第6話『教会の中で』
投稿が遅れてしまって申し訳ありません。これからも更新が不規則になる事が多々あるかもしれませんがどうか温かい目で見守って頂けるとありがたいです。
辺りは暗闇に包まれ、小刻みに体が振動している。翔太はその振動で目が覚める。
「んん……」
何か頭に硬い物が当たっている。
確かめようと手を動かす…が手が動かない。どうやらガムテープか何かで縛られているらしく、両手が背中の背骨に当たったまま動かず、ベトベトとした感触が伝わってくる。
―――ここはどこだ?
その疑問は音として発せられる事はなかった。いや、決して口を猿ぐつわなどで封じられている訳ではない。口が自由にパクパクと動いているのは口周りの筋肉が動いているから分かる。しかし、声が出ない。
――なんで声がでない?
……やはりでない。とりあえずは声を出すことは諦め、周りの様子から探っていこう。
ようやく暗闇に慣れてきた目で首を回し、翔太は自分の様子を確認する。すると自分の置かれている状況が段々と見えてくる。今は両手を拘束され、壁に寄りかかって座っている状態。先ほどから頭に伝わってきた硬い感触は恐らくこの、コンクリートか鉄でできた壁の感触だろう。
そして、今度は自分ではなくその周囲を目を凝らして見ていく。
案外、小さな部屋のようで右の方には鉄製も箱がいくつか積み重なっている。倉庫のようにも見えるが、床から伝わってくる小刻みな振動が、それとはまた違う場所だということを伝えてくる。
さらに床には1…2つの人影。2人とも横たわって寝ているような状態。大体の身長でその2つの人影が夏実とレティシアだということは容易に想像がついた。2人もどうやらテープで手を拘束されているらしい。
そして俺達がこんな風に拘束されているのは恐らく、あのマジックアイテムとやらのせいだ。ただ、あの装置で移動させられてからの記憶が思い出せない。
まあ、今はそんな事より、ここからどう脱出するかが問題だ。
まだ2人は寝たまま(恐らく気絶させられている)なので、まずは起こしに行った方がいいだろう。
この狭い場所で異能力を使うとあいつらにも被害が及ぶ可能性が高い。
足に力を込め、背中を壁に寄りかからせ、ズルズルと壁にそって立ち上がっていく。そして少しよろめきながらも2人のもとへ駆け寄り、足でチョンチョンと体を少し揺すったその時、視界に神々しい光が飛び込んでくる。
おかげで、目が5秒ほど使用不能となった。
その間に、「ブオオオオン」という低音の音が響き、身体中に闘牛に突撃されたような衝撃を受ける。次の瞬間、翔太は体が一瞬浮いたような感覚と共に体が壁に叩きつけられる。
――ぐっっ
背中に激痛が走り、肺の中の空気が全て外に押し出される感覚がしながらも、やはり声は出ていない。
痛みを押さえながら薄く目を開けると、部屋の中は明るく照らされ、目の前にはこの衝撃波を放ったであろう人が立っていた。
……シスター?
それが第一印象だった。
青っぽい修道服に、首からは十字架などではなく焦げ茶色の鉱石に星形のマークを描いた物を下げている。顔は薄気味悪い笑みを浮かべた白いお面を被っているので、分からないが、頭の後ろからは金色の髪が長く垂れている。
さらに後ろにも同じような格好をしている人達が控えている。
「おはよう、と言った方がいいかな」
仮面の下から女性の声が発せられる。
――なっっ!
何故、この人は声が出る?
するとその翔太の表情を読み取ったかのように
「なぜ、私が声を出せるかと思ったかい?」
と面白がるように問いかける。
それに対し、ああそうだ…的な表情で翔太は返事をする。
「まあそりゃ気になりますよね、でもそういう詳しい話は後で
今は、私達に従っていただきます」
仮面シスターさんの手には紫色の魔方陣が浮き上がっていた。紫色の魔方陣を発動するときは、主に毒系統、又は突発攻撃系つまり戦闘用魔術がほとんどだ。それをこちらに向けるということは何かすればすぐに攻撃できると脅しているようなものだ。
それに今は夏実やレティシアが動けない、この状況で戦っても2人を人質にとられて終わりだろう。
ならば、ここは一旦相手の指示に従って逃げ出すチャンスをうかがった方がいいだろう。
それにしても、だ……運わりぃな!
昨日は遊園地でフェアレータの異能力者に殺されかけたし、一昨日は密輸組織のオッサンにボコボコにされるし、その上今日は誘拐とは。
もし、神がいるんだとしたらこの場に連れてきて ぶん殴ってやる!
