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二話 頭が痛い!

 左の小部屋はシイタケがおねんねしてる栽培部屋であると確認した育莉は、部屋を出ようと扉へ手をかけた。どうせ採取した所で、調理器具が無いのだ。今はその時ではない――と、そう思った瞬間、ふとある疑問が脳裏を霞める。


「ご飯! ご飯はどうするの!?」


 生きて行く上で食事は絶対必要だ。それを確保出来ぬ事には死と同義である。

 困惑の面持ちで固まる育利に、ナビ子からの通達が届く。


『初期食料として、三日分のパンと水が無限倉庫の中に配備されています。その他に食料を得る手法としては、自家栽培、狩猟、購入の三つになると思われます』

「購入って、どこかに食べ物を売ってる場所があるって事?」

『購入可能ポイントとして、近くにホロニガ村が存在します』


 ホロニガ村って……、ほろ苦いの? と、首を傾げては天を仰ぎ、村に対する微妙なイメージを浮かべてしまう。だが、村と呼ばれる以上そこには人がいるはずだ。コミュニケーションが取れるならば、救いは大いに有り得る。

 食料は、基本的には自家栽培が主になりそうだ。謎のシイタケ配備も、そのキッカケとしてなのだろう。その次が購入。食材は最悪シイタケのみになったとしても、調味料は必要になってくる。そのままの食材の味を堪能するのも悪くはないが、さすがに飽きが来るだろうから。狩猟は……うん、論外。――と、結論づける。


「ちなみに、食器や調理器具はある?」

『食事関連の器具は初期配備には用意されていません。無限倉庫の中に初期配備として用意されているのは、”スライム育成用キット”、”医療キット”、そしてマスターの所持金をこの世界の通貨へと換金した”3000コイン”の三つです』


 知らない間に勝手に換金されていた財布の中身。こんなことなら預金通帳から全額引き出しておけば良かったと、後悔の念が込み上げて来る。財布には確か三千円が入っていたはずだから、それがそのままこちらの世界のコインとやらに変わったのだろう。そして望まない全財産になったと。


 他の二つ、スライム育成用キットと医療キットとやらは、名前からして大体の見当が付くから確認はまた後回しだ。色々と確認すべき事項が増えて、一度に列挙したら頭の中がゴチャゴチャになってしまう。


 とりあえず、次だ次。




 栽培部屋を後にし、右の小部屋の扉を開く。――が、その瞬間に育莉は目を丸くする。


「え、三匹いるし……。しかもちっちゃいのが」


 部屋の中には三匹のスライムがいたのだ。それも極端に体が小さく、まるでスライムの赤ん坊にも思える。スラの身の丈が腰程に達しているのに比べ、三匹のスライムは足首程でしかない。

 部屋の広さ的には栽培部屋と同程度だが、少し環境が異なっている。周囲の壁や天井からは豆電球の様にいくつかの淡いオレンジ色が発光おり、それが柔らかい灯と熱を発しているようだ。湿度もそこそこ感じ、どちらかと言えば温度の方が高く取られている。

 

 三匹のスライムは眠っているのか、右側の壁沿いに寄り添い合って固まっている。


『ここは一時保管部屋。飼育条件履行の旨と初期配備として、三体のスライムを保管しています。一時保管部屋には加護が与えられており、保管されているスライム属の健康維持・状態回復・空腹感の緩和、それぞれ三つの効果を得られます。加護の対象は三体までが上限になっており、四体目以降は加護を得られませんのでご注意下さい』

『尚、飼育条件とは、――”拠点及びその周囲100m区域に、管理下に置かれたスライム属を一体以上保管”――となっています』


 左手を腰に当て、現状とナビ子の説明を加味しながら冷静な考察を巡らせる。

 一時保管部屋はとりあえずのしのぎ、そして療養の効果があると。そしてその加護は三匹までが対象と覚えていれば問題はないだろう。飼育条件の方も、拠点の中か100mの範囲内にスライムが一匹もいない状態になると、それは飼育放棄したとみなされるって訳ね。

 


 その時、先程までただ後ろに付いて来ていただけのスラが、ズリズリと尾を引くように部屋の中央へと移動し始めた。その体の上にナビ子を乗せて。

 すると、スラの気配に気が付いたのか三匹のスライム達は突然動き出し、スラの元へと這い寄ってはヘコヘコと体を数回程へこませている。それはまるで、偉い人へと頭を下げる新入社員かの様に。


