第2話『world policeという組織の仕事』
太陽が赤く街を照らし、晩御飯のいい匂いがどこからともなく流れてきそうな雰囲気の中、天原翔太は一人明らかに住居が多く密集しているホームタウンでは無く、大きなビルやマンションが立ち並ぶ開発地区へと向かっていた。
どこへ行こうとしているのか…それは決まっている。
world police
第三次世界大戦以降、様々な異能力がらみや魔術がらみなど、普通の警察では対処しきれない案件を解決するために設立された組織。
平成生まれや昭和生まれに説明するとしたら警察と自衛隊などが混ざった感じの組織と言ったら分かりやすいだろうか。ちなみに、今言ったように警察はまだきちんと存在している。それに対し、自衛隊は日本国安全保障維持軍、通称 日軍 と呼ばれ、災害などの場面で国民を救助するという自衛隊の活動をそのまま引き継いでいる一方、日本に明らかな敵意を持って損害を与えようとする国、又は団体を危害を加える計画があるという時点で攻撃をすることができる。要は理由があれば何だって出来るのだ。
そして、そのような理不尽な攻撃が起こらないよう軍を監視するのがworld policeのもう一つの仕事だ。今はどの国もそのような軍事態勢をとっているため、例え全国家が同盟で結ばれ、共同体となっていたとしてもそのような監視をする巨大な組織が必要なのだ。
今のこの国、世界ではが戦争後、異質な者が大量に流れ込んで、政府が混乱している中で大きく闇社会が発達してしまったため、敵の戦力も中々、侮れない物になってきている。そのため通常戦闘員は銃弾の一発二発を防ぎ、擬態のようなことも出来る防護服とデストロイヤと呼ばれる軽量型で、(別に大して変わるわけではないが)銃弾でなくエネルギー弾を放つ銃を持つことができる。
ただ、誰でもworld policeに所属できると言うわけではなくかなり厳しい訓練に合格しなければならない。だから、組織の戦闘要員は他の組織よりも少なく、3000人を越すかどうかも分からない。その中でも特に突出して戦闘能力が高い者がエリーカーと呼ばれる精鋭部隊に選ばれ、主戦力として活動している。パートナーということで2人1組で活動している者も多い。その方が何かとやりやすいらしい。まあ、さらにそのエリーカーの上をいく強さの人間も組織の中にいるのだが、それは今言わなくてもいいだろう。
一番重要な組織の主な活動拠点は5つの支部と1つの本部。5つの支部はそれぞれの地区の異人種生活許可地域に存在し、本部は太平洋のほぼど真ん中に位置している。また、それぞれの地区に付き犯罪件数が多い順に分部という、交番のようなものが置かれている。
それぞれの支部は本部と分部は支部と密に連絡を取り合いながら事件を解決している。そうはいっても支部はその街でしか、活動をしない…というか、する必要が無いからだ。ほとんどの異能力か魔術がらみの面倒臭い事件はその街で起こるからだ。
だから、この組織のなかには異世界から来た者、そしてあの光の玉を宿した異能力者も組み込まれている。それがさっき、巨大な組織だといった理由だ。99人いる能力者の力には自然の力を利用したや様々な物質に影響を与えることができ、大きな戦力となるためかなりの異能力者に声がかかっている。翔太もその一人だ。
翔太の異能力は「獄火」
限度はあるものの体から吹き出す火を自在に操ることができる。
(もちろん火傷はしない…)
翔太は学校では普通の高校生として過ごし、学校が終わってからはworld policeの仕事をするか、家で宿題におわれている。
2人と別れてから十数分後、50階はありそうなガラス張り(マジックミラー)のビルの前までくる翔太。
「よし 今日もちゃんと仕事するかーー」
そのビルの中に入ると目に飛び込んでくるのは、ホテルさながらの光景。大きなシャンデリアが天井にぶら下がり、壁は大理石。座り心地が良さそうなソファーがいくつも置かれ、絵画も飾られている。美人の受付嬢のような人たちが作り笑顔を振り撒いている。
