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ダイバー  作者: パイシー
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最終節 あるべき姿

 京子がユリカを確保する少し前、日和はある場所に到着していた。かつて、小雪たちが根城にしていた、とある研究施設。今となってはただの廃墟だが、当時運び出せれなかった機材はまだ生きているものもある。

「懐かしいわね」

 背後にいるナタリアがつぶやいた。ここを出ていくときに残していったものは、少々ホコリを被っていたり、一度入った政府の調査のせいで荒らされた形跡があるが、基本的には最後の時のまま、時間が止まったかのようだった。

 日和はそこの一番奥、特殊兵装のかつての動力源だったマザーコンピュータを目指す。日和は、外部からアクセスがほぼできず、強固なセキュリティを誇るマザーコンピュータがユリカの潜伏先だと睨んでいた。結果は予想が見事的中し、結城奪還作戦は比較的順調に進んでいる。

「ちょっといいかしら?」

 ナタリアが途中で日和を呼び止め、日和が向おうとしている方とは違う方向を指した。

「ええ。別にかまわないわ。私も後で行くつもりだったし」

「分かったわ。じゃあお願いね」

 ナタリアは日和と分かれて別の方向へと消えていく。日和は改めてマザーコンピュータを目指す。

 薄暗い施設跡を探し、マザーコンピュータがある部屋へと辿り着く。持っていた鍵で鍵を開き、中へと入る。マザーコンピュータは独りでに動き出しており、日和は持っていた鞄からスマートフォンや機材を取り出し、接続していく。持っていたのは、結城の人格データを書き出す為のカードライター、京子のAIを入れるためも小型の人形のような人工肢体である。

 日和が準備を終えて待っていると、京子からの連絡が入った。日和が、それに応えると、やはり京子の任務完了の報告だった。日和はすぐに京子を引き上げる準備をし、コマンドを実行する。間もなくして、結城とユリカの顔が写った2枚のICカードがライターから排出され、仮のボディにAIを移し終えた京子が起き上がった。

「お疲れ。一応仮の端末として作ってみたんだけど、どう?」

 京子は体の調子を見るために、軽く跳ねたり腕を動かしてみたりするが、あまり問題はないようだった。

「うん。問題ない。仮のボディならこれでいい」

 京子は周囲を見渡して適当に部屋を物色している。日和はカード内部のデータの破損がないかを確認すると、撤収の準備を始めた。

「さてと、帰るわよ」

 日和は京子を抱え、マザーコンピュータのある部屋を出る。そして、まっすぐ出口へとは向かわず、ナタリアが向かった方向を進む。そして、その奥、とある場所に辿り着いた。

 そこにあったのは、一つの墓だった。瓦礫の一部をらしく切り出し、地面に突き立てただけの墓石に、遺骨は既に山奥の小さい神社に移した後なので何も埋まっていない、墓と呼ぶには程遠いものだが、それでも日和たちにとっては「墓」なのである。

 ナタリアはちょうど墓参りを終えたようで、すぐに合流するつもりだったようだ。

「あら?もう終わったの?今から合流しようと思ったのに」

「ええまあね。京子とかを回収するだけだったし。ユリカちゃんも片付いたみたいだったし、思ってたより早く終わったのよ」

 日和はナタリアとすれ違って墓の前で手を合わせる。京子はこれが墓だと最初気づかなかったが、小さな花と線香が置かれているのを見てようやく墓だと理解できた。当然である、何故なら、その墓には何も掘られていないのだから。誰が葬られているのかさえ分からず、ただの石が立っているだけである。

「日和、この墓は誰のものなの?」

 日和は非常に簡素な墓参りを終えると、傍らで見ていた京子の質問に答えた。

「これはね、ユリカちゃんのお父さんのお墓。ちゃんとしたのもあるんだけど、こっちのが私達にとってのお墓なの」

 かつて、戦争で敵の兵器に改造されていたある男。日和達に一度救出され、改造の後遺症が原因となってこの世を去った男。日和が考案した人格データの移植技術の唯一の失敗例となった男の墓がそこにあった。

 日和は京子を持ち上げ、鞄に入れて歩きだす。

「このお墓は、私が唯一失敗した結果できたようなものだから、絶対に寄っておきたかったの。今でもたまに考えるぐらいにね」

 当時、日和にはその男の後遺症を治す技術がなく、最終的に兵器として再起動したしまった。その時、偶然一緒にいたナタリアが苦難の末に、介錯をする形で『破壊』した。そして戦後、天涯孤独だったのを良いことに、政府に最初からいないものとして処分された。故に、あの墓には最初から彫る名前がないのだ。

「貴方に来てもらった意味、無くなちゃったわね。実体化したユリカちゃんの相手をしてもらうつもりだったのに」

 日和は話題を切り替えるようにナタリアに話しかけた。

「いいわよ別に。ああなってもユリカは私の娘だし、後できつく叱りつけるだけでいいから」

 日和達は施設跡を出て、ここまで乗ってきた車に乗ってエンジンを掛けた。

「さて、帰りましょ。小雪ちゃんが首を長くして待ってるわ。もう準備も終わってる頃だろうし」

 日和達が乗った車は現在の研究所を目指し、走り出した。

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