は、「いいからとにかく同意しろ」と言わんばかりに睨む麗亜の迫力を前に引っ込んでしまった。


返事の代わりに、修介は少々乱暴に麗亜の頭を撫でる。なんともズルい、ヘタれた対応だと自嘲しながら。


「ん〜。もぅ、すぐそうやって誤魔化す。子供扱いしないでよね」


「高校生は子供で合ってるだろ」


「そうだけどさ〜。そういうことじゃないじゃんか。分かってるくせに」


分かっている。修介自身、分かっているのだ。相手は子供だからと誤魔化せる段階など、とうに過ぎているということくらい。


不満げな麗亜がふと何かを思い出し、ニンマリと笑う。


「けどさ、あたし知ってるからね。修介さんがたまにあたしをエロい目で見てること」


ぶふっ、と修介が噴き出した。切ないような情けないような微妙な気持ちなど、一瞬で彼方までぶっ飛んで行った。


狼狽える修介に、麗亜の追撃が刺さる。


「修介さんってさ〜、脚フェチでしょう? 制服のスカートとか〜、ショートパンツ履いてる時とかさ〜、結構視線感じてるんだよ? 気づいてないと思ってた? ねぇ、ねぇ」


苦虫を噛み潰したような表情で麗亜に視線を向けようとしない修介に、実に小悪魔的な笑顔で麗亜が密着する。修介の腕を抱きかかえ、半ばぶら下がったような状態だ。


しかし、修介とて思春期の少年ではない。豊富とは言えないが、ちゃんとした恋愛経験もあるアラサーなのだ。


故に、堂々と開き直ることにした。


「ああ、そうだな。俺は脚フェチだ。女性を見てまずどこに目が行くかと聞かれれば、迷いなく脚と答えるよ。ついでに言えば、胸も好きだ。小さいより大きい方がいい。今押し付けられてる感触には、大いに楽しませてもらってる」


まさかの性癖暴露に、今度は麗亜の方が狼狽えることになってしまった。顔が真っ赤になり、思わず修介の腕を抱いた力が緩む。


だが、麗亜とてただの思春期の少女ではないのだ。


生命の危機を救われ、アラサーで特殊な職業に就いていて化け物じみた身体能力を持った男に惚れてしまった。その後も頻繁に顔を合わせ、紆余曲折を経て、とうに覚悟は完了している。


故に、先程より強く修介の腕を抱き締め、胸を押し付けた。


「ふーん、修介さんは子供の脚とか胸で喜んじゃうんだね〜。それはヤバいんじゃないの?」


「魅力は魅力として認めつつも、決して手を出したりはしないのが大人の分別ってもんだ」


「も〜。あー言えばこう言う」


「大人だからな」


そんな言い合いを続けながら歩く二人は、呆れるほどにカップルにしか見えなかった。



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