一見、ホテルにも見えてくるこのロービーだが、明らかに違和感を感じるのは、受付嬢の立っている前がカーブを描いた作りの建築物の後ろ左右にある壁に密接している改札であろう。そのまま改札を通れば壁に激突することは間違えない。というかここに改札を作る意味がない。
ただ、このビルに入ってくる人間たちは当たり前のように改札を通っていく。なぜぶつからないか?それは彼らが壁を突き抜けて、向こう側へと歩いていっているからだ。かなり異様な光景だが、翔太はそれに驚きも臆することもなく、当然だといった感じで、同じように改札へと向かっていく。そして改札に腕に時計の代わりに巻いてあるバーソリティをかざす。すると今まで壁であった部分が翔太にのみ透けてみえ、通れるようになる。そのまま壁の向こうに改札の数だけ用意された楕円形のエレベーターに乗り込む。
ええっと…何階だっけ
高層マンションが多くなった今だが、こんなに階数のボタンがあるとやはり悩む。懸命に記憶を引きずり出し32というボタンを押す。
ワイヤーがなく、磁場で動いているであろうエレベーターは翔太を乗せ高速で目的の階まで向かう。
「32階です」
感情のない機械の声がエレベーター内に響く。
エレベーターから一歩出たところに広がるのはざっと500人は入れそうな大きなホールで床には様々なデザインが施してある。その上にはSPDによって2つのスクリーンが映し出されており、1つはこのアジア地区の地図が映し出され、どこでどのような事件が起きているかをリアルタイムで知ることが出来る。もう1方は、本部との緊急連絡又は、この支部内での重要連絡に使われている。なので今は何も映っていない。
このホールと繋がる4本の通路はそれぞれの仕事場に行くための道だ。常に6人ほど警備員が一つの通路に付き、立っている。このビルはworld policeの支部ということは公開してはいないものの、敵対する組織にはばれてしまっている可能性が高いからだ。
相変わらず物騒だなと思いながらも、馴れた様子で右から2番目の通路を進む翔太。通路からは多くの部屋があり、皆世話しなく動いているのがガラス越しに見える。彼らは通常戦闘員ではなく、普段は様々な異能力、魔術がらみの事件の捜査や国軍の状況把握、危険因子の洗いだしなど普通の警察と似たような活動をし、いざとなったら戦うといった感じだ。そういう人間は捜査技術課と呼ばれている。
それに対し、翔太は事件があったら動くという単純と言われれば単純な仕事だ。(それが一番疲れて、大変なのだが)
だからこそ個々の戦闘能力が重要となる。そのための武器がデストロイヤだ。
よってこれをどう扱うかがひいては生死にも関わってくる。
――なので練習をしておこう
という考えがあった訳ではないだろうが、翔太は通路の突き当たりにある射撃練習所に入っていった。
「仕方ねぇ いっつも部長にやっとけって言われてるからな~。暇だしな」
面倒くさそうに貸し出し用のデストロイヤを手に取り、床に記されているマークの上に立つ翔太。
「バン!」「バン!」「バン!」
三発の特殊な破裂音がなる。それぞれの銃弾(エネルギー弾)は的の中心を大きく外れ一番外の部分を貫いた。
やっぱりか…と自分の銃の腕前を残念に思う翔太に
「おいおい、射撃の腕前はイマイチだな~。最年少異能力者さん」
と冷やかしながら近づいてくるのは40代ぐらいの男。
顔は細く、色が薄いが、まだまだ健康で、その証拠によい筋肉の付き方をしており、体だけなら10くらいは若い。顔だけを見れば普通の気のいいおじさんと言った所だだが、彼をそうでなくさせている物がある。その主な原因が彼のつけている鎧と刃物であろう。光を受け、銀色に光る金属の上に幾つもの赤い線が刻まれており、腰には洋刀をさげている。
その男に不満げな顔で言葉を投げかける翔太。
「うるさいなぁ キャッシュさんだって剣しか扱えないじゃないですか」
「いいんだよ 俺は剣の道一筋45年 この世界に来てからも鍛練は怠ってねーんだ。 俺の腕前見せてやろうか?」
そう言いながら躊躇も無く剣を振り回すキャシュに冷や汗が流れる翔太。
………これは違法ではないのか??
