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world police  作者: 真田丸
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第7話『サイコロの一面の如く』

投稿が遅れてしまい申し訳ありません。夏休みは予定が多くて大変~~

「まず、最初に…謝罪をさせてください、手荒な真似をしてすみませんでした」


そういって世界で知らない者はいないほどの組織、大魔術教会のリーダーは深々と頭を下げた。


今、翔太達は彼女が魔法で構築した椅子に座り反対側に座っているエルシーの話を聞こうとしていたところだった。


翔太もこんな手荒なことをされたのに少し腹が立ってはいた。最初に車で受けたダメージも、まだ完全に無くなった訳ではない。だが、改まって謝罪をされると何となくこれ以上責めるのも気が引ける。それに…


「ああ、その事はもういい 怪我もそこまでしてねぇし。それにあんた達にも何か目的が有ってこんなことをしたんだろ?

それが何か聞きたいんだ」


その言葉にエルシーは徐々に顔をあげていき「ふぅ」と一息、心を落ち着けるように息を吐くと、もう一度翔太達の方を向き直す


「はい、分かりました

簡潔に申し上げますと先程も言ったように天原翔太さん、あなたを試すためなのです」


やはり、何を言っているのか、わからなーい。


「それだけでは伝わりにくいですか…

つまり、あなたがそこにいらっしゃる王女レティシア様を守る器に足るかどうかを試したということです」


この教会は魔術サイドの世界の人間が集まってできた。なら、あちらの世界の王女様を守るというのもまあ納得がいくような気もするが……翔太は多少の疑問を覚えながらも無理矢理自分を納得させる。


「で、結果は?」


「勿論、今ここにおられるのですから合格ですよ」


もし、合格じゃなかったらどうなっていたのだろう。

この世にいなかったりしないよな!

翔太の頬を冷や汗が伝う。


「ちなみにあの選択肢。エルシーさん的にはレティシアが生き残るのを選んだ方が良かったのか?」


「いえ、決してそんな事はありません。あの選択肢はどれを選んでも、勿論選ばなくても不合格ですだから。あなたがした行動こそが正解といえるでしょう。まさか、飛べるとは思いませんでしたがね」


成る程、どおりで警戒が薄かった訳だ。


「じゃあわざと扉に続く道を手薄にしたり、あの結界が割と簡単に壊れたのも、全部俺が脱出できるギリギリをいけるか試すためだったのか?」


「その通りです、あそこで逃げることができる可能性がゼロなら、試すことも出来ませんから

それに、あなたはあの結界の中で酸素を減らして私からの攻撃を無くそうとしましたが、実際私は結界が壊れたことで魔術はいつでも発動できる状態だったんですよ」


なっ!そんな欠点があったとは。すっかり攻略できたと思い畝ぼれていた自分を恥ずかしく思う翔太 。


「じゃあエルシーさんが追撃してきてたら…」


「そうですねぇ~

100%あなたを倒せるに決まってるじゃないですか」


うぜぇ!

得意げに物騒なことを言うシスターを盛大に燃やしてやりてぇ!


「と、ところでこれは個人的なことかもしれないが、エルシーさんと結界の中で話している時、何て言ったらいいのかな…悪魔、みたいな雰囲気を感じたんだけど、これは気のせいなのか?」


あのとき感じたこの人の雰囲気、本当に悪魔のようだった。あんなのが普通に醸し出せるものだろうか。


「ああ、それ、まあ私の演技力もありますが、やはり大きいのは召喚した中級悪魔にとりつかせたからですかね」


ここで水でも飲んでいたら翔太は驚きのあまり全て吹き出していただろう。


魔術には攻撃魔術、回復魔術、召喚魔術の3つがあるがその中で召喚魔術とは魔方陣から人ならざる者(大体は悪魔)を引きずり出し味方にするという、聞いただけでおぞましい魔術だ。そして召喚した悪魔などは初級ならいいが中級以上になると自我が強く、召喚した本人に危害を加えることもある。だから、中級悪魔の召喚は実力不足な魔術師には政府から規制がかかっている。

