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53、知らなかった真実

『俺はお前が好きなんだよ! 昔からずっと』 


 すばるの思いがけない告白だったが、摩夜にはすぐに疑問が浮かび上がってきた。

 今までの人生で何度も期待をしては裏切られてきた摩夜には、ずっと愛されていた自分というものが信じられない。

 やっぱり何かの間違いだったというオチがあるような気がして仕方がない。


「昔って……でも昴は真昼のことがずっと……」


「真昼のことが好きだったことなんてないよ。俺は最初からずっとお前が好きだった」


「嘘よ」

 それはおかしい。

 昴はいつも真昼を見ると動揺していた。


「昴は初めて真昼に会った時から、真っ赤になって。明らかに動揺してたじゃない」

 真昼に会うまでは、もしかして自分のことを好きでいてくれるんじゃないかと期待した日もあった。でも、あの日、無残に現実を知ったのだ。


「ちょうどこの鷹小屋の前で初めて挨拶したよな。でも真昼としゃべったのはあれが初めてじゃないから」


「初めてじゃない?」

 どういうことか分からなかった。


「先に学校で会ってるだろ? それで体育の時間に話しかけられたんだ」


「そうなの?」

 初耳だった。


「ドッジボールの試合で外野に出てた時だった。俺、つい摩夜を目で追ってたからさ、真昼はそっと俺のそばに来て言ったんだ」


「言った? なにを?」


「昴くん、摩夜のこと好きでしょ? って」


「真昼がそんなことを?」

 何も聞いてない。


「俺、動揺して真っ赤になってさ、もうバレバレだった。そして真昼は言ったんだ」


 摩夜はなんだか未知の扉を開けてしまうような不安に鼓動が早まった。


『摩夜には黙っててあげるから大丈夫よ。私が協力してあげるから心配しないで』


 真昼はそんなこと一言も言わなかった。

 黙ってると約束したのだから当然なのかもしれないが、なにか違和感がある。


 なにかが腑に落ちない。


「ここで挨拶した時もさ、アイコンタクトっていうのかな「内緒ね」って顔で見られて、俺、摩夜に俺の気持ちがバレるんじゃないかって真っ赤になって動揺したんだ。それから真昼と会う時はいつも、摩夜に知られそうで不安で、焦って真っ赤になっちまうんだよ」


「そんなまさか……」

 じゃあ、ずっと自分が勘違いして勝手に思い込んでいたのだろうか。


 ううん、違う。だって……。


「中学の時は? 一度真昼が春休みに一週間ほど泊まってたことがあったでしょ? あの時、確か昴がどうしても会ってくれって言って、デートしてたよね」


 そうだ。昴の真昼への態度に失恋を予感しながらも、しばらくはまだ諦めきれなかった。

 でも中学のその出来事で、きっぱり諦めがついたのだ。


『昴くんがどうしてもって言うから、一度だけならってデートすることになったの。昴くんってもっとシャイな人かと思ったけど、意外に積極的な人なのね』


 真昼がポロリとこぼした言葉に、摩夜の恋心は砕け散った。

 摩夜が知っている昴も、口は悪いがシャイな人だった。


 それなのに、真昼にだけは違うのだ。

 真昼にだけはそんな一面も見せるのだと、いつもの事ながらショックだった。


「は? デート? 俺が会ってくれって? なんでそんな話になってんだよ」

「違うの?」


「当たり前だろ! なんで俺が真昼とデートするんだよ。でも、確かあの頃、お前がひどく元気がないような気がして、心配してたんだ。だから真昼から摩夜のことで相談があるって言われて一度会ったことがある」


「真昼が?」


「そしたらなんかお前が従兄弟のお兄さんと仲が良すぎて心配だとかって。直樹さんだっけ? 俺も二・三回会った人だよな。摩夜はそいつが好きなんだと思うって言われてさ。結構ショック受けて帰ったんだ」


「直樹さん……」


 そうだ。

 お母さんに夜中殺されそうになって、直樹さんの家に行く話を断った頃だった。

 すべてがどうでも良くなって、世の中すべてに絶望していた時だ。

 昴への失恋も、もっと大きな絶望の中に紛れて、細かな出来事まで忘れてしまっていた。


 なぜ真昼はそんな嘘を?


