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ヨドンとリリン

「ヨドン先生。おはようございます」


「おお。おはようミュウ。今日もいっぱい獲物を狩ってきてくれよ」


「はい。がんばります! では行ってきます」


「気を付けてな!」


山に向かう道すがら、農作業をしていたヨドンに挨拶する。既に麦の収穫が終わった秋であり、来年の収穫のために準備をしているのだ。


このヨドン。体は小さく風貌も特徴があるわけではないが、働き者で頭も良く気配りも出来るため、次期村長になることは間違いないと言われている。ミュウもヨドンには良くしてもらっており、ミュウがまだまだ幼いころ、ヨドンに読み書きや算術などの勉強を村の子供と一緒にみてもらったこともあるなど、頭が上がらない村人の1人だ。


他の村では読み書きや算術などは教わらないというか教えられる人間がまずいないらしく、そういう意味でもヨドンは特別な存在であった。元々は農家の次男で、幼い頃に王都の商家に丁稚奉公に出て、持ち前の頭の良さや人柄の良さから番頭にまで出世したが、長男が早逝したため、ダルム村に戻ってきて農家を継いだ異色の経歴の持ち主だ。


番頭にまでなったならそのまま王都に留まれば、家族を呼び寄せて養っても経済的に豊かな生活が送れそうなものだが、10年前にヨドンはダルム村に戻ってきた。王都で結婚したというリリンと一緒に。


そうリリン!彼女は可憐で美しく、艶のある白銀の長い髪、優しげな儚げな水色の眼、芸術的なまでに整った卵型の顔立ち、小柄だがスラッとした体つき、透き通るような白い肌。挨拶に来たリリンにミュウはというとリリンのあまりの美貌を見て、なんだか急に気恥しくなり一緒にいた父親と兄の後ろに隠れてしまった。こんなに綺麗な人間を今までミュウは見たことがなかったのだ。


「ガルドスさん、アレク君、ミュウ君。私はリリン。ヨドンの妻です。この村で住むことになりますから、今後ともよろしくお願いします」


そう言ってリリンはこぼれるような笑みを向けてくれた。

静かに波紋が拡がるようなどこか歌声の様な涼やかな声だった。

ミュウ5歳。初恋は人妻に一目惚れであった。あれから10年、リリンはあまり体が丈夫ではないらしく家からあまり出てこないが、ヨドンが村の子供に勉強を教える時などに時々手伝いにくるなど姿を見せることがあり、その姿を見る度に胸がドキドキして顔が赤くなったが、それをからかわれたことはなかった。なぜならミュウだけではないのだ。村の男衆は老若問わずリリンに憧憬を抱いていた。それこそ女神を崇める様に。


・・・


そんな昔の事を不意に思い出し、苦笑いをしつつ気を引き締め直した。

もうすぐ、山の手前の森となる。ここからは危険な領域だ。

獣も大型のものは厄介な相手であり、毒蛇やを幻覚作用を持つ植物、極め付けは魔物が出るのだ。


四季ごとに冠婚葬祭の行事のため、村に来る神官様の説法では

創造の女神の落とし子たる人間に対抗するために、始源の魔神が生み出したのが魔族や魔物であるとされている。


ただ、魔物と言っても全てが人間の脅威となるわけでもなく

中には知性を持ちコミュニケーションが出来るものや、人間に従属するものもいると言う。


そんな領域で狩人として独り立ちして早3年。

ミュウの狩人としての技量は若くして村一番のものになっていた。


というのもミュウには生来のものと思われる気配を感じるとる力が備わっており

獣や魔物の存在をかなり遠方から正確に察知出来るためであった。

そのため急に風向きが変わり匂いでその存在を悟られるなどのイレギュラーがない限り

先手を打つことが出来るのだ。もっとも最近ではその風すらも変わる予兆を感じ取れる様になり、ミュウに捕捉されたら最後、獲物は村人の糧となることを運命付けられるのであった。


そんなミュウは周囲の気配を注意深く探りながら、森に分け入り、山を目指す。

だが、ミュウの目的は3年前のあの日から狩りだけではなくなったのだ。

それは、ミュウが独り立ちしてほんの少しした日のことだった。

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