翔太は固くそう決心した。
………………………………………………………………
「ぬわっ! 扱い雑だな、おい!」
襟首を捕んでいた手を離され、地面に放り出される翔太。顔面を強打する。
ここはどこかも分からない教会の中。俺達の周りを8人程のシスター達が囲い込んでいる。ただ、普通はあるはずの長椅子が取り払われており、だいぶ開放的な空間が広がっている。
ここへは目隠しをされて運ばれたためどういった場所にあるのかも分からないが、ただ声が出せるということは何となく幾分かましな気もする。
2人も一緒に連れてこられたが、まだ気を失ったままで近くに倒れ込んでいる状態。
そんな中、仮面シスターが口を開く。
「ようこそ!我々の教会へ!
天原翔太様ご一行」
妙に芝居がかった様子の仮面シスターに
「ここに連れてきた理由は何だ?俺達を何故誘拐した?
そしてどうしてさっき声がでなかった?
なんで俺の名前を知っている?」
捲し立てるように質問攻めをする翔太。そんな翔太に対しおどけた様子で
「ちょちょっと待って
質問は1つだけお答えしてあげましょう
選んでください」
と返してくる仮面シスター。
その言葉に一気に顔が険しくなる翔太。
質問を選べだと!ふざけんな
人を誘拐しておいてよくそんなことが言えたものだなぁ!
一気に身体中の血が沸き立つのを感じる。
「ふざけんなぁ!」
その感情を押さえきれず仮面シスターに殴りかかる翔太。
――油断している、貰った!
しかし、その攻撃は仮面シスターの目の前で止まった。翔太の腕の長さが短かった訳ではない。何か見えない物がその手を遮っていた。
「……シールド」
そんな言葉が口から漏れる。そんな事はあり得ない、あってはならない筈なのだが…
確かにこの様に物理攻撃をある程度、打ち消す透明な防護壁はこの世界に存在する。その名を『シールド』という。だが、その防護壁は第三次世界大戦で開発され、今ではそれを使えるのは特殊部隊やworld policeの人間だけの筈なのだ。
だが、それが一般に出回っているとなれば大問題だ。
「ううん…ちょっとシールドとは違いますけどね。まあ効果は同じなんですが。これでもう攻撃するのは無駄だと分かりましたか?」
仮面シスターは殴りかかられたにも関わらず余裕の表情をみせる。
「なっ!シールドじゃないのか?」
「ええ、まあ簡単に言えば結界って所ですね。魔術で作られたね ちなみに今あなたたちの周りに設置しているから逃げようなんて思わない方がいいですよ」
よく目を凝らしてみると、周りをゼリーのようなものが半径1.8メートルほどのドーム状に包んでいる。
そーっと触ると拒絶反応のようなものを起こし、触れた場所が少し凝縮され、濃くなり、外への干渉ができないようになる。
「はぁ…要するに俺達は閉じ込められたわけだな」
「その通りです、物分かりが早いですね」
仮面シスターはそんな事を言い、この結界とやらに手を入れる。
当然弾かれるだろうという俺の予測は大きく外れ、そのまま体ごと結界の中に入ってくる。
「……なっ」と俺が絶句している中、
「なに、私が外で君達が中というのもフェアじゃないと思ってね
それにちょっと声が曇るんだよ」
澄ました顔で馬鹿なことを言う。あっちは誘拐をしている身、こちらが何をしてくるか分からないのに無防備な状態で相手の攻撃が届く範囲にくるとは…バカなのかな
というか、さっきから言葉使いが不自然な気がする…
「な…な…んで入って…くんだよ」
「はい?私が無防備で入ってきたことに驚いてるんですか?