 ううん、待って。

 真昼は嘘なんかつかない。


 だっていつも誰よりも優しくて、親切で。

 私なんかと違って、みんなに好かれて愛されて。


 きっと何か事情があったんだ。

 嘘をつかなければいけない事情が……。


「あのさ、とりあえず真昼の話はおいといてさ、返事を聞かせて欲しいんだけど」

 昴はまだ背中から摩夜を抱き締めたままだった。

 腕の力はずいぶん緩めてくれていたが、腕をほどいて向き合う勇気がない。


 昴もまた、面と向かうのは照れくさいらしかった。

 だからそのままの体勢で話し続けていた。


「じ、冗談で言ってるんじゃないの? 本当は真昼に振られたから私についでに言ってみただけとか……そういうんじゃないの?」


 長年、期待しては打ち砕かれてきた摩夜には、まだ信じられなかった。


「あのな、俺がそういう男に見えるのか? いいかげん怒るぞ」

「ご、ごめん。まだ信じられなくて」


「できれば結婚を考えて欲しいと思ってる。このまま農園をやっていくにしても、温泉が出て、温泉旅館をやっていくにしても、俺はお前となら頑張ってやっていけそうな気がするんだ」


「昴……」


「まあ、苦労はかけるかもしれないけどさ、もちろんハクも連れてきていいよ。一緒にバードランを作ってさ、毎日鷹を飛ばして暮らすのも悪くないだろ?」


「……うん……」


 想像してみると悪くなかった。

 毎日ハクと一緒に暮らせる日々。


 そして真昼ではなく自分をずっと見ていてくれた昴。

 これ以上の幸せな結婚話は自分には二度と来ないだろう。


 迷う必要などないような気もした。


 あとはゆっくり、昴に昔抱いた恋心を思い出していけばいい。


 真昼と違って恋愛に贅沢ぜいたくを言える立場ではない。

 一度好きだったこともある昴なら、ゆるやかに愛を育てていけそうな気がする。


 昴の言葉を受け入れようとした摩夜は、鷹小屋の中でピーッ!! と叫ぶ声で我に返った。


「ハク……」


 なぜだろう。

 ハクの声を聞いた途端、派玖斗の顔が浮かんだ。


 そして、すっかり昴の方に転がりかけていた心が大きな壁で堰き止められたように逆流してしまった。

 派玖斗の姿が目の前に立ちはだかって、どうにも前に進めない。


 鷹小屋の中ではバサバサと羽ばたくような音がしている。

 狭い小屋であまり羽ばたいたら翼を傷めるかもしれないと気になった。


「ハクが……私の気配に気付いたみたいね」

 摩夜はそう答えて、昴の腕から逃れて鷹小屋の扉を開いた。


「ハク!」

 ハクは摩夜を見止めると、バサバサと飛んできた。

 手袋エガケをしていないのに気付くと、滞空してから、そっと袖に止まってくれた。


「ハク、私がいるって分かったの? びっくりしたでしょ」

 ツンとすました横顔に頬ずりする。


「驚かすつもりだったのに、扉を開ける前にバレちゃったね」


 ハクは『俺様がそれぐらいで驚くと思ったのか』という顔をしている。


「うふふ。やっぱりハクってカッコいい」

 そこまで言ってから、すねたように見ている昴に気付いた。


「あ、あの……、ごめん、昴。少しだけ考えてもいい? あまりに突然で思いもしなかったことばかりだから、気持ちを整理したいの」


 昴は小さくため息をつくと、仕方なく頷いた。


「どうせ俺はハクの次にしかなれないのは分かってたよ。人間の中で一番ならいいよ。だからちゃんと前向きに考えておいてくれ」



次話タイトルは「派玖斗の思い」です

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