そんな者にとりつかせるなんて…

だから、しゃべり方が安定しなかったのか。


「体は大丈夫なんですか?」


「ええ、あなたが結界を破ってから少し時間があったのでその間にちょちょいと倒しておきました」


心配した翔太が馬鹿だったようだ。翔太は自分の心にこ、いつは化け物と深く刻みつける。


「ねえ、ねぇ、私からもいい?どうしてレティちゃんが狙われなくちゃいけないの?」



今まで眠そうにしていた夏実が我慢できないといわんばかりにが喋り出す。


「そうでした、本題を忘れていました。なぜ、レティシア様が多くの者に狙われているのか。それは彼女が…」


そこで一旦間を置くエルシー。翔太と夏実そして本人であるレティシアが息を飲む。レティシアが最も苦しんできた全ての根源である彼女が抱えている何か。自らを破滅寸前まで追い詰めるその正体。彼女を助けるために、新たな一歩を刻むために絶対に必要な情報。


――――彼女は



魔力(マナ)無限増産可能人間だからです」


「「「魔力(マナ)無限増産可能人間?」」」


「何ですかそれは?私にはどんな力があるというんですか?」


一番食い気味なのは本人だ。レティシアはいきなり立ち上がり、声を少し荒らげる。。


「いいですか。落ち着いて聞いてください。あなたは、魔力(マナ)と呼ばれるものを無限に作ることが出来る。特殊な人間なんです。つまり、あなたは永遠に魔術を使い続けることが出来る」


……ワアッツ?翔太は口があいてふさがらない。


魔力を永遠に使えるだと、そんなの魔術の根本を揺るがす、大変なことだ。魔力をいかに消費せずに、魔術を使えるかを昔から人々は研究してきたというのに。


「そ…そんな力があるなんて、何で私も知らなかったのにあなたが知っているんですか!」


聞いたこともない自分の秘密を自分が知らないという事態に混乱しているようで声が上ずっている。


「私だけではありません、王女様を狙った連中も皆知っています」


「なぜですか?」


「あなたはカヒナ王国第99代目王女です」


「はい、それはわかっています

でも、それとこれとはどういう関係が…」


「魔術サイド、我々の世界の最初の王国がカヒナ王国です

そしてこの国が建国されたのはカヒナ暦で0年、科学サイドで言うとすれば紀元前4000年頃でしょうか」


それなら翔太も知っていた。魔術サイドの世界では科学サイドで確固たる文明が栄えるより前に王国が存在していた。ただ、あちらの世界では科学は当初より、余り変化がなく今も中世の町並みらしい。


「それは知ってる、で?」


「その時代、とても優れた魔術師がいました。名は随分と昔の事なので忘れ去られてしまいましたが、彼女はある文書を死ぬ間際まで書いていました。その文書にはタヒナ王国でこれから起こるとされる事柄が書いてありました。いわゆる予言書ですね」


「ちょ、ちょっと待ってくれ

じゃあその魔術師は魔術で未来を占えたってことか!?」


「まあ、確証はできませんが恐らくそうですよ」


「じゃあ皇帝様と同じって訳か」


「占える期間はかなり違いますけどね。では、本題に戻ります

その予言を見た人々は最初はそれを本当に信じようとはしませんでした。なぜなら、そこにかかれていた内容が王国の中で起こる争いを主にしていたからです 出来上がったばかりの王国で争いが起きるなんて誰も信じたく無いですからね」