「ねぇナビ子、あれは何をしているの?」

『スライム同士による、一種のスキンシップのようなものでしょう。マスターの管理下におけるスライム属の中で、スラは”リーダー”の立場を得ていますから』


 スラがリーダー? 階級と言うか、スライムにも縦社会のような組織があるという事だろうか。


『スキャニングにより、個体情報を確認出来ます』


 シイタケで試したあれを使えば、スライム達の情報を得る事も出来るのか。

 そうと分かれば早速見てみるとしよう。簡単だったし、もう覚えた。


 スラに近寄ってナビ子を手に取り、まずは三匹のスライム達へとスキャニングを使用してみる。

 結果的に言えば、ただのスライムだった。しかし、性別があるようで二匹がメス、一匹がオスだった。そして面白い事に個々で性格が異なるみたいだ。まさかスライムに性格があるとは思ってもいなかったが、地球における動物にもきちんと性格はあるのだ。そう考えればスライムだって生物である以上、性格はあって当たり前か。


 次にスラをスキャニングした所、三匹のスライムとはまるで異なる点が多かった。




 <ステータス>


『スライム』:スラ

種族:スライム属ノーマル種

性別:♂

性格:単純

 [アビリティ]

克服オーバーカム】:Lv1

 [スキル]

吸収アブソーブ】:Lv1




 何やらアビリティとスキルなるものが付いている。三匹のチビスライム達には無かったものだ。


『アビリティは生まれ持った先天的な才能の事です。スライム属は繊細な為に極めて貧弱であり、衝撃に対しての耐久力、病原菌などに対する抵抗力、そして自然治癒力などがとても弱いといった特徴があります。しかしスラの持つアビリティ【克服オーバーカム】の場合、自身の弱点にプラス強化補正が加えられます。アビリティレベルが上昇するごとにその効果も比例して上昇するので、必然的に欠点の克服へと繋がっていくでしょう』


 生まれ持った才能かぁ……。

 人間には誰しも弱い部分や苦手なものがある。それを後ろめたい気持ちがあったり、克服したいとは思うけれど、なかなかどうも上手くいかないものなのだ。スラにはそれを克服する力が生まれつき備わっているなんて、凄い羨ましいと正直思う。

 けれど私はスラと違って人間なのだ。弱い部分があるからこそ、自分の欠点を知っているからこそ、人は強くなれる。私は私のやり方で、強く生きて行くんだ。


 

 アビリティに関しては理解出来た。という事は、スキルはその逆なのだろう。


「じゃあスキルは後天的なもの?」

『正解です。スキルは後天的に身に付く技術の事です。基本的には鍛錬や経験により会得するものですが、稀にスラのように生まれつき会得する性質も備えています』

『せっかくなので、マスターも自身のステータスを確認する事をお勧めします』


 自分にもステータスなるものがあるなんて毛程も思っておらず、まさかの提案に育莉は目を丸くする。慌てるがままにナビ子の腹部で指を滑らせ、驚愕の面持ちを浮かべた。


 視界の先、ナビ子の腹部画面に映る情報に目が釘付けになる。




 <マスターステータス>


『加我使 育莉』

種族:人間

性別:女

年齢:24

性格:真面目

称号:駆け出しマスター

 [マスター権限]

土地革命ランドレボリューション】:Lv1

衛生区域ディフェンスエリア】:Lv1

安定騎乗スタビリティライド】:Lv1

意思疎通コミュニケーション】:Lv1.5



 年齢や性格まで晒し者の様に開示され、若干の恥ずかしを感じる。体重やスリーサイズが載ってないだけ良しとはするが、訳の分からない権限を得て――いや、押し付けられているようで、自分自身が別の生き物に変わってしまったのではないかと不安と少しの苛立ちを覚えた。


 また更に確認すべき事項が増えてしまった。なんだろう、目眩にも似た頭痛を感じる。

 

「あー、見た見た。はいはい、詳細は後で確認する。最後の場所……、なんだっけ? 祭壇って所に行くとするわ」


 ナビ子をスラに乗せ、片手を頭に添えては重い足取りで部屋を後にしようとしたその時――、


『マスター、一つ誤りがあります。スライム属はひきではなく、たいと数えます』


 このタイミングでそれを言うのか――の、ナビ子の言葉に一瞬足を止め、「あはは、そうなんだ。覚えておく」と、乾いた笑いを零しては顔が引き攣る。


 部屋を後にするものの、頭痛が更にひどくなった育莉であった。

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