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world police  作者: 真田丸
9/14

第8話『夜会(パーティー)』

今回は日常的な内容で翔太くんがかなり、やらかします(笑)

楽しんでいってください。

「……そして、その怨霊は消えることなく今も病院をさまよっている。その病院では1年に4人が名簿に記録がないのに消えている患者が人知れず消えているという」


不気味なトーンでそう話すのは、懐中電灯で顔を下から照らし、恐ろしげな顔を浮かべている明紀音。そして、その隣には暗闇の中でボンヤリと光を醸し出す円形状に並べられたロウソク。それを囲むように工貴、夏実、レティシア、翔太がソファーに座って話を聞いている。もっとも、レティシアに至っては話の途中からクッションで耳を覆い、カタカタと震えて丸まっているが。


どうしたらこんな状況にになったのか。翔太は約数十分前に、この会を浮き足だって楽しみにしていた自分を思い返す。

そして、この奇妙でマイナスにしか見えない雰囲気を消し飛ばそうと喉を震わせる。


「なぁ、一ついいか?」


「どうしたの?翔太。怪談話つまんなかった?もっと怖い話もあるんだけど聞く?」


「遠慮しとく……それより、だ!これって俺の誕生日を祝うために集まったんじゃ無いのかよ!なのになんで怪談話を聞かなきゃいけねぇんだ!なんかケーキのロウソクが妙な雰囲気を醸し出してるんですけど!」


そう、ここに集まったのは翔太の翔太自身の用事で延期されまくった誕生日パーティーをするためである。ただ、それがおかしくなったのはレティシアが怖い物が苦手だという情報を得た明紀音が余計な事を口走り始め、それに皆が乗ったのが原因だ。そして、今に至るという訳だ。

それをわざとらしい、今気付いたというような表情で驚く明紀音。


「そうだった、そうだった。ごめん。すっかり忘れてたよ~。も~途中で言ってくれればいいのに」


「この状況を作った張本人が何をいうか。というか、レティシア大丈夫かよ。メチャクチャ怖がってなかったか?」


恐らく、この状況の一番の被害者であろうレティシアの様子を確認する翔太。


「だ…大丈夫…です。グスッ。私はもう、こういうのには慣れましたから。ウウゥ…」


大丈夫ではないようだ。目が潤んでいる。思わずかわいいと思ってしまった自分に心の中で活をいれ、明紀音を批判的な目で見つめる翔太。


「もう、レティシアにこういう系の話をすんじゃねぇよ。これ以上、トラウマが増えるのは御免だからな」


「は~い。すいませんでした~」


と反省の色など欠片もない謝罪をした所で翔太の母、真弓が料理を持ってくる。


「はーい。今日は翔太のために集まってくれてありがとね~。少ししかないけど、食べていってね」


真弓が料理を持った皿を二つのソファーの間にある机に置いていく。唐揚げ、フライドポテト、サラダ、パスタなど子供がいかにも喜びそうな物ばかりだ。


「うわぁ、うまそう!」


そう言って唐揚げにかぶりつく工貴。


「お前、主役より先に食べんじゃねぇよ。俺も食べるぅぅ」


「あ、お兄ちゃんずるーい。私も!レティちゃんも早く食べないと無くなるよ」


「は…はい。じゃあ、いただきます」


「あんた達ちょっと急ぎすぎじゃない?食べ物は逃げない…って何でそんなに食べんの早いのよ!私も!いただきます」


それぞれが目の前の料理をなんだかんだで夢中になって食べていく。真弓の作った物は飛び抜けてうまいという訳では無かったが、家庭的な普通の味でその方が食べやすく、親しみもあり、あっという間に皿に盛られていた料理は口の中へ吸い込まれていく。気が付けば、皿の上にあったはずの物は跡形もなくなっていた。食欲というのは恐ろしい物だと誰もが実感するであろう光景だ。