確かに作ったばっかの国でいっぱい争いが起きるよーなんて信じたくはないわな。翔太は無言で同調する。


「ですが、その予言が当たるは当たる。これが宝くじの番号だったらよかったんですけどね」


私情を交えるな、という翔太の視線に気が付いたのか「ゴホン」という咳払いをして再び話を始める。


「ええーと、それですごく予言が的中するため段々、それが本当なんじゃね、みたいな雰囲気が広がっていきました。そして、人々が文書を改めて読んでみると一番最後に『99代目、王女はいかなる魔術も永遠に使うことができる』という記述と裏表紙には何か文字が書かれていたといいます。でも、何故か裏表紙を目にしてしまった者は即座に死んでしまい、記録は残っていません」


中々に物騒な話だとは思いながらも翔太はそんな重要な書物の知識が科学サイドでは浸透していないことに内心驚いていた。


「何でそんな三大ナンチャラとかになりそうな物が科学サイドでは知られてないんだ?」


「魔術サイドの書物は魔術を発展させる目的で使われる物意外はは全て私達のような組織が管理すると秘密裏に契約が交わされたからです。何なら少しお貸ししましょうか?」


それは国宝級の物では?

貴重な自界の文献を簡単に渡すエルシーにこの組織は大丈夫かと心配にすらなってくる翔太。


「裏表紙の文字はともかく、最後の文章の意味は明らかです

カヒナ王国99代目王女は魔術を使う時に魔力を必要としない、又は魔力が尽きることがない。だから、皆あなたを狙おうとするんです」


「どうしてですか…何で私にお父様もお母様もその事を教えてくれなかった

なぜ私以外の人達が知っていて私は知らないんですか!」


「……それは恐らく、あなたに傷ついてほしくなかったからじゃないですか?」


「どういうことですか?」


「幼くても王家に生まれた人間は成長が著しく早いという傾向があります 今の国王そうです。だから、あなたが自分が特別だという事を知れば、危害を加えられた時に自分のせいだと思い悩んでしまう、周りから孤立してしまう、そうなることを恐れたのでしょう」


レティシアはその言葉にまだ、暗い表情を浮かべている。


「はぁ」


レティシアのしてきた苦労に対してそれが言えるのかと、翔太から思わずため息がでる。


本当にこの通りだとしたら、それは全く意味がなかったというしかないだあう。

彼女は自分が何者か知らなくても知っていても狙われていた。

だから本人も気付いはずだ、自分のせいで周りを巻き込む、自分が災いの元凶だと。けれどもなぜ狙われるのか分からない。どうしたらこの状況を打開出来るのかも。


結局、レティシアの両親は余計にレティシアを傷つけただけだったのだ。そんな事になぜ気付けなかったのか。それともその事に気付く前にこちらの世界に来てしまったのか。


……ん?こちらの世界に来る?

まず、その事自体がおかしい。

もし、国王もレティシアがその力を持っている事を知っていたなら、狙われるのは十分承知。外に出すことなどもっての他のはずではないのか?


しかも、最初にレティシアに会ったときにこの世界に来た理由は何だった?興味本位で調査に行ったといっていた。


おかしい、何かがおかしい。


「なあ、エルシーさん」


「いいですよ、そろそろ敬語は使わなくて」


大魔術教会のリーダーという事で一応敬語を多少使っていたのだが、まあいいというのなら。翔太はもう一度言い直す。


「分かった、エルシー。魔術サイドの世界でレティシアがいなくなったことがどういう風に報じられたか分かるか?」


「いいえ…私達のような魔術サイドの世界出身の人間でもあちらの世界とはほとんど交流が出来ませんから」


レティシアのいなくなった時の状況が分かれば何か分かると思ったのだが。

と、エルシーが何かを思い出したように


「ああ!そういえばキャロル。あなたは王女がいなくなった後にこちらの世界へ来ましたよね」


後ろを振り向き、一番近くの柱のそばに立っているシスターに声を掛ける。すると、何を思ったか、キャロルが小さな風を起こすほどの勢いで足早にこちらへと近づいてくる。


「はい、私はそこに座っていらっしゃる王女様が失踪した時に魔術サイドの世界におりました」


「それでは、その事件がどのように報じられたか教えていただけますか」


「はい、あの事件はマジックアイテムの飛行紙によって報じられました。内容を簡潔に申し上げますと、王女は何者かによって連れ去られ、同じように周りの護衛の者達も姿を消していた、理由は調査をしてもよく分からない そんなところでした」


内容薄っぺら!王女様が連れ去られたってのにそれだけか!