言っておきますが、あなた方が…というか今は貴方だけですが、私を簡単に倒せると思わない方がいいですよ」
どうやらこちらの考えはお見通しのようだ。
「自慢ではありませんが、私はあの戦争の時にたまたま襲ってきた1個大隊をたまたま全滅させるぐらいはできる魔術師ですよ」
「そりゃさらに聞きたくなかった情報をどうも」
成る程よく分かった…こいつには勝てない。翔太は確信する。
あの戦争で一個大隊といえば大体170~180ほどの人数。しかも戦争なら当然武装している。火器なども使ってくるだろう。そんなのに一人で戦いを挑むなんて自殺志願者しかいない。もっとも全滅なんてほぼ不可能だ。なのにそれを全滅させた。
つまり今俺の前にいるこの人間は180人、それ以上の軍人と同じだ。
勝てるだろうか……いや、方法がなくもない。この密閉された空間と俺の異能力があれば、
気付かれないように異能力を少しだけ発動させ、薄く周りに炎を纏わせる翔太。
「じゃあさっきの質問に戻りましょうか
質問にひとつだけお答えします 選んでください」
もう殴りかかるなど馬鹿なことはしない。
ここはどの質問をすれば事態が良くなるのか考えるべきだ。
やはり最優先すべきは今どうして俺達がここに連れてこられたかだろう。それが分からなければ何も始まらない。翔太は質問を口にする。
「決めたぜ、質問だ
なぜあんた達は俺達を誘拐、監禁した?目的はなんだ?」
「分かりました 質問にお答えしましょう
私達があなた達を誘拐した理由はそこの青い髪のお嬢さんです」
仮面シスターがまだ床に倒れたままのレティシアを指差す。
うすうす感ずいてはいたがやはり狙いはレティシアか。しかし何でよってたかって皆、レティシアを誘拐したりするんだ?
「何でレティシアを狙うんだ?
レティシアには本人が知らない何かがあるのか?」
「ええっと…それはお答えできません
でも私達は彼女が必要なのです」
「なんだそりゃ それじゃあもう1つだけ
何で俺や夏実を生かしている?
レティシアだけが必要なら俺達は邪魔じゃないのか?
いつでも殺すチャンスはあっただろうに、なぜまだ生かしている?
逃げるチャンスを与えるだけだぞ」
そうだ。この計画はどこかおかしい。そもそも俺をなぜ起こしたままにしている? さらにこの教会の中に入ってからは手や足を縛られたりもされていない。出入口に人が立っていないため逃げられる可能性もある。それなのに会話すらする余裕をみせている。こいつがいくら強くても、誘拐した相手にこんな態度を見せるか?
「良い質問ですね
それには答えてあげましょう
私はね、あなたがどんな人間なのかもっと知っておきたいんですよ!」
いきなり吐かれたちょっとというか、大分おかしい答えに戸惑う。
どんな人間か知りたい?そんなのわざわざ誘拐しなくたってよくね
僕ちょっと家帰りたい。
すると「はぁー?」という顔をしているとそれを読み取ったのか
「何を言っているのか分からないという顔をしていますね」
と言ってくる。
まあその通りで、あんたのことを親が子供に言うところの「ああいう人には関わっちゃいけません!」的な人だと思い始めました。
「これからあなたに3つの選択肢を出します
どれか1つを選んでください
場合によってはあなたを解放してもいいです」
「本当か!もし解放されたらあんたたちを警察につきだしてもいいワケ?」
「ええ、構いませんよ もし…答えることができたらですけどね」
「ふふっ」と最後に漏れた小さく冷たい笑い声はこれがそう簡単に選べる選択肢ではない事を暗示していたようだ。事実、それは残酷なものであったのだから。
「それでは言いますよ
1.あなたと妹さん
2.あなたと青い髪のお嬢さん
3.妹さんと青い髪のお嬢さん」
自分の顔が強ばっていくのが分かる。手が震え始め、頬からは冷や汗が流れ落ちる。
「それは何の選択肢だ?」
震える声を無理矢理押しこらえてなるべく冷静な声で聞く。
「あなたも少しは分かっているでしょう」
そこで一旦間を開ける。そして悪魔のように耳元でささやく。
「生かす人ですよ」
思考回路が一瞬止まる。そして復旧したと同時に声をだす。
「ちなみに…だ、選ばなかった奴は…どうなる?」
「当然、殺しますよ」
平然とそういってのける仮面シスター。
分かった。こいつは人の形をした悪魔だ。
この悪魔は俺に助ける二人を選べ……つまり1人殺す者を選べ、そう言っているのだ。
「制限時間は1分です
それまでに答えを出せなかった場合、全員を殺します」
「よーいスタート!」運動会でしか聞かなかったそのフレーズが明らかな悪意を持って発せられる。
冷静になれ天原翔太、考えるんだ天原翔太、自分に言い聞かせ落ち着かない心を沈めていく。
考えろ…まず最初に答えれずに全員死ぬ、これが一番だめだ。これを選ぶぐらいだったら3つの選択肢の内のどれかを選んだ方がいい。
そしてその3つの選択肢。どれがいいとかは無い。誰が死んでも嫌だ。勿論俺も死にたくはない。ただやっぱり俺も人間、自分が助かる道を選びたい気もする。だが、夏実だってあんなに馬鹿でも将来、何かやってみたいと思っていることはあるだろうし、レティシアだって、こないだやっと生きていこうと決心したばかりだ。
「あと30秒」
そこまで考えて自分がどうすべきなのかが見えてきたような気がする。俺は1~3の選択肢を選べない、何も選ばないということもできない……なら「自分で選択肢を作り出せばいい」これも師匠が教えてくれた言葉の1つだ。
辺りを再度見回す。俺の周りには透明な結界、さっきまで取り囲んでいた他のシスター達はいつの間にか壁沿いに移動している。
この教会のドアは1つで今、俺の左手にある。ドアの近くに人はいない。
「あと15秒」
この結界はシールドと同じと言っていた。ならば魔術でなくても物理攻撃の威力がその衝撃吸収の効果を上回ればいい。ただ結界を壊しても問題はどうやって倒れたままの2人をかついで出口まで行くかだ。当然、壁沿いにいるシスターだけでなく、この悪魔も追いかけてくるだろう。どうすればその攻撃をかわせる?