「ふぅ~食った食ったー。あ~うまかった」


さも満足そうにソファーに寄りかかりお腹をさする翔太。それに対し、夏実は不満そうな表情で翔太を見ている。翔太はこの時点である事を悟った。


「お兄ちゃん、唐揚げ食べ過ぎじゃない?私3個だよ」


「兄ちゃんは5個食べたぞ。この世界は弱肉強食。年上がいっぱい食べていいんだよ!君はまだ背が小さいしの~。フッフッ」


「な…何を!それなら今すぐここで決着を着けてあげようか。お兄ちゃん!どちらが強者かその体に教えこんであげるわよ!」


やっぱり喧嘩の流れになってきた~。


「おいおい、とても女の子が言う台詞じゃないぜ。やっぱりお前、男なんじゃねぇのか?。胸だってタッチパネ……」


「シュッ!」 夏実の中が一番気にしている事を言いかけた翔太の横を一陣の風が通りすぎる。えっ?と思う暇もなく夏実が放った回し蹴りをもろに腹に受けた翔太は空中で旋回しながら、近くにあった巨大なぬいぐるみの中に墜落する。


「お兄ちゃん…なんか言ったかな?」


夏実は美少女の顔を笑顔を浮かべる。とても爽やかで純粋な感じしかしない。普通ならばそう思うだろう。しかし、翔太は違う。ぬいぐるみから抜け出し、その無邪気な笑顔を見た翔太はこれ以上にないほどの殺意を感じた。


「何もいってないです。すいませんでした!もう胸がタッチパネルだなんて絶対に言いま……」


今度は夏実の足がそのまま激突するのではなく翔太の頭のすぐ横で寸止めされる。

そして、またもや笑顔を浮かべ


「死にたいの?」


と一言。ブルブルと顔を横に振る翔太。

すると夏実はしょうがない、といったような様子で渋々、足を引く。


「今回は許してあげるけど、これからもああいうこと言ったら…分かってるよね。お兄ちゃん」


「はい!勿論分かっております」


「ふぅ」一息つき席に座る翔太と夏実。その二人を見ていた工貴からポロリと言葉がでる。


「お前らって、やっぱ仲がいいのな。うらやましいぜ~」


翔太は一瞬、こいつは俺よりバカなんじゃないかと感じた。今、繰り広げられた現場を見て、どうその結論に至ったのかじっくりと後でお話をしよう。


「まあその事は後でお話を伺うとして、それより母さん」


翔太がケーキの上に立てられたロウソクの火が消えている事に気が付き、台所に皿を運んでいた真弓に声をかける。最初はついていたが、怪談話や食事をしているうちに消えてしまったのだろう。


「ん?何?もうご飯は作らないよ~」


「俺、そんなに食いしん坊じゃないから。ロウソクに火をつける物ちょうだい」


「オッケェー。ええっとチャッカマンはどこにあったかな~」


皿を台所に置きチャッカマンを探し始める真弓。


「あったぁぁ~」と妙にハイテンションでチャッカマンを持ってきた真弓はそのまま、ロウソクに近づけボタンを押す。「カチッ」という虚しい音だけが発せられる。火は出てこようとしない。「カチッ、カチッ、カチッ」と何度も奮闘してもそれに答えようとはしない。


「ガスが切れたんじゃね?」


「そうかもね。……やっぱり、つかないや」


どうする? その場にいた者が顔を見合わせる。どうしても、必要という訳ではないが雰囲気作りは大切だ。誕生日であればケーキとロウソクの火。それが定番の気がする。


すると、思い出したように明紀音が


「そういえば、翔太の異能力って炎でしょ。じゃあそれを使えばいいんじゃないの」


と提案する。


「おお!確かにそうだな。何かこの異能力を使うのは戦うときだけみたいな風に思ってた。それじゃあいくぜ」


特に掛け声に意味は無いのだが、それを期にして異能力を発動させる。全体ではなく指先にのみ炎を集中し、大きくなりすぎないようなイメージで。「ポッ」という音でマッチぐらいの大きさの火が人差し指の上に生まれる。

それをロウソクにかざし、火をつけていく。自分の指から火が出ているというのもおかしな話だが、それを気にする者はいない。なにせ、ここは科学と魔術、異能力が混合した街 ムサシノなのだから。