「え?」


自分の記憶と違うことにレティシアはかなり困惑しているようだ。


「それだけですか?」


「はい、それだけです」


「分かりました、戻っていいですよ」


その言葉でキャロルは今度はムーンウォーク的なことをしながら元の場所に戻っていった…


「すいません、あまりいい情報はなさそうです

でもなぜ、そんなことを聞くんですか?」


「いやぁ何かちょっと最初に聞いてた話と違うなーと思って

まあいいですよ」


翔太はそこで一旦、話を区切る。現地でもそれほどの情報しかないならこれ以上掘り下げていっても何もわからないだろう。


「…そういえば私も聞きたいことがありました。レティシア様、あなたの家族は何人ですか?」


一体エルシーは家族構成などを聞いてどうするつもりだろうか?

ただ、いつになく真剣な目をして、レティシアに視線を向けている。何となく重要そうではある。


「ええっとお父様、お母様……」


レティシアが指でゆっくりと数えていくのをエルシーが手で止める。


「同じ家系の人間ではなく1つの家族のことを言っているんです」


「そうでしたか、じゃあ私とお父様とお母様、そして私、3人です

なにか問題がありますか?」


翔太は何もおかしなところがない答えだと思ったのだが、どうやらそうでもないらしい。エルシーの顔色が悪い。悪いというか何となく驚いていて怯えているといった感じもする。


次の言葉を出さない。教会の中がどんよりと重い空気に覆われていく気がする。


大丈夫か?と聞こうとしたが、それを遮るように、いや、声を振り絞るようにといった方がいいだろうか。


「王女が生まれた時…王国の中で話題になったんです」


「何だ?別に王女が生まれたとなれば話題にもなるだろ」


「違いますそういうことじゃないんです

話題になったのはその生まれ方が特殊だったからです」


「何だよそれ?どういう風にレティシアは生まれたんだ?」


そこで一旦、周りの空気を吸い込み深呼吸をする。自分を落ち着けるように、注目を一新に集まるように。そして重々しい、この空気を蹴散らすようにしっかりとした声で言葉を放つ。


「彼女は…いいえ、彼女達は…双子として生まれたんです」


「……え?」


レティシアの方に目を向けると口を開け、困惑した表情を浮かべている。どうやら俺達に嘘を教えたという訳ではなく本当に知らないようだ。


「どういうことだよ、本当に知らないのかレティシア

自分が双子だっていうことを」


「……いえ、心当たりがありません。私は本当に双子として生まれたんでしょうか」


「はい、それは間違いありません。なんならこれををご覧ください」


そういって差し出したのは魔術サイドの新聞のようなもの。その新聞の1枚目にでかでかと2人の赤ちゃんの写真が貼ってある。恐らくこれがレティシアともう一人の王女なのだろう。


「これは、この組織にいる方から提供してもらったものですが。このようにレティシア様は双子で生まれたのは紛れもない事実なのです」


「じゃあなんで一番一緒にいたはずのレティちゃんが覚えてないの?」


「それが問題です。なぜ自分の兄弟を覚えていないのか。レティシア様は他のお父様やお母様の記憶は残っているのですか?」


「はい、鮮明に」


「じゃあなんで……」


翔太は手を顎にあて少し考えを整理する。レティシアが話したこととの食い違い、王国の王女失踪の扱い方、そして双子の記憶がないということ。何かがその裏でうごめいてる気がしてならない。