そもそも魔術は頭で構築式を詠唱と同時に組み立てるものだという。ならば、意識が朦朧とした状態なら魔術は発動できない。
それなら最初に仕掛けた方法でこの悪魔を一瞬動けなくできる。
「あと5秒」
なら、他のシスターの攻撃を避け、二人を運ぶ方法。
「4」
魔術は上級者でなければ上下に揺れる物へ的が絞りにくい。
「3」
夏実とレティシアは普通に持っても運ぶことはできない。
「2」
1つだけ方法を思い付いた。まだ、修行途中の技だがやるしかない。
「1」
チャンスは1回。
「0」
必ず成功させる。
「さあ、時間です
答えを聞きましょう」
唾を飲み込み、腰を落とす。臨戦態勢だ。
「ああ、こういう時こう言うんじゃなかったっけ
……バルス!」
大量の空気を肺に詰め込む。そして後ろで倒れている2人には当たらないように一気に全身から炎を噴出する。ごっそりと辺りの空気が薄くなる。
この炎は酸素の消費量が普通の何倍かある。その炎をこいつが入ってきた時から小さく発動させていた。ならこの結界の中は今酸素が減少している。この状況では頭が混乱し、魔術は発動できない。
「なっ!」
思った通り息苦しそうだ。今のうちに結界をぶっ壊す!
左足を踏み込み、右手で結界な壁を殴る。やはり、それだけでは壊れないようだ。透明な壁が外への干渉を防ぐ。
右手から結界の壁と密着させたまま炎を出す。
「だぁぁぁぁ!」
空中に亀裂が走る。
「さっさと壊れやがれー!」
パリンというガラスの割れたような音と共に壊れた結界は崩れていく。
結界は壊れた。次は夏実とレティシアを抱えて他のシスターから逃げる。それが出来る唯一の方法は飛ぶこと。
背中の肩甲骨に意識を集中し、炎がそこに集まっていくのをイメージする。だんだんと赤く燃えた羽が姿を現す。
「獄炎の翼」
本人の体を覆うほどの長さの翼。
「行くぞ2人とも!」
腕に二人を抱き抱えドアへ向かって走り出す。壁沿いにいるシスター達が騒ぎに気付き、こちらに向けて、魔方陣から様々な光が発せられる。
予想通りの攻撃。
高くジャンプをすると共に、背中の翼を大きく鳥のように動かし急上昇をし、攻撃をかわす。
練習では数回しか飛ぶことはできなかったが今は、運が味方したようだ。
下でシスター達が戸惑っている内になるべくドアに近づこう…と思ったが思ったより的の修正が早く、すぐに下からの攻撃が始まる。避けることによって天井に当たって散っていく何色もの光は綺麗でそこまでの太さはないが、一度触れれば軽い傷では済まないだろう。しかし、教会の広さではたかが知れている。
一気にスピードをあげ出口に急降下する。左腕全体を使って空を切り、炎の壁を一瞬だけ空中に作り出す。これでシスター達の攻撃は届かない。
「もらったー!」
ドアに向け、右手で炎を噴出する。
勝った! 勝利を確信したその時、あり得ない事が目の前で起きる。その炎が光でドアが鏡のように炎がドアを破壊せず、希望をポッキリと折るかのように反射して反対側の壁にぶつかったのだ。
「え…」
言葉を失うとはこの事だろう。あと少しだったのだ。ただ届かなかった。ドアには魔方陣が浮き上がっている。ドアにも細工がしてあったということなのだろう。
脱出を諦め、殺されることを覚悟し、地面に降り立つ。
と、さっきまで結界があった場所から
「パチパチパチパチ」という拍手をする音が聞こえる。
「いや、中々のものでしたね
今の脱出劇は あなた頭の回転の早さに驚きました
そのドアに物理攻撃反射の魔術をかけておかなければ脱出されていました
あなたにならその王女様を託してもいいでしょう」
その言葉には皮肉などではなく、本当に感心や驚きが込められている。それに託すってどういうことだ?