「よいしょっと」


全部の火を翔太がつけ終わると気を利かせ、真弓が部屋の電気をきる。部屋の中にボンヤリと浮かんだ10本の光。


「じゃあ、ケーキ食べようか。だいぶお腹も落ち着いてきたし」


その場面で絶対的にふさわしくない言動を発する工貴。だが、なぜだろうか。噛み殺し切れていない笑い声が翔太の耳に届く。


「おうおう!今日何のために集まったのか、もう忘れてしまったおバカさんがいるようだな。燃やすぞ」


威嚇として今度は手のひらから炎をだす。工貴はそれに驚いた様子で「降参、降参」と両手を上げ、


「よし、始めるか」


と短く、皆に促す。祝いの言葉を。翔太


「ハッピーバースデイトゥユー、ハッピーバースデイトゥユーウ、ハッピーバースデイ ディア 翔太~。ハッピーバースデイトゥユー」


「火を消せ~。翔太」


「おう、ふぅ~~」


翔太が息を吹き掛けるとロウソクの炎は、風に逆らうことなく、横に倒され消える。線香の匂いが辺りに漂い、タイミングよく真弓が電気をつける。


「ひゅ~ひゅ~」という歓声と共に翔太へ向けて「パンパン!」とクラッカーが放たれる。


「「「誕生日おめでとう!」」」


その場にいた翔太以外の全員が声を合わせ、誕生日を祝う。友達に祝われることの気恥ずかしさからか「おう、ありがと…」と小さな声で赤面になりながらお礼を言う翔太。


「ホントは結構、前だけどね~」


という水をさすような明紀音の言葉にもツッコミができず、軽く笑って受け流す。そうして翔太が何をすればいいか戸惑っていると夏実がソファーの後ろから少し小さめの箱を持ってくる。綺麗に紙に包まれ、赤い2本のリボンで結びつけられている。いくら鈍感な翔太でもそれが何かはすぐに分かった。


「はい、お兄ちゃん。プレゼント。皆でお金出しあって買ったんだー」


「マジで!ありがと~」


感謝の言葉を述べ、箱を受けとる翔太。手に持った感触は思ったより軽く、ゲーム機の部類ではないようだ。何だろうかと翔太が箱を持ち上げたりして探っていると


「お兄ちゃん、開けていいよ」


とフォローがはいる。それを利用し、「オッケェ」と箱をなるべく紙を破らないように開けていく。そして中から出てきたのは普段店で見るような商品の箱。


「腕時計……いや、もしかしてこれって」


「うん。パーソナリティーを付けれる腕時計だよ」


「え、マジで!最近何かと不便だったんだ。いちいちかざすのとか。メチャ嬉しい。サンキューお前ら。ちょっと早速つけてみるか」


「おう、付けてみてくれ」


翔太は中から腕時計を取り出し、手に巻き付ける。側面の部分にデジタルで時間がかかれており、普通であれば時計があるはずの場所に窪みができている。その窪みに専用のケースにしまってあったパーソナリティーを取り出し、押し込む。ちょうどよい大きさで「カチッ」とはまり、ロックされる。翔太が少し力を加えたが、ビクともしないようだった。


「よし、装着完了~」


左手に付けた腕時計を肘を引き、見せつける。


「おお!すげぇな。カッケェ」


「うん、似合ってんじゃない」


「翔太くん。格好いいです~」


などと称賛のコメントをたくさん戴いた所で真弓が奥からもう一つ箱を持ってきて机の上にドンと置く。


「翔太。これは私からのプレゼントね~」


「母さんも、ありがとう!開けていい?」


「いいわよ。多分翔太は喜ぶと思うよ」


翔太はなぜか目頭が熱くなっているのを感じた。こんなにも誕生日を祝ってもらえて、その嬉しさ故だった。これならここんとこ、嫌な事続きだったのも許すこともできる!母さんは何をプレゼントしてくれたのか!翔太が紙を取り、その中身に皆が注目する。


「ぷっ!」笑い声が漏れた。


「クスクス」


なるべく控えてはいるようだが、辺りを見回せばみんな笑っている。対して翔太はというと、つい10秒ほど前と一転、喜びも悲しみもせず、ただただ呆然と見つめていた。箱の中に積まれた本を。楽しい数学、猿でも分かる問題集、魔術ができない人必見!魔術攻略本、笑いながら覚える社会。


「チクショウ!!何だこれ~~~~」


悲痛な翔太の叫びは届かなかったようで、何をそんなに大きな声を、といった驚きの表情を浮かべている。


「何って参考書よ。翔太が勉強出来るようになって欲しいっていう切実な願いを込めたの」


「それはこういう場で渡す物じゃないんですぅぅ。俺、全然喜べねぇぞ。俺はどこぞの、赤点ばっかとって、運動神経皆無で、世界を滅亡させるぐらいの化け青ダヌキにいつも頼って、なぜか劇場版になるとかっこよくなる某国民的キャラクターか何かですか!?」