「なんか、記憶が抜け落ちちゃったみたいだね」


何気なくポツリと夏実が呟く。

ただ、その一言ですべてが結び付いた。そんな気がした。


「強制的に…記憶を消された…」


それしか、翔太には思い付かなかった。


「あり得ない話ではありませんが…ですが、記憶を消されたなんて。すいません、レティシア様。頭をお借りしてもよろしいでしょうか」


「はい」


前かががみになり、頭をエルシーに近づけるレティシア。


「失礼します」


エルシーがレティシアの頭に両手で優しく触れ、目を閉じる。すると次の瞬間、レティシアの頭の上に丸いサッカーボールほどの球体が浮かび上がる。よくみると、それは規則的に細かく並べられいる丸い粒子のようなものと、粒子を繋ぐ線の集合体であった。


その球体に翔太は神秘的な、何かを感じていた。


「なあ…これって、レティシアの『記憶』なのか?」


「少し違います。これはレティシア様の記憶を魔術によって具現化した様なものです。ですから、何か魔術が記憶に干渉していれば、分かるハズなんですが……」


エルシーは「はぁ」とため息をつき、レティシアの頭から手を離す。それと同様に、球体もしぼんで遂には無くなる。


「ダメです。少なくとも、魔術による記憶の改竄の痕跡は見当たりません」


エルシーは残念そうに首を振る。


「少なくともってことは科学の技術で記憶を消されたならあり得るんじゃねぇのか」


「それも、恐らくないでしょう。そうでしたら記憶に『荒れ』という物が生じますので…」


「そうなのか。どうして記憶がないんだ……ん?待てよ。記憶がない?」


翔太は自分の大きな勘違いに気付く。レティシアは自分が興味本位で『扉』に近寄ったと言った。ただ、現実では失踪という扱いになっている。レティシアは記憶を消されたんじゃない。改竄された。元の記憶を消され、新しい記憶に書き換えられた。


「どうしたの?お兄ちゃん。何か分かった?」


「いや、別にそういう訳じゃ…」


そうだ。だとしても、なんだというのだ。翔太は自分に問いかける。改竄されたという事実が分かっても、方法が分からなければ意味がない。それに、改竄という事は消すより難易度が明らかに高い。謎が更に深まるばかりじゃないか。


翔太が考え込んでいると


「パン!」


それを撒き散らすかのようにエルシーが手を叩く。静けさが再び、教会の中を漂う。


「はい!その話はもうこれ以上ここで考えても分からないです。だからここで終わり。また、これから、何か分かったことがあったらあたたがたに伝えます」


「あ…あぁ」


問題が解決せず、モヤモヤとした気持ちになりながらもエルシーの勢いに押され、思わず返事をする翔太。


エルシーは早くも次の話題に進もうと「それより」と話を切り出す。


「これからも、レティシア様を狙う輩は多くいるでしょう。そんな時には異能力者の翔太さんと言えども手に負えないかもしれません」


「そういうこともあるかもな、俺といえどもね!」


最後の部分を強調したことにより翔太に冷たい目線が向けられる。

痛い、視線が痛い!翔太は心の中で涙を流す。


「まあ、そう…ですね。それで、そうなった時にです!誰も助けがいなかったら困りますよね!」


まるで、商品を無理矢理、売り付けてくる店員のように話を捲し立てるエルシー。それに翔太達は苦笑いで答える。


「そうですか、そうですか。でしたら是非!あなた方の家に警備を付けさせて下さい。そうすれば、一日中目を光らせておきますので……」


「ちょっと待てぇぇぇ!何言ってんのこの人怖いんですけど。家にゾロゾロ知らない人間が入ってきたら嫌に決まってんだろ!」


「あ~いやいや~別に家の中で何かをしようという訳ではありませんよ。確かあなた方のお家の横が一軒、空き家でしたよね。そこを借りますのでプライバシーは守られますのでご安心を」