ポケーっとした顔をしていると、
「くすっ 訳が分からないという顔をしていますね
まあこんな回りくどい事をしたからなんですけどね」
いつの間にか目の前には仮面シスターが立っていた。しかし、先程感じたような悪魔の気配はなく、優しげなオーラを醸し出している。
「あんたは一体…」
そこで気味の悪い仮面を取り、素顔を明らかにする仮面シスター。(もはや仮面はいらないが)
顔はしっかりと整っており、まあ簡潔に言えば美人。年は体つきからなどからも、25~30くらいだろうか。清潔感を感じるが、人をからかうのが好きそうな、いたずらっ子の浮かべる表情もみてとれる。少なくとも異種族ではなさそうだ。
「自己紹介がだいぶ遅れてしまいましたね
私はエルシー・クランホード、あなたが分かるようにいうなら大魔術教会のリーダーの地位にいる人間、といったところでしょうか」
「……は?」
突拍子もないことを言い出す仮面シスター、つまりエルシーに言葉を失う翔太。
『大魔術教会』その名前はいくら覚えが悪い翔太でも知っている。というか社会常識の1つだ。その名の通り魔術を使うことを得意とする者、魔術サイドの人間が集まって作られた組織。この組織一番の特徴は加入している2000人程の内、8割が女性であることだ。
当初は魔術サイドの人間に対する対応、法律をよりよくするために設立されたが、今では世界の貧困に苦しむ人々への援助や魔術の技術を幅広く広めるのに尽力したりと、世界に大きく貢献する組織として、魔術サイドの科学サイドの世界における最大の組織として名を馳せている。
そのため、その幹部ともなれば頭の回転や賢さだけでなく、強さも兼ね備えている。今はきちんとした社会生活をしているからいいが、もし街中で暴れることなどがあれば警戒レベル4は下らないだろう。そのリーダーともなれば相当な強さだ。中隊を全滅させたというのも嘘ではないだろう。
しかし、そんな人が俺の前に現れるなんて思いもしなかった。まあ誘拐されたんで複雑な気持ちではあるが…
「本当か?いや、本当にあの大魔術教会のリーダー何ですか?」
「そうですよ、このペンダントを見れば分かると思ったんですが」
ずっと首から下げている五角形の鉱石を手で少し持ち上げる。
見覚えがあるのは確かだ。頭の中に微かに残る記憶を手繰っていく。
「ん?それ…ああ!思い出した
大魔術教会の幹部だけが付けれるやつか!
ニュースで紹介されてた」
「くすっ、気が付くのが遅いですよ
最初に見せたらばれるかもって心配してましたのに
あなたもしかして……」
そこで前屈みになり翔太の顔をまじまじと見つめるエルシー。思わず、たじろいでしまいそうだ。
「馬鹿なんですか?」
「……いや、うるせぇよ!」
どうやら何かいい事を期待した俺が馬鹿だったようだ。ほぼ初対面の人間に「馬鹿か」と聞かれる程馬鹿な人間はそういないだろう。まあ、これが一回目じゃねぇけどな!
「すいません、つい」
「ついって何だ、ついって、そんなに馬鹿かだっていいたいのか!」
と口を尖らせてブーブーと文句を言っていると
「……んんん、お兄ちゃん…うるさい、今寝てんの」
「……どうしたんですか…翔太くん」
後ろから寝ぼけた声が聞こえてくる。どうやら長い眠りからお目覚めになったらしい。
「おや、これで皆さんお揃いですね
それでは、このような事をした理由をお話し致します
そして王女様の秘密も
どうぞどうぞお座りください」
そういっていつの間にか用意されていた椅子に座るよう呼び掛ける。大魔術教会リーダー エルシー・クランホード 彼女が語り初める時、1つの真実が明らかになる。
次話でレティシアの秘密が明らかになります。
こうご期待!