一気に捲し立てた翔太だがが真弓はその言葉に納得したような素振りを見せる。


「確かに似てるかもね」


「似てねぇから!俺、そんなダメ人間じゃねぇから!」


「じゃあ、取り敢えずその参考書は受け取ってね」


ズンと翔太に箱を近づける真弓。


「うっ!分かったよ。後で自分の部屋に運んどくって」


何とかその場はごまかし足元に箱を置く。その手に伝わってくる重さが悲しかった…


「よし、じゃあお兄ちゃんはこれから勉強に翻弄するから邪魔しないであげるとして…ケーキ食べちゃおっか!」


夏実の既にケーキに延びている手をガッシリと笑顔で掴む翔太。


「おい、待て。俺も食べる。勉強は後でやるって言ったろ。それに俺は……育ち盛りなんだ!」


「そういうことは、自分から言わないんだよ…」


「という訳で母さん~。お願いします」


「おっ!あれが見られるのか~」


となぜか感嘆の声を漏らす工貴。


「はいよ」


台所からナイフと新しい皿を持ってくる真弓。皿を並べてから、円形状のショートケーキを数秒睨み付ける。まるで獲物を刈るときの狼のように。その様子を見ていたレティシアから声があがる。


「あの、私がやりましょうか。私、こう見えてもナイフとか使うのは得意なんですよ…」


「大丈夫、お母さんは狙いを定めてるだけだから」


「狙いを定めてるって……?」


「はっ!」短い気合いを入れ、ナイフを人差し指と中指で挟み、空に高速で軌跡を描く真弓。その早さにその場にいた者の全員が圧倒される。


「はい、終わったよ~」


真弓は「よいしょ」と言うとそのままナイフをその場に置き、フォークを配っていく。


「おお、やっぱいつ見てもスゲーな翔太の母さんの技は」


「結構危ない感じもするけど…」


「いやぁ~お母さんすごいねー」


などという雰囲気になっている時に遠慮がちにレティシアが当たり前の疑問を口にする。


「なにがすごいんですか?」


皮肉ではなく、率直な疑問という事がその場の誰にも伝わり、その場の代表として夏実がレティシアの肩を「ツンツン」とつつく。


「何ですか?」


「あれをよく見て」


夏実が指を指したのは、まだ何も手が加えられないまま放置されているケーキ。のはずだった。しかし、レティシアの目がその綺麗なはずの表面、側面についた細い切れ目を見つけ出す。しかもそれは一つだけではなく、きちんとここにいる全員分の数に等分されている。


「これってどういう……もしかして、あの瞬間に!?」


驚きと尊敬というより畏敬の眼差しで真弓に顔を向ける。


「うん。まあね。何となく身に付いた主婦の特技…みたいなやつかな。すごいかな?」


「いや、すごいですけど…それは主婦の特技ってだけで済ましていい問題じゃない気がするんですが…」


更に追及しようとしたレティシアを翔太が止める。


「止めとけ、この人は言わないって決めたことは絶対に言わない頑固ババァだからな……って痛ったぁぁ」


翔太の頭の上に鈍い衝撃が走る。その原因は真弓がいつの間にか手にしていたフライパンの底をぶつけられたからであった。


「どっからそのフライパンを持ってきたんだよ~。結構それ痛いよ。俺の貴重な頭の脳細胞が~」


「あんたの脳細胞何てバナナの皮ぐらいの価値だから安心しなさい。それより、翔太。人の事をババァ呼ばわりしないでくれる?私はまだ25よ」


まあ確かに25ととられても不自然ではない若さを何故か持っているのは否定はしないが実際は


「鯖読むなよ。あなたはもう30越えて35ぐらいもいって…」


「ななななんのことかなぁ?私はまだピチピチの25歳です。まあその話はいいとして…」


逃げたな、翔太は言動を見て確信する。


「ケーキ食べちゃいましょ」


それぞれの皿に先程分けたケーキを配っていく真弓。


「「「いただきまーす」」」


皆、フォークを使いケーキを細かく切りながら食べていく。ふと気になって翔太は後片付けをしている真弓に声をかける。?