「そういえば、今日出動があるらしいぞ。しかも、都市外」
「え、マジですか。いやだなー。何にせよ絶対面倒くさい仕事だからな~~」
「何でも長野で闇取引があるらしいな。警察は戦力不足、日軍は総合で警戒レベル4強の日本海に大量に出現した飛翔生物の駆除で大忙し、っつーことでWPに横流しにされたんだってよ。全員武装してて警戒レベルは4強だそうだ。おっそろしーぜ」
警戒レベル。それは文字通り、集団又は個人の危険度を表している数値だ。1から始まり、最大10まで存在し、20人程の武装テロリスト集団は、だいたい4弱といったところだ。つまり、中々に危険な組織が取引をしているということなのだ。
「まあ俺達エリーカーにもそろそろ状況報告があるだろうから……っと!そんな事言ってたら連絡がきたな」
「ピコピコ」という発信音が2人のスマホから流れる。
部長室に5分以内に集合。事件の要件を伝える…だそうだ。
「じゃあいきましょうか
そのふざけた集団をぶちのめしてやりましょう!」
「おおよ!!」
笑いながら射撃場を後にし部長室へ向かう2人。
油性ペンで部長室と書かれた看板が下げてある扉に翔太が手をかける。
「「失礼します!」」
二人の声が重なる。
「おおー やっと来たかお前ら。もうちょい遅かったら嫁さんと30分ダラダラ電話コースに入ってたんだけどな~」
そう笑いながら言うのは回転椅子に座りデスクに肘をつきダラーっとしている部長。この人はいつも青ネクタイに黒い服、その上には焦げ茶色の薄いコートという、何となくありがちな格好をしている。顔は縦顔でひげが短くはえており、髪の毛はボサボサ。一見するとやる気がないサラリーマンのようだ。
ただ、頭はかなり切れるようで裏で多くの事件を解決している……らしい。異能力者だとは聞くが、積極的に戦おうとしない。ここにいる人間に聞けば、だいたい同じ答えが帰ってくる、「何だかよく分からない人だ」と。
そんなよく分からない部長が気を取り直して状況説明をし始める。
「情報によれば、彼らは闇取引を専門とする20人程の組織らしい。第三次世界大戦で使用されていた軍部の体力増強防護服を保有しており、全員がそれで身を固めているとのことだ。勿論重火器も保持している。奴らは長野で麻薬を入手し海外で高く売りさばくつもりらしい。全員射殺許可は出ているが確保できるものは確保すること。以上だ。」
と説明が終わったところで翔太は周りを見回し、キャッシュと自分以外に2人しかエリーカーがいないことに気がつく。
「あの、なんで今日は集められたエリーカーが何で少ないんですか?」
「ああ、それは…まあいろんな事件に当たってもらっている。でも君たちなら4人でも大丈夫!通常戦闘員もいっぱいいるし」
「はぁ…」と一様の返事はするものの浮かない顔をする翔太。
4人って結構少なんだけどな~~
すると今まで黙っていたエリーカーの一人、ニット帽をかぶり、あらゆる物を射ぬいてしまいそうな鋭い目をしている射撃の名手ダクトルが口を開く。
「それで制圧の方法は?」
「今回はこの建物の上にあるオスプレで取引現場まで飛びそこからそれぞれ飛び降りる。別部隊……というよりは飛び入り参加する日軍の連中と合流してから奇襲。その後の行動は俺がここから指示する!」
「分かりました、ご期待に添えるよう頑張ります」
堅苦しい返事で答えるダクトル。
この人とはいつまで経っても馴染めない………
「戦闘員J班Q班Y班出動!
準備が出来次第、屋上のヘリポートに向かうこと!」
ロビーに出動命令がかかる。翔太たち、エリークと戦闘員が武器庫に向かう。
武器庫の中には青白く光るデストロイヤ、戦闘服が多くしまわれており、皆慌ただしい様子で身に付けていく。
翔太は別に武器などは必要ないとは思っているが、携帯しておくことになっているので一様しまっておこう。そう思ってポケットにデストロイヤをしまう。
そして、人がエレベーターに乗り込むのにつられるように翔太もエレベーターで屋上へと向かう。
「屋上です、足元にお気をつけてください」
エレベーターの扉が開くとそこには、4機のヘリコプターが今にも飛び立ちそうにプロペラを高速で回転させて乗る者たちを待っていた。
ただ、ここではおかしな感覚を覚える。なぜなら屋上の大きさが10機の飛行機に合わせるような広さになっていて、誰の目から見ても、建物と比べて大きすぎるからだ。
あくまで、外から見た場合に目の錯覚で小さく見えるという物らしいが……
それよりも風が強い!
シールドを体の周りに薄く張っていても、その風の強さは伝わってくる。高いだけでなく、プロペラが回っているせいもあるのだろう。翔太は必死に風に抵抗しヘリコプターに乗り込む。
しばらくして無線に全員乗り終えたという報告が入ると、待ちかねたようにヘリコプターは勢いよく飛び立っていった。目的地である長野にむけて。
……………………………………………………………………………
取引現場 上空
「よし全機、位置についたな全員降下開始!しくじるんじゃねーぞ」
あまり緊張感が感じられない部長の指令を聞き次々に降下していく戦闘員達。翔太もそれにつられて上空1000メートルから飛び降りる。
翔太も眼下に見える小さな建物などから高さが伝わってきて一瞬、躊躇はしたが、同じように空中に身を投げた。
戦闘訓練でやったけど流石に本当に落ちるのはキツい!