「ご安心をじゃねぇよ。つまりそれは隣からずっとただならぬ視線を感じながら生活しなきゃいけないんだろ。断固拒否します。なあ、お前らも何か言ってやれ」


翔太は助け船を求めて夏実とレティシアに視線を送る。


「うう~ん、私もいい気分はしないなぁ。着替える時とかお兄ちゃんがチラチラ見てくるのは思春期だからいいとして、他人に見られるのはちょっとなー」


「私も、お風呂に入っている時に翔太くんが『間違えたー』とか言って入ってきたのは欲求不満なかわいそうな人だからいいとして、他の人から見られるのはやっぱりちょっと恥ずかしいです」


どうやら、助け船はあえなく、沈没したようだ。


というか…


「8割がた、俺への不満と悪口だよね、それ。あと両方共、事実じゃないですからね!誤解だからな、ゴ・カ・イ」


そんな翔太達の様子を見ていたエルシーは


「それほどまでに、嫌がられるのでしたら他の案もありますよ。さっきの案より、安全性に欠けますが」


「そうなのかぁ。なら最初から言ってくれよ~。で、どんな案なんだ?安全性が欠けてるって?」


「はい、その一つがマジックアイテムの認知式高性能爆弾で登録してない人間がその場所の周囲5メートル以内に近づきますと大爆発を起こし、侵入者を排除するという…」


「すいませんでした。俺が間違えました。最初の案でいいです。多分、その案でやると侵入者がくると同時に俺達と家と夢と希望と金が吹き飛ぶんで遠慮しときます!」


焦って最初の案を肯定あうる翔太。他の案とやらは身を守るのに死を伴う訳の分からない物だと悟ったのだろう。


「そうですか、一応他の案もまだありますが…」


それにも気付かず、新しい案を提案するエルシー。


「ちなみに、それは今の案と比べる危険度は?」


「2倍ほど」


「ざぁっけんな!」


翔太の怒涛のツッコミが入る。


「では、最初の警備方法でよろしいでしょうか?」


「俺達はそれでいいけど、他にも許可をとらないといけない人が…」


「ああ、それは問題ありませんよ」


確信した表情でそう言ったエルシーはポケットからスマホを取りだし、どこかに電話をかけ出す。


電話が繋がったようで、立ち上がり、周りと距離をとってから、喋り出す。


「もしもし、エルシー・クランホードです。こんにちは…こんばんは、の方が正しいですかな。……うん。その事で伝えたい事があって。」


どうやら、かなり親しい仲のようで翔太達に対する言葉使いより、砕けた様子で喋り出すエルシー。誰に電話をかけているのか気になり、聞き耳をたてる翔太達。


「実はあなたの家の隣にこっちから人を派遣したいんですが…いいですか、真弓」


「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」


エルシーの声を掻き消すほどの、3人の驚きの声が教会を震わせる。なぜ、こんな声を出したか。


「ななななななんで大魔術教会のトップが!」


その訳はたった今、会話の中で浮上し、電話の向こう側にいると思われる真弓という人物が


「俺の母さんと知り合いなんだ!!?」


その疑問に答えるかのようにエルシーは翔太の目の前にスマホをつきだし電話に出ろ、というような素振りをする。そのスマホを奪い取り、画面を耳に当て電話の相手を確認する翔太。


「もしもし~翔太~?」


翔太は機械から流れてきた呑気でどこか安心するような声が自分の母親の声である事を確認し、


「なんで…母さん…エルシーと知り合いなんだよ」


と率直な疑問を口にする。翔太の中での真弓は、髪が少し長くて、勝ち気な目をしていて、体つきがいいが、胸があまりない、といったような、ごく一般的な30代の女性だ。いつも右腕に包帯を巻いていることを除いては。