「母さんって何も食べてないけどいいの?お腹とかすかない?」


「うん、あんまりね~。私はこれでも3日は飲まずくわずで生きる事ができるから」


「それって生物として何かを失っている気しかしないんだけど…そういやぁ工貴」


「ふぅ~食った食った。んで、何だ?」


チャリンとフォークと皿がぶつかる音が食事の終了を知らせる。


「お前は早食い大会にでも出てればいいけど、こないだの授業内容。送ってくれてサンキューな」


ここで話が途切れるのが嫌だという考えから取り敢えず話題を持ち出す翔太。


「何だ。その事か。別にいいさ。でも、遅刻は止めとけよ。サフィア先生は教育界でも魔術界でも中々有名な人らしいからな。目をつけられると厄介だぞ~」


「すでに目をつけられている場合はどうすればいいでしょうか!」


「ああ、そういえばこないだの魔術の実技でもメチャクチャしごかれてたもんね。何であれほどに自分の電撃を受けるのか理解不能だよ」


「うるさい!あなたみたいな文武両道の人には俺の苦しみはわからない!」


翔太は笑いの和やかなムードに包まれながら、魔術というワードからある事が気になってレティシアに質問をする。


「ところでレティシアって魔術は使えるのか?別に長文でもいいけどさ」


長文というのは魔術の詠唱の事である。魔術の詠唱には長文と短文があり、普通は一つの魔法陣を作る場合は短文、つまりその呪文の名前を唱えればいい。逆に複数の魔方陣を作る場合は上位の魔術師であっても長文、主に5章節での詠唱でないと魔術が成立しない。また、魔術を使えるようになる時期も大体決まっており、14、15歳ぐらいに発動できるようになる。逆に小学生以下の年齢で魔術を使おうとすると体が魔力を魔術に変換する行程で重圧に耐えきれず崩壊することもある。ただ、レティシアの年齢なら使えるのではないか。魔術を無限に使う事ができるのではないか…と思ったのだが


「いえ、私はまだ魔術を使う事ができません。頑張れば出来るようになるかもしれませんが…」


と言葉を濁すレティシア。一昨日、自分の特殊な力を知り、かなりのショックを受けたからか魔術という言葉に暗い表情を浮かべる。もし、魔術を使えるようになれば彼女の身は更に危険にさらされ、より周りを巻き込む事にも繋がりかねない…レティシアの気持ちを考えなかった自分を叱咤し、わざと明るく振る舞う。


「大丈夫!大丈夫!魔術使えなくたって世の中生きていけるし。それにだ、別に……」


「ピンポーン!」


必死に舌を回す翔太を家の呼び出しベルが止める。こんな時間に何だろうかと不思議に感じる。


「あ!はーい。今いきまーす」


急いで玄関に駆け足で向かう真弓。焦っているためかモニターを見るのも忘れているようだ。翔太が来訪者を確認しようとモニターに視線を移し……体全体がこわばる。まずい、非常にまずい。モニターの中に映っているのは8人ほどの人だかり。その人々は何者かすぐに分かる。シスター、つまりは大魔術教会の人間。用件はどう考えてもこの家の護衛だろう。なぜそれを知られるのがまずいかというと工貴や明紀音にはレティシアの秘密を明かしていない。エルシーや真弓に他言無用だと何度も言われたからだ。それなのに……


「タイミング、考えろぉ!」


思わず心の声を外に吐き出してしまう翔太。その顔を怪しむように見つめる工貴と明紀音。


「なにか隠してんのか?翔太」


「翔太、どうしたの。いきなり大声あげて。もしかして今来た人に関係があるとか…」


明紀音が目線をモニターに向ける前に翔太が滑り込み、壁についているモニターを体で見えないように隠す。

玄関からの声は殆ど聞こえてこない。時間を稼げれば。


「見るな!見たらお前は人間じゃなくなる!」


焦りすぎて場違いな言い訳を口走っていくスタイル。


「なにいってんの?モニター見せてよ。誰がきたのかぐらいいいじゃない」


「やっぱり何か隠してんだろ」


モニターとそれを隠している翔太にジリジリと歩み寄る2人。


「やめろ、近寄るな。良い子は見ちゃだめだからな。やめろよ、やめろよ。……別に三回言ったからってデチュウ倶楽部の方式は使えないからな!」


「うるさいなぁ。誰来たかぐらい見せて」


遂には壁にへばりついている翔太はひっぺがそうとする。それでも必死に抵抗し、壁から離れまいとする。そんな様子を見ていた夏実が呆れた目で冷たくいい放つ。


「お兄ちゃん。モニターの映像ぐらいで何やってんの。馬鹿みたい。ショッピングセンターで駄々をこねるお子ちゃまじゃあるまいし」


このやろぉぉ。お前は事情知ってるよな!何言っちゃってんのこのタッチパネルは!頭まで平面で出来てんの!?そっち側に加勢してんじゃねぇよ!てか、こっちくんなぁぁ。


翔太の心の中の叫びをよそに取っ組み合っている所に歩み寄る夏実。


「お兄ちゃん、モニター見せて」


笑顔!いや、狂気!