かなりのGがかかりるのと、落下しているという恐怖で体が震え体勢を崩しそうになるのを必死で押さえる。
やがて、地獄のスカイダイビングが終わりが見え、地上まで残り100メートルのところで小型パラシュートと逆噴射エンジンを起動させ取引現場の近くの草むらへと降り立つ。
既に着地していた戦闘員達の近くによっていく翔太。そこに後から降りてきた戦闘員も加わっていく。
大体の人数が揃ってきた辺りで部長からの指示が入る。
「全員の着陸成功を確認。今から別部隊と合流してもらう。
この作戦の現地指揮官である小林上等戦闘員の持っている端末に映し出してある地点で待機しているA班C班と合流し、もう一つの映し出されている地点に移動。小林上等戦闘員、誘導を頼んだ」
「了解!全員、周囲に気を配り、何か異変を感じたらすぐに知らせろ。それでは移動を開始する!」
今回の作戦のリーダーである小林の指示にしたがい、身を屈めながらすばやく移動を始める戦闘員達。翔太も遅れないようにピッタリとついていく。運が良く、かなり草が生い茂っており、身を隠すのには丁度良い。
結果、誰にも会うこと無く集合地点に着き、草むらに隠れていた別部隊とも無事合流した。
「全班と合流完了しました!」
「ラジャ。ここからは余り時間をかけないでいくぞ。これからもう一つのポイント、取引現場に向かってもらう。行けばわかると思うが大きな倉庫だ。では、到着したら再び連絡を頼む」
「はい!全員、よく聞け!
もう時間が余りない 後分で500メートル先の目標地点まで移動する。絶対に遅れを取るな!」
『はい!』
駆け足で周囲を警戒しながら今度は普通の道を歩いていく。
その道中、翔太の目が怪しげなものをとらえる。
――少し先にある道を挟んで立っている2つの建物の屋上で光っている2つの点……ライフル!
直感がそうつげていた。急いで伝えようと声を張り上げる。
「リーダー!敵です。あの二つの建物の上!こっちを銃で狙ってます」
「何!本当か!全員どこか建物の影に隠れ……」
「バン!」「バン!」
小林の声は2発の大きな銃声によって遮られた。
そしてその銃弾は先頭に立っている小林の体をえぐり……はしなかった。間一髪でその場から飛び退き、銃弾は地面に打ち付けられる。
すると、間髪をいれず、前に躍り出た人物がいた。ダクトルだ。
「プシュン」「プシュン」
デストロイヤとは違う愛用の遠距離型の細長い銃からエネルギー弾が二発、正確に標的に向けて発せられる。
「ぐあぁぁ」「どはぁぁ」
遠くの2人の男の声を聞き、満足げな顔をしたダクトルは
「小林さん。念のためにあの建物を調べてきてもいいですか」
と提案をする。
「ああ、分かった。エリーカーのペア1組とJ班の半分が向かってくれ。後の者達は先を急ぐぞ」
翔太は少し気を落としてため息をついた。あちらに加わりたかったからである。理由はもちろん安全だから。
仕方なく、嫌々な気持ちで翔太が走り出してからしばらくすると部長が言っていた通り、大きな倉庫が見えてくる。壁は厚そうなものの、あちこちが錆び付いていて、全体的に見て、ボロいという表現が正しいだろう。
そのボロい倉庫の出入り口と反対側の壁の近くで屈みながら再び連絡を取る。
「取引現場に到着いたしました!」
「分かった。じゃあ俺がカウントダウンをするからそれに合わせてまずC班Q班Y班が突入その後残りの戦闘員とエリーカーが突入。
お互いの弾幕には当たらないように、エリーカーをサポートする感じで立ち回れ。
それでは全戦闘員、攻撃準備」
全員の間に緊張が走り、ゴクリと唾を飲む声がどこからか聞こえる。翔太の頬を汗が流れる。
「突入まで5、4、3」
徐々に心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「2、1、ゼロ!!!!!」
