行間 一
欲しかった。ただただ、欲しかった。自分の母親は仕事が忙しいと言って知り合いを預けた。でも、その知り合いは私を決してかわいがってはくれなかった。
「ねえねえ、ちょっとこれをやってみてよ」
毎日のように色んな機械を見せられて、ただ要求された操作をする。まるでモルモットのような生活。他の子供はさも当然かのようにランドセルを背負って走っていく。
でも私は違う。色んな機械を渡されて、ただ黙々とそれをいじり続けるだけの毎日。私を引き取ったのは、ハッキリ言って天才だった。人に教えるのは苦手だったようだが、向こうは向こうなりに頑張って私に勉強を教えてくれた。お陰さまで高校程度に通える程度の知識は付いた。
そしてある日、私はその人に尋ねた「どうして私は学校に行けないの?」と。
その人は答えた。「あなたは特別だから、まだ公の場に出る訳にはいかないの。悪い大人に連れて行かれてしまうのよ」と。
まだ中学生ぐらいだった私には、全く分からなかった。
母親がバイオリンをくれた。でも、私には弾けなかった。母親は忙しい時間を割いて私にバイオリンを教えてくれた。初めて曲が弾けた時は、思わず大声で喜んだ。
「もう大丈夫」と言われて高校に通うことになった。そして優秀な成績を認められて、気がつくと生徒会長という椅子に座っていた。だけど、何故か他の役員は役立たずばかり。言ったことも理解できないし、私なりに学校を盛り上げようとしても、「面倒くさい」とかの一言で片付けられ、気がつけばひとりぼっちになっていた。
テレビで見た高校生というのは、友達に囲まれて、帰りにハンバーガーを食べながらだべったりする。そんなものを想像していたが、全く違った。結果は今も昔も一緒。ただ、目の前の出来事を機械のように処理していくだけ。私は感情のない機械だった。
そんな時、『彼』が生徒会にやってきた。それも、私に対してそれなりに好意を示してくれているようだった。オマケに私の身元引受人と接点もある。驚くほど近い距離にいた。
彼は、私にとっての青い鳥なのかもしれない。本で読んだ、幸せを運んでくれる青い鳥。私を機械から人間へと変えてくれる魔法の鳥。
だから、絶対に手に入れなくてはならない。鳥の方から現れてくれたのなら、絶対に逃すわけにはいかない。
捕まえた鳥は、鳥かごに入れて私以外の目に触れないようにしないといけない。『彼』だってきっと賛成してくれる。
だって、私と『彼』の出会いは運命と言ってもいいものだったのだから。