自分の妹の恐ろしさを体感しながらもまだ、足を踏ん張る。


「そっか~聞くきがないんだ~」


夏実が跳ぶ。そこまでの高さではないがそれは夏実の足のかかとが翔太の頭の上に簡単に届くぐらい…翔太は後悔した。この妹は海の底でも沈めてくるべきだったと。


「おーりゃぁぁ」


何のためらいも無く振り下ろされた足は翔太の後頭部に衝突し、その力に押され翔太はそのまま頭を床に突っ込ませる。


「どげぶぅぅ」


翔太はうめき声をあげながらも首を回しモニターを確認する。


「あれ?誰もいないじゃん」


「もう帰ったんだろ。ちぇ、結局翔太が何をしたかったのか分からずじまいだな」


ホッと床に倒れながらも安堵のため息を漏らす。そこに丁度真弓が玄関から戻ってきて2人に告げる。


「工貴くん、明紀音ちゃん。今日はありがとう。翔太の事を祝ってくれて。本当はもう少しいて貰いたいんだけど、もうそろそろ親御さんも心配する時間だと思うから…」


その言葉に工貴と明紀音は時計に目をやる。


「そうですねー。長居しすぎるのも悪いし。もうそろそろ門限だ

し。俺は帰ります」


「私も親から何かを言われると面倒臭いのでおいとまさせていただきます」


「うん、ありがとね。ここに倒れてるバカの代わりにお礼を言っとくね」


「じゃあねぇ。先輩たちぃ~」


「さようなら。怪談話はもういらないですからね……」


「おう、じゃあな」


「またね!ったくこんな時に翔太は何やってんのよ」


「お前らがやったのな」


そんな会話を少し交わしてから2人は満足げにそれぞれの家へと帰っていった。


………………………………………………………………


「そんで、母さん」


2人が帰ってから少ししてレティシアと夏実が早々と寝たタイミングで翔太が唐突に自分の母親に鋭い目を向ける。


「何?翔太。プレゼントが気にいらなかった?」


「それもあるが……何で2人を家から追い出した?あの時に大魔術教会の人と何を話した?」


翔太は真弓の1つの行動に違和感を感じた。それは二人をいきなり家に帰したことだった。しかもそれはシスター達と会話をしたすぐ後。何か二人を帰さなければいけない状態になった…という事だろう。


「全く、普段は筋金入りのおバカなのにこういうとこだけ頭が切れるんだから」


「誉められてんだか、けなされてんだか…」


「6人」


「ふぇ?」


いきなり出された数字に困惑の表情をうかべる翔太。


「これが何の数字か分かる?」


「クイズ大会か何かか?これは。まあいいや。母さんがふられた男の人ず……」


再度翔太の頭にフライパンがクリーンヒットする。


「違う!はぁ、あんたはどうしてそういう方向に話を向けるの!正解はこの家の周囲100メートル圏内に科学技術や魔術、異能力とか使って草むらとかに潜んでいたスパイの人数」


「え?いつの間に……」


翔太は次の言葉が出てこない。どこからレティシアの情報が漏れたんだ?恐ろしい情報網だ。


「だけど安心しなさい。もうしばらくしたら大丈夫になるから」


「え、大丈夫になるって……もしかして二人を返したのは」


「そ。今、大魔術教会のシスターさん達が戦闘準備に入っている

わ。戦ってるとことか見られたら面倒臭いでしょ。だから帰ってもらったの」


「そうだったのか。それで始まんのはいつ?」


行動の一貫性に納得し、多少の警戒心を持ち始める。


「今」


「は!?今だと!」


「うん。ちょっと静かにしたら音が聞こえるんじゃない?」


どうなっているか現状を知りたかった翔太は口を閉じ耳を澄ませる。


「バン」「ブシュゥン」「ズズズッ」「ダダダダッッ」


翔太の耳が魔術の音というよりも遠くで聞く花火のような音を捉える。これでは戦闘をしているなどと思う人間はほぼいないだろう。逆に言えば助けてようとする人間も出てこない。ならば、