バァァン! 壁に仕掛けておいた爆弾が爆発すると共に素早く流れ込む戦闘員。翔太もその後に続く。
「何だ!何事だ」
「なんだ今の音は!爆発か!?」
「なんの真似だ!」
中にいた事態を呑み込めない者達が騒ぎ始める。室内は電気がなく、ほぼ暗闇といってもいい暗さであった。その中にある光は、10本ほどの懐中電灯で、その光が照らしているのは様々な大きさをしたトランクだった。恐らくその中に違法な物が入っているのだろう。銃口が向けられているのを見て、咄嗟に大切そうに抱き抱えたり、隠そうとしている。
そんな騒然とした状況の中、一人の戦闘員が前に一歩進み、高々と宣言する。
「我々はworld policeである。ここで違法な取引が行われているという情報を聞き、突入に至った。今すぐあなた方が持っているトランク、そして武器を捨て投降しなさい。抵抗すれば、武力行使も厭いません。もう一度繰り返します。武器を捨てて投降しなさい!」
ざわざわと騒ぎ始める固そうなスーツを着た者達。どうするか迷っているのだろう。戦うか、捕まるか、その選択を。誰も動こうとしない。それはそうだろう。ここで捕まっても社会に復帰するのは難しい。だが、30人ほどの集団を前にして戦おうという気を出せるかというと出せない。
実はそれがworld policeの一つの狙いでもある。そうやって迷って行動が起こせないうちに、一人一人に近づき、「今投降すれば罪が軽くなる」とでも呟くのだ。そうすれば自主的に投降するのが普通なのだ。要は圧倒的な力を見せつけ、個人の反抗心を折っていくのだ。そして今回もそうなるかと思い、翔太がホッと一息をついた矢先、
「お前らぁ!こんなのに惑わされんなぁ。全員ここでぶち殺せばいい話じゃねぇか!今までだって俺達はこいつらに捕まらずにきたじゃねぇか。俺達のスーツの力をワーポーに見せてやるぞぉぉぉ」
一番、身を固めたリーダーのような男がそう言い放つ。それに便乗し、「おぉぉぉ」という声が次々に上がり、マシンガンなど武器を手に取り始める。
まずい!集団心理の悪いとこが出た。赤信号も皆でわたれば怖くない
そう翔太が落胆している途中にもドンドンとあちら側の士気が上がっていく。
その様子を見た小林が残念そうに首を振り、
「どうやらあいつらは平和的解決を望まない間抜けのようだ。仕方ない。全員戦闘開始!」
と命令する。
すぐさま、戦闘員達はデストロイヤをマシンガンモードにし戦闘を始める。それに対応し、相手も様々な武器を持ち出し、攻撃を始め、凄まじい銃声が静かだった倉庫の中を飛び交う。
翔太も負けじと周りの弾幕に当たらないよう立ち回りながら得意の肉弾戦で、同じく肉弾戦をしている敵と戦闘を始める。
「とりゃぁぁ!」
真正面で向かい合っている相手に右ストレートをかますがヒョイと避けられる。想像以上の速さだ。これがスーツの力か!
今度はあちらからパンチが飛んで来る。翔太はそれを上手く手で外に流し、丸見えになった腹に相手を引き寄せた勢いと一緒に肘を食い込ませる。声は聞こえなかったが、動きが明らかに鈍り、すかさずそこで、相手の頭を回し蹴りで蹴っ飛ばす。
「ふぅ、これなら生身の体でもいけんじゃねぇかな~」
「クソガキぃぃ!大人をなめんじゃねぇぇぞ」
一人を仕留めたことで油断していた翔太に襲いかかる男。
視界の端に映る金属で固められた拳を見て「ヤバい」と思うより先に体が動き、手でガードをする、がその想像以上の重みに耐えきれず翔太の体は壁に激突する。シールドは銃弾ではない肉弾での直接攻撃の防御には向かないのだ。
「ドォハァ!」壁に当たった背中から全身を駆け巡る痛みを感じる。空気を根こそぎ持っていかれる。
こいつが体力増強のスーツか。思った以上に痛いんですけど。普通の高校生に降るっていい力じゃねぇぞ…ってヤバ!