その認識は夏実やレティシアも同じである。そんな彼女が世界屈指の力を持つ人間と親しげに話しているなんて、普通に考えて疑問を覚えるのは当たり前の事だ。


「ああそれはね……色々あったんだよ。色々。結構前から友達だったんだけど、まだ話して無かったっけ?」


「寝耳にミミズ太郎何ですがちょっと。その色々が知りたいんですけど…」


「……ご想像にお任せします」


「丸投げすんなし!というか、あなたは何でそう平然と会話を交わしていられるんですか。俺達、その友人に誘拐されてるんですが、その辺はどうお考えで?」


今、長く話をしていたので危うく忘れそうになっていたが、そもそもここには連れさられてきたのだ。それなのにを心配もせず、落ち着いて電話をしている。そしてその首謀者と知り合い。嫌な予感が翔太の頭をよぎる。


「何だ。その事かー。勿論私も知ってたよ。翔太が合格するって信じてたからね!」


「ブチ!」 スマホを叩き割ろうとする翔太を慌ててエルシーと夏実が止めに入る。数秒間の戦いの末、落ち着いた翔太が再び会話を始める。


「じゃ…じゃあぁぁ、母さんとエルシーは、最初っからグルだったって訳かぁ」


まだ怒りは収まっていないようだ。


「ううぅん。そうなるかな。私は知っていて黙っていただけだけど」


「それを世間一般では犯罪とも捉えるんだ、覚えとけ。ところでその…隣に人がくるってのはいいのか?」


「うん、全然いいよ。最近は何かと物騒だし~。そういえばもう時間も遅いし帰ってきなさい~じゃあね」


その言葉を最後に「プツッ」と一方的に電話が切れる。スマホで時間を確認する翔太。9時を回っていた。


「誰のせいでこんな遅くになったと思ってんだよ」


そうぼやいた翔太はスマホをエルシーに返すと


「それじゃあ、帰るぞ夏実、レティシア。そんなわけで、俺達はもう帰るぜ、エルシー。やらなきゃいけないことはもう終わったろ。あれ?そういえばここはどこだっけ?」


夏実とレティシアの頭に手を置き、帰宅を促す。そして、この教会がどこにあるのかを自分が知らないことを思い出す。


「クスッ、それはドアを開ければ分かりますよ」


エルシーの言葉通り、ドアノブを回し、外の世界に踏み出す翔太。外に広がる建物の明かりを眩しく感じる。翔太は感じる。ビルと緑が合わさっている見慣れた景色…そう、ここはムサシノだ。


「これってどういう……」


訳が分からず、答えを求め後ろを振り向くと、今まであったはずのドアは消え、その代わりにキョトンとした夏実とレティシアがいた。


よく分からず、翔太がその場に佇んでいると、どこからともなく聞こえてくる声。


「転送魔術を使っておきました。本日はご協力ありがとうございました。また皆さんと会える時を楽しみにしています」


勝手に拐っておいて調子がいいなと思いながらも、夜のムサシノを歩き出す翔太。

ふとその背中に重みを感じる。青い髪が翔太の頬を撫でる。


「レティちゃん、最後の電話してる時ぐらいから眠たそうで、ついにもう寝ちゃったからおんぶしていってあげて。」


夏実が翔太に事情を説明する。翔太は疲れていたが、そのお願いに首を振ることはできなかった。


その理由は、いたいけな少女を粗末に扱いたくないという考えだけでは無かった。


翔太の背中で彼女が言った…というより、寝言。彼女自身の口癖にすらなって、彼女の生き方を表している言葉。


「ごめんなさい」


それが翔太の心にただ単に突き刺さった。痛かった。恐らく彼女は今回の件も自分がいるせいで迷惑をかけたと心のどこかで、いくら人が否定しても、思わずにはいられないのだろう。


何か、掛けれる言葉を探した。その途中、また寝言を口にするレティシア。


「ありがとう…ございます」


今度は嬉しさを感じずにはいられなかった。自分のしたことに意味があったのだと思うことができた。そして、これからも守りたいと思った。だから、この言葉に自分以外の者には聞こえない位に小さく、でも消えないように答えた。小学生でも知ってる答え方。それが翔太のなかで最善だった。


「どういたしまして」




























































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