「俺が加勢に行った方がいいんじゃないのか?」


「必要ないよ」


キッパリと断られた。


「でも…」


「必要ない!6人は監視をするのが主な役割だから戦闘力はそこまでないだろうし、それに……」


「それに?」


「魔術もあの教会もあんまり嘗めないほうがいい」


体全体の毛がゾワッと逆立ったような感覚を覚えた。この言葉の持つ重みが違った。実際の力を目の当たりにしたような、又は戦ったような、そんな人間の重みだった。


その威圧感に負け、しばらく大人しく外を窓から眺めていると


「コンコンコン」と三回ドアが叩かれ、その音が壁を伝い家中を駆け巡る。

チャイムを鳴らせばいいのにと思いながら玄関に向かおうとする翔太を止める真弓。


「ドアは開けなくていいわよ。これは任務終了の合図だから」


「はやくね!?だって…6人いたって言わなかったか?」


戦闘が始まってから5分も経っていない気がする。そんな時間で監視役とはいえ、闇社会のスパイを片付けることが出来るのだろうか。


「だから言ったじゃない。嘗めないほうがいいって。中には教会の幹部もいるから当然ちゃ当然かもしれないけどね」


「幹部って!どれだけレティシアはすげぇ人間何だよ!」


普通どんな組織でも幹部が出張ってくる時は超重要な用件だ。それが一軒の家とその住人を守るために派遣されるのははっきり言っておかしい。


「正直言って世界遺産以上の価値がある……かもね」


「そこをはぐらかすなよ~。てか、それだったらこんな普通の家に置いといちゃだめじゃね!」


「いや、それは大丈夫。もうこの家の周りにはかなり強力な結界がはってあるから」


「強力とは?」


爆弾一個ぐらいで簡単に壊れてしまうぐらいではさすがにまずいだろうと思いその強度を尋ねる翔太。


「world policeのデストロイヤ、1000弾位なら耐えれるらしいわよ」


「強っ!それ中から出られなくなったりしてねぇよな?」


まだ、以前結界の中で囚われた時の印象が残って離れない。


「今回の結界はこちらに攻撃してくる物質だけを遠さないやつだから多分そんな事はないと思うよ」


翔太はホッと胸を撫で下ろし、


「そうか、後一つお願いがあるんだが」


と真剣な表情で真弓を見つめる。


「言ってみて」


「今夜の事をレティシアには伝えないでくれ」


「ふっふっ。随分と優しくなったのね」


「そういうんじゃねぇよ」


口では反抗するものの照れたためか顔をほんのり赤くする翔太。


「ただ……また…自分を加害者の一辺だと、思わないで欲しいだけだよ。あいつは自分がいるだけで周りを不幸にしちまうってずっと…本当の加害者より強い罪悪感を感じてる。だからもうこれ以上は」


「傷ついて欲しくない」


翔太の言葉を真弓が続ける。真弓も翔太のレティシアに対する思いで似ていている所があったのだろう。レティシアは意識の違いで直る問題ではない。なぜなら絶対的な事実という存在が目の前にずっと残っているから。彼女に関わった人間は彼女の招かれざる客によって消される。彼女を漢字三文字で例えるとしたら、理不尽。その言葉に尽きる。生まれながらの力によって狙われ続ける。

そんなどうしようもない現実から逃れるための居場所をあげたい。昔、救えなかった少女にせめて顔向けができるように。翔太はいつからかそんな気持ちを彼女に覚えた。


「分かったわ。私は今夜の事もこれから起こるレティちゃんを狙った犯行も本人には伝えないわ。実際に見ちゃった物は仕方がないけどね」


「そうか、ありがとう母さん。ふぁぁあ。俺もう眠いからインベッドするわ」


そういって大きなあくびをしながらリビングを去ろうとする翔太にこれで最後といった感じで真弓は質問を投げ掛ける。その質問は単純だった。


「翔太。何でそんなにあの子を守ろうとするの?」


少し考え込むような仕草を見せる翔太。頭の中を今まで見てきた色々なレティシアが通り過ぎては消えていく。悲しい顔、泣いた顔、嘆いた顔、怒った顔、絶望の中で足掻こうとする顔。正直、

どれもつらそうだ。痛そうだ。でもだからこそ、その中で光る物があった。


「そうだなぁ……単純かも知れねぇけど、一応言っとく」


「笑顔が綺麗だった。ただ、それだけだ。いや、十分すぎるか」
























































次回は新キャラ登場……かな?

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