体を強打し、まだ立ち上がれない翔太に加えてもう一撃を与えようとする男。しかしその攻撃は翔太の目の前で止まることとなった。
鋭く先まで洗練された剣の側面がその拳を受け止めていたからである。その剣を持ち主は言わなくても分かるだろう…キャッシュだ。
「おっと、ごめんな。剣が滑っちまったよ。しかし、力は強くてもただ、振り回してるだけじゃ強くはなんねぇんだぜ」
軽口をたたくキャッシュを殺気を持った目で見る男。
「邪魔だ!テメェ殺してやる!」
男の拳がキャシュに向けて飛んで行く。だが、キャッシュは顔色を変えること無く剣を手の甲に当て頭の上を飛び越えると同時に高速で剣を振り、相手の肩を切る。熟練の技である。
「ぐぁぁぁ」という声と共に倒れる男。スーツがあるので、致命傷にはなっていないが戦意喪失ぐらいにはなったようだ。床でジタバタと寝転がっている。
「どうよ、俺様の剣術 スゲェだろ!」
「はいはい。そうですね」
まだ痛む体を起こしながらこんな場面でも自慢をすることに少々あきれる翔太。これも、いつも通りなのだが…
「お前も勿体振らないで異能力を使えよぉ。そしたら、あんな雑魚にひけはとらないだろ」
「はぁ そうですね」
俺の異能力は周りに人が居る時に使いたくは無いんだけどなぁ
まぁそれで自分の命危ぶめてたダメだもんな~
自分の中で使うという結論をだし、体全体に力を込める。
「異能力 獄火 発動!!」
中心からじわじわと熱い何かが体全体に染み渡ってくる。そしてそれが次第に体全体を覆いつくしていき、ついには外へと流れ出る。
翔太の周りから神々しい赤い炎が溢れだす。その炎に包まれていくのを妙な安心感と共に翔太は自分で感じる。
俺が燃えてるんだ!
とても熱いが恐ろしいとは思わない。まるでそれが自分の一部のような…そんな感覚。
そして拳を強く握り直し、倉庫内の敵をゆっくりと見ていく。そして、腰を落とし、目の前にいる敵全てに向けて言い放つ。
「全員、燃やし尽くしてやる!」
その宣言と同時に高く、前に向けて跳ぶ翔太。
翔太の周りを取り巻いていた炎がその固く握った拳に集中する。倉庫内の殆どの者がその暗闇を照らす大きな光に注目する。翔太は、さらに注目を集めんばかりに声を張り上げる。
「炎鉄拳!」
その拳を翔太が突き出した瞬間、集まっていた炎が一直線になって飛んで行き、銃を乱射していた5人組の丁度、中央に激突。体に火がつき、その爆風で吹き飛び、苦しそうに呻き声をあげている。
「あちぃぃ!!」
「助けてくれぇぇ。水を…」
「異能…力者…くそ…くらえ」
その反応を無視して翔太は一番敵が固まっていそうな奥の部分(出入口の方)に走っていく。こんなことに一つ一つ反応していたらきりがないからだ。
そしてやはり、奥の方には敵が固まっているようだった。戦闘員も箱などに身を隠しながら戦っているが多少押されぎみなようで、何人か床に倒れ込んでいる。中には血をだしている者もいる。
翔太も遠距離攻撃を避けるために近くにあった箱に寄りかかる。ただ、誰かに気がつかれたのか寄りかかっている箱に重い振動を感じ、すぐ横で火花が飛び散る
思った以上に激しい…
ちくしょう!これじゃ、うかつにもぐりこめない。異能力で銃弾を防いだとしても、爆弾などは対処しきれない上に自分一人では大人数を一片に相手できるかどうか怪しい。そう唇をかむ翔太。
「おい翔太、敵んとこ潜り込みてぇんだろ?」
後ろから声をかけてきたのはキャッシュだった。だが、翔太が後ろを振り向いた時、目に入ってきたのはキャッシュの後ろには人影。しかもキャッシュに向けて鈍器を振り下ろそうとしている。
「キャッシュさん!あぶねぇぇ!」
咄嗟に炎を敵に向けて浴びせる翔太。怯んだ相手をキャッシュが斬る。
「あぶねぇ。助けてくれてサンキュ!」
「いや~なんのなんの。それよりキャッシュさん、あいつら」
翔太が奥で抵抗している敵を指差す。「うーんどれどれ」と顔を少しだけ、物陰から出す。
「ありゃぁ厄介だな」
「はい、銃弾は多少ならシールドで防げますが、肉弾戦となるとあの人数は…」
翔太は言葉を濁す。
「そうだなぁ。じゃあ俺も手伝ってやる」
期待していた言葉が帰ってくる。この人は、いつもはだらしないけど、いざとなったら頼りになるひとだ。
「ありがとうございます」
「俺が道を切り開いてやる。ついてこい!」
そう言い弾幕の中に飛び込んでいくキャッシュ。その後を翔太も追う。
弾幕の中に飛び込んだキャッシュは翔太をかばうように敵から発せられる弾を剣で目に見えないほどの勢いで切り落とす。
カキーン と剣と弾がぶつかり合う音が翔太の耳に弾幕の中でも響いてくる。そのキャッシュの顔には弾が自分の方向に向かって来ていることの恐怖さえも感じられない余裕の笑みが浮かんでいた。
一つ間違えば死に至るこの場面で笑う、これが彼の強さなのだと翔太は思う。
その背中はなんとなく頼もしかった。
銃弾は全て翔太に届かなかったわけでは無かったが、それはシールドがカバーをしてくれたようだ。
結果的にキャッシュと翔太は無傷で前線で粘っていた敵の後ろに回り込むことができた。それに気付いた5人ほどが銃撃戦をやめ、駆けつけて、翔太とキャッシュを包囲する。
翔太はキャッシュに目配せをすると炎を再び固く握った拳に集中させる。その合図に気付き、キャッシュも剣を腰の辺りに移動させ身構える。
5人が一気に2人に殴りかかる……その瞬間 暗い倉庫に鋭い斬撃と赤く燃える炎の光が差す。と同時に5人はその場に倒れこむ。
「ふう」
「何とかなりましたね」
「いや休んでる暇はねぇな」
キャッシュは倉庫の奥から湧いてくる敵に目を向ける。
「はい! 連携して倒しましょう」
そこで小林からの連絡が入る。
「10人ほどが倉庫の裏口から外に逃げた
辺りには一般人も住んでいるため全ての班の戦闘員はそれを追え!
