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ダイバー  作者: パイシー
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行間 二

 手に入れた。ついに手に入れたのだ。ずっと欲しかったもの、子供の時から憧れていたもの。

 ずっとテレビや絵本の中でしか見たことがなかった、『友達』と言うものをついに手に入れたのだ。

 きっかけは3週間前、周囲の人間から見放され、空っぽのまま新学期を迎えるであろうとぼんやりと考えていたある時、自分の体をデータ化して電脳空間に入る事ができる事に気づいたのが最初だった。そして、ありとあらゆるデータを自分の支配下に置き、好き勝手に操作できるという事を知ったのが一週間前、今にして思えば、運命だったのかもしれない。

 当初はこんな能力は役に立たないと思っていたが、彼の登場でその優位性は大きく揺らぐことになった。私を慕ってくれる後輩。私を軽蔑しなかった唯一の人間。私を見捨てることなく、ずっと隣にいてくれるであろう人間。彼が、白黒だった私の世界に色をくれた。

 しかし、私は後1年ぐらいで卒業し、彼とは違う所へ行かなくてはならない身だ。卒業後、母親の実家の世話になり、そこで一生暮らす手筈が整っていると聞いている。もしそうなれば、私はまた一人に戻ってしまう。怪物という目で見られ、孤立する毎日に戻ってしまう。

 そして私の頭に思い浮かんだのは、一番最初に私の能力を試した、私の知り合いパソコンから手に入れたよくわからないデータだった。『人格データの圧縮保存』という技術に関するデータ。一応実験台としてコピーして持ってきていたデータだが、その中身を使う日がやってきたのだ。

 それからはすべてが神様が決めてくれたかのようにすべてが上手くいった。彼は電脳空間に潜り込める機会を手に入れ、二人っきりで出かける予定も入った。

 だから、すべての準備は入念に行った。コンサートホールのメインシステムの一部をバグへ改造し、警備室から対テロ用のガラスケースから拳銃を盗み取った。データ化できて、尚且つ私には指紋がないから、絶対にわからない。

 案の定作戦はうまく言った。例のデータと一緒に盗んだ『戦争』のデータで彼の注意を引き、彼の人格データを圧縮した。

 そして今、私は作戦の最終段階に来ていた。圧縮された彼の人格データを解凍する作業へと移るのだ。もちろん、解凍するときに私のデータの一部を混ぜるのも忘れない。完了すれば、彼は私以外の記憶を持たず、私といるだけで至上の幸福感に満たされ、自分の歪みに気づくことはありえない。

 小さい頃からずっと憧れていた、私を捨てることがない『友達』という存在、ずっと私といてくれる『友達』という存在。それが、もう少しで手に入るのだ。心が躍る。

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