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66、最後の晩餐

「ま、真昼。まず最初に伝えておかなければならない。

 二年前に会った鷹匠が、本当は摩夜の方だったと、俺はもう知っている。

 摩夜に頼まれてお前が嘘をつく羽目になったと聞いている」


「え……?」


 真昼は予想もしなかった話の内容に戸惑いを浮かべた。


「俺はずっと二年前の鷹匠に会いたいと思っていた。だから変だとは思いながらもお前があの時の鷹匠だと信じて何度か会ってきた。俺の勘違いにお前を巻き込んで悪かった。すまない」

 派玖斗はテーブルに両手を置いて、頭を深く下げた。


「……」

 真昼は呆然と目の前で頭を下げる派玖斗を見つめていた。


「俺は社内でも目立つ立場だから、いろんな噂がたってるだろうと思う。少しでもその噂を払拭ふっしょくできるように訂正していくつもりだ」


「……」


「実際、数回食事をしただけで、真昼の経歴を傷つけるようなことは何もなかった。ただどれほど潔白を訴えたところで、面白おかしく噂するヤツはいるだろう。俺はそういうヤツらを片っ端から捕まえて、俺の勘違いで食事をしただけだと説明するつもりだ」


「……」


「そしてこれ以上余計な噂を立てられないように、二人で会うのは今日で最後にしたい」


「……」


「勝手なことばかり言ってすまない。お前の気が済むならどんな償いでもするつもりだ」

 派玖斗はもう一度深く頭を下げた。


「……」


「真昼?」

 派玖斗は顔を上げて、何も言わない真昼をうかがった。


「い……やだ……。なに言ってるの……派玖斗さん……」


「真昼……」


「ま……さか……、摩夜が好きだなんて言うんじゃないですよね……」


「そ、それは……」

 この場で告げるのは、あまりに残酷な気がした。


「と、とにかく、俺は二年前に会ったハクを操る鷹匠に会いたかった。どちらを選んだとかそういうことではなく、鷹を飛ばす摩夜の印象が心に焼き付いてるんだ。俺にとっては、あの日の鷹匠が特別な存在なんだ」


「……」

 いつも癒されるような柔らかい笑顔を崩さない真昼が、一瞬真顔になった気がした。


 しかし次の瞬間には口角を上げ、いつもの微笑に戻る。


「摩夜ったら、またやったのね」

「え?」


「派玖斗さんまで騙されるとは思わなかったわ」

「騙す?」

 派玖斗は、何の話か分からなかった。


「双子の妹だから、こんなこと誰にも言いたくなかったんだけど、こんなひどい嘘をつくなら私も正直に言うしかないわ」

「いったい何を言って……」

 真昼は派玖斗の言葉を遮って断言した。


「摩夜は小さい頃から嘘つきなんです」

「な! なにをバカな……」


「時々私のフリをして、周りの人を騙すのを楽しんでたんです」

「それは……母親が勘違いした一度だけじゃ……」

「いいえ。日常茶飯事です。母が騙されるぐらいだから、私の友人たちも何度も騙されて酷い目にあいました」


「まさか……」


「私に成りすましては嫌われるようなことをして友人との仲を裂こうとしました。そして私を好きだという男性が現れると、私のフリをしてデートして振られるように仕向けました」


「な、なんでそんなことを……」


「私を独り占めしたいからです」

「独り占め……」


 確かに摩夜は小さい頃、真昼を独占したかったのだと言ってたが……。


「ダブルデートの日も入れ替わってたんです。気付かなかったでしょ?」


「!! まさか!!」


「摩夜は一度でいいから派玖斗さんの恋人気分を味わいたいと言ったんです。私は嫌だと言ったのですが、一度だけでもデートさせてくれたら派玖斗さんには勝手に成り代わって騙すようなことはしないと言うから……だからその言葉を信じてダブルデートに行ったのに……」


「じ、じゃあ……あの日の摩夜は真昼だったと……」


「手にハトが止まったのを見たでしょ?」


「……」

 あの時ハトを飛ばす摩夜を見て、二年前の鷹匠だと気付いた。


「私が二年前の鷹匠です」


「!!!」


 信じられない事を告げる真昼に、派玖斗は呆然とした。


「だ、だが……、大谷農園でもハクは摩夜の手に……」


「私が二年前の派玖斗さんの話をしてから、摩夜は毎週のように祖父の家に行ってハクを乗せる練習をしていたようです。それまでは鷹になんてまったく興味なかったくせに」


「まさか……」


「摩夜ったら派玖斗さんにまでこんなひどい嘘をつくなんて……。私は摩夜が怖いんです。幼い頃からずっと、ずっと怖かった。次は何をされるんだろうって毎日毎日恐ろしくて……」

 真昼は両手で顔を覆った。


「うう……派玖斗さん……どうか……私を……助けて下さい……」



 泣き崩れる真昼を前に、派玖斗は言葉を失っていた。


次話タイトルは「婚約」です

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