エリーカーは中にまだ残っている残党どもを始末しろ!」
恐らく、前線を押し上げられてもうだめだとでも思ったもだろう。そんな事なら最初から挑まなければいいのだと思うが、それよりもだ…なんで残りをやんなきゃいけないんだ!丸投げしやがって。
「全く面倒事を押し付けやがってよ。残党つってもまだ10人以上はいるぜー」
「ああああああ。仕方ないですよ
とりあえず今は前の敵を倒すことに集中しましょう」
「ああ、そうだなじゃあいくぜ~~」
「はい!」
翔太とキャッシュは走り出す。
奥からは10人ほどがこちらに向けて走ってくる。
「どうします?」
「翔太は右から俺は左からくる奴を倒すぞ!」
「わっかりました」
翔太とキャッシュは左右に別れる。
「おらぁぁぁ」
大柄の男が翔太に殴りかかる。
「くらぇぇぇ」
翔太はそれに対し、真っ正面から炎を放ち、その勢いに押され、男は吹き飛ぶ。
さらに奥からこちらに向かってくる敵を翔太の目が捉える。
低めの体勢を取り、瞬時に相手の足元に忍び寄っていく。炎と悲鳴が何度も暗闇で交互に繰り返され、あっという間に次々に来る敵をなぎ倒していく翔太。
くそぉ……ホントにきりがねぇなぁ
と前を向き、誰もいないことに気がつく翔太。
ん? あれもう全員倒してね?
やった~帰れるーーーーー
そう思った矢先、翔太の右肩に鋭い痛みが走る。
いてぇ そう思った瞬間、翔太は勢いよくアスファルトの固い地面に叩きつけられていた。
横から出てきたのは今までの敵とは違い、最もスーツに身を固めた大男だった。
その目線の先には床に倒れこんだ翔太がいた。
やべぇ こいつのスーツは桁違いの強さだ 自分の体に感じる強い痛みと自分が叩きつけられた地面がへこんでいることからそう判断する翔太。
力からして4倍ぐらいって所か…力を強くするほど体にかかる負担は大きいハズなんだがな。
ともかく、こいつがラスボスって訳か
殴られた横腹を押さえながら立ち上がる翔太。
「おいこのクソガキ!
ガキだと思って舐めてたら随分やってくれんじゃねぇか
ああん!?
異能力だかなんだか知らねぇがこの組織のリーダーであるこのブーフル様がお前を地獄へ案内してやるよ!」
怒りを込めた殺意がたっぷりと詰まったパンチが飛んでくる。
やっぱりリーダーであらせられるのね… とすんでの所でそのパンチをよけ更に倉庫の奥へと逃げ込む。
翔太がよけた所にあった金属製の箱がバコンと派手な音を立てて壊れる音が後ろから聞こえる。
こりゃホントにやべぇわ 取りあえずはキャッシュさんと合流してからにした方がいいな そう思い全速力で走る。
「ちぃ 外したか まぁ俺から逃げれるとは思うなよ」
そう言い放ち膝を曲げ、足を踏み込むブーフル。その足に取り付けたスーツが青白く光る。その瞬間男はあり得ない程のスピードでその場から飛び出す。
はぁはぁ 運動神経はいい方の翔太が息切れをし始め、後ろを振り返る。そしてその目が捉えたのはトラやチータを超えるほどの勢いでこちらに近づいてくる自称闇取引のリーダーだった。
くそぉ休んでる暇なんかねぇ逃げねぇとと思った瞬間
「見ぃつけた」
気味の悪い声が横の耳に入ってきたとたんマズイと本能的に感じ高くジャンプをする翔太。その足のすぐ下を通りすぎる拳。
くそぉ仕方ねぇ一矢報いてやる!
「くらえーー炎鉄拳!」
翔太の手から発せられた炎が勢いよく胴体の部分に直撃する。自称リーダーさんはその炎に焼かれサヨーナラー のハズだったのだが……
スーツによって全て炎が弾かれる。
ブーフルはニヤリと笑うと空中に飛び出て逃げ場の無い翔太に向けて右ストレートを放つ。それは見事に直撃し翔太はドハァという声と共に背中から再び地面に叩きつけられる。
「じゃあな高校生の警察官さん」
嘲笑しながら翔太を確実に殺そうとナイフを取りだし振りかぶる。
ああもうダメか パーティーまで死なないって約束果たせなかったな… そう思った時、奥からナイフが飛んでくる。そのナイフは自称リーダーが持っているナイフを吹き飛ばし翔太の横たわっている地面の近くに突き刺さる。
あっぶな! というかこんなにうまく刃物を扱えるのは……
そう思いナイフの飛んで来た方向を見ると案の定キャッシュがいた。
「よう!中々危ないとこだったな
大丈夫か翔太?」
「ちぃ! 邪魔が入ったか!」
自称リーダーがキャッシュに高速で近づき、殴りかかる。その早さに驚いたのか慌ててそれをよけ、すれ違い様に切りかかる。そして倒れこんでいる翔太をかばうようにその前に立つキャッシュ。
「翔太! 大丈夫か!?まだ戦えるか?」
「はい!」
大丈夫ではない体を無理やり起こし身構える翔太。
「いいか俺が全ての攻撃を受けるから翔太は攻撃に集中しろ!
こいつを何としてもぶっ倒すぞ!」
「了解です」
「雑魚が二人になった所で結果は変わんねぇんだよ!」
怒気と共に発せられた拳を次々と剣の側面をうまく使い受け流していくキャッシュ。翔太も負けじと様々な技と炎を絡ませ攻撃をするが殆どが固く覆われた鎧によってかき消されてしまっていた。
「クソ! ちょこまかと動き回りやがって
これで終わりにしてやる」
倉庫の天井まで飛び上がるブーフル。そして天井を蹴り、高速で落下すると辺りのものが吹き飛びホコリが舞い上がる。その衝撃によって体勢が崩れる翔太とキャッシュ。それを見逃さずキャッシュの体をを通常の人間の4倍以上の力のパンチが襲う。口から血を少量出し、倒れこむキャッシュ。
「キャッシュさーーん!」
翔太の叫びが倉庫内に響く。
「フゥ 雑魚一人片付けかんりょ……だぁは!」
急にその場に膝付くブーフル。
なんだ? そうか!
4倍以上の力を出したことのしっぺ返しが来たのか!
「くそぉ なんでだぁ なぜ体が動かねぇ!?」
「何かを得るときは代償がつきもん それがこの世界の定理だぜ
ラスボスさんよぉ!」
殴られた2箇所からの痛みを押さえながらゆっくりと動けなくなったブーフルのもとへ向かう。
「やめてくれ 助けてくれ もうなにも悪いことはしねぇから」
急に弱腰になり助けを求め始めるブーフル。翔太はそれを無視し、指を小指から親指まで順番に力を込めて拳を握る。
そして足を思いっきり踏み込み
「ゴッドファイアー!!」
全ての力で拳を押し出し自称リーダーの腹に食い込ませる。一瞬その体が浮く。そしてまとわせている炎を拳に集める。
「貫けーー!」
拳を腹に食い込ませたまま炎を噴出させる翔太。鎧で一瞬炎がかき消されたように見えたが、まだ噴出される炎に諦めたかのように鎧にヒビが入り始める。
「とりゃぁぁ 人の痛みを知れーー!」
翔太の叫びと共に遂にブーフルの体を炎が貫く。
「ぐはぁ」血を吐き倒れるブーフル。
「はぁ 終わった~」
安堵感と共に今までのダメージが響き疲れて座り込む翔太。
その時、倉庫の壁に手錠をかけられ、眠っているというよりか気絶させられているといった方が正しいのであろう……
青い髪の少女を見つける翔太。
なぜこんな所に子供がいるんだ? まぁ俺が言えたことではないがそういやキャッシュさんは大…じょう……ぶ………か?
そう思った所で意識が遠のき、倒れこむ翔太。
そして倉庫内は静